相対的な価値と負け


   0


 それは朝に起きた。


   1


「敵の数は多数、多数です」

朝の部隊の切り替えも終え、少しはゆったりとした時間が過ごせるかと思っていたが、基地内はその一報で一気に緊急事態となり、各部署が慌ただしくなっていた。

 ただ、予測できた自体だけに大きな混乱はない。それでも忙しく、慌ただしくなる。

 間違いなく、これはワニザメ出現後の大規模戦闘だ。年に1、2度あるバカピックによる侵略行為、狂宴だ。

「急ぎ、敵の数を確認しろ」

 ハヤミはその報を司令室で聞いていた。ワニザメ以来、執務室では雑務は行わず、ここで作業を行い、敵の動向を睨んでいた。だから、今もこうしている。

 アキラも警報を聞いて、司令室へと急ぎやってきた。

「アキラ、今は取りあえず、見ておけ。フォローなどしている暇はない」

 実際、ハヤミはアキラの顔など見ずにそう言い放っている。

「敵の種類はゴーレム、ワイバーン、そして、タロス。数はタロス16機、ゴーレム8機、ワイバーン24機。これは2-1-3編成です」

 2-1-3編成。タロス2機、ゴーレム1機、ワイバーン3機をチームとした編成。

汎用型とされるゴーレム、ワイバーンだけならこの数でもまだ脅威は薄いが、このタロスはかなりのくせ者である。

 ゴーレムの亜種とされ、姿形、大きさは似てはいるが、違いは足があること、両腕には強固な盾を持つこと。ゴーレムの強固さを更に防御特化させたタロスは完全に盾役としてこちら側の攻撃を受ける。その耐久力はゴーレムよりも高く、その手に持つ盾に関してはこちらの攻撃をもろともしない。

 結果、撃破するのには大量の火力が必要である。

 とはいえ、バカピックには〈リフ〉という一定以上の攻撃を無効化する力場があるのだが。このタロスの持つ戦術的な意味合いはある意味、贅沢な無駄使いとも言える。

 ともあれ、この編成では攻守において隙がなく、お互いの長所と短所をカバーするのに適して、かつ戦術的な運用にも理に適っている。

 ワイバーンの機動力、ゴーレムの汎用性、タロスの防御力はある種、ファミネイの戦闘時の役割と似ている。

 そもそもファミネイとバカピックの戦力を比較したとき、同じ戦力と見なされている。1対1であっても勝てる見込みは薄くない。

 機動力と手数のファミネイ。ただし、耐久に乏しい。

 耐久と豪腕のバカピック。だが、個体によるが機動力に乏しい。

 そのバランスで戦力差を同じにしているだけで、その優位性を巧みに使い、劣位を突けば、戦闘は一方的になる。

 それをファミネイはチームで補っている。バカピックも2-1-3編成の場合、これを補っている。

 この編成ではいつものお調子者はどこにもいない。

 完全にこちらを殺すマシーンである。ただ、バカピックは手加減している節もあるため、この戦力差について基本的な戦術としての考えではある。

「全数は48機か……」

 ハヤミは考える。定石であれば、その2倍の数で対処するのだが、戦闘要員の人員は上限で決められた72名。つまり、足りない。

 一応、戦力は1対1とされるので、全数で当たっても優位性は保たれる。だが、問題はそれだけでもない。

「こちらも48名、4部隊で対応する」

「全部隊では当たらないのですか」

 アキラは尋ねてくる。その数では優位性がないのが分かっているからだ。

「今後のために無傷な予備戦力を残す必要はある」

 ハヤミは手短に一応、質問に答える。

「増援の可能性もゼロではない。もしくは明日、攻められるかもしれない。そもそも、補充も今すぐ、できるわけではないからな」

 対バカピック戦において、こういった所は悩み所である。被害を出しても、次のためを考え温存するか。被害を出さなくとも、消耗によって次で苦戦するか。

 ただ、この判断には未来を予測する必要があり、正解はすぐには出ない上に常時、変動して悩ませる。

「基地到着までは」

「タロスの進行速度に合わせているため、約15分かかるかと」

「夜間任務であったC班は引き続き、待機とする。A班、B班の4部隊でこれを対応する。直ちに準備にかかれ」

 ハヤミの命令を元に、司令室にいるファミネイ達は戦術をシミュレーションで練っている。

「また、敵の編成上、近接武器での戦闘は状況が好転するまで禁止とする。また、光学兵器もタロスには効果が薄いため、副兵装を必ず所持すること。初弾は爆発系で対応する、武器は持てるだけ持ち、発射後は破棄して構わない。弾薬のことなど気にしなくとも良い」

