従者桜木花子と召喚者、津井儺祥那。

 平凡で平和だが良い家庭で育った祥那君は、ひょんな事から異世界へ。

 将来の夢は自衛隊員、そしてそれを叶えて寮で寝ていた筈が、何故か宮崎の病院で目覚める事に。


 意識が戻った後、自衛隊員でも有る事から早々にココが異世界であると告知を受け、説明を受ける前に従者が紹介された。

 桜木花子と境川さかいがわ賢人、祥那は従者に身長制限が無いのだなと思った。

 賢人は似た年齢でラッキーだなと思い、花子はこの人だけで召喚が終われば良いのになと思った。


 そして祥那は世界の事を知りつつ、適切な場所への移動を要請。

 魔力容量の問題も無いのでと、省庁へ案内される事になった。


 輸送用のヘリに暫し感動し、搭乗。

 暫くしてけたたましく警報音が鳴り響いた。


 窓の外を見ると片方には巨大な竜が、もう片方には大きな鳥。

 激しく機体が揺さぶられ、そこで初めて異世界なのだと実感した。


 ヘリが急いで緊急着陸をすると、竜と大鳥は上空で旋回を始め、近くの広場へ何かを落とした。


「あぁ、神獣の卵かと」

「いつもは友好的っつうか、不干渉なんですよ、マジで」


 2人の従者が捜査班へ捜索を依頼、神獣の卵と確認が取れたので近くへ行く事になった。


 2mは確実に超えている巨大な卵。

 ほのかに暖かく、ゆっくりとした心音が聞こえた。


「本来は近くで過ごして頂きたいんですが、大きいですし、テント泊になるかと」

「孵るまでなんすけど、大丈夫ですか?」

「はい」


「再確認しますが、純潔の誓いや女性嫌悪等は無いでしょうか」

「はい」

「あ、桜木さん一応女の子なんすよ、それで念の為っす」


「あ、なら別々の方が」

「警護の為なので、強い要望が有れば可能ですが」

「何もしないしさせないんで大丈夫っすよ」


「お前、逆に誤解を招くだろうよ」

「さーせん、安心させた方が良いかなって」


「あの」

「ココは同性同士でも婚姻可能なので」

「男同士の妊娠は流石に無理っすけど、女性同士は可能っす。後、俺は異性愛者なのでご安心を」


「自分は別に何でも、あ、健康な男子なんですし別にしましょう」

「テント2つしか無いっすよ?」


「予備を借ります、どうせ小さいんで」

「あの、そう気を使って頂かなくても大丈夫ですよ」

「したくなったら言ってくれて大丈夫っすよ、俺も普通に言うんで」


「あ、ネタとか道具を揃えておけば良かったか」

「いや、それはマジで個人差が凄いんで。それも言ってくれたら探してきますよ」


「はい、道具も」


 こう、大っぴらな世界なのか、進んだ世界なのか祥那は少し悩みましたが。

 花子と賢人を見て、性差の埋められた世界なんだなと思いました。


「あ、空腹感を感じたら直ぐに言って下さいよマジで」

「生死に、生き死に直結しますから」


 体内の魔素が枯渇すれば意識を失い、何度も繰り返せば内臓に負担が掛り、果ては死んでしまう。


「桜木さんは容量多いし、大食いなんすよ」

「食べれる才能が有って助かってますが、食事の途中だったので、ぶっちゃけ空腹です」


 そして警備の増援も有ったので、食事をする事に。

 地元の自衛隊により炊き出しが行われたので、先ずは花子が毒見をし、祥那へ。


「心配性っすよねぇ」

「我々の想像を超える事が起こる可能性も有るからこそ、呼ばれるのだと考えてるので。念には念をです」

「あの、災害も含むと書いて有ったんですが」


「俺も、地震とかデカいのが来るのかなーって感じなんすけど」

「最悪は第2の地球が出現すると、自分は思ってます」


悲観主義者ペシミストっすもんね」

楽観主義者オプティミストは字の通り楽そうで良いですね、羨ましいわマジで」


 ココで自身の知らない言葉なのにも関わらず、言葉を理解出来た事に驚いた。


「あの、悲観主義者と楽観主義者って言ったんですよね」

「はい、翻訳機能が付随するそうで。訛りとかどう聞こえるか気になるんですけど」

「それは後で、飯先っすよ桜木さん」


「あぁ、失礼しました。お魚、大丈夫ですか」

「クエ鍋っすけど、携帯食料も有るっすよ」

「大丈夫です、はい」


 言語の確認や、世界について知りたかったのにも関わらず、祥那は眠気に負けテントで寝る事に。




 こうして寝ては起きてを繰り返し、夕方に。

 そうして卵が孵ると、竜と大鳥が現れた。

 それからは名付けに耐えうる魔素の確保にと、近くの魔素の濃い温泉へ向かう事に。

 広島の自衛隊基地までヘリで移動し、そこからは車で。


 1時間程で付いた先は、川沿いに有る湯治場だった。


