祥那と紫苑、ハッピーエンドバージョン。
お互いに厄除けの為に女の子の服を着ていた所から、出会いが始まる。
紫苑は祥那を可愛い女の子だと勘違いし、祥那は自分と同じで異性装をさせられているんだなと思った。
そうして月日が経ち、進路指導の時期になった。
祥那は従者、紫苑も従者になった。
そのまま、何事も無いまま月日が経ち、召喚者が現われた。
李 武光。
エミール・ペンドルトン。
そしてマサコ=リタ・小野坂。
祥那は武光へ、紫苑はエミールへ。
第2地球を退け、エミールだけが残る事に。
そのサポートとして紫苑が従者を継続、祥那は交代要員に。
すれ違う中で、男同士でも子を成せる魔道具をと、紫苑がエミールへと願った。
エミールが願いを聞き届け、魔道具を受け取った紫苑は祥那の元へ。
ドリアードが怒ってエミールを連れて行き、華山香の告白の手前で邪魔をした。
『シオンさんが魔道具を手に入れたって事を不正に知って、それでシオンさんが来る前に告白しようとするなんて、卑怯だとは思いませんか?正々堂々と勝負するのが怖いんですか?』
《じゃの、エグ過ぎじゃよね》
《そんな、先んじようなんて、そんな
「あの、魔道具とは?」
『僕がシオンさんのお願いを聞いて、神様に作って貰っ……』
紫苑が女性化した状態でヴァルハラの泉から出て来た。
ブカブカの制服のまま、ニコニコしている。
「祥那、雌化した!凄くね、巨乳ぞ」
「紫苑?」
「え?そんなに顔が違う?」
「いえ、あの、エミール君、コレは」
『性別を変えたんですよねシオンさん、凄く可愛いですよ』
「お、ありがとう。でも父親似なのが、まぁ、コレで子供作れるし。あれ?嬉しく無い感じ?」
「いや、え?本気だったんですか?」
「えー、何それ、ショックなんだけど」
「あの、だって僕は地味顔だし、モテませんし」
「寝顔が可愛い」
「そん、昔の事ですよね?」
「ほら、寝顔のアルバム」
「なん、だから毎回家で飲もうって」
「他は何もして無いよ、偉くね?」
《じゃの、良い子良い子じゃ》
《あの!》
「おう!どしたハナちゃん」
《それって!魔道具の私的利用なんじゃ》
『どうしてシオンさんが魔道具を使用してるって断言出来るんですか?魔法かも知れませんよね?』
《それはだって、さっきは魔道具がって》
『このシオンさんの状態と、魔道具と繋がりが有るとして、どうしてそれが分かるんですか?』
《さっき魔道具を使ったって》
『誰が言ったんですか?』
《エミール様か、桜木さんが言ったんです!》
「ワシ、雌化したとは言ったが」
『僕も、最初はシオンさんが魔道具を手に入れた、としか言ってませんよ』
《でも!私はそう言う風に言ってる様に聞こえたんです!》
「って言うかハナちゃんはココで何してんの?」
《桜木さんが魔道具を》
「を?」
《もう良いです》
「えー」
「華山さん、お話が有ると仰ってた件は」
《良いんです、忘れて下さい》
《逃がさんでよ、妖精を使って不正に情報を得たじゃろう。人間の約束事だけでは無い、神々や精霊の約束事も同時に破ったんじゃ、誤魔化せると思うで無いよ》
《私はただ、何か不正が有れば報告をって》
『僕が魔道具をお渡ししたのに、何処に不正が有るって言うんですか?』
《だからそれを、不正に利用したかもって報告を》
『誰に報告するんですか?』
《柏木さんに。その前に津井儺さんに相談をと思って》
「華山さん、規定では誰かを挟まずに即座に上司へ報告となってる筈ですが」
《だから不確かかもと思って》
「でしたら、エミール君に聞くべきでは?」
《はい、すいませんでした》
『何を、ですか?』
《桜木さんを疑ってすみませんでした》
『では、シオンさんが魔道具を受け取った事を妖精から聞いて、シオンさんが来る前に告白しようとしたとドリアードが報告してきた事の方が間違ってるって事ですか?』
《別にそうは言って》
『言ってませんけど、僕が聞いてるんです。答えて下さい』
《そう誤解されたなら》
『イエスかノーで答えて下さい』
「あの、お答え出来ない理由でも有るんでしょうか」
「ハナちゃん祥那の事好きじゃ無いの?」
《だんまりじゃな》
《だって、魔道具がって》
『仮にですけど、性別が変えられる魔道具をシオンさんが使用していても、その検体に僕がなって貰ってる場合はどうするんですか?』
エミールが完全に逃げ道を塞ぐと、華山香が泣き出した。
「すみません、エミール君、この件は従者庁に持ち帰らせて頂きたいんですが」
『なら僕も行きます、こう自分の都合しか考えないで泣く人って何するか分かりませんし。従者も守るのも僕の役目だと思うので』
「ごめんねエミール、ありがとう」
そうして省庁へと向かい、華山香は内調の取調室へ。
紫苑は隣の研究所へ。
「お前、何それ、超羨ましいんですけど」
「さーせん、お願いしちゃった☆」
「エミール君」
『リズさんには申し訳無いんですけど、女性なら作れるじゃないですか。でも、男同士は子供を作れないんだって知って、それで神様に僕がお願いしたんです、不公平だからお願いしますって』
「追々はリズちゃんみたいな子にもって、思ってる、マジ」
『ですね、追々で、何か弊害が起きるかもなので』
「くそぉ」
「俺が痛みを軽減させられるんだし、信じてよぉ」
「信じてるけどさ」
「手を握っててあ・げ・る☆」
「ウッザ」
「えー」
「いや、もしかして俺の為も有るかもだよな、ありがとう」
「そこも追々で」
「あの、検査は?」
「あぁ、魔道具の検査をするか体を検査するかで揉めてる」
『あの、継続して付けてないと、直ぐに妊娠はしないそうなので。その、先ずはお話し合いを』