 タロスの戦闘スタイルは攻撃は無視して防御に徹する。その盾の破壊は困難であるが、爆発系で本体にダメージを与えていくのが、こちらのセオリー。

 そして、飛行はできるのだが、戦闘時は地面を歩く。

飛行するワイバーン、ゴーレムの盾としては一見、役に立たないように思えるが、そうではない。あくまで攻撃の分散を目的としている。

 空中にいるワイバーン、ゴーレム相手では宙に弾幕を張れば双方を潰せる可能性は多い。

 だが、宙を狙っていれば地を歩くタロスは何事もなく歩いてくる。

 逆にタロスに集中すれば、今度はワイバーン、ゴーレムが無傷。

 では、ワイバーン、ゴーレム、タロス均等に攻撃をすると、今度はダメージを与えられても倒しきれず、接近を許してしまう。

 また、タロスはその巨大さから、近づけば盾から壁となり、大軍であれば砦と化す。接近されることはできるだけ避けたい。

「初弾でできるだけ、相手の戦力を削れ」

 そのため、ファミネイ側の戦術は初手で高火力な爆発系で大ダメージを与え、チーム単位で拡散して、敵も分散させる。大軍ではなく、個々の戦いに持って行く。

 また、バカピックの攻撃力は1発でも危機になりかねない。だが、往往にして大ぶりで避けやすい。

 機動力で避けることは容易だが、大軍相手では相手側の弾幕も脅威であり、またこちらも大所帯での編成ではスペースが圧迫して機動力を犠牲にする。

 どうしても、広い戦場で少数に分けて戦う必要がある。

 シミュレーションをしているファミネイ達もその考えは定石であり、その流れで被害を少なくしようと割り出している。

 そして、精度を上げるためにいろいろな情報を追加して、戦術を何度も練っている。

 また、現場で準備する戦闘要員の装備もシミュレーションに照らしながら、使用する武器を選択している。

 その情報もシミュレーションに反映され、不利となるようであれば、選択をし直す。

 少数相手では気楽に会話しながらで済むブリーフィングだが、ここまで大がりではファミネイの処理能力の方が早く、正確なため、多くの選択肢であっても無駄に時間を消費することはない。

 もはや、司令官であるハヤミはただ心構えとドレスコードを指定するだけだ。

「また、基地防衛機能を使う。数の不利はこれで補う」

 地上には、空に飛びたつのに意味をなさない滑走路があるだけだが、アルミカンで格納された固定武器がいろいろと隠されている。

 それだけでファミネイの数十人分の火力を用意できる。数の不利も補える。

 だが、固定のためすぐに壊されてしまうのが欠点である。

「戦闘継続が不可能と判断すれば、直ちに帰還せよ。その場合、単機での帰還しないよう。複数で行動すること。その穴はこちらで判断する。無理はしなくて良い。当然、負傷してなおの戦闘の継続は不可だ」

