布教 五
その日はミノタウロスの村長宅にお世話になって一晩を過ごした。
同日の宿を巡っては、村に居合わせたグリフォンたちからも、世話になった礼とのことでお誘いの声をかけられた。ただ、こちらはやんわりとお断りさせて頂いた。だってミノタウロスの家のベッド、とても寝心地が良いのだもの。
それに何より四足と二足では、生活様式の違いも不安である。藁敷きの寝床とか進められてもオバちゃん困っちゃう。それに引き換えミノタウロスたちの裁縫技術は大したものだ。シーツもさらさらで素敵。今から座布団の納品が楽しみでならない。
そんなこんなで翌日、我々は森の上空を飛行魔法で飛んでいる。
「あ、もう少し向こう側ッス」
「こっちですか?」
「そうそう、そんな感じッス」
傍らにはミノルたちの姿もある。
彼らは道案内だ。
共にこちらの飛行魔法で空を飛んでいる。
高度は百メートルほどだろうか。
「もう少し低いところを飛んだほうがいいッスよ」
「あ、たしかに。妙なのに目を付けられるかもっス」
「なるほど」
会話が妙に従順なのは、飛行魔法で彼らの身体を空に浮かべて以降のことである。きっと、過去の出来事がミノタウロスたちの精神に影響しているのだろう。おかげで道案内も極めて素直である。
ただし、村を出発するに当たっては、絶対に道案内以上のことはしないからと、念を押されてしまった。これでもかと森の精霊さんのこと怖がって思われる。そこまで危険な相手なのだろうか。
「あ、もうそろそろッスね。そこの滝の麓ッス」
「できれば少し手前に降りて欲しいッス」
「分かりました」
二人に言われるがまま、滝の麓から数十メートルの地点に降り立つ。
傍らには幅が五、六メートルほどの川がサラサラと流ている。
なかなか気持ちの良い場所だ。
「貴方たちによる道案内は、ここまでなのですか?」
「そういうことっス」
「さっきの滝の裏に洞窟があるんだよな」
「奥の方に祭壇があるから祈ってみな」
「運が良ければ話とかできるんじゃね?」
「なるほど」
森の精霊という名の割には、意外としっかりとした住処をお持ちである。おかげで尋ねるにも具合がよろしい。祭壇に祈りを捧げたら表れるとか、まるでファンタジーゲームのボス戦みたいではなかろうか。
「それでは早速ですが、行ってまいります」
「ちゃんとここまで戻ってこいよ? 一人で帰るなよ?」
「ここから村まで歩いて帰るのシンドいからさ」
「大丈夫です。ちゃんと帰りも面倒を見ますから」
ミノルたちに分かれを告げて滝に向かう。
川沿いに進めば到着するので、これといって迷うことはない。深い緑の気配に深呼吸などしたりして、完全にハイキングの体である。基本的にお家大好きな人種なのだけれど、たまにはこういうのも悪くないよな、なんて思う。
そうして足を進めること少しばかり。
不意に聞こえてきたのが、何やら炸裂音である。
ズドン、と地鳴りがオバちゃんの耳に届けられた。
「……マジか」
音が聞こえてきたのは、ちょうど滝がある側だ。
鬱蒼と茂る樹木の向こう側で、段々と響きを強くし始めた滝壺の存在感。ザバザバと鳴っている。これをまるっとかき消すような、かなり大きな音であった。近隣の樹木からは、羽を休めていた鳥たちがバサバサと飛び立っていく様子が見られる。
なんか嫌な感じ。
「…………」
しかしながら、ここで引き返すというのは勿体無い。
遠くから様子を確認するくらいなら、きっと大丈夫だろう。もしもヤバそうだったら、そのまま引き返してくればいい。そして、日を改めて再訪問の流れである。滝の位置については覚えているので、今度は一人でも問題ない。
よし、それでいこう。
一度は止まった足を再び歩みだす。
ハイキング気分は消失だ。
幾分か慎重になっての移動である。
