ファミネイ達の価値観で

 ハヤミは戦闘後も状況を整理していた。そして、敵の援軍がないことを確認して、ようやくその場の席から立ち上がった。

 敵の襲来の一報から、苛立ちながらずっと座っていた、その場から。

 そして、アキラの顔をようやく顔だけでなく、体も正面から向かい合った。

「さて、アキラ。これからファミネイらに会うというのなら、シノと一緒に行動しろ。この戦闘は思いのほか、傷が深いからな。無用な行動はかえって、傷跡をえぐることになる」

 ハヤミはそう語る。実際、この司令室も重々しい空気で支配されている。そして、行き交う言葉も重々しい。

 日頃なら、随時聞こえてくる明るい話題もいまだない。

 アキラもその状況にようやく、理解した。これが少女達の日常の1つだと、側面だと。

「私は都市にも報告があるから、少しこの場は退席するが、お前も自室で休憩を取っていてもかまわない。その間、今のことを思い出していれば、それで仕事としては十分だ」

 アキラは何も答えられなかった。

「下手に元気づけようとすると、私では間違ったことを言って、刺されかねない。だから、今日は自分の仕事以外は黙っておとなしくしておくよ」

 冗談交じりなハヤミの言葉にもアキラは反応はない。やはり、アキラにも多少の傷があったのだろう。

「シノ、アキラを頼む」

 ハヤミはシノにそう命令して、司令室から出て行った。シノは司令であるハヤミが部屋から出たのを確認して、アキラに語りかける。

「ああ、見えていろいろとフォローしているのですよ」

 シノは別にアキラの返事を求めていない。これも、シノとしてのフォローだ。

 だが、その言葉にアキラはようやく重い口を開いた。

「ええ、悔しそうでしたから」

 アキラも自身も悔しそうにしている。

「よく見ているわね」

 シノはアキラのよく状況を観察している感心をした。


  * * *


 戦闘を終え、格納庫まで自力戻ってこられた戦闘要員達の大半は肉体的な疲労や精神的な消耗でいつもの陽気はなくなっていた。

 それでもいつも通りができているのはベテラン勢だ。

 部隊長らも後片付け指示や各員のフォローなど忙しくしている。違った意味でいつもの明るさまではできない。

 そんな中、大ベテランのレンはそういったことには無縁で過ごしてきたため、戦闘後はまだ、のんびりとしていられる。当然、疲れはあるが、ここらも慣れたモノである。

「まったく、辛気くさい」

 レンはそう言葉を漏らす。

「レンさん、そう言わないでください。みんなが通る道ですから」

 同じチーム、パティはいう。レンの言葉は周りから離れているから、よほど聞き耳を立てていなければ聞かれなかっただろう。だが、いつもなら話題飢えた少女達にキャッチされていたが。

「分かっている。だが、ここで脱落して楽隠居をする者だっている。私は普通に隠居の時期というのに」

 楽隠居、戦闘要員からの引退勧告である。精神のダメージや怪我によって戦闘に支障が出た場合戦闘要員として、使えないとして通常のファミネイ同様、人類のための仕事に改めて就くことになる。

 また、戦闘要員はハードなため、一定期間を過ぎた者も肉体の負担等の理由から引退することになる。

「まったく、死に損ないましたね」

 グラスはレンに対して、そう軽口を言う。実際、レンにとって、部隊の育成とかよりも戦闘のみにしか興味がない。不器用というか、そういった性分なのだ。

「貴様の尻拭いでこちらは苦労はしたが」

 レンも負けじとグラスに返す。周りと違って、少し品がないが明るい話題が流れる。

「しかし、切り込んだ後とはいえ、ケイティやルイスには悪いことをしたか」

「ルイスはともかく。まあ、満足でしょう、ケイティは」

 ケイティはこの戦闘で死亡、ルイスは戦闘不能で医療室へ緊急搬送。まあ、ルイスは負傷してもなお、まだ戦えると駄々をこねていたので戦闘不能だからといって問題はなかったが。