 シミュレーション上でも被害無しでの戦果は0、あり得ないとされている。ハヤミもその結果を確認しているし、経験でも分かっている。

 だから、この被害をどの程度で抑えるかが今後に大きく影響してくる。

「C班は戦況次第では入れ替わるので格納庫で待機とする」

 夜間任務開けであるが、ファミネイ達は多少の無理は問題ない。ただ、不満は漏らすことはご愛敬。

 ここでようやく、ハヤミはアキラの顔を見る。

「アキラ、部下3名の指揮を執れ。基本、任せっぱなしでもいいからな」

アキラは少し困惑する。

 実際はハヤミも無理も承知だ。

 だが、ただ見ているだけではこの状況は理解もできない。次にこれほどの戦闘が発生した際の経験とならない。何か見る視点がなければ、この状況を理解なしに終えてしまう。

 それに無理に指揮を執らなくとも、ファミネイが基本的な戦術は割り出している。ただ、死なないように目を張るだけで事はすむ。

「とにかく、どんな手を使ってでもこの戦いで生き延びさせろ」

 ハヤミはその目標だけは分かりやすく語った。アキラも分かりやすい命令に困惑も軽減する。

「各員、命令するまでもなく、死力を尽くすことになる。だから、祈る、信じる。私にできることはこれだけだ、以上」

 その言葉通り、ハヤミにできることはこれぐらい。指揮するにしてもファミネイの本気の速度について行けない。せいぜい予測して、危ない方向を避けるように指示するだけ。

 それにここまでの大所帯では、多岐で素早い展開は人間の速度ではきつい。

 結局、祈り、信じるしかない。

 バカピック側もこの大軍ではユニークさがなく、無難に攻めてくる。だから、教本通りの戦い、シミュレーションの予測でも大きな問題はない。


   2


 ファミネイ達は戦闘準備をしている際もネットワークを使い、ブリーフィングを行っている。しかも、データでやりとりをしているため、会話よりも多くの情報を用いて、短い時間で簡潔にできる。

 司令室から送られてくるデータを元に各員は優位になる武器を選択しているが、困っているのはファイター勢だ。

 接近武器はひとまず使用は禁止されては、それを得意とする者達にとっては何を選ぶかが重要になってくる。

 皆、銃器の扱いは1通りできるが、その癖を熟知しているわけではない。

 光学兵器なら、発射までのチャージ、発射タイミングは実弾とは全く違い。仕様も設計も大きく違ってくる。

 実弾はその場合、発射によるタイミングの癖は少ないが、口径による反動の違い、威力、連射性、射程など選択肢時点での違いが多い。

 そして、自分の戦闘スタイルも武器に合わせる必要がある。

 大体はファイターは接近武器以外の戦闘スタイルは持ち合わせているが、こういった場面でもなければ披露することは少ない。

 そして、今回のように死力を尽くす場面では些細なことが命取りになる。無難だけでは物足りないのだ。

 一部のファイターは元々銃器を主体とするため、あまり困っていない。だが、その反面こういった場面ではファイターとしての役割に強い意味が持ってくる。

『こちら、レン。初弾後に正面に切り込みをかけたい』

 レンはこの基地での大ベテラン。この場面も何度も経験している。

 大軍である敵の分断を目的とすれば、切り込み隊による攪乱は必要であるが、本来その役目を担うファイターは軒並み武器の制限でマルチに転向している。銃器主体とするファイターには本来のファイターとしての役割をこなす必要がある。

『B班クローゼ、行動許可する。後、2名、いや3名はいるな。他に志願する者は』

 クローゼは第3部隊長、また、B班全体での長も行う。レンはB班に所属しているため、許可はクローゼに問い合わす必要がある。

 そして、この問いかけは当然、A班側にも尋ねられている。

『私、やりたい』

 その問いかけに真っ先に乗ったのはレモアだった。

『貴方には無理よ』

 と、速攻で否定したのはケイティ、レモアとは同室のA班のベテラン。レモアの技量ではこの場は乗り切れないし、今選択している武器レーザーライフルでは援護すらきつい。

 シミュレーションの結果はあまり悪くはないが、ただ負担の部分では適していないことは示されている。つまり、長時間の戦闘には耐えられない。

『ここは私が行こう』

 そもそも、ケイティは銃器を得意としたファイターである。こういったことはわりと得意なので名乗らなくとも、お呼びがかかっただろう。

『こちら、グラス。その切り込みに参加したい』

 グラスも機動力と手数を重視した銃器主体のファイター。レンにも鍛えられた乱戦時を想定した戦闘スタイル。中堅ながら、この手のスタイルではこの基地でも右に出る者はいないだろう。