「そうしたいけど、何か歓迎されて無いっぽいし、他の、あの女から告白されそうになってたし」
「それって本当なんですか?」
「どれの事だよぉ」
「あ、すみません、告白されそうだったって」
《じゃよ》
『昔から本当にお前は、機微に疎いにも程が有るぞ』
「アレだろ、人事の」
「あー、すみませんでした」
「それで、もう1つのは?」
「その、鈍感ですみませんでした、友情なのかなって、思ってて」
「津井儺君、それは本当に鈍感過ぎだろう」
『あの、気付きたく無かったとかでは?』
「今思うと、多分、そうなのかなと。あの、そもそも混乱してて」
「俺がマジだったって伝わって無かったのが、何か、ショック」
「あー、女子泣かすとか最低だわー」
『あぁ、その、パトリック』
「ショナさん、恋愛と友情と、どっちが長持ちすると思ってますか?」
「僕はと言うか、紫苑は家族と色々と有ったので。ずっと一緒に、幼馴染として一緒に居る気で居ました。紫苑は恋とか愛を嫌悪してるみたいな時が有ったので、その方が紫苑とは長く居られるかもと、思ってて」
「シオンさん、ショナさんは長く一緒に居たいそうですよ?」
「良い様に切り取って受け取ればぢゃん」
「お、拗ねてんのぉ紫苑ちゃん」
「おう」
「でも、ずっと一緒に居ようとは本当に思ってたんですよ、本当」
「俺に同情して、でしょ」
「最初は同情しましたけど、誰よりも楽ですし。僕としては幼馴染よりも兄弟と言うか、家族だと思ってて、ずっと一緒に居るものだと思ってて」
「でも、俺の好きと違うじゃん」
「だって、紫苑は途中で小雪さんを」
「可愛いなと思ったけど、彬兄ちゃんが好きって聞いて秒で諦められる程度だったし。って言うかそれマジでガキの頃じゃん、もう小雪ちゃんに好きとか言って無いのに」
「可愛いねっていつも褒めてるじゃないですか」
「挨拶と一緒じゃんか、誰がブスって言われて喜ぶんだよ」
「そうですけど、僕とだと子供が」
「だから絶妙なラインにしてたの、付き合うってなったら祥那は結婚じゃんか、そしたら子供が欲しくなった時に別れたいって言えないかもじゃん。だったら、ギリギリまで、お互いに何も無いままの方が良いかなって、思ってたのに。こんなに伝わって無いのがもう、マジ」
「幼馴染とか家族として好きなのかなと」
「あのな津井儺君、他の人間にコイツが好きって言ってたのを聞いた事が有るのか?」
「神様とかに」
「それも挨拶じゃんかよーもー」
《じゃの。しかも逆に超軽い愛してるしか言って貰ってはおらんよ、好きとは言われておらん》
「ショナさん、自分の事を好きなのかも知れないと気付いた場合のデメリットを上げてみて貰えませんか?」
「恋愛に疎いと言うか、ドキドキした事も無いので想像出来無いんです。恋愛とか、恋とか、しかも紫苑の家の事を知っているので、余計に恋愛には良いイメージが無くて。紫苑とはそう、僕がこうなので迷惑を色々とかけると思います、モテませんし、地味顔ですし」
「シオンさん、デメリットがスルスル出ると思いませんか?」
「ショックなまでにスルスル」
「思ってもいない事は出ない方、それってつまり無意識に考えてくれてたとも思えませんか?実はお互いに似た事で悩んで遠慮していたり、無意識に感じ取っていて合わせていたかも知れませんよ?」
「でもそれ、好きかどうかとは別じゃん、リスクヘッジの問題じゃん」
「紫苑は召喚者様や神様に好かれてますけど、僕は、自信が無いんです。誰かに選ばれる自信も、そもそも好きになって貰える自信も無いんです。選ばれるのは、いつも紫苑ばっかりじゃないですか」
「愛想につられて来るだけの奴じゃん。つか愛想良くして周りと仲良くしないと、コレだから男同士はってハブかれるかもじゃん、仲良くしてるのの中に祥那を選んでくれるのが居るかもじゃん。嫌だけど、そうするしか無かったじゃんか」
「なー、良いかー?」
「おう」
「絶妙にズレてるけど、似た様な感じだと俺は思うぞ。ただな、ちょっとお前は拗ねるのを止めろ。そんで津井儺君は取り敢えず好きって言っとけ、家族としてでも良いから、ほれ」
「好き、です」
真っ赤な祥那。
拗ねていたけど、その顔を見て少し嬉しそうな紫苑。
安心するエミールとパトリック。
ドヤ顔のリズ。
紫苑は赤くなった祥那を認識した事で、態度を軟化させた。
少なくとも嫌悪感は無さそうだと。
「もっと言って」
「無理です」
「はぁ、よし、魔道具の検査が先だな」
そうして紫苑は男に戻り、前とは違う態度で祥那に接した。
もう、ベタベタ。
「女の俺はどうだった?期待して良い?」
「えーっと、まだそうは見てないので」
「脱げば良かったかな」
「イチャイチャすな、殴るぞ、ただでさえ男性体が羨ましいのに。俺を発狂させるな」
「ごめんごめん、祥那は、人前は嫌かぁ」
「まぁ、はい」
「嘘でもそう言っといてくれ、コレが遠慮しなくなる」
『コレで、シオンさんがショナさんを好きだって、認識出来ました?』
「はい。今までは、遠慮してくれてたんだなと、思います」
「そりゃね、俺も人間だから、付き合って別れるとか嫌だもん」
「つか別れる位なら付き合うなってキレるもんな、お前」
「だってそうじゃん、無駄じゃん。俺、一応ソレの被害者だし、想定とか話し合いが甘いって、ムカつくじゃん」
「完璧主義っつうかさ、漏れは有るだろうよ」
「祥那はそんな事は無い」
「信頼っつうか理想の押し付けじゃねぇの」
「うぅ、リズちゃんがいぢめる」
「僕、想定、甘いですよ。甘いから、好きだって意味の真意を捉え損ねてたんですし」
「そこは俺がそうした面も有るし、最悪は友達に戻れる程度で収めようかなと思ってたんだけど。他のに取られるのは、やっぱ無理、凄く嫌だった」