すると少しして、木々の合間から目的の滝が見えてきた。勢いよく水を落とす様子は圧巻である。空から眺めて確認したときより、ずっと高く感じられる。きっと下から上に見上げている為だろう。四、五十メートルはありそうだ。
そのまま川辺りに歩むと、滝の裏側に通じる僅かばかりの空間が見受けられる。たぶん、ここを通って裏側に向かえ、ということなのだろう。人っぽい生き物の足によって踏み固められた地面の具合は間違いないように映る。
ただ、一歩を踏み出すことはできなかった。
何故ならば滝壺には、オバちゃん以外に人の姿がある。
「…………」
飛行魔法によって身体を浮かせた何者かが、まるで蛍光灯に集る羽虫のように、ブンブンと飛び回っている。それも一人ではなく複数。よくよく見てみると、もしかして勇者様ご一行ではなかろうか。
イケメン二人と美少女二人の四人パーティーだ。
そんな彼ら彼女らが滝壺の上で、何やら争いの最中にある。
相手もまた彼らと同様に、飛行魔法で身体を浮かして空を飛び回っている。
外観はパッと見た感じ、ほとんど人と変わらない。ただ、背中には羽が生えが生えている。色は半透明の薄緑で、ぼんやりと淡く光り輝いているような気がする。長めの頭髪から察するに、性別は女のように思う。ちなみに色はブロンド。
また、ボディーサイズが我々人と比べてかなり小さい。少し大きめのフランス人形といった感じ。なので彼女と比べると、勇者様ご一行の姿が妙に大きく映る。まるで巨人と小人といった風情ではなかろうか。
そうした外見も手伝い、先方の肩書にはなんとなく想像がつく。
ミノタウロス曰く、森の精霊、とのこと。
仔細は定かでないが、暫定的に彼女を森の精霊として考えよう。
「……っていうか、劣勢じゃん」
勇者様のパーティーに攻められて、森の精霊は苦労しているように見えた。
四人組は空に浮かびながらも、剣で切りかかったり、火の玉を飛ばしたりと、休みなく彼女を攻め立てている。これに対して精霊さんは、矢継ぎ早に届けられる攻撃を危うくも凌ぎつつ、どうにかこうにか反撃しているといった感じ。
その厳しい表情からも、彼女の置かれた状況がなんとなく理解できた。
「…………」
おかげで、ふと思った。
これは自分にとって、またとないチャンスなのではなかろうか。
森の精霊に恩を売る絶好の機会である。
もとより勇者様たちには人里を追い出された身の上だ。ここで彼らの恨みを買ったところで、これといって問題はない。数日前から既にお尋ね者であるから、なんら憂いなく森の精霊に助力できる。
むしろ意趣返しも叶って一石二鳥の予感。
「よし」
そうと決まれば助太刀に向かおう。
ただし、争い舞台に乱入することは避けたい。
ミノタウロスでさえも恐れる森の精霊、その存在を一方的に圧倒している四人組が本日のエネミーである。まさか馬鹿正直に真正面から突撃して、こちらの思ったとおりに事を運べるとは夢にも思わない。
そこでオバちゃんは滝の上まで場所を移した。
ここからであれば、滝壺の上で争う面々を俯瞰して確認できる。
勇者様ご一行がバラバラに動いていても、視界を動かすことなく、それぞれの動きを比較的容易に追いかけることができる。激しく落ちる滝の存在も相まって、身体を隠すには絶好の位置取りだ。
遠慮なく飛行魔法を放つことができるってものさ。
「えいやっと」
ターゲットを勇者様のパーティーに絞って、四人の身体を水中に叩きつけるよう飛行魔法を行使する。もしもこれで効果がなかったら、相手に気づかれる前に、ミノルたちの下まで逃げようと考えていた。
ただ、それはどうやら杞憂であったようだ。
飛行魔法の発動を受けて、滝壺に水しぶきが上がった。
綺麗に四つ揃って立ち上がった。
まるで磁石にでも引かれたように、勇者様ご一行は水面に落ちていった。
「っ……」
その様子を目の当たりとして、森の精霊にも反応があった。
