十一日目:「緑陰」『あついひ』

「あ"つ"い"~」

 日が強烈に射している。

 木陰に入ったところで暑さが和らぐわけでもない。

 風も吹かず、湿度も高い。

「これがうちの国の夏だとか、信じたくないよ~」

「耐えるよりほかはない」

「そんな~」

 イマジナリーフレンドはいつも冷静で、俺の言葉にツッコミを入れてくる。

「いいよね君は。実体ないから」

「実体がなくても暑いのはわかる」

「なんでわかるの? 神経とかないとわからないでしょ」

「お前は俺だからだ」

「出た、おまおれ」

「古い言葉を使うんじゃない。しかも、意味が違う」

「暑いんだよぉ。涼しくしてよぉ」

「家に帰るか?」

「やだよ、バス待ってるんだから」

「じゃあやはり耐えるよりほかはない」

「むむむ……」

 水筒を出して、水を飲む。

 発汗が激しくて、いくら飲んでも減るばかりな気がする。

「塩タブレットも食べろよ」

「はい……食べます……」

 水筒をしまい、鞄から塩タブレットを出して食べる。

「うめえ……」

「やっぱり塩が足りてなかっただろう」

「キー! 君のその全て想定内って面が俺は嫌なんだよ!」

「キレるなキレるな」

「だいたい何なの、夏って! この国の夏ってこんな暑くなかったでしょ! ここは盆地か!?」

「盆地はもっと暑いと思うぞ」

「ううう……ううう……」

 日はますます容赦なく照り付ける。

「いやぁもう帰りたいよ……」

「バス待ってるって言ったのはお前じゃないのか」

「そうだけどさぁ……」

 バス停に10分前に着いたのが間違いだった。

 俺は遅れがちな人間なので、どこに行くときも常に早めに着くよう心掛けている。

 しかしそれがバス停だと屋外だし待つことになるしで、夏はちょうどに着くようにした方がいいな……と思いながら、汗を流している。

「暑い……」

「ほら見ろ、バスが来たぞ」

「ほ、本当だ……ありがてえ……」

 バスの中は窓も開いておりそれほど涼しいとは言えなかったが、外にいるよりはましだった。

「ずっとバスの中にいたい……」

「それはそれで金がかかるだろ、落ち着け」

「落ち着けないよぉ……あつい……」

「水飲め、水」

 水筒を出して、水を飲む。

 減りが早い。もっと持ってきた方がよかったかな?

「向こうに着いたらスポドリでも買うんだな」

「ですよねぇ……」


 そうして買ったスポドリは、家に帰るころにはただの空のペットボトルになっていて、イマジナリーフレンドも消えていた。

 発作が治まったのだろう。

「あつい……」

 答える者はない。

 俺は無言でエアコンをつけた。

 外は夕暮れだった。

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