「そう、そうやって独占欲を出されると」
「イチャイチャすな」
『ふふふ、リズさんも大丈夫ですって、きっと、ふふふ』
魔道具も検査が終わり、次は体の検査へ。
そうして今度は祥那が被検体になり、検査へ。
「可愛いなおい」
「ダメ、リズちゃんでもマジでダメ」
「冗談だバカ、顔が怖いわ」
「なんかさ、ヘラヘラしてないと怖いんだってね、何でだろ」
「ハッキリした顔だからじゃね、ショナ君はキツい顔に見えないだろ」
「良いでしょ」
「次に惚気たらぶん殴る」
「あの、終わりました」
「可愛いねぇ」
「せいっ」
リズの正拳突きを喰らいつつ省庁へ、そして中つ国や他の国の協力も得て、占星術や人相学も駆使し、どちらが出産に適応するかの精査が始まった。
そして、どちらも問題無しとなり、どちらが生むかの話し合いも含め、先ずは祥那家へ。
紫苑が祖母も連れて向かった。
「俺を貰って下さい」
《私達は良いわよ、最新の事柄を間近で見れるんだし。コチラこそ宜しくお願いしたいんだけれど、祥那がどうかよね》
「えっと、そう見た事が無くて」
「すまんな紫苑、ウブに育て過ぎたかも知れん」
「そう避けさせても居なかったんだけれどね、すまないね」
「そう見れる?」
家族は真っ赤な祥那を見て、大丈夫そうだと思いました。
でも、紫苑は拗ねます。
「あんなにアピールしてたのに」
《まぁまぁ、こうなると反応も思考も鈍くなるんだもの、無意識に思考するのを避けてたんでしょうね》
「それでもだ、自己防衛が過ぎるぞ、紫苑に失礼じゃないのか?ずっと、そこも抑制して、我慢しててくれたんだぞ?」
「好きだから、よね」
「好意の反応は時期にもよるからね、こうなるのを未然に防いでたんだろうけれど。もう良いだろう、妊娠も出来る様になったんだから、しっかりと考えなさい」
「はぃ」
そうして今度は祥那家がお散歩にと、紫苑家へ。
いつもこうしてお祖母さんが来た時は最後まで送り届け、行き来する事が習慣になっていた。
だからこそ津井儺家も、祥那が家族として接していた事に目を瞑っていたが。
《紫苑ちゃんには洗脳はしないでくれって言われたけれど、それに近い事はします。先ずは恋とは何たるかをキッチリ話し合いますよ》
こうして毎回帰り道は反省会となる。
もう子供の頃からの習慣で、コレが無い方が逆に祥那は怖かった。
それはつまり、家では完膚なきまでに問い詰められるからだ。
大昔、祥那が家族が居なくてそんなに不安なのかと、紫苑に聞いている所を母親に聞かれ、帰り道は黙って帰った事が有った。
そうして家に着くと、先ずは優しく聞かれた、家族が居なかったらどうなっていたかを想像した事は有るのかと。
そうして立て続けに、有るなら理由を、無くても無い理由を、それと弊害とデメリットを思い付く限り書き出せと。
このままでは宿題もさせて貰えないと悟った祥那は、思い付く限りを書いて出した。
そこで終わる場合も有るし、解説を要される場合も有った。
今回は、解説をさせられた。
思い付きから考える事へ移行し、考えの甘さは補足される。
長い時は一旦終わったと見せかけ、次の日に学校から帰って来ると母親か父親が仕事を早退して待ち構えていたりもする。
そしてこの時は近くの喫茶店へ行き、大好きなナポリタンとアイスココアを食べさせて貰えた。
そうして、もし紫苑なら誰と一緒に来ると思うか、と。
「今は、お祖母さん」
《祥那の様に、お母さんと来る事は無理よね。来たくても出来無い、お父さんとも、お兄ちゃんともお姉さんとも。皆が出来る当たり前の事が出来無い、相手が死んだワケでも無いのに、紫苑が悪いワケでも無いのに、普通が出来無い》
普通で当たり前の思い出はもう作れない。
そこで初めて申し訳無く思った。
自分の当たり前と紫苑の当たり前は違う、普通が違う。
書き出したメモを取り出すと、そこが抜けたものばかりだった。
何が分からないかの探り合い、そしてどうすれば分かるか、頭だけでは無く、どうすれば実感出来るか。
家族として当たり前のこの行為も、紫苑は相手がお祖母さんだけ、自分には父親も兄も居る。
けれど、紫苑には祖母だけ。
「謝りたい」
《じゃあ、ちゃんと伝わる様に練習しましょうね》
先ずは母親へ、父親へ、兄へ。
練習相手が4人も居る、紫苑は1人。
問題を解く公式だったら、紫苑は1つしか知れない、でも祥那は4つ。
最悪は3つも抜けが有る事になるし、相手に当て嵌まらない公式だったら紫苑には問題が解けない。
何故、どうしてかを考える。
考える事が出来るのだから、ひいては繰り返し練習すれば無意識に処理する事が出来る、勉強と同じ。
考える処理すら無く、直ぐに答えに辿り着ける。
それでも間違えたら因数分解と同じ、様々な公式を使って逆に辿れば、間違えた場所が見付けられる可能性は増える。
公式を知らなければ。
「聞く」
《はい、良く出来ました。ご褒美は何にしましょうか》
「紫苑にケーキを、買って行ったら、悲しむかな。紫苑が出来無い事で、僕が得た事だから」
《祥那しか得られない事で紫苑は怒ったり、悲しんだ事が有った?》
「有った、お母さんの抱っこが羨ましいって言ってた」
《ふふ、小さい頃ね。今は?》
「僕が一緒なら何でも良いって」
《じゃあ、紫苑と祥那で食べれば良いのよ、一緒に》
「お祖母さんのも欲しい」
《そうね、お母さんも食べたいから、何個買いましょうか》
「4つ、それ位はもう分かるってば」
《お兄ちゃんとお父さんが拗ねる計算が入って無いじゃない》
「あ、それは帰りに買うし」
《はいはい、じゃあ帰りに覚えて無かったら減点ね、今度の唐揚げ2つマイナス》