ビクリと驚きから身体を震わせたかと思えば、あっちを見たりこっちを見たり。キョロキョロと落ち着きをなくして、周りの様子を窺い始める。見た目がお人形のような彼女がやると、なんとも可愛らしく映る光景だ。
「…………」
少しばかり精霊殿の姿を楽しんだところで、勇者様ご一行を水揚げ。
水面からずぶ濡れになった四人が姿を現した。
ゲホゲホと咳き込んでいたり、ゼイゼイと息を荒くしていたりと、誰一人の例外なく辛そうだ。水辺が近くに存在しているのであれば、こういった使い方も効果的である。陸上の肺呼吸生物が相手なら、数分で確殺。
もはや他の攻撃魔法とか、出番ないんじゃなかろうか。
「なんだ今の魔法は! 身体の自由が効かなくなったぞ!?」「気をつけて! 恐らくだけれど、飛行魔法を上書きされたわ!」「な、なんだって? そんなことが可能なのかっ!?」「流石は大森林の邪精霊といったところか」
滝の音にも負けず劣らず、声も大きく言葉を交わし始める勇者様ご一行。
そして、彼らの判断はとても早かった。
「このままでは勝てない! 皆、撤退だっ!」
勇者様と思しきイケメンが声高らかに言い放った。
応じて残る三名は瞬く間に高度を上げる。
もう一度くらい池ポチャしてやろうかとも考えたけれど、相手が自分たちの意志で去るというのであれば、わざわざ止めてやることもないだろう。意識を失ってこの場で倒れられたりしたら、後始末とか面倒だし。
そして、森の精霊も似たような判断を下したようだ。
飛び去っていく勇者様ご一行を眺めて、これを素直に見送った。
四人の姿は瞬く間に遠退いて、すぐに見えなくなった。
「よし」
顔を出すならこのタイミングである。
木々の合間から一歩を踏み出すと、飛行魔法で身体を浮かせる。
滝の正面を滝壺に向かって下るように進路を取る。
すると、こちらが中程まで移動したところで相手に反応があった。
「おい、翼人! 今のはオマエの仕業か!?」
「いいえ、それは違います」
こういうのは掴みが大切だ。
出会い頭から全力で神様の存在をプッシュさせて頂こう。
「今のは我らが神の思し召しですよ、森の精霊殿」
「…………」
森の精霊殿が言葉の通じる相手であったのは幸いだ。
当初は問答無用で攻撃を受ける可能性も危惧していた。ミノルたちが露骨に恐れていたから、それ相応の何かがあるかもと考えていた。けれど、少なくともこの場に限っては、お話をしてもらえそうな予感を覚える。
「……オマエ、何者だ?」
改めて先方から尋ねられた。
ここで神様の名前を口に出して、自らその使徒であることを名乗れたのなら、めっちゃ格好いいと思う。我こそは某の使徒にして何とかの、みたいな。しかし残念ながら、未だに自分は信仰するべき神様の名前を知らない。
なので仕方なく、その辺りをボカシながらお話させて頂く作戦。
「森の精霊殿にお話があって参りました」
浮かぶ高さを相手より少しだけ高い位置に陣取る。
飛行魔法一本でご飯を食べている身の上、こういったハッタリはきっと重要だ。もしもこの身が火の玉の一つも飛ばせないと知ったのなら、一変して攻撃を受ける可能性だってありそうだもの。
「…………」
相手から反応はない。胡散臭そうな表情でこちらを見据えている。
勇者様ご一行と同じ人間だから、警戒されているのだろうか。
いや、違うな。
彼女は先ほど、こちらを見て翼人とか言っていた。背中に生えたグリフォンの翼、グッジョブ。それならわざわざ人間アピールして、勇者様ご一行と同じ枠にカテゴライズされることもあるまい。このまま話を進めようかな。
「なにやら苦労されているように見えたので、少しばかり手を出させてもらいました。もしもこちらの勘違いであったのであれば、改めて謝罪をさせて頂きます。人里から彼の者たちを再び連れてまいりましょう」
「いやいやいや、そ、そんなことするな! 問題ない!」
「そうでしたか」
