旅の3日目

「ここがすすき総合公園よ。広大な敷地内に美術館や図書館、植物園など様々な施設があるわ。小学校の修学旅行のにここを訪れたのだけれど……幼なじみと許嫁からは何も聞かされていないのかしら?」

 全く聞いていない訳ではないけど……修学旅行の一日目は班行動、二日目は自由行動で……アタシははなみやさんとすめらぎくん、それから皇くんの友達とずっと一緒にいたってことくらいしか……とうちゃんの名前は一切、出てこなかったし、行き先すらも教えてくれなかった。

「そんなことだろうと思ったわ……その話、一日目は本当のことだけど、二日目は半分嘘よ。途中から真理乃はアタシと一緒に行動していたもの……折角だし、公園内を歩きながら話しましょう」

 うん……。


「二日目が自由行動だったのは本当のことよ。確か、生徒と先生以外の人は見かけなかったから、貸し切りにでもしてたんじゃないかしら? 富裕層や資産家の子供が多く通っている学校だし、それくらいしていても不思議じゃないわ」

 そういえば、藤佳ちゃんのご両親は……どんなお仕事をしているのかとか、聞いてもいいのかな?

「えぇ、構わないわ。父は食器を作っているガラス職人で、母は華道家ののぼり牡丹ぼたんよ」

 え! あの、すごく有名な華道家さんがお母さんなの!? あ、でも、言われてみれば確かに、顔立ちが似てる気がする……目元とか、特に。

「ふふふ……記憶を失う前にこの話をした時も、今と同じ反応が返ってきたわ」

 そうなんだ……なんだか、少し恥ずかしいな……あ、ここって植物園、だよね?

「えぇ、ここは特に、思い出深い場所なのだけど……入ってみる?」

 うん!


「真理乃と私は、一緒に行動していた子達とはぐれてしまった者同士、皆を見つけるまではとりあえず二人で公園内を回ることにした……後で先生達にはそう伝えたのだけれど……実際は二人とも、自分の好きな場所を見て回りたくて、わざとはぐれたのよ」

 あー……なんか、『わざとはぐれた』ってところがアタシっぽいなぁ……多分だけど、他人が思い描く、“像”を演じ続けるのがイヤになったんだろうね。だから、息抜きのつもりでわざとはぐれた。

 そして大好きな花を見たくて植物園に足を運び、藤佳ちゃんとばったり会って、意気投合したってところかな?

「そんなところよ。ふふ……」

 どうしたの?


「ごめんなさい、あの時のことを思い出してつい……小学生の頃、真理乃は基本的にツインテールにしていたのだけれど、植物園の中ではみたいに、ポニーテールにしていたわ。誰かしらに見つかって、幼なじみ達と合流させられるのが嫌で、変装しているつもりだったみたい。私が声を掛けた時も、『アタシは樹津田真理乃じゃありません!』と言い張っていたわ……真理乃の真剣さは伝わってきたから、笑っては駄目だと思ったんだけど……自信に満ち溢れた真理乃の顔があまりにも可愛くて……」

 た、ただただ恥ずかしい話なんだけど……も~何してんだろ、小学生の頃のアタシ……

「ふふ……私は私で、真理乃と仲良くなりたいと思っていたから、逃げられないようにしばらくは話を合わせていたわ。でも、私が、一緒に回っていた子達とわざとはぐれたことを伝えたら、自ら正体を明かしてくれたわ」

 そうだったんだ……それにしても、広い公園とは言え、よく誰にも見つからなかったね。

「そうね……幼なじみと許嫁すら真理乃を見つけられなかったのは……あの二人が真理乃のことを理解していなかったからだと、今なら分かるわ」

 アタシが植物園……花に、興味があるなんて知らない……ううん、“好きな訳がない”と決めつけていたから、花之宮さんと皇くんは植物園にアタシを探しに来ることはなかった……ってこと?

「恐らくね。先生や他の生徒に関しては、すれ違わないように上手く避けることで見つからずに済んだわ」

 そっか……藤佳ちゃんはさ、アタシと一緒にいて、楽しかった?

「もちろん楽しかったわ。だからここに、真理乃を連れてきたのよ」

 そっか……だったらきっと、アタシも楽しかったんだろうな。

「ふふっ……もしそうなら嬉しいわ」


 へへっ……あ……植物園ここって、お土産屋さんもあるんだね。

「えぇ。修学旅行の時、土産屋あそこで各々、栞を買ったの。真理乃はジャスミン、私は自分用に藤と、双子の姉用に桜の絵柄の、綺麗な栞をね」

 ジャスミンのシオリなら今も持ってるよ! なんとなく、大切なモノのような気がして、ずっと取っておいたの。

「それはとても嬉しい話だわ」

 アタシもはっきりと、大切なモノだってことが分かってうれしいな。

 それにしても、藤佳ちゃんって双子のお姉さんがいたんだね。

「えぇ、おうって名前で……真理乃に紹介して、三人で遊んだこともあるわ」

 そうなんだ……

「……いつか、改めて紹介するわね。その時にまた、三人で遊びましょう」

 うん! 楽しみにしてるね。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る