「桜木さんの好みで選んだんじゃないかって位に、良い場所っすね」

「まぁ、好みでも有るけどもだ。マジで近場はココなんだって」


「飯、どうしますかね」

「さっき食堂が有った、アレは絶対に美味い、筈」


 先ずは濃厚な炭酸泉へサッと入り、食堂へ。

 花子の言う通り、美味しそうな食堂は実に美味しかった。


 ラーメンにおでんに鍋焼きうどん、焼き飯にオムライスにと、花子が毒見をしたモノから順に分け合って食べた。


「ヤバいっすね、超当たりっすよ」

「おでん、買い占めるべ」


 そうしてポカポカになりお腹もいっぱいになると、祥那はまた、眠くなってしまいました。


「お、眠そうっすね」

「もう少し我慢を、逆流性食道炎防止です」


 前なら耐えられていたけれど、どうしても耐えられない。

 コレもまた、異世界なのだなと実感する出来事だった。




「あ、布団に、すみません」

「大丈夫っすよ」


 爆睡する花子はほっといても良いとの事で、朝風呂へササっと入り、朝食へ。

 朝食も出す居酒屋へ向かい、川魚の刺身に警戒したが、安全だと聞いて完食。


 それからはもう寝たり起きたり、そうしてお昼頃になると、花子が起きた。


「腹減った」

「でしょうよ」


 そうして道の駅へ向かい、ワニ料理を出すレストランで食事をする事に。

 ワニフライにお刺身にしゃぶしゃぶ、ワニステーキ。

 加工が少ない程魔素は残る事を教えて貰いながら、舞茸の天ぷらそばやハンバーグ、そしてエビフライと出揃った。


「エビフライはワシの好みです」

「ワニはそんな食わないんすね、水銀気を付けてるんすか?」


「まぁ、一応。折角だし、心得も伝えますか」

「えー」


「誤解すると思いますか」

「いやぁ、そうは思わないんすけどぉ」


「で、従者心得と言うのが存在するんですが」


 こう付き従うのだか、半ば当然だとは思ったけれども。

 自分の立場を鑑みると、そう、子種を残す事も求められるのかも知れないとの考えに辿り着いた。


 ただ、そんなにモテるでもない自分が、そうなるのがどうしても考えられ無かった。


「その、子種を残すのは義務なんでしょうか」

「国や世界としてはそうかも知れませんけど、残したければどうぞと、性行為に嫌悪が有れば体外受精も可能ですし。あ、全くダメでも注射器で吸い出すそうですからご安心を」

「それが俺は逆にヤバい情報だと思うんすけどね」


「知りたがって下さってるので、コレ位は良いかと」

「痛いのは暈かせって言ってくれて良いんすよ?」

「いや、はい」


 そしてまだまだ食べ足りない花子は、隣のお店へ。

 雪の降る季節だと言うのにアイスが売っていた。


「紫蘇シャーベット、アーモンドナッツ、リッチミルクとベリーヨーグルト」

「おしょうゆ味、俺いくっすよ」


 それから今度は隣の直売所へ、これから先自炊しても良い様にと野菜やお米を買っていた。

 こう言った場所も、売られた物も向こうの世界と同じ様だなと思っていると、また。


「戻りましょう、買い出しは後ででも出来ますから」

「そうっすね」


 また、寝たり起きたり。

 こんな状態で自分は何か役に立つ事が出来るのか、凄く不安になりました。




「あの、この状態でお役に立てるのか不安なんですが」

「お夕飯を食べながらお聞きします」


 近くのお蕎麦屋さんへ。

 割子蕎麦のセット期間限定の牡蠣ソバと猪ソバ、舞茸ご飯とお稲荷さん、アナゴ天に天ぷらの盛り合わせ。


 それから日本酒も。


「あの」

「飲めませんか」


「いえ」

「まぁ、先ずは飲んで感想を下さい」


 一通り飲んで食べ、見事に煙に巻かれた。


 そうして朝になると次は移動する事に。

 玉造温泉の高級旅館へ。


「あの」

「先程までの場所は緊急用です、普段はこう言った場所に泊って貰います。人が多いので」

「そうっすね」


 露天風呂と次の間付きの和室、お茶を淹れて貰い、ついうっかり流されそうになってしまったが。

 気を取り直し、自分の不安を告げる事に。


「僕が役に立てるか不安なんですが」

「生まれたての赤ちゃんと同じだと、先ずは思い込んで下さい」

「まぁ、そうっすね。俺らにもショナさんに何が出来るのかは分からないんで、この時間はそれを理解する期間でも有るんすよ」


「我々は補佐ですが、誘導は禁じられています。そう導いた先が間違いなら、被害が拡大してしまうので」

「だから、知りたかったら知りたいで良いんすよ、後は何を知りたいとか。意見を聞かれれば言いますよ」


「じゃあ、何が起こるかは」

