旅の1日目

 ここが、おじいちゃんの別荘だよ。

「運転お疲れ様。……素敵なお屋敷ね」

 ありがとう。

 アタシの運転、酔わなかった?

「大丈夫よ。とても丁寧な運転だったわ」

 よかった〜

 長旅、ご苦労様です。まで遠かったから、初日はほぼ移動で終わっちゃったね。

「えぇ。けれど、とのドライブは楽しかったわ」

 へへへ……そう言ってもらえて、うれしいな。

 途中で寄った道の駅の海鮮丼、おいしかったね。

「そうね、とても美味しかったわ」

 ここのお風呂、すっごく広いみたいだからさ。ゆっくり入って、疲れを癒してね。

「えぇ、ありがとう」


 それじゃあ、中に入ろっか。えっと、カギは……あった。……どうぞ、先に入って。

「お邪魔します」

 おじゃまします。わ~キレイになってる。

 実はね、一度、おじいちゃんと下見に来た時はそこそこホコリっぽかったんだけど……おじいちゃんがお掃除業者さんにお願いして、キレイにしてもらったみたい。

「あら、しばらく誰も来てなかったの?」

 うん。そもそもおじいちゃんくらいしか、この別荘には来ないみたいだし……本当はもっと早くに、こうやって遊びに来たかったけど、両親や祖母から止められていたから……

「理由を……聞いても、いいかしら?」

 うん……この別荘で昔、そこの……玄関正面の階段から親戚の子が落ちて、亡くなったらしくて……それ以来、この別荘でおかしなことが……いわゆる、心霊現象的な出来事が、起こるようになったんだって。

 だから、おじいちゃんの別荘には近づくなって言われてたんだけど……気軽に借りられる宿場所は、くらいしかなかったから内緒で来ちゃった。

「そうだったのね」

 あ……でも! 多分、幽霊なんて出ないと思うから安心してね!

「えぇ、仮に出たとしても、中学生くらいの、可愛い女の子の幽霊なら怖くはないわ」

 へ……どうして階段から落ちた子が、中学生くらいの女の子って分かったの?

「それは……ただの勘よ。それにしても、随分と広いお屋敷ね。有名な映画監督は全員、こんな別荘を所有しているのかしら?」

 え……アタシ、とうちゃんに、おじいちゃんが映画監督ってこと、話してたっけ?

「えぇ……かわきくろうが真理乃のおじい様ってことも、大手化粧品メーカー『Medis-メァーディス-』を、おじい様以外の一族で経営していることも聞いたわ」

 まって……アタシ、いつそんな話したっけ……?


「…………」

 藤佳、ちゃん? 顔色が悪い気がするけど……大丈夫?

「……ここに来てもまだ、何も思い出せないの?」

 へ……どういうこと……?

「本当に思い出せない? 六年前……中学三年生の夏休みに、真理乃と私はこの別荘を訪れたことがあるでしょ」

 え……

「信じられないかもしれないけど……私達はもっと前から親しい間柄だったのよ」

 ……ほんとに?

「本当よ。私達は、同じ小学校と中学校に通っていた。小中高一貫校のあいばな学園で出会って……仲良くなったのは小学六年生の時だけど、それからはよく遊んでいた。だから私は真理乃の家族のことも知っているわ」

 そうなんだ……その、あのね……実はアタシ、中学三年生の時、事故に遭ったみたいで……それ以前の記憶がないの。

「勿論、知っているわ。だからさっき“思い出せないの?”って聞いたのよ」

 あ……そっか……その、ごめんね……何も思い出せなくて……

「真理乃が謝る必要はないわ。貴方は何も悪くない。悪いのは……真理乃のご両親とおばあ様、そして幼なじみと許嫁いいなずけよ」

 え……どうしてここで、その五人が出てくるの?

「その五人が……私達の間を引き裂いたからよ」

 どういうこと? 全然、話が見えてこないんだけど……

「……ひとまず今日はもう、お風呂に入って寝ましょう? 明日、必ず順を追って、説明するから……ね?」

 うん……分かった。

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