「分かったってばもー」
紫苑は喜んでケーキを受け取ってくれた。
そうして一緒に食べて、一緒に勉強をして、そうして祥那は家に帰った。
《そうやって思い遣りを育てたつもりなのだけれど、まだまだだったみたいね》
「まぁ、またコレは特殊事例なんだ。祥那、好きについて思い付く限り書いて来てご覧よ」
「私もやるから、やって」
「分かった、ズルっこは無しだからな祥那」
「はい」
祥那の筆が、止まった。
フリーズ。
祥那はココが潔癖で、性的な事に繋がるとフリーズしてしまう。
《あら、全然じゃない》
「あの、汚い事じゃ無いのは分かってるんですけど」
《まぁ、凄く綺麗だと思われてても困るし、衛生観念的には綺麗とは言えないし、秘匿する事でも有るし。汚いなら汚いで良いのよ、先ずは好きと汚いの間を埋めてみなさい》
考えている場合は手を出さないが、フリーズには直ぐに手を差し伸べるのがココのルール。
止まっては兄が来て、止まっては父が助け舟を出す。
そうして書き上がったのは。
「好き、汚い、紫苑は綺麗。か、汚す対象では無い、で良いかな?祥那」
「はい、全然、言語化出来無いです」
「好きにも、色々と種類が有る」
「はい」
「取り敢えず書き出してごらん」
時には言語化が難しい場合も有る、子供の時ならば特に。
そんな時は父親が言語化の手助けをした。
「辞書を、良いですか?」
「先ずは辞書だけ」
「はい」
父親から単語だけを伝えられ、その解説を読む。
それでもダメなら次は検索、何かについてムズムズしたら、ムズムズから類似する何かを見付ける。
今回は好きについて。
ラブ、ライク、好み、性的嗜好。
また、フリーズ。
「祥那、嫌悪ならもう少し紫苑君から時間を」
「違うんです、そう、慣れて無いだけなので」
「父さん的には紫苑君に手伝って貰うべきだと思う、それと小雪さんだね」
「え」
「恥を忍んで、と言う言葉が有るだろう。それに、今回には失敗とか成功は無いんだよ」
「期待には応えたいんですが」
「多分、紫苑君はそれを半分程しか望んで無いと思う」
「だとして、どうして小雪さんを」
「失敗や成功は無いけれど、間違いは起こる。君達を良く知っているから、立会い補佐人だよ」
そうして日を改め、小雪と紫苑と祥那で話し合う事に。
《先ずは、紫苑の好きの説明よね》
「えー」
《えーじゃないの、好きにも種類が有るでしょ》
「無い、俺は祥那にしか言って無い」
《イクラは》
「大好き」
《怒るよ》
「もー……小雪ちゃんは可愛い女の子として好き、好きだけどキスとかエッチは無理、家族みたいな感覚だから。でも祥那は家族みたいだけどキスとかエッチしたい、祥那との赤ちゃんが欲しい」
《コレ、前にも紫苑は祥那に話してたわよ。内容は遠回しだったし、言い方は違うけど、言ってたわよ》
「うん、だからショック」
「その、全然キス出来ちゃうとか、余裕で出来るとか、冗談みたいに言ってたのって」
「うん、マジなんだけど。やっぱ、言い過ぎてたのかな」
《て言うか祥那が鈍感過ぎなのよ、他の子には言って無いんだから》
「それはこう、僕らより親しい感じでは無いから」
《だとしてもよ》
「祥那以外には曖昧にしたり、返事は避けてたつもりなんだけど、俺何かやっちゃった?」
「いえ、でも僕にも曖昧な事を」
「祥那が子供に興味無くても、後から興味が湧くかもだし、そこは曖昧にした」
《そこもよ、紫苑が魔法を頑張ってたのも、性転換とか妊娠の為だったのよ?》
「てっきり、冗談かと」
《もう、何でよ》
「モテないし、地味顔なので」
《だから好かれないって事とイコールにならないんですけど》
「紫苑はモテますし、チャラいし、巫山戯てるんだろうなって」
《だーかーら、イコールになってない》
「僕が、選ばれると思えなかったので」
「選んでんのにー」
《まだ拗ねないの。祥那は紫苑が選ぶ側の王子様に見えてるって事?》
「はい」
《で、祥那は》
「何処かの誰かに、選ばれる可能性が、紫苑よりは低い、平民」
《で、紫苑、紫苑にとっては?》
「たった1人の好きな人」
《あぁ、認識のギャップがエグ過ぎて受け入れられないのね。でも、事実はコレ、ずっと前からコレなの。無理なら断りなさい、紫苑の為に》
「そも断られたく無いんだけど」
《でもよ、ダメだってなったらどうするの?》
「嫌だけど、多分、離れる、嫌だけど」
《こうやってダメかどうか分かったら離れる事になるんだから、曖昧にしてたの、分かる?》
「はぃ」
《でも、離れたく無いってだけで一緒に居るのは、紫苑は望んで無いの》
「嫌だけどね、うん」
《で、どうすんの》
「もう少し、考えたいです」
《どう》
「僕の好きが、分かる様に」
《紫苑はね、ヤれるかヤれないかって》
「あぁ、小雪ちゃんてば」
《邪魔しない、祥那がヤれないなら諦めるって言ってたの。だって、しないでも分かるから、そこで諦めるって言ってたの。付いてるんだから意味は分かるわよね?》
「はぃ」
《で、手っ取り早くて確かになって思って見守ってたんだけど、限界。ヤれるかヤれないかで良いじゃない、紫苑だってそう言ってたでしょ?》
「けどさぁ、打ちのめされるのは怖い、今だけ夢見てたい気もする。何にも出来無い状況のまま、俺を好きかもって、まだ少し夢見てたい」
《だから告白しないで取られそうになってんじゃないのよ、もー。言ったじゃない、1回は真剣に言った方が良いって》
「だってぇ、あんなに好き好き言ってるんだから、傍に居させてくれるって事は良いのかなって思ったし、赤ちゃん欲しいから別れるって後で言われたら、壊れる自信有るし」
《それよ、そんなに赤ちゃん欲しいの祥那は》