「俺は願望を含んでるんで、災害が良いっす」

「異世界が地球毎転移してくる、転生者様の創作物で、それが1番最悪だなと思ったので」


 そこで転生者も居るんだと知り、回復次第会う事に。

 そして先ずは実際に世界を見るべきだとも思ったので、近くの有名な神社へと向かう事に。




「桜木さん、どストライクじゃないっすか」

「イケメンな禰宜さんですな、それとも神主さんだろうか」


 その人物に由来やお話なんかを聞こうと思っていたのに、神様だった。

 そしてとてもフランクな方で、土下座しようとする花子を止め。


《褒めてくれる事は嬉しいから、さ、向こうで話そう》


 そうして神社の裏手へ向かい、話をする事になった。


「自分に何が出来るか分かっていないので、先ずは先達についてお伺いしたいのですが」

《其々なんだよね、本当》


 災害を未然に防ぐ事も有れば、災害後の復興へ貢献したり。

 時には魔王へ挑んだり、大罪化してしまったり。


「大罪?」

「憤怒さんですね、コチラへ転移後に大罪の憤怒として生まれ変わりました」

《そうだ、折角だし知恵神に聞いてご覧よ、クエビコに》




 そうして省庁へ許可を取りに車へと向かう為、境内を出ると目の前にはお団子頭をした奇抜な男性が。


「あの、魔王と申しますが」


「マジですか」

「イケメンっすねぇ」


 魔王と名乗る何者かに車外で待ってて貰い、従者達が社内で身分証を確認すると、本当に魔王だそうで。


「あの、どう言ったご要件で?」

「私、子持ちでして。子供の為にも、世界を守って頂く補佐が出来たらなと。困ってらっしゃるかなと」

「残念」

「マジでメンクイっすね」


「おう。何で困ってると思ったんですかね」

「名付けを中々されないなと」


「あぁ、魔素が安定しないので出来無いんですよ」

「あ、そうなんですね、こんなに小さいと大変でしょうに」


「ワシちゃう、この方が召喚者様です」

「え、あ、失礼しました」

「大丈夫っすよ、容量が全てじゃ無いっすから」

「そう、思いたい、ですね」


 そして魔王の空間移動で省庁へ、そうしてクエビコ神に会う手筈を整え、更に移動する事に。


「ココなら大きくなっても大丈夫でしょう、行ってらっしゃい」

『《あい》』

「喋ったっすよ桜木さん」

「名付け前なのに」


 そうして空に浮かぶ聖域へ向かい、クエビコ神と対面する事に。


「祥那です、宜しくお願いします」


 そうして様々な情報をやり取りし、スクナ様を呼ぶ事に。

 仙薬を飲み、泉で眠り、名付ける事になった。


 竜にはクーロン、大鳥にはカールラの名が付いた。


「賢人君、予備の服出して」

「あ、はい」


 それからまた仙薬を飲んでいると、スクナが花子へ声を掛けた。


『君も飲んで入った方が良い、この神獣達が吸い上げてしまっていたらしいから』

「あらま、はい、お邪魔します」


 賢人も居ると言うのに、御簾の向こうでポンポンと服を脱ぎ捨てザブザブと川へ。

 そうして仙薬を飲むと、眠り始めてしまった。


「あの」

「爆睡っすね。ずっと足りなかったんすかね?」

『うん、膜の相性が良くて吸い上げてしまってたらしい』

『ごめんなさい』

《気付かなかったの、ごめんなさい》

『幼い頃に膜が薄く破れたせいか』


『うん』


 この世界には魔法の膜が有り、魔素が漏れない様にする壁の役割を果たしているのだが。

 花子は幼い頃に薄く破れ易い、珍しい状態だった為に北海道の病院で長く過ごしていたんだと。


「ぶっちゃけ、親に捨てられたんすよ。他の子供も居るし、手間が掛かるからって。それで協会の司祭さんと省庁のさっきの柏木さんに育てられたんすよね」

「それは、良く有る、有名な話なんですか?」


「捨て子はぶっちゃけいます、捨てるのは罪じゃ無いんで。あ、ネグレクトとか暴力はダメっすけど、施設に預けるのは違法じゃ無いんで。下手に自分で育てるより良いって、それっきりらしいっす」


 賢人と宮崎へ行くとなった段階で、初めて聞いた事なんだそう。

 日頃は一匹狼で、柏木としか出掛けないらしい。


「何も寝てる間に」

「良く寝るし良く食うし、タイミングが有ったら言ってくれって言われてたんで。大丈夫っすよ、本人は幸せだって言ってるんで」


「どう、思いますか」

「まぁ、ヤバいのって一定数生まれるし、自分も逸脱した存在には違い無いから仕方無いって言ってて。強いなって感じっすよね、俺も母親が居なくて、ちょっと家庭が複雑だからこそ、身内の一切居ない召喚者様の役に立てるかなって思ってたのに、完敗っすよね」