『後は誰かいないか』

 レン、ケイティ、グラス、皆、銃器を得意としたファイターでベテラン勢。これに付いてこられるファイターは銃器に限定すればほぼ、いないだろう。

『なら、ルイス。入れるかしら』

 クローゼはルイスに問いかける。ルイスは中堅だが、銃器と接近武器の二刀流を両立させたファイター、本人曰く、竜騎兵。この場面でも、その特徴は十分に生かせるはず。

 とはいえ、悪くいえば銃器、接近武器もどっちつかずで極端な特化ではなく、汎用性を重視したモノ。

『……了解。ただし、諸先輩方の足を引っ張らないようにサポートに回らせてもらいます』

そう、癖の強いベテラン勢ではルイスの特徴も癖は強いモノのレベル差は明確である。

 ベテラン勢はそのにじみ出す威圧感で新人いびりなどする必要もない。中堅のルイスでもあまり関わりたくはなかった。

 だが、シミュレーションそんな感情論は考慮せず、その人員で良好な戦果が得られることを示している。分断による成果はこの戦闘に置いて重要なことが証明されている。

『他に提案はないかしら』

 ヴィヴィは尋ねる。序盤の戦闘の流れが固まったことで、他のファイターも武器が選択しやすくなった。だが、中盤ぐらいの流れを固めておきたい。

 問題が出てくるのは中盤にかけてのはずだからだ。

『中盤まで爆発系を残しておきたいのですが』

 ヴェラは提案する。ヴェラはアタッカーで知能派。戦況の読み解く目は戦闘要員の中でも飛び抜けて高い。

 今は爆発系を初手で使い果たすことで想定している。中盤まで残せば、それはかなり使い道がある。ただ、戦闘エリアが混乱しやすく、爆発の影響は味方へもできる可能性も高い。

 また、重量的、装弾数的にも中盤まで残しにくい。

『ハンドグレネードでも中盤で補充できれば、十分かと』

『タロスのことも考慮すると、ハンドグレネードでも大きな効果が得られるか。中盤に補充できるように準備をさせておきましょう』

 その提案に格納庫ではハンドグレネードが準備される。

『しかし、ヴェラ。その量は持ちすぎよ』

 得意とするランチャーだけでなく、ハンドグレネードも多数、銃器としてライフルも持ち合わせ、その上、弾を多めに所持。

『一応、重量的にはまだ持てますが』

 ヴェラは他の者の倍近い弾薬を持っている。それでも、問題がないようにアルミカンによる変換をうまく使って調整済み。ヴェラはこういった技能も持ち合わせている。

『エンジニア部門より、現在弾薬のストック分が心もとないため、アルミカンで制作しています。戦闘時、弾薬の補充が間に合わない可能性もありますので、終盤は接近武器、光学兵器での対応を願います』

 爆発系が序盤の主体となるため、既に用意されている弾薬、火薬類は少なくなっている。

 まだ倉庫にはアルミカンで変換されたモノがあるが、かなりの量が必要となり、展開に対しても時間が必要となる。下手をすれば、派手に使い切って終盤弾薬切れとなる可能性が現時点ではあり得る話になってきている。

 いかに序盤、中盤で有効打である爆発系でタロスを倒しきれるかが、この戦闘で重要になってくる。

『司令室からは何か情報、提案はないかしら』

『防衛機能はできるだけ維持してくれると助かります。とはいえ、こちらでも維持する戦術が導けないのですが』

 司令室も被害を押さえるために必死に思考を巡らせている。

『防衛機能の前で、我々が囮になる手はどうでしょうか』

 ヴェラはアイデアを提案する。

『効果は多少期待できますが、攻撃目標がファミネイにシフトするだけでリスクに比べるとあまり評価できませんね』

 ヴェラの提案に対して、シミュレーションの結果がそうであった。

『いかに広域に分断させて、攪乱するのがベターのようね。それで割り出してみて』

 クローゼの方はこう提案する。

『こちらもあまり結果は変わりませんが、これ以上は良い手はないと思われます』

『でしょうね』

 ヴィヴィはそう漏らす。自身も今回が初めてではないから、よく知っている。この戦闘では数の多い少ないやアイデアでどうこうならない。

 ひとまずは無難に力押しでこなすしかない。

『せっかくの出番を奪われた気分』

 レモアはそう言う。派手さを好むファミネイにとって戦闘で目立つことも決して、嫌いなことではない。だが、ことこの大規模戦闘においては経験者は誰も苦労を惜しまず、派手さを求めない。