「ぼんやりとですけど、そろそろ落ち着けとか、考えなさいって言われてて。あぁ、僕も誰かと作るべきなのかなとは、思いましたけど」
《ソレ、誰かとじゃないんだってば、紫苑なの。紫苑と向き合ったらって事》
「え」
「ふえぇ」
《泣かないの、私が怒ってあげるから、紫苑も怒るの》
「あの、本当にいつからなんですか?小雪さんの事を」
《ちょっとは紫苑の情報更新しなさいよ、ソレいつの話よ》
「小2」
《祥那、今幾つよ》
「22です」
《10年以上更新してないとか、人は変わるんだよ?どんどん好きになったり、諦めたり。まぁ、紫苑の気持ちが揺らがなかったから、気付かなかったり分からないって気持ちも分かるけど。仮に祥那が誰かと結婚して、紫苑とはどうするつもりだったの?》
「幼馴染として、死ぬまで付き合いが有るんだろうって」
《その想像、紫苑は誰かと結婚してる?》
「はい、一応」
《それで幼馴染の付き合いって、どんなのよ》
「そこまでは、想像して無くて」
《多い事例は子供を持って疎遠になるわよね。それってずっと一緒って事になるの?》
「偶に、休みが合えば」
《よし、紫苑、祥那への接触禁止。祥那からだけ、仕事に戻りなさい、2人とも》
「えー、やだぁ」
《ダメ、自覚させないと始まらない》
「良いよもう、始まらなくても」
《そうウジウジすると怒るよ、ウチまで出禁にするわよ》
「うぅ、分かった」
《祥那、返事は》
「はい、分かりました」
先ずは恋人が居る状態での寂しさをと、小雪や賢人が祥那に寂しさを感じさせない様にフォローをし、紫苑には祥那家と小雪家からフォローが。
最初はいつも通りかもと思ったが、紫苑からの接触が無いと、幾ら賢人や小雪のフォローが有っても凄く寂しい気持ちになった。
そして成人してからは特に、自分からは紫苑へ何も連絡をして無い事にも気付いた。
こう関心が無かった事に傷付いてたかも知れない、あの紫苑なら関心が無いと気付いていたかも、だからこそ好意が有るかどうかを紫苑は気付こうとしなかったのかも知れない。
そうして2ヶ月が経った頃。
《あ、祥那、久し振り》
「あの、紫苑は」
《用事出来ちゃったって、来れないよ》
「こう、結婚して、子供が出来たら、本当に会えなくなるんですよね。上司にも聞きました、個人差は有るけど、家族同士で付き合いが無い限りは、難しいって」
《ふーん、それで?》
「寂しいです」
《幼馴染としてね、でも好きな人と結婚したら、それも忘れちゃうかもね》
「その仮定が出来なかったんです、紫苑は人当たりが良いから誰とでも上手くいくと思いますけど。僕はこうなので、誰とも結婚出来ない、しても長くは続かないんじゃないかと」
《それ、誰で仮定した?》
「僕に告白しようとした人や、紫苑に告白した人や、紫苑や僕を好きだって言ってた人です」
《あ、因みにその紫苑を好きだって人の中に祥那狙いが居たの知ってる?》
「え」
《だよねぇ、そんな高等技術使っても拗れるだけなのにね。気を引きたいからって、ワザと近くの人に粉を掛けるんだって。2人には意味無いのにね。紫苑は直ぐにワザとだって気付くし、祥那はそうなんですかって流しちゃうし》
「あ、あの人そうだったんですか?」
《まぁ、どれかは私からは言わないけど。それで、誰とも結婚を想像出来なかったのね》
「はい」
《紫苑が結婚相手ならどう?》
「それも、だって」
《そこで照れるぅ?上手くいくかの話よ?》
「上手くいくって言うのは、そう言う事もするって事で」
《あはっ、紫苑に送ってあげよ》
「やめてくれませんかね」
《問題はどう恥ずかしいか、なんだけど。それは紫苑の方が良いわよね、話し合うのに》
「あの、傷付けるかもなので、もう少し考えさせて下さい」
《じゃあ、紫苑が誰かと結婚して、祥那は独身。紫苑はどうすると思う?》
「それでも構ってくれると思ってたんですけど、好きだから構ってくれてたって事は、相手にされなくなる可能性も有るんですよね」
《祥那と全く繋がりが無い人で、今も紫苑が繋がりを持ってる人って思い付く?》
「いえ、それだとじゃあ、全く、ですか」
《そうね、仕事場も私も、もしかしたら祥那と繋がりが有るからかもね?》
「そんなに」
《そんなによ、周りにしてみたら。でも祥那は台風の目の中だものね、分からないのも分かるけど。でもねぇ、嫌なら仕方無いけどさ、今までの紫苑の辛さは分かってあげても良いと思うの。どれだけ我慢して、どれだけ耐えて、どれだけ苦しかったか》
「そこを分かりたいんですけど、どうしたら良いのか」
《良いゲームがあるの、夏休みなんでしょう?どう?》
そうして今度は恋愛ゲームをする事になった。
全キャラをクリアしろと言われ、最後の最後だけがどうしても攻略出来ない。
祥那はどうして上手くいかないのかと思った。
そうして何週目かの終盤でやっと分かった。
相手はとても用心深くて、人を信用出来ないから上手くいかない。
不幸な生い立ち故に警戒心が強い、変身した召喚者様だったから。
普通の恋愛がしたいからと、帰還したと偽装し、普通に過ごしていた召喚者様。
なら、もし紫苑が女で召喚者様だったら。
それから祥那は色々と考えた。
賢人にも誰にも構われる事も無く、独りでずっと考えた。
自分が女だったら、紫苑が女だったら、両方が女だったら。
2人が女なら、きっと紫苑はもっとグイグイ来て結婚して、子供ももう居たかも知れない。
なら紫苑が女なら、きっと同じ様に。
じゃあ、自分が女だったら、それも同じ。
紫苑から来てくれたなら、きっとどんな性別でも結婚していた。
もう既に、一緒に暮らす事だけなら想像は出来ている。
なら、逆は?
