鴉の死骸　あるいは大都市の幽霊

煙る、暗い、大戦の後の鬱屈した雰囲気が纏わりつくような情景。
あなたも、カラスのガラスの目玉を通して覗いてはみませんか？

恐怖と救い、救いと解放への恐怖。
苛まれる日々の中での自罰の物語。

　第一次世界大戦後のドイツ、心の傷が癒えないままの男性が、街をうろつくお話。

　このエーゴンという男性、彼が本作の主人公といっていいと思うのですけれど、なんと彼の連れ歩くカラスの剥製の視点で進む物語。
　しかもラーベナースという名のこのカラス、剥製のくせに動いたり話したりします。

　なるほどタグの「幻想文学」に偽りなし。どこまでが現実でどこからが幻か、判然としないまま進む感覚が非常に独特でした。
　いわゆるファンタジーともまた違った読み心地。

　印象的なのはやはり全体の雰囲気、昔の海外文学のような空気感がたまりません。
　特に文章、なんだか古い翻訳もののような味わいがあって、妙にくせに…続きを読む