「それでも、ココで何か不自由は?」


「結婚っすかね。やっぱり、血縁者を見たら遺伝具合とか育ちとか環境とかって見れるじゃないっすか。でも桜木さんは何も無いから、諦めてるって言ってて。あ、一応整形でも遺伝子治療とか可能っすから、あんまりコンプレックスが有るなら変えるのも手っすよ」


 そうして遺伝子治療や科学の進み具合を知り、本気で何故自分が呼ばれたのか分からなくなった祥那。

 花子が目覚めるまで、ひたすら悩み続けた。




 オヤツの時間になり目覚めた花子。


「大変、申し訳御座いませんでした。トイレに行きたいです」

『構わん構わん』

『ちゃんと食べるんだよ、神獣も従者もだ』


『《あい》』

「はい」


 適当に服を着て先ずは魔王の元へ。

 空間移動で何とか助かったが、すっかり冷えてしまったらしい。


「桜木さんも冷えちゃいましたし、立ち寄り湯に行きましょ」

「すみません」

「大丈夫ですよ、行きましょう」


 全員で温泉へ。

 カールラは花子と、祥那は魔王や賢人やクーロンと。


 そうして買い食いや買い物をしながら旅館の部屋へと戻った。


「その魔法、僕も使えるでしょうか」

『ヨグ=ソトースか、アクトゥリアンだろうな』

「あぁ、片方は宇宙人さんですけど」

「その名前、どっかで聞いた様な」


「アクトゥリアン、ですか?」

【はーい!呼びました?呼びましたよね!アクトゥリアンですよー!】

「テンション高いの、動画のままやん」

「外見、チェンジした方が良いっすよ」


【あ、お好みは御座いますかね?爆乳でもガリガリでも何でも変身出来ますよ!】


「大丈夫っすよ、俺は豊乳が好きなんで」


「全て平均で、普通でお願いします」

【はい!】


 花子よりは背も有り、0で見かけるより少し可愛らしいかどうか、平均的な普通の女性の姿にアクトゥリアンがなった。

 祥那は普通や平均はこの位なのだなと感心していた。


「津井儺さん、魔法の事は」

「あ、その、空間移動とストレージを」

【はい!コチラに触れて下されば結構ですよー】


 差し出された人差し指に、人差し指で触れる。

 そうして次は手元のタブレットへ、暫くすると再起動を始めた。


「おぉ」

「動画通りっすね」


 そうして無事に魔法を得ると、魔王がしょんぼりとし始めた。


「もう、お役御免ですかね」

「いや、だとしてもワシらに付けよ、個別に動くかもだし。移動魔法は勿論、ストレージバッグにも限界は有るもの」

「そうっすね、ショナさんが寝てる時に移動魔法が使えるのも便利っすよ」

「普通の、ココの人には使えない理由が?」


「そら便利過ぎるからです、便利が悪い事だってクソみたいな集団も居るので」

「まぁ、そうっすね。科学の進歩が有ったから、そっちだと核が落ちた派が居る感じっすね」


「僕がお願いして、一時的に力を貸して貰うのは」

【無理なんですよー、神々の協定が有るので】


 ただ、世界中が願えば可能性は有る、と。

 それに対して祥那は、一般人の底上げが重要なのかも知れないから、実行してみたいと。


「あぁ、でも法整備や討論が先かと」

「それと他の神様の意見とかも大事っすよね」


 そうして相談するウチにお夕飯の時間になり、豪華な部屋食を頂く事に。

 魔王の分は花子が、そしてカールラとクーロンには仙薬が宛てがわれた。


「罰半分、コチラの都合半分」

「ココ4人までなんすよ、今急に増えるってなると都合がアレなんで」

「あぁ、だそうなので我慢して下さい」

「ご褒美にガトーショコラを差し上げますから、頑張って下さいね」

『《あい》』


 お夕飯が終わると、腹ごなしと買い物へ花子が行くと言い出した。

 神様にお世話になったので、お礼探しだ、と。

 そうして全員でお酒やお菓子を買い漁り、旅館に帰って温泉へ。

 あっと言う間に眠くなり、就寝。


 そして夜中にふと目を覚ました祥那は、次の間で楽しそうにしている花子と魔王に目が行った。

 自分には笑ってくれないのに、魔王には笑うんだなと、メンクイだから仕方無いのかと少し残念に思った。




 そして少し早めに起きた賢人は、花子と交代。

 祥那を起こし朝風呂に入った後、タマノオヤ神の所へ向かい、お礼と共に空間移動やストレージのご相談。


 無制限で無ければ賛成だ、と。


 次にクエビコ神の元へ。


『賛成だ。が、毎回ココへ来るのは不便だろう、コレを持って行くと良い』


 榊の小枝を頂き、朝食へと戻る事に。


「どうでしたか」

「賛成頂けました」

「後は小枝もっすね」

「それは良かった。じゃあ、私は部屋でお待ちしてますが」

『待ってる』

《仙薬頑張る》