自分が召喚者様の女紫苑を好きで、紫苑が自分をそう好きでも無かったら。
自信が無いから、きっと誰かに取られていた。
それでも好きだからと、傍に居る事を選んだと思う。
なら、男の紫苑が召喚者様で、僕も男だったら。
紫苑も寂しかった。
祥那が世界の中心だったので、賢人を誂っても、小雪や小春に構って貰えてもそんなに楽しくは無かった。
「はぁ、寂しい」
『僕と居てもですか?』
「うん、ごめんね」
『そんなに好きになるって、怖くなかったですか?』
「フラれる方が怖い、嫌われる方が怖い、だって俺の家族になる人だって思ってたんだもの。ずっと、そう思ってた」
『魔法の事が分かるまで、ベタベタだったんですよね?』
「でも、伝わって無かった」
『実は伝わってるかもですよ、伝わってた上で、お互いの距離を守る為に無視してたかもですし』
「もうさ、喜んで受け入れてくれなかった時点で、もう、失恋してると同義なんだよね」
エミールもそうだなと思った。
正直、照れ隠しで素っ気無いだけなのかと思っていたけれど、あの驚き方は普通に好意に気付いて無かった態度だった。
『でも、即断られなかったじゃないですか?』
そしていじける紫苑にエミールは、色欲の店の偵察命令を出した。
そんな気分じゃないけれど、コレは仕事だし。
傷心のままの紫苑はお店へ向かいました。
そこで祥那に良く似た可愛い女の子が、際どい格好のままに困っていました。
いつか祥那に話す為のネタとして、助ける事にしました。
「あの、もし良かったら」
「好きな人が居るから無理、その人に似てるから助けただけだから、じゃあね」
女の子は、心細いから暫く傍に居てくれと裾を掴みました。
困った紫苑は色欲の居るカウンターまで連れて行きますが、どうにも裾を離してくれません。
「もう少しだけ」
「無理」
上着の裾を掴まれていただけなので、そのままスルリと上着を脱いでトイレへ向かいました。
紫苑は今度の視察にはエミールに上着を着せようと思いました。
祥那は心細かったのは勿論ですが、気付いて貰えなかった事と、実は紫苑は凄く冷たいのだと知って悲しくなり泣いたのです。
自分が他人になったならあんなにも冷たくされるのだと、これだけ態度に出ていたのに気付けなくて、申し訳なくて泣きました。
《あらあら、もう諦めちゃうの?》
『民間の方からの要望で付けた追加機能、試してみて下さい』
「そうよ、悪いと思うなら余計に頑張るべきよ」
祥那は今度は中性体に変身し、従業員の服に着替え紫苑に服を返す為に近付きました。
「お預かりしているんですが」
「あぁ、どうもありがとうございました」
そうして直ぐに立ち去られ、追い掛ける事も出来ませんでした。
自分はこんな態度を取っていたのかと、申し訳なくて寂しくて悲しくて、ただ立ち尽くすしかありませんでした。
『それだけお前が好きなんだろうな、似てるのでも良いとか、そんなレベルじゃ無いんだろ』
「羨ましい事だと思うが、君がどう思うか、だな」
問題は自分がどう思うか。
そう思っていると、見慣れぬ美しい人間が紫苑に近付き、絡み付きだしました。
自分より遥かに容姿の良い人間だから、譲るしか無い。
なのにどうしても許せなくなってしまいました。
「紫苑、僕の事を好きだって言ってたのに」
「凄いなぁ、大罪さんの力」
『俺は悲嘆、嫉妬、聞いた事は有るか?』
少し戻って紫苑の視点。
紫苑は再び祥那に似た人間がコチラへ向かって来たので、フロアを良く見回すと大罪の悲嘆を見付けました。
そうして何かが進行中なのだと思い、祥那かも知れない従業員へは適当に接し、悲嘆の元へ向かったのでした。
「あの、何をしてらっしゃるんでしょう、悲嘆さん」
『エミールに頼まれた』
「ほう、何か、俺を試すとかしてます?憤怒さんとかも居るけど」
『勘が良いと言うか、目が良いと言うか、まぁそんな感じだ』
「紫苑、僕の事を好きだって言ってたのに」
「いや、これは」
二重に嵌められたのだと思った祥那は、ポロポロと泣き出しました。
自分への仕返しの為だけに嵌められたのだと。
『誤解をしているのかも知れんが、俺らには悪意も他意も無いぞ』
「でも、僕が紫苑に酷い事をしたので」
「マジで祥那か、俺はエミールの視察前の下見なんだけど」
「僕は、紫苑の気持ちを理解するのにと」
『まぁ、両方なんだろう』
そうして次はエミールが来て、事の顛末を話す事に。
やり残しが無いかと調べていると、悲嘆の存在を知った。
そうして神様の力を得て悲嘆を人間にした後、紫苑と祥那の相談をした。
そこで、好きなら嫉妬心が湧くだろうとなり、この作戦を思い付いたらしい。
「エミール、他にちゃんと相談した?」
『ケントさんにも相談しましたよ』
呼び出された賢人は祥那に滅茶苦茶キレられた。
「でもだって、ショナさんがハッキリしないからっすよ」
『そうですよ。それで、嫉妬心は湧きましたか?』
『まぁ、その続きは俺らが居なくなってからにして貰おう』
2人きりにされ、とても気まずくなりました。
「あの、どうして僕だって気付いてくれなかったんですか」
「そら想定して無いもん、似た人だなとしか、髪も長かったし」
「この格好でもです」
「会って無かったから何でも祥那に見える様になったのかなと、それと悲嘆さんに気付いて不味い事になってないかなって焦ったのもある」
「他人には、凄く冷たいですよね」
「デレデレイチャイチャして欲しいの?」
「別にそう言うワケでは」
「どっちでも良いとか言われるのはツラい」
「嫉妬心は、湧きました」
「でも、友情でも嫉妬心は湧くし」
「そうなんですかね?」