「あれはケイティの……」

 グラスは視線には、レモアの姿が目に入った。1人で何をするでもなく、ただ立っている。

 グラスにとって、この時点のレモアは存在を知っているだけで話したこともない。ただ、相部屋の相手であるケイティとは基地に来た時期も近く、戦闘スタイルも近く、気のあった戦友であった。

 そして、相部屋になった妹分のレモアについてはケイティから良く聞いていた。手のかかる妹だと。

「……グラス、相手してやれ」

 レンもまたレモアの姿が見えていた。

「あんな奴が一番危険なんだ。自分ですべてを片付けようとする奴が」

「それは貴方もですか」

 グラスはレンに尋ねるが、それに関しては答えなかった。ただ、黙ってレモアの方を見つめている。

 グラスも言われなくとも、あの様子では世話は見ないと行けないと思っていた。特に親友の妹分だ。だが、どう接していいかは分からない。

 似た者と思っているのか、それを命じたその人、レンはただ面倒ごとと思い、フォローまでは考えていなさそうである。

「ベットだと、延々と寝てしまうから、そこらで横になる。何かあったら起こしてくれ」

 レンはこんなことを言う始末。

「私が行きましょうか」

 様子を見ていたパティはそう語る。このチームの中ではコミュニケーション能力は高い。レンは割と無関心、グラスも癖が強く、他者を近づけ難い。グラス自身はそんなつもりはないだが。

 そんな中でパティはチームとして欠如しているコミュニケーションを担っている。もちろん、戦闘時も前へ出ることが多い2人を後方から支援するアタッカーでもある。

「いや、少しは似た者で行った方がまだいいわ」

 グラスは取りあえず、考えもないがひとまず話すだけ話そうと思い、レモアの方へと向かっていった。

「あんた、無事に生き残ったようね」

「……運良く、ね」

 実際はケイティに何度か助けられていた。そして、その結果ケイティは戦死した。

 レモアの目の前で。

 それは戦闘レポートで分かっていたこと。実際、あの戦闘で全体を把握してはいても、結局は自分のことで精一杯で、レポートで詳細は知った。

「まあ、それでも大したモノだ」

 グラスはそう言葉をかける。これでもグラスとしたら、フォローしているつもりである。だが、捉えようでは馬鹿にしていると思われても仕方がない言葉でもある。

 ただ、グラスはそれでもよかった。

 ともあれ、会話が続かないと会話にならないから。そのためには相手に反応してもらう必要がある。それは逆なでする感情に触れたとしても。

「……ありがとう」

 だが、レモアはほぼ無反応で言葉を返した。回答としても、あまり適していない。

 グラスは困った。

 会話では無理となるとどうしたらいいか、と。そして、思い出した自分のいつもしていることを。

「これを飲むといいわ」

 そう言って、グラスは腰に付けていた水筒をレモアに差し出した。水筒の中身はグラスのお手製の飲み物である。

「今の今まで、飲んでいる暇がなかったからね」

 レモアは何も知らず、水筒を受け取って、中身をそのまま飲んだ。喉の渇きもあったから、勢いよく飲んでいた。

 だが、基地内の少女達であれば、これは危険行為だと知っていた。レモアはまだ基地のことをよく知っていない。そして、グラスとも初対面に近い、ケイティからは名前は聞いたことはあったが。

 甘かった。異様に甘かった。わずかにある酸味など味のアクセントにすぎないが、とにかく甘く、飲み物としてもその甘さゆえに喉を通ったときに違和感を覚えるほど。

 特に、単なる飲み物と思っていたレモアには一気に飲んだことと、そのギャップに戦闘時よりも状況が混乱した。

「疲れたときは、これが一番よ」

 飲み物はレモネード。当然、レモンと呼ばれる果物は使われていない。化合物で代用されている。そして、グラスは甘党で、味覚障害のため、甘みを感じ取りにくく、過度に甘味料を投与して作られていた。

