二十四日目:「絶叫」『真夏、橋の上』

 絶叫が嫌いでたまらない。

 耳に響くし、見た目も悪い。

 愚か者のすることだ。

 絶叫する奴は全てこの手で潰してきた。

 色々な潰し方をした。奴等は全員、最後に絶叫して消えてゆく。

 

 俺は絶叫が嫌いだ。

 だから、橋の上で絶叫していた男を潰すときも、しっかりイヤホンをつけて行おうとした。

 銃を向けると、男は笑顔で俺に歩み寄り手を握ってきた。

 俺は戸惑った。今までそんなことをされたことがなかったからだ。

 絶叫するゴミどもは皆、恐怖の表情で絶叫しながら消えていった。

「……、……!」

 何やら喋っているようだが、全く聞こえない。

「……!」

 男が口パクで何か喋る。

 心の底から嫌だったが、渋々イヤホンを外す。

「……何だ、貴様」

「俺は『川に飛び降りようとしている男』です!」

「声がうるさい、音量下げろ」

「あっすみません……興奮するとつい声が大きくなってしまって」

「飛び降りるならさっさとしろ。処分する手間が省ける」

「あなたは俺を消してくれるんですよね!?」

 耳がきぃぃんとなる。イヤホンを外さなければよかった。

「音量下げろ……」

「あっすみません……あなたは俺を消してくれるんですよね?」

「『くれる』……?」

「俺……失恋して……この世から消えたいと思ってこの橋に……」

 聞いたことを後悔するくらいくだらない理由だった。

「飛び降りるならさっさとしろ」

「あなたが消してくれるんですよね?」

「断る。慈善事業じゃない」

「俺を消せって指示受けたんですか?」

「違う。個人的に俺が消したいから消そうとしていた」

「今は?」

「勝手に飛び降りてくれと思っている」

「冷たい人ですねえ……」

 男はへらりと笑って欄干に手をかける。

 そうだ、そのまま飛び降りろ。

「でも俺は飛び降りませんよ」

「は? なんでだ」

「今、この瞬間、俺には新しいハニーができたからです」

 心底嫌な予感がしたが、念のため問うてみることにする。

「新しいハニーとは何だ」

「もちろん、あなたですよマイビューティ!」

「音量下げろ! ふざけてるのか!?」

「おおう……すみませんハニー」

「その呼び方をやめろ」

「じゃあ何て呼べばいいんですか?」

「そもそも呼ぶな」

「ええ、そんなひどい。愛しい人の名前は呼びたいじゃないですか」

「貴様のようなうるさい人間に名前を呼ばれたくない」

「あなたのことを考えて音量を抑えているというのに」

「善意の押しつけは嫌われるぞ。だが音量は抑えたままでいい」

「えへへ」

 へらへら笑う男。全てのやる気が失われるような笑みだ。

「……気が抜けた。さっさと帰れ」

「えーもうちょっとお話ししていたいです」

「いらん。帰れ」

「消してくれるんじゃなかったんですか?」

「知らん。帰れ」

「また会いましょうマイハニー」

「だからその呼び方はやめろと」

「さらば~!」

 男は手を大きく振りながら走り去って行った。

 何だったんだ、いったい。

 イヤホンをもう一度耳にはめる。

 今日はもう何もしたくない。

 

 次の日なんとなくあの橋に行ったら例の男がいて、

「そういえば、連絡先聞くの忘れてました」

 と笑った。

 

 相変わらず、絶叫は嫌いだ。

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