「小雪ちゃんに恋人が出来て構ってくれなかったら?」
「別に、特には」
「じゃあ俺」
「寂しいなとは、思います」
「少しは、でしょう」
拗れ合い、空気はどんどん悪くなります。
「そうは言ってないじゃないですか」
「そうは言ってないだけかもじゃない、期待してダメになるの俺が嫌いって覚えててくれて無いの?」
勿論覚えています。
良く怪我をする子だった紫苑は、両親が犬猿の仲になり始めた頃から怪我を理由に出掛ける事を何度も中止され、それで良く怒っていました。
祥那の家族も紫苑の家族に注意した事も有ったので、祥那は良く覚えています。
「覚えてますけど」
「なのに、俺は良く頑張ったと思う」
「それ、過去形ですけど」
「最近は何もして無いから、してるとは言えないじゃない」
祥那は初めて嫉妬したので、感情のコントロールが上手くいかず。
祥那は拗ねていじけているので、沈黙は長く続きました。
「アレ、拗れてる感じっすよね」
「もう、どうしてなのかしら」
《相性、じゃないかしら》
「怠惰」
『面倒くさいなぁ』
『なら俺が行ってもっと拗れさせるか』
『あっ』
面白そうなので大罪達は止めようとするエミールを止めました。
賢人はそれを黙って見ていました。
『そんなに嫌なら俺が落としてやろうか』
「あっ」
祥那は悲嘆の能力を知っています、なのでつい止めてしまいました。
紫苑は悲嘆に罪を犯させない為に、従者として止めたのだろうなと思いました。
『どうして止めたんだろうか』
「それは、何だか、嫌で」
「友情でも独占欲は発生するものね」
『そう思って耐えてるんだな、お前は』
「まぁ」
『だが、そう拗ねても始まらないだろう』
「拗ねなくても始まらなかった」
『こう拗ねてる時はいつもどうしていたんだ』
「前は、何も、放っといたら直ってたので」
「俺がやり過ぎたんだと思って勝手に反省してただけ、コレとは違う」
『逆はどうなんだ』
「勝手に構ってたけど、それでも伝わって無かったし」
こう拗ねてるのも何もかも、自分が何もしなかった、反応すらしなかったせいだと祥那は気付きました。
けれど、どうしたら良いのか。
『コレは、ケンカの最中と捉えるべきなんだろうか』
「別に、どうせ俺が一方的だったから仕方無い事だと思う」
「だからそうは言って」
『なら何か言ったのか?』
勿論、言ってません。
反応もして無いからこそ、こう拗れているワケで。
「言っても、反応も、してません」
『なぜ』
「興味が無いんでしょ、仕方無いよ」
祥那は息をする度に、紫苑の言葉を聞く度に、胸がヒリヒリチリチリします。
紫苑はいつもこんな気持ちだったのかと、コレはやはり罰なのかと。
「すみません」
「分かった、もう良い」
『流石に今のは不味い、断りの謝罪じゃ無いなら追い掛けるべきだ』
また失敗したと祥那は焦り、走りました。
そしてこう追い掛けるのは初めてだと思いました、いつも横に居たのだと。
「紫苑、気付けなくてごめんなさい」
「俺もそう仕向けた面は有るし、もう良いよ」
「良くないです、少なくとも前と同じ様にはしてたいんです」
「分かった」
何で、どうして、その言葉を紫苑は呑み込みました。
幼馴染だからと言われたら、また傷付いてしまうから。
「ちょっと、雰囲気最悪じゃないのよ」
「すんません」
「すみません」
「まだ恋愛初心者なんだから、大目に見て、少し前みたいにしてご覧なさいよ」
そうして前の様な業務体系に戻り、また前の様に連絡を取り合う事に。
それでも紫苑は接触を控える様になりました、また自分に興味の無い素振りを、今度こそ目の当たりにしたら心が折れてしまうから。
どこかで、ノンセクやアセクシャルなのかもと。
実は無理なのかも知れないと考えておいて、良かったなと思いました。
一方の祥那は、エミールの仕事が増えたので忙しいのかなと気にしませんでしたが、先ずは紫苑がコチラを見てくれなくなっている事に気付きました。
そして同時に距離も、ほんの少しだけ前よりも遠い。
連絡も徐々に減り、また話し合いをする事に。
「避けてますよね?」
「普通の幼馴染の練習」
「その、紫苑は、僕とどんなカップルになりたいんでしょうか」
「あのカップル位にはベタベタしたい」
「流石に人前は」
「それ位は汲む」
「その、取り敢えず、デートしてみませんか」
「取り敢えずって、罪悪感で言ってるならマジで怒るよ」
「恥ずかし過ぎて想像が出来無いんです」
「嫌悪をそう取り除くのは良くないと思」
「そうじゃ無くて、本当に、汚いと思ったりしてないのに、思考停止しちゃうんです」
真っ赤にはなってくれているけれど、自分に対してじゃない。
もう、コレで最後かも知れないと思い、紫苑は承諾しました。
手を繋いで、映画を観て食事をして、買い物もして。
そうして普通に祥那を寮へと送り届けました。
「その、コレで終わりなんですか?」
「だって人前は嫌だって言ってたじゃん」
「その、もう少し付き合って、下さい」
「おう」
女同士か男女だったら揉めなかったのかなと、最後かも知れない時間を噛み締めながら、紫苑は祥那の後を付いて行く事にしました。
それからは前の様にニュースを見ながら少しお酒を飲み、新作のお菓子を食べ、雑談から軽口へ。
前の様に、ただ普通に過ごしました。
「どういうタイミングで、そうなるんですかね」
「ムラっときたら」
「じゃあ、性欲が薄い場合は」
「こう、何も無いんじゃない」
「もう興味失ってます?」
「その方が良いならそうする、別に苦しめたいワケじゃないし」
「拗ねてます?」
「いや」