勇者様ご一行との関係についても、できれば聞いておきたい。
そして、その為にも今行うべきはただ一つ。
「ところで少し場所を移しませんか? 貴方と話をしたいのです」
「……分かった」
滝の音がうるさくて、会話がし辛いったらないよ。
◇ ◆ ◇
水辺から離れた我々は、滝の裏に設けられた洞窟に向かった。
奥にはミノルたちの言葉通り、祭壇が設けられていた。
我らが神様のそれが、風化してぼろぼろになった史跡であるのに対して、こちらは随分と小奇麗なものだ。同じ石製でありながらも、表面には艶や光沢が窺える。日頃から手入れがなされているのだろう。
また、隅の方には大きな樽が幾つも積み上げられている。ミノタウロスたちから説明を受けた後だから、その内側に何が詰まっているのかは、なんとなく想像ができる。十中八九でお酒だろう。
小柄な彼女の身体に対して、樽は我々人類が扱うものと大差ないサイズである。それが幾つも並んでいる様子は、同じ酒飲みであっても少し不安を覚える。いったいどれくらいの期間で、これらは消費されるのだろう。
友人の家のキッチンで、ペットボトルに入った四リットル入りのウィスキーを発見したときと、同じような感慨を受ける。あれってソフト飲料が同じサイズのボトルで売られていないことも手伝って、初見のインパクト大きいんだよな。
「とても立派な祭壇ですね」
「オマエ、私とどんな話をしたいんだ?」
ちょっと世間話などして会話の場を暖めてから、なんて考えたのだけれど、こちらの精霊さんはそういうの必要ないっぽい。移動している間も、今現在も、気張った様子でこちらをジッと見つめていらっしゃる。
しかし、いざ尋ねられると、ちょっと困る。
エルフみたいな美形になりたいので、エルフの信仰を集めるのに協力して下さい、なんて素直に伝えて、まさか頷いてくれるような雰囲気とは思えない。ちょっとでも応答にミスったら、即効で攻撃魔法とか撃ってきそうな気配を感じる。
どうしようね。
「森の精霊殿は特定の神に信仰がありますか?」
「……信仰?」
「我らが神は昨今、この地に信仰を求めているのです」
「どうしてだよ?」
「…………」
知らんよ、そんなこと。
むしろこっちがお尋ね申し上げたい。
くそう、神様め。
上司が使えないから、部下が苦労するパターンじゃないか。
以前の職場を思い出すぜ。
「信仰は力です。そして、我らが神は現在、非常に大きな力と相対しております。私は使徒として、これをサポートする為に動いております。なるべく早急に、この森を我らが神への信仰で満たす必要があるのです」
「大きな力ってなんだよ」
「私も我らが神より多くを聞いたわけではありません。しかしながら、少なくとも先程のような者たちを手足として扱う程度には、力のある存在となります。神々の争いか、それに準ずる規模の衝突が、近く迫っているのかも知れません」
「……ふ、ふぅん?」
勝手な想像で補完しつつ語らせてもった。
こちらの世界に神様と敵対する相手が存在しているのは、本人から聞いたので間違いない。それが勇者様ご一行に指示を出していた存在と同義であるか否かは定かでないが、彼らも彼らで神様のことを邪神扱いしていた。なので決して嘘は言っていない。
もしかしたら自分は、とんでもなく嫌われ者の神様に付き合っているのかも知れない。当初の出会いからして、本人にとってはアウェイである地球での遭遇だ。せめてもう一度くらい、彼女とは会話の場を持ちたいものである。
「いかがですか?」
「私に翼人の神を信仰しろって言うのか?」
「いいえ、それは違います」
「え、違うのか?」
翼人じゃないんだよ。
人間なんだよ。
「このような姿をしておりますが、私は歴とした人間です。一方で我らが神は、人間の神ではありません。数百年の歳月によって現代から失われし遥か古代の神なのです。既にその名を知る者も数を減らしていることでしょう」