 そうしてバイキングへ。

 賢人や祥那が協力し、何とか満腹感を感じられるまでに食べる事が出来た。


「お世話されました、申し訳無い」

「今回は仕方無いっすよ」

「そうですよ、僕の連帯責任でも有るので、気にしないで下さい」


 それから車を返し、省庁へ。




 次の行く先を相談していると、魔王が虚栄心を紹介する事に。

 そうして直ぐにも寸法が図られると、次は祥那が、続いて花子まで。


 そうして今度は出来上がるまでどうするか、花子が大罪巡りを提案し。

 祥那も賢人も同意、先ずは強欲の美術館を回る事に。


「ほぁあああ」

「桜木さん、テンション」

「お好きなんですね美術品」


「と言うか綺麗だの可愛いモノなら何でも、エログロもよし」

『珍しい子だねぇ』


「所詮は内臓じゃないですか、花も人間のも」

『そう振り切るタイプかぁ』


「思春期には男は皆、脳味噌がアレで出来てると拗れてたので」

『ほう、具体的にどう』


「こう、断面図で、綺麗な花に囲まれてる感じ」

『あぁ、実にエログロだ。うん、描かせようかね』


「そんなお金は無いんですが」

『画家の卵の見極めに描かせるだけだから大丈夫だよ、君も何か欲しい絵は無いかい』

「いえ、僕は」

「俺はもう純粋に理想の女の裸婦画っすかねぇ」


『それは危ないねぇ』

「黄金の花嫁、ピグマリオンを知らんのか」

「なん、従者だからって桜木さんみたいに神話ヲタじゃないんすよ?」


「脳筋ダッサ」

「そう言い張れないの知ってるクセになぁ」


「ワシより走るのは早いじゃん、浪速のシューマッハ」

「歩幅差っすよねぇ」


「お前の様に小さいから仕方無い」

「密かに下ネタ混ぜんの止めて下さいって、ショナさんがマジに受け取っちゃう」


「あぁ、イッツ異世界ジョーク、ハハ」

『オー、ベリーナイスボート』

「強欲さん、マジで異世界ジョークに昇華しちゃうんすね」


 ココで祥那は、自分だけが花子に笑って貰えない事に気付いた。

 それからはもう上の空で、それに気付いたのは賢人だった。


「ツマンナイっすよね?」

「あ、いや、違うんです」


「何か気掛かりが?」


「どうして僕には笑って貰えないんでしょうか」

「あぁ、人見知りなんすよ、多分素で人見知り発動してんだと。すんません、言っておけば良かったっすね」


「だけですか?神様達には」

「神話や御伽噺好きで、神様に親近感を感じてさん付けしちゃう方なんっすけど。不愉快なら注意しておくっすよ?」


「いえ、だけなら良いんです」

「あー、一緒に居て気になっちゃいました?」


「いえ、別にそう言うワケでは」

「大丈夫っすよ、マジで人見知りなのと。多分」


「何か有ったんですか?」

「直接聞いたら良いっすよ、何でだって」


「そう、踏み込むのは」

「大丈夫ですって、桜木さーん」


「へい、飽きましたか」

「いえ、大丈夫です」

「まぁ、他にも居ますし、移動しましょうか」

『おうおう、中途半端なんだし、フリーパスを渡しておこう』


 次は憤怒と怠惰へ会いに行く事に。

 そして怪しい組織が無いかとの話で、花子が無色国家の名を口にした。


「偏見を存分に盛り込んで何かするだろうと思える場所は、自分にはそこ位です」

『まぁ、ぶっちゃけ、何かが有れば俺も疑うが』

「怠惰。話しておくべきだろう、ココの状態も」


 魔王が召喚者の元へ来た根拠の1つ、七福神の神が現れなくなった事をこの旧米国が伏せたままにしている事が引っ掛かる、と。


『混乱を避ける為って理由も分かるが、だ』

「何かしらの策略が有っての事かも知れんが、証拠は皆無だ」

「でもそれって、この自治区だけの情報ですよね」


 花子が言う様に、国内だけなら不穏な影は無い。

 そうして祥那には無色国家の情報が開示され、不穏な影が有るとするなら、無色国家の存在している理想郷オセアニアでは、と。


「ただ、僕が行って、どう確認出来るのか。ですよね」

「それに、俺らだけで守れる自信はぶっちゃけ無いっす」

「うん、無理ぽ」


 一先ずは他の大罪や神様に有ってからと言う事に。

 そうして昼ご飯にと、美食の経営するレストランへ行き、次は色欲のお店へ。




《あらあら、来て下さってありがとうございます、色欲よ》

「おぉ、抱かれたいかも」

「マジで何でも良いんすか桜木さん」


「愛してくれるなら」

《私、好きになったら一途よ?》

「おぉ」

「あの、差別は無いとは勉強はしましたけど」


《でも、男同士はやハードは珍しい方かも知れないわね。そしてもっと言うとノンセクシャルにアセクシャル、昔は生産性が無いって言われて差別を受けてたのよね》