「じゃあ、今、何をどう考えてるんですか?」
「コレで最後なのかもなって」
紫苑は涙目になった顔を背もたれにしていたベッドで隠すと、祥那も辛くなりました。
辛い思いをさせたくは無い、けれど辛さから解放するには答えを出すか、無理にでも付き合うしかないと思いました。
ですが紫苑は無理にはきっと気付く、ならもう答えを出すしか無い。
「こう言う時は、どうして欲しいですか?」
「そら抱き締めたりとかして欲しいよ」
ベッドへ俯向いたままの紫苑を、後ろから抱き締める事は出来ました。
嫌悪感はありません。
「辛い思いをさせて、すみませんでした」
「おう」
「コレで最後なのは僕も嫌なんですけど、でも辛い思いをさせたくなくて。まだ答えが出せなくて、すみません」
「恋愛音痴」
「ですよね」
有頂天になりかけた紫苑でしたが、冷静にならねばと、大事な事を再検討する事にしました。
ノンセクやアセクシャルの可能性が祥那にはある、だからこそ何も無いならそれでも良かった。
ただ、そうならそうだと言って欲しいのに言ってくれない、紫苑の怒りや悲しみはそこにも絡んでいたのです。
「もう良いよ、無理させたく無いし」
「まだ答えが出せないって言ってるんですけど」
「こう無理して」
「無理にはしてないです。ただ、離すタイミングとか、離した後は、どうしたら良いんだろうなって、思って」
「普通はチューしちゃうんじゃない、知らないよ、現実のなんて」
「本当に経験無いんですか?」
「だからなんで間近で見ててそう思うのよ」
「僕の正反対で、チャラいし、モテますし」
「だからって」
「良くアドバイスしてたじゃないですか、色々と、人に」
「そら妄想想像しまくりだし、知識も溜めてたもの」
「それであんなに相談されます?」
「そら付き合う口実作りの相談も有ったっぽいけど、慣れてる方が良いのも居るんじゃないの、勘違いだけどな、知らんよ」
「何処かで、誂われてるのかなって思ってたんです、慣れてそうだから」
「ならウブ同士だったらどうなってたと思うよ」
「どうしましょうねで、何も無し、とか」
「それが良いならそうするけどさ、永遠に何も無いは無理だよ、祥那の子供は見たいもの」
「僕はそんなに、命を懸けてまでは欲しくは無いんですけど」
「流石にそんな状態になったら母体を優先して貰うよ、申し訳無いけど、生まれて暫く育つまでは祥那優先だもの」
「そこまで考えてくれてたのに、関係維持の為なのか無視してたのは、悪かったと思います」
「罪悪感から付き合うとかも無理だからね、ならギリギリまで幼馴染の方が良い」
「そのギリギリってなんですか?」
「エロエロと我慢ならんくなったら」
「どうやったらそう見れるんですか?」
「えー、難しい。つかアレじゃないの、ノンセクとかアセクシャルとか」
「実は、そうなのかもとは、はい」
「言い難かった?俺が性欲強そうだから」
「と言うか、そうなると、確かめるしかなくなるじゃないですか」
「別にそれは、独りで出来るもん」
「でしょうけど、後々になって確かめる気になるかもですし、今確かめるのも勇気が、と。そう、嫌いになりたくはないんですよ」
「こう、抱き締めてんのはどうなの」
「柔軟剤を変えたのかなとか、髪が伸びてるなとか。何してるんだろうって感じは無いです」
「手を繋いだのは?」
「相変わらず温かいなとか、寒くなってきたなとか、実はまだ成長してるのかなとか」
「流石に止まってるって」
「なのに女性体、小さ過ぎません?」
「それな、懐かしい視界の高さだったわ」
「なのに僕に気付かないとか」
「好きでも無いのにそんな事しないだろうって思うべさ」
「好きじゃ無いとは言ってないじゃないですか」
「でも、出来無いかもなのは、まぁ、ノンセクとかアセクなのかもとかも覚悟はしてた」
「だからって我慢はして欲しく無いんですけど」
「嫌われるか、しないかなら、しない」
「試すしか無いんですけど、コレで本当に良いんですか?」
「寧ろコレが良い、2位は女体、3位は中性体」
「それ、僕はどっちなんですかね」
「られる方が良いらしいが」
「本当に何の経験も無いんですよね?」
「おう、この年で、モテるのになぁ、何でだろうなぁ」
「すみませんでした」
「別にもうノンセクもアセクも差別無いのに、何が怖かったのよ」
「そう向き合ったら、努力でどうにも出来無い事だから、それが嫌だったんだと思います、全く自覚は無いですけど。それか、心を動かされるのが、制御出来なくなりそうなのが、怖いのかなと」
「カウンセリングは?」
「行ってますけど、試すなら無理をせずにちゃんと相手に説明しろとは言われてます」
「でもなぁ、無理させたく無いし、ドン引きされたらショック死するかもだし」
「その手前の段階からで良いですか?」
「好きなら」
「好きかを確認したいんですけど」
「好きでも無い人とはして欲しく無い」
「少なくとも自分がどう反応するかは興味はあります」
「ダメだったら泣きながら賢人の部屋に行くぞ」
「分かりました、お願いします」
手を繋ぐのも、抱き締めるのも大丈夫。
問題はキス。
「嫌悪や虚無感は無いです」
「もうココまででも良いや、暫く幸せでいられるし」
真っ赤な顔でニコニコと紫苑は言いました。
祥那は、紫苑は本当に自分を好きなのだと思いました。
なのでもう少し、もう少しと。
祥那は、ただただ奥手でウブなだけでした。
好きの気持ちがいきなり一斉に溢れて、祥那から、好きだと言う言葉が自然に溢れました。
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