 派手さを求めた結果を知っているからだ。

『あまり、前に出ようとはしないことよ。すぐやられてしまうから』

 A班のミヤコはレモアにそう語る。自身も大規模戦闘は3度目ではあるが、やはり怖いという感情はある。それでも初めて経験する者達への配慮は忘れてはいけない。

『ここはお姉さん達の方が前へ出ていかないとね』

 ミヤコの友人であるナギもそう語る。2人ともマルチのため、戦闘に置いてそれなりに前に出る機会も多い。だから、戦闘時のリスクはかなり分かっているつもりだ。

『まあ、ベテラン勢ほど前に出て行けないけれどね』

 そうミヤコは語る通り、前へと出れば死がかなりの確率で待っている。

『2人とも我々の上司はアキラ殿になったわ。どちらにしろ、先ほどの提案はアキラ殿の確認無しでは許可されなかったでしょうね』

 ルリカは伝達された情報を確認していた。

『大丈夫でしょうか』

 カレンはそう漏らす。

『先日での、アキラを前にしての勢いがあれば大丈夫よ』

 レモアはそう言って、カレンをからかう。カレンも基地での案内のことを思い出して、少し恥ずかしくなる。その反面、そこが勇気にもなった。

『各自、準備はできている』

 ネットワークでの会話は数分とかかっておらず、これでも一部を抜粋しただけ。

 それに装備の準備、確認も実際に体を動かし用意していた。既に武装も展開済みの者も多い。

敵にしても、目の前に近づいている。

『さあ、そろそろ出陣よ』

 格納庫のリフトは地上へと上がり始めていた。地上に出れば、バカピックをすぐに目視で確認できるだろう。

 現時点でのシミュレーションの戦果は死亡は5、6名、戦闘不能15名前後。それは皆にとって周知の事実であるのに、みんな明るく出撃をしようとしている。

 その犠牲者は誰もが当てはまるというのに。



   3


 結果は激戦であった。

 シミュレーション通り、死者を出し、負傷者を多く出す壮絶なモノであった。



   4


「それで、被害状況は……」

 司令室でただ黙って状況をモニターしていたハヤミは渋い顔で尋ねた。

 戦闘自体はやってきた48体をすべて倒して、その後の援軍の様子もない。一応、戦闘は終わったと見ていいだろう。

「戦闘参加のファミネイは死亡4名、戦闘不能11名。負傷、精神的、消耗率の激しい者に関してはこれからですが」

 戦闘開始前のシミュレーションよりは一応、善戦した結果ではある。

 それでも死者、戦闘不能が出て、控えていたC班も入れ替えで対応。戦闘要員のほとんどがこの戦闘に参加した。そして、今現在の片付けまで含めれば戦闘要因以外の者含めて基地内の全員が参加している。

「戦闘に出た半数は被害が出たか。治療は既に行っていると思うが、生存を優先に行え、これ以上、死なせる」

 当然、それは医療班も分かっていること。戦闘は終わったとはいえ、今も必死に彼女達の戦いは続いている。

「幸い、基地内のファミネイに死亡者はおりませんが、軽傷の者は何名かは出ています」

「そうか」

 状況を聞いて、ハヤミの渋い顔は変わらない。そして、引き続き状況が報告される。

「基地内の被害は軽微ですが、防衛設備を含め地上の舗装部分は大半やられています。また、地下1階部分も軽微ではあるのですが、フレームのゆがみなどで修復には少し手間がかかりそうです」