 そんなことを知っている少女達には甘みの劇薬と称され、これを薄めて飲む分にはおいしい飲み物とされている。

 ともあれ、レモアは思った。何の罰ゲームかと。

 そして、先ほどまで戦闘の体験、記憶、激甘いレモネードの味の処理に追いつけず、気を失った。

「やはり、疲れには甘さは効くか」

 むしろ、レモアは先ほどまで戦闘後もあり、いろいろと気を張っていた。それが甘さで一気に気を緩ませたのだろう。グラスもそう捉えていた。

 レモアが気を失ったことで医療スタッフは駆けつけてくる。

 グラスからすれば、これでフォローとなったのかと思ったが……ひとまず、良しとした。

 そして、ふと亡き親友のことを思い出す。

「妹に対して、命を張って守ったことは嬉しかったのかしら」

 ケイティはレモアのベースとなった人物である。だから、ケイティはレモアを妹分以上に、妹のように接していた。

 また、ケイティも美しいブロンドであった。レモアに受け継いだ1つの要素である。

「今度があったら、聞いてみよう」

 いつか来るかもしれないときのために、グラスはそう心に留めた。

 そして、亡き友人の妹分に対して、それまでフォローしてやろうとも。世話がかかりそうだが、退屈はしそうにないから。


  * * *


 戦闘が終わっても、戦場は終わらない。そもそも、終わりなき戦いの最中でもある。

 さて、医療室も今なお戦場となっている部署の1つ。

「至急、集中医療装置で治療が必要な子の処置は完了したか」

 集中医療装置は外科治療と治療の促進で急速に傷の治療を行う。また、失った部分も代用を触媒にし再生が可能。

 ただ、今回は頭を損壊した子もいた。これでは集中医療装置でも生存はかなり厳しい。

「後は祈るしかないか」

 集中医療装置は大小の違いはあるが合わせて7台である。

 そのため、集中医療装置での治療が必要なファミネイは中には、治療の優先順位で順番待ちの子もいる。

「あの子、うるさいわね」

 うるさいといっても、別に痛みでうめいている訳ではない。

「まあ、戦闘後で高揚しきっているし、怪我の痛みを忘れるにも仕方がないか」

 ルイスはバカピックの爆発に巻き込まれ、その両足首を消え去っていた。だが、ボディスーツはすぐさま止血とテーピングを行ったので、この状態でも短時間では致命傷でもなく元気そのモノである。

 そして、足首だけに推進装置も無事で戦闘の継続も不可能ではなかった。

 だが、さすがに戦闘に関しては周りから止められていた。

 半ば強引に基地に引き戻され、こうして医務室に収容された。それでも、戦闘の高揚のためか戦場に戻ろうとして、騒いでいた。

 そのせいで、戦闘終了した今でも、うるさく騒いでいる。

 とはいえ、爆発に巻き込まれたの間抜けではなく、それだけ乱戦であったこと、足首の犠牲なしには仲間が助けられなかったことなどがあげられる。

 名誉の負傷である。それに少女達には足首程度はすぐに回復できることである。

「とはいえ、集中医療装置は当分、空きなし。優先順位も下でいいか。取りあえず、眠らせておきましょう」

 治療の意味でも、黙らせる意味でもルイスは眠らせることになった。


 戦闘で精神に傷を負う者もいれば、逆にルイスの様にそこでの失敗や痛みを悔しさなど感じる者もいる。メンタルの強さの差ではあるだが、そういった強さゆえに自己犠牲もいとわない場合もある。

 これは後々のカウンセリングで大事になってくる話である。

 だから、そのことはカルテにもきっちりと記入されていた。


  * * *


 格納庫では死亡したファミネイのコアが置かれている。

 コアは頑丈に作られており、そう簡単に壊れることはない。そして、戦闘要員のファミネイにとって心臓部にして脳のような記憶媒体。

 だから、これが少女のすべてといっても良い。

「まあ、せいせいしたわ」

 エンジニアの1人がそう漏らす。

 死んだ仲間を悪く言うのは確かに気が進まないが、この中の1人、ヴェラはエンジニア泣かせであったから、そう漏らすのも誰も否定しない。

「聞こえているわよ」

 ターニャは後ろから声をかける。先ほどいった通りコアは戦闘要員のファミネイのすべてである。この状態でも機能は生きて、観測機器の稼働もできる。つまり、音も目の代わりも使える。死後の悪口だって聞くことができるのだ。