「…………」
「私は我らが神が生み出した唯一の使徒です。そして、使徒である私の姿は、我らが神を信仰する信徒の存在によって変化します。この翼はグリフォンのものです。グリフォンたちが我らが神を信仰しているから、このような姿をしているのです」
「あの堅物のグリフォンが首を立てに振ったのか?」
「貴方はこの森のエルフたちから信仰される存在と聞きました」
「……どういうことだ?」
「グリフォンの翼も美しい。ですが今の私に必要なのはエルフです。美麗なエルフの姿を手に入れて、その美しい姿を利用することで、より多くの信徒を我らが神の下に集わせる。そのために貴方には、我らが神を信仰して頂きたい」
「…………」
「いかがですか? 森の精霊殿」
可愛い女の子になって、世間からチヤホヤされたい、とか素直に伝えても説得力ないし、これくらいが丁度いいんじゃなかろうか。神様も元よりそういった事情もあって、この肉体を女体化させたのだ。
ロリっ子に変身して、着せ替え人形扱いされて、わたしで遊ぶなー! とか、そういうの最高だと思う。心の底から憧れる。着せ替え人形扱いされて、周りからチヤホヤされるの理想過ぎる。
「この誘い、もしも私が断ったらオマエはどうするんだ?」
「他に見た目が麗しい種族で、他所の神を信仰することに抵抗のなさそうな部族など、改めてご紹介を願えませんか? 見た目さえ優れていれば、エルフという種族にこだわる理由はありません」
その辺は臨機応変に進めて行きたいと思う。
場合によっては、人里の風俗街で風俗嬢向けの宗教とか、そういうのを分派してもいいかも知れない。ようは見た目に優れた人たちを集められれば、信仰する面々の中身はなんだって構わない。
「…………」
「どうかされましたか? 森の精霊殿」
「……いいや、なんでもないけどさ」
「では、急かすようで申し訳ありませんが、結論をお聞かせ下さい」
「…………」
一頻り語って聞かせると、精霊殿は黙ってしまった。
めっちゃ悩んでいる。
腕組みなどして困った顔だ。
可愛らしいお顔でそういうことをされると、羨ましくなる。
自分も彼女のような可愛らしいボディーを手に入れて、困った顔を人前で披露したい。観衆の前で大々的にお披露目して、老若男女からチヤホヤされたい。ヨシダちゃん、かーわーいーいー、とか大きな声で言われてみたい。
「……わかった。オマエをエルフの集落まで案内してやる」
「本当ですか?」
「私が信仰する神として、オマエが信仰する神を伝える。だから代わりにオマエは、私に対して敵対的な意志を取らないことを約束しろ。それとあの妙なニンゲンたちがやって来たら、追い払うのを手伝って欲しい」
「それはつまり森の精霊殿も、我らが神の信徒となって下さると?」
「オマエが私に対して、その力を貸すと約束するのであれば、だけどな」
「ご快諾を感謝いたします。幾らでもご協力しましょう。私の力は我らが神とその信徒の為のもの。これに仇なす者が相手とあらば、まさか協力しない訳にはいきません。我らが神も貴方の行いを祝福しておりますよ」
「…………」
「して、森の精霊殿。エルフの里への案内はいつ頃に……」
「分かってるよ。これからすぐにでも出発するぞ」
「ありがとうございます。我らが神に代わりお礼申し上げます」
「っていうか、オマエ、こっちの事情とか全然聞かないのな」
「お尋ねすべきですか?」
「……別に」
こちとら話を聞いてもらうのは大好きだけれど、話を聞くのは大嫌いなんだ。そういうのはもっと他人をチヤホヤするのが好きな人に頼んで欲しい。それに彼女の話を聞いたところで、きっと碌なことは起こらない気がする。
それよりも急ぐべきは、見た目麗しいエルフたちからの信仰だ。
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