「生めないと生産性が無いって古代思考ですな」

「そうっすよね、そも自分に害が無いならほっとけば良いのに」


 ココでも花子は祥那だけに。

 いや、確かに人見知りらしい。


 トイレに行くついでに見回りをしていると花子がナンパされ、笑顔は皆無。


《あら、気になってるのかしら?》

「いえ」

「いやいや、自分だけには笑ってくれないって気にしてたじゃないっすか」


「メンクイだから、では」

《だけ、なのかしらね?》

「どうなんすかねぇ」


「お疲れ様です、何か」

「ナンパ、見てたっすよぉ」


「羨ましいか、見回り行ってこい」

「やったー」

《ふふ、優しいのね》


「チャンスは万人に有るべきなので。あの、コチラも少し離れますので」

「いえ、僕は別に」


「市井を知るチャンスにもなりますし、何かに気付くチャンスかもですし、どうか遠慮なさらず」

「その、僕はモテ無い方ですし」


「モテたらどうなさるんですか?」


「別に、どうも。それに、お付き合いとかは結婚を前提にするものだと」

「ヤれとは諭してませんよ、一般人として、ココで知見を広めて貰えればと。他では安全の確保が難しくなりますので、機会はそう、与えたくても無理なので」

《大丈夫、私も補佐するから、ね?》


 渋々了承すると、本当に女性が寄って来た。

 そして色欲のサポートも有り、生の恋愛観や結婚観を知る事が出来た。


「あの、もう充分と言うか、ありがとうございました」


「向こうで順調でらっしゃるなら、きっと残っては頂けないでしょうし、子種を残す事も無いだろうと思っています。でもそれで構わないと個人的には思っています、残らなくとも、少しだけこの世界を好きになって貰えたらと思っているんです。そして無事に帰って頂ければと、責任感から残ると悲惨な結果になるそうなので、常に半々のお気持ちで過ごして頂ければと、思っています」


「そう配慮してくれてるんですね、ありがとうございます」


「いえ。なので遠慮せずに要望を仰って下さい、深部に行きたいとか、体験してみたいとか」

「桜木さんが行きたいだけでは?」


「バレましたか」


 冗談なのか半々なのか、笑いながら言ってくれた。

 真面目に考えながら、緊張しながらも冗談を言ってくれていて、自分が応えなかったから笑ってくれなかったんだと気付いた。


 自分も笑わなかったのだから、笑って貰えなくて当然だと、色欲に言われた通りで、笑えばニコニコと笑顔を返してくれた。

 少し捻くれていた部分を反省し、更に本題へ。


「人見知りの他に、何か有ったのなら聞きたいんですが」


「家族が欲しかったんですが、フラれました。あ、処女ですし性病も無いのでご心配無く、それと召喚者様には利用されても良いと思ってますから、お好きにどうぞ」

「僕、そんな風に見えますか?」


「いいえ、全く見えません、心配になる位に見えない。善人に見え過ぎて、逆にそこが心配です、真面目過ぎると潰れ易いって聞くので」

「桜木さんも意外と真面目ですよね」


「良く言われるんですよねぇ、表面上巫山戯てるだけなのになぁ」

「そうやって、もっと素でも大丈夫ですよ?」


「丁寧語もなっとらんとは、と、叱られたく無いのでありますよ。父上様に」


「優しそうな方ですけど、そう厳しい面も」

「冗談、親身に真摯に寄り添うべきだとだけ、ですって」


「何処までが冗談か分からなくなるんですけど」


「津井儺さんの丁寧語が外れたら素を出します」

「家族にも何年もコレで、逆にどう崩せば良いのか」


「見本は周りに沢山居ますよ、ほら、ワシの相手より好みのタイプでも探してて下さい」


「無いんですよ、タイプ」

「ノンセクやアセクかもですか。資料どうぞ」


 自分は本当にそうなのかも知れない。

 想像上、性行為は子作りの為で、キスに至っては何でするのかと。


「した事が無いので、意味が無いと思ってしまうんでしょうかね」

「気持ち良いからですが」


「経験、有るんですね」

「幼馴染の女の子と、幼い時にですけど、キュンキュンして嬉しかったですよ。後はもう、その子は異性愛者なのでそれっきりですけどね」


「僕、失恋も、好きになった事も無いんですよ」

「好きになった相手が好みのタイプだって名言が存在しますし、まだ開花する準備が整ってないだけでは」


「開花ですか」

「マジで良い意味でなんですが、真面目で慎重だからこそ、結婚したい、結婚出来るって確実に思える人じゃないと、好きって自覚出来無いのかもですよ。デミセクシャルってそのジャンルかなって思うんですよ、だから津井儺さんは切っ掛け次第でと思うと、デミかなって。って言うか専門家が身近に」