 武器を振るう肉体がないだけで。

 このコアはいったん、都市に送られ蘇生されるなり、新たなファミネイの基礎になるなど様々だ。

 実際の所、人工生命体である少女達には死はそれほど重くない。

「……冗談ですよ」

 とエンジニアは訂正を入れるが、口調はぎこちない。

 その様子にターニャも補足を付け加える。

「まあ、今は寝ているから、そこまで聞こえているはずもないけどね」

 その言葉に周りのエンジニア達は安心する。やはり、意識のあるときに聞かれるまずい台詞だったからだ。

 コアだけの状態でも機能できるとはいえ、好ましい状態ではない。だから、機能の一部を止めて、擬似的に眠らせている。

「しかし……」

 ターニャは疑問に思っていた。

 アタッカーは後方で支援がメインとなるため、ファイターに比べて被弾する可能性は低い。つまりは死亡するリスクも少ない。

 しかし、アタッカーであるヴェラは死亡した。

 死亡したケイティもミヤコ、そしてもう1人もファイター、マルチ。戦闘不能にしても、アタッカーの比率は少ない。

 確かに、ヴェラが死亡の要因は自爆覚悟の攻撃。戦況を好転させたため、無駄死でもなければ、成果からいえば評価はできる。

 だが、ハヤミがその行動を知っていれば止めただろう。意外にハヤミは無駄に被害を出すことは好まない。それは特攻や自爆など成果が出ることが分かっていてもだ。

 ただ、それが必要であれば、淡々と指示するが。

 それに、このような状況は序盤の展開を間違わなければ回避できるとハヤミは考えている。

 そして、あのヴェラが取る手にしてはちょっと不可思議である。ヴェラはエンジニア泣かせであるように性格は悪い。また、戦法という戦術において正攻法を嫌い、奇抜な作戦を好む。

