旅の2日目

 これって……小学校のアルバム、だよね?

「えぇ、そうよ」

 このアルバム、見てもいい?

 小学生の頃のアルバムは、家中どこを探しても見つからなくて……記憶を取り戻す手がかりになると思ってたのに、結局、見ることはかなわなかったから……

「勿論よ。そんなことだろうと思って、に見てもらうために持ってきたもの」

 ありがとう……そういえば、アタシ達って同じクラスだったの?

「えぇ、小学校はクラス替えがなくて、中学校は成績でクラスが決まっていたから、私達はずっと同じクラスだったわ」

 てことは、出会いは入学式だったんだね。

「そうよ。入学式で真理乃を見て、とても可愛い子がいるなぁって思ったのを、今でも覚えているわ」

 か、かわいいだなんて、そんな……

「それと同時に、“きっとこの子が、そうなんだ”とも、思ったわ」

 へ……? どういうこと?


「私があいばな学園を受験したのは、ここに入学すれば素敵な出会いがあると思ったからで……信じてもらえないかもしれないけど、私はこれから進むべき道の良し悪しが分かるの。ほら、第六感ってよく聞くでしょう? 私のも多分、そのたぐいのものなんだと思うわ」

 へ〜それで、藍花学園に入学すれば、いい事が起こる……いい出会いがあると予感して、藍花学園を受験したんだね。

「そうよ」

 すごいね! アタシはそういうの全くないから本当にすごいと思う。

「……真理乃は記憶を失う前も、そう言ってくれたわね」


 そうだったんだ……。

 あ……アタシ達、一組だったんだね。それに……はなみやさんとすめらぎくんも、ほんとに同じクラスだったんだ。

「あぁ……真理乃の幼なじみと許嫁いいなずけね。“ほんとに”ってことは、本人達から話には聞いていたけど、信じてなかったってことかしら?」

 うん……なんとなく、信用できない子達だなって思ってたから……ううん、ほんとは、なんとなくじゃない。

 正直に言うと、花之宮さんと皇くんのこと、苦手なんだ……二人とも、自分勝手に、“像”を押し付けてくるから。

 それは両親や祖母も同じ。無理やりにでもアタシに会社を継がせる気でいるみたいだし、大学受験の時も散々反対してきて……夢すらも否定されて……アタシの意思なんて全部、無視して、自分達の理想を押し付けようとしてくる。友達も、未来の結婚相手も、両親と祖母が勝手に決めた。

 アタシの意思を尊重してくれるのは、いつだっておじいちゃんだけだった。

 おじいちゃんと、今はとうちゃんも……二人の前だけなの、アタシが“アタシ”でいられるのは……。

 他の人達の前では、“わたくし”や“僕”、そして“真理ちゃん”として振る舞わなければならなくて……すごく息苦しくなる。


「……その話も、私に打ち明けてくれていたわ。それに……親しい間柄になる前から、無理してあの二人と一緒にいるような気はしていた……真理乃の表情を見ていたら、そうなんじゃないかって、思っていたわ」

 え、うそ……もしかして結構、コツに、顔に出てた……?

「露骨って訳ではないわ……ただ、真理乃の心境に気がついていないのは、苦手意識を持たれている本人達くらいでしょうね。いや……もしかすると、気づいていたのに、あえて気づいていないフリをしていたのかも。だからあんなこと……」

 あんなことって……?

「……ごめんなさい、今のは忘れて? それより……何か、少しでも思い出せないかしら」

 うーん……

「……仕方ないわね。だったら、あの場所に行ってみましょう」

 あの場所って?

「私と真理乃が親しくなるきっかけとなった場所……すすき総合公園よ」


 それって……どこにあるの? 少なくとも、近くではないよね?

「えぇ、からだと、到着は閉園後でしょうね。だから公園内を見て回るのなら、明日になるでしょうし……とりあえず、移動中に芒野総合公園付近にあるホテルを予約しておくわ。勿論、ホテル代は私が支払うから安心して」

 へ……いや、自分アタシの分のホテル代くらい自分で払うよ!

「私が言い出したことなのだから遠慮しないで。そんなことより、早く準備して出発しましょう」

 う、うん。分かった。

 ふふっ……藤佳ちゃんって結構、強引なところもあるんだね。

「だって……何がなんでも、貴方に思い出してほしいもの。私との思い出を、ね」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る