 そうして色欲の質問に回答した祥那は、デミセクシャルの可能性が。


「分かったかもですけど」

「いや、個人情報ですし、聞かなくても大丈夫です、凄い気になるけど」


「気になりますか?」

「そらもう、興味本位とか色々ですけど。大丈夫なら、もう少しココを回ってみては?」


「それだと、回ったら答えたも同然になっちゃいますよね」

「あぁ、確かめたいなら、ですはい」


「出来たら少女漫画のオススメを知りたいんですけど、確認の為にも」

「あぁ、話のタネになら、コレとかオススメです。それとコレと、コレも、好きじゃないけどメジャーなのはコレですかね」


「好きですか?」

「見るのは何でも、少年漫画も映画も」


「あ、賢人君から家庭の事情を聞きました、言うのが遅くなってすみません」

「いえいえ、まぁ、フラれた理由がそれなのでね。自分でどうしようも無い部分でフラれて、もう良いやって拗ねて、諦めた感じですね」


「今もですか?」

「ですね。だって、好きだって言ったら無条件で子種くれます?無理でしょう、そう言う事ですよ、相手のバックグラウンドが分からないと結婚って無理じゃないですか。その理屈が分かるので諦めました、こう見えて意外と繊細なので、思考を放棄しました」


「でも、いつか誰かが」

「その時になったら考えるので大丈夫ですよ、傷付かないワシなりの対処法なんです」


「そう、カウンセリングとかって」

「勿論、子供の頃から受けてますし、従者用も受けてますけど。会ってみます?ウチのネムちゃんとママに、ネムちゃんエルフなんですよ」


「エルフって」

「はい、長寿のエルフですから、先達の情報が聞けるかもですが。分析もされるかもなので、お任せします」


「お願いします」

「じゃあ、ココで誰かに声を掛けたらご紹介しますよ」


「それなら、柏木さん経由で紹介して貰いますね」

「あぁ、ママの事黙っとけば良かった」




 でも今は日本は夜、翌日に北海道へ向かう事にし、ホテル探しへ。

 そして魔王が評判が良いと聞いたと言われるホテルへ、祥那も安心価格だからとファミリータイプへ泊まる事になった。


「ショナさん、結構話し込んでたっすけど」

「家庭の事情と、結婚観等で。この少女漫画って読んだ事ありますか?」


「あー、それ実写化もして、キュンキュンっすよね」

「この、女性同士のってどう思いますか?」


「あぁ、俺のって穿った見方っすけど、良いっすか?」

「はい、どうぞ」


「人工授精なんすよね、どんなに愛し合っても。でも異性愛って、妊娠するかもとか、それを我慢するとかってスリル満点でスパイスまみれじゃないっすか。だから何か逆に、俺は純粋に楽しめないんすよね、異性愛の恋愛モノって」


「あぁ、ココって未成年の場合は」

「特別に婚約したら可能っすけど、結構厳しいっすよ、先ずは両家が納得して。将来のプランも出して、それも納得して貰えないとダメなんで」


「僕は興味無いんですが、向こうだとそう言う本が有ったなと」

「あぁ、ココだと実話か悲恋なんすよ。未成年に悪影響だし、未成年が利用されない様にって、転生者様が規制したんす。性的な描写が無くても成人指定っすよ」


「そう言うのも、スパイスだと思いますか?」

「そうっすねぇ。余計な事を考えたく無いっつうか、立場とか地位とか、金持ちだからとかって邪魔じゃないっすか。純粋に愛されてるって分かる方が、すんなり楽しめるし、自分に置き換えても楽じゃないっすか?」