 つまり、美しく散るような玉砕は好まない。

 また、自爆にしろ死亡のリスクを背負わなくても、手足を犠牲にする程度でもこのようなリターンは許容できたはずだ。

 蘇生も可能とはいえ、死亡するリスクはいささか危険である。

 ヴェラは馬鹿な子ではない、むしろ優秀である。計算もできる。多少、問題児であるだけで。

 ともあれ、この戦闘でヴェラは最も優良な貢献者ではある。ターニャにはそれと死亡するリスクは何か結びつく気がしていた。

 彼女のコアの中身を見ればその疑問も解明されるかもしれないが、確証なくそこまで調べるわけにも行かない。


  * * *


 ターニャのこの予感は後に起こる『バナナ・チョコレート戦争』によって証明されることになる。

 そのときには、この予感のことなど忘れてはいたが。

 ヴェラにとって、今回の死亡というより肉体の損失は《再生幼女》と呼ばれるための下準備であった。そして、再度肉体を得ることは都市へと戻る機会でもある。

 戦闘要員であるファミネイは都市へは入れる機会はほぼない。だが、肉体を失えば容易に可能となる。

 だから、ヴェラはこの大規模戦闘でわざと死亡して、“振り出しに戻る”を行った。

 この事実を現時点で知る者はヴェラと一部の都市側の人間のみであった。

 そして、その都市側の人間も後の『バナナ・チョコレート戦争』の引き金となるとは思っておらず、死を持ってその責任を果たすことになるとも思ってもいなかった。


  * * *


 大量のバカピックの残骸は戦闘に関わっていない者にも死活問題である。

 タロスの盾はあらゆる攻撃を防ぐが、それはエネルギーを供給された状態で始めて効果を持つ。エネルギー源がなくなった今は単なる重く、加工しづらい金属板である。

 それが爆発に巻き込まれたモノもあるが、これが32枚存在する。

 もっとも、バカピックの残骸も通常の倍以上。これを早々に片付けて、地上に置かれた装置、路面の復旧をしなければならない。

「ひとまず、近くのゴーレム、ワイバーンから片付けていきましょう」

 ゴーレム、ワイバーンは日頃からやってくるため、取っておく必要性もない。そのため、基地内に持って帰り、そのままアルミカンで素材にされる。

 こうやって、バカピックは人類側の資源にもなる。

 だが、その解析はあまり進んでいない。何しろ、動力であるタキオンエンジンは爆発とともに消えてしまうからだ。

 タロスに関しては、少し珍しい程度だが、その残骸は今後の戦果向上のためいろいろと実験に使う予定ではある。それでも大半は素材としてされる。

 大規模戦闘は、ある側面ではボーナスステージでもある。

 これほどの金属等の資源を確保できる機会であるからだ。それでも火薬等の化学資源は消費するが、こちらは現状でも何とか生産できている。

 とにかく、その残骸を急ぎ回収、分解、素材としていくのは戦闘以上にハードである。別に死にはしないが、それでもいつも以上に疲れてしまう。


  * * *


「そろそろお昼にしましょうか」

 司令室はいまだ違った静寂に包まれた空間で、シノはそれを打ち破る提案をしてきた。そして、提案先はアキラであった。


「先にお昼にしようか」

 格納庫で休憩、半ば放心しているカレンにルリカはそう尋ねた。


 同タイミングでの出来事である。実際、時刻もお昼に近づいている。忙しさもあるが、基地内は食事がまともに取れるような雰囲気ではない。

 シノからすれば、

「この程度はまだ序の口です。食事にして、この先のために体力を付けておかねばなりません」

 そして、ルリカは、

「今、食事を逃せば、すぐ食べられないかもしれない。休憩ができる間に取っておかないと」

 そもそも食堂では食事の準備が行われており、すぐに食事が取れる形態でも準備され、また、暖かい状態でも用意されていた。

 雰囲気など食堂内では関係がない。ここもまた、戦場となって基地内で活躍していた。

「……分かりました」

 アキラはシノの提案を素直に受け入れた。基地の先輩であり、経験者であるシノの言葉を信じたのだ。

「……分かった」

 カレンも確かに空腹感はあった。それに戦闘要員のファミネイは燃費が悪い。確かに1日食べなくとも戦闘は行えるが、それ以上になると能力は大きく下がってくる。

 コアと機械に補助されていても、それを動かすのはやはり、体である。カロリーなくして動けない。

 実際、大規模を多く経験している者は周りの雰囲気など気にせず、食事を取っている。空腹を満たす目的もあるが、当然、次に備えての意味を経験から無意識で実行している。

 ただ、レモアに関しては既に必要なカロリーは十二分に補給済みである。そして、何も考えず体を休ませている。

 ルリカとカレンは食堂へと向かっていく。やはり、基地内はどこも慌ただしい。

 暇を持て余しているファミネイはそういない。

 戦闘要員だって、休憩しているとはいえ疲れは抜け切れていない。休憩なしでは動けない状態。いくら動いていないとはいえ、暇を持て余しているわけではない。

 これもまた、仕事なのだ。

 アキラとて、何も分からないとはいえ、頭を悩ませることしか起こっていない。

 考えがまとまることもなく、ただ、情報だけが頭を巡っている。

 ルリカとカレン、シノとアキラは同じ場所を目指している。当然、行き先の途中で双方は出会った。

「あっ」

「…………」

 アキラとカレンは顔を見合わせて、なぜか気まずい雰囲気となった。そうなった感情を双方は何かとは分かっていない。

 ただ、ルリカの方はそんなふうに思ってはいない。

「……まったく」

カレンの様子を見ていたルリカはため息交じりで、そうつぶやいた。シノの方はその様子を優しく見守っている。

 この2人にはその雰囲気が何か、感じ取れたようだ。

 アキラも、カレンも期待に応えられなかった辛さや罪悪感といったモノがお互いの顔を見合わせたことで芽生えたのだと。

 ただ、ハヤミからこの様子を言わせれば、これもまた相対的な価値観なのだろう。最も、そんなモノはある種の気の迷いとも言い切るだろうが。

 まあ、これはラブコメの臭いと言い切った方が早いかもしれないが。

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