 散々の結果であるが、まだ基地機能としては防衛設備以外は被害がなかったため、問題があるレベルには到達していない。

「……後、援軍の気配は今の所ありません」

 そもそも、いつも防衛にすぎない戦いでバカピック戦力をどれほど削ったのか分からない。恐らく、1週間もしない内には少数であれ攻めてくるだろう。

 むしろ、敵はこれを機に攻めれば、向こうの勝利は手堅い。

 それなのに、人類の敵からの援軍の様子はない。

 これほどの被害を出しておきながら、奴らのユニークさは健在である。

 ひとまず、ハヤミはため息を出す。もはや、涙も涸れ、ため息すら吐き疲れた。意図してため息を出さないと、あきれの方が先に出てしまう。

「では、C班を引き続き待機とし、A班、B班は休憩を取るように」

 夜勤明けと戦闘も参加したC班ではあるが、戦闘の主を担い、満身創痍で心身とも疲れが強いA班、B班。身体が無事でも、ショックを受けた者も多くいる。

 この状態では士気は維持できない。

 C班はまだ負傷者はおらず、直接的にショックを受けている者も少ない。引き続き待機させたとしても愚痴で済む。それで済むのなら、この場は安いモノである。

 そもそも、C班もA班、B班の現状を見れば、そんなことは口には出さない。

「ひとまず、アキラ。3名を無事に生き延びさせたな。それで十分だ」

ハヤミはただ、後ろで見ていたアキラに声をかけた。戦闘が始まったからは一度として声をかけることはなかった。単に暇がなかったからだ。

 カレンらに関しても、無事生存をしていた。もっとも、新人で大規模戦闘初体験では周りもサポートに徹しさせ、生存を優先させていた。その経験が後に生きてくるのだから、今は役立たずで足手まといであっても、後々はおつりが来るぐらいの価値になる。

 それでも楽をさせてもらうほど、暇で気楽な戦闘ではなかったが。

「どうであれ、最良、最善ではなく、結果に対して許容できれば十分だ」

しかし、その言葉にアキラは納得していない。まだ、被害が押さえる手があったのではないかと考えているからだ。

「当然、納得がいかないか」

 それもそうだ。被害は少ない方がいい。それができるなら、それがベストだ。

 だが、多少の被害で事が済み、その後の補充も問題もなければ、それもまたベストといえる。

 人工生命体であるファミネイの運用とは後者にある。安いコストで使い潰し、交換するコストも優しい。少女達の被害などささやかなモノである。

 これはハヤミも構築に関わった運用だが、実際、都市にとってもこの方針である。その方が、自分達にいろいろと都合がいいからだ。

 それはハヤミには嫌というほど、身にしみた経験だが、アキラにはそんな裏があることも知らない。まだ、若く、この仕事も何も知らないから当然だ。

「まあ、確かにそうだ。だが、私がこのような態度を取るのも、この過程、結末を何度と体験しているからだ」

 実際、ため息すら出なくなっている有様。

 それを経験で理解するにはアキラにはまだ若すぎる。だから、言葉でフォローが必要となる。

「本音を1つ言えば、私の最善と都市の最良がこれであること。お前が考えるベストは違うにしろ、それは私や都市の許容できることで、なければならない。お前だけが許容できる考えでは駄目なのだ」

 アキラはそう言われると反論はできない。新人で右も左も分からないアキラにとっても、人類を守る任務が与えられている。

 それはファミネイだけを守ることではないと分かっている。

 そう、分かっていることだ。

 それでも最もより良い方法があるのではないかと頭がよぎる。

 ハヤミにもその気持ちはとうに忘れたが、その考えではいまだ思っていること。だから、悩んでいるアキラを見て、そんなことを考えているのだろうと手に取るように分かる。

 だが、手持ちの状況ではこれが精一杯、多少改善してもほんの少し良くなる程度だ。

「相対的な価値で、最善、最良ならたとえ負けであっても問題ないのだ」

 基地は守られ、都市に被害無し。被害となったファミネイの補充も資源的に痛くない話。

 壊れた基地もアルミカンの修復で可能。人類側はわずかな労力を犠牲にして防衛を成功させた。

 都市にとっても、ほぼ資源を減らすことなく、わずかであっても人類の生存が確立した事実は喜ばしいことである。

「……相も変わらず、守備側だけに戦果はないがな」

 たとえ、戦術的な負けだとしても、都市の相対的な判断では問題無しである。

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