「僕だと、向こうでは普通でも、ココだと特別なんですよね」

「そうっすね、だから残りたいって言っても良いんすよ、特別って中々に稀ですし。誰かの特別になるのも、良いんじゃないっすかね」


「正直、小さいのに従者だって事には興味は湧きましたけど」

「でも、残らないなら無理かもなんで、様子見次第っすよねぇ」


 何処かで、好きにしても良いと言われた事が頭に有ったんだと、祥那は思った。

 あの家庭の事情を知るなら、普通は両親が揃っている方が良いだろうと分かるのに、と。




 そうして翌朝になり、ディナータイムのバイキングを食べ、北海道の病院へ。


《どうも、ネイハムと申しますが。何かお悩みでも?》

「いえ」

「ショナさん、取り敢えず話してみたら良いんじゃないっすかね、色々」

「分析させるなら反対、覗かれない自由も有るんだし」


「個人的にとかって、可能じゃないんすか?」

《ご要望が有れば、ですが》

「えー、じゃあ他のエルフでも良いじゃんか、ヤバかったら報告されるかもだよ?」


《そんなにヤバそうなんですか?》

「ううん、そんな気配も何も無いけど」

「まぁでも、お医者さんに個人的に相談が有るかもっすよねぇ」


「ぐぬぬ」

《分かりました、分析をしない努力をします》

「どうっすか?」

「はい、お願いします」


 そうして中庭で話をする事に。

 花子は少し先の野原で神獣と共に爆睡、賢人は筋トレ。


《それでは、何をお聞きしたいんでしょう》

「先達の情報が欲しいんです、どうするべきなのかを判断する為に」


《明確にコレだ、と言えれば良いんですが、過去の事例を見てもバラバラなんですよ。酷いのは子を成して帰還、等も有るので》

「そん、それだけ、なんですか?」


《はい、ただ、コレは人間側からの観測で。実は見えない場所で何かをしたのかも知れませんし、本当にそれだけなのかは。悪魔の証明になるので、難しいんですよ》

「神獣が居ても、ですか」


《はい。それに、国連はありますが、所属していない国も当然ありますから、そこでの事を知る事は不可能で。しかも公式の記録は100年も前ですから、現代に当て嵌めて考えるにしても、無難な答えにしか辿り着けないかと》

「災害か、地球か、ですか」


《流石に第2地球は考え過ぎと言うか、究極の極論ですよ》

「ただ、最悪を想定するなら最適だと思うんです。僕は、ある程度の目標が無いと動けないので、災害と地球の中間って、何だと思いますか?」


《国を揺るがすテロ、ですかね。災害って意外と人が死なないんですよ、特にココでは。ですがそれ以上の人的被害となると、テロかと》

「戦争では無いんですね」


《戦争は公式の国同士のケンカ、それを未然に防ぐのが外交。外交問題は今の所は確認されて無いそうですし、ならばこそテロかと。戦争の前にテロが起きれば、準備もしてませんから大量殺戮が可能。そもそも戦争となれば抑止に各国が動きますから、直ぐに収まるかと》


「上手く抑止が効けば、ですよね」


《私、一応精神科医でしか無いので、もう少し適格者をご紹介したいんですが》

「あ、はい、お願いします」


 そうして磯山五十六と出会い、従者も呼び寄せ相談。

 先ずはテロ対策をとの話になったが。


《ですけど、こう、魔道具等の準備をされた方が良いのでは》

「アレだよ君、アヴァロンを紹介したりマーリン導師をご紹介したらどうにかなるんじゃ無いのかい?」

「ティターニアさんとか居るのかな」

「本当に妖精って居るんすかね?」




 そうして先ずは魔王の家が有るイギリスへ向かうと、苔むす精霊ドリアードが立ち塞がった。


《連れ込んで何をする気じゃろうか》


「この方は?もしかして私、邪魔されてますか?」


「津井儺さん、聞き取れましたか」

「僕がお願いしてココへ来ました、アヴァロンへ行く前にと」

「え、俺は何も、見えも聞こえもして無いんすけど」

『クーロンは聞こえない』

《私分かる!》


 そうして花子と祥那とカールラがアヴァロンへ。


《お主、従者なんじゃよな?随分と不格好に降りおって》

「感触を味わってましたが何か問題でも」

「ツルツルでさらさらで触り心地が良いですからね」

《ふふ、ありがとうございます》


《まぁ、良いんじゃけど》


 そうして森の木が根本から動き、獣道が出来た。

 その道を少し進むと泉が有り、美しいティターニア、少年の様なオベロンに、小さな。


《ノームさんやで、宜しゅうな》

「凄く、関西弁です」

「あぁ、そう聞こえるんですな。ロンドン訛り」


《訛りやと?!なんやこのチビッコは!》

「どーもー、従者の桜木花子でーす」


《なんやその言い方はぁ、自分、コ》

《はいはい、そこまでにして下さい》

『すまんな、コイツ女嫌いなんだわ』

《気にせんでくれ、嫌いになったのも自業自得じゃし》

「おぉ、女性嫌いに有ったの初めて」

「あの、魔道具のご相談に来たんですが」


《せやったらその女を辞めさせなワイは魔石上げへんで!》

「常に男女で補佐するんでワシが辞めても代わりは来ますが」


《全部辞めさせたらエエねん!》

「そこまでさせるのに、魔石だけですか」


《おぉん!キノコもや!》

「金属は無理って事ですかねぇ」


《はん!舐めた口をききおってからに、そん位は簡単じゃい!》

「成程、どうしますか津井儺さん」


「あの、ココをご紹介下さったも同然ですし、僕としても困る事になるので」

《アカン!もう毒牙に掛かってしもてる!おっちゃんが助けたるさかい、はよ手を切った方がエエで?》

「だそうで、なら他に行きましょう。同行させないは無理なので」


『あーぁ』

《すみません、下げさせますので》

《すまぬ、埋めたで暫くは来ぬじゃろ》

「冗談ですよ、先ずは魔道具の神様をご紹介下さいませんか?」


《勿論じゃよ!》


 そうして今度は泉から転移し、鍛冶神達の居る聖域へ。


《武器か?》

《戦闘訓練か?》

《魔道具だろう?》

「はい、出来るなら全てをこの召喚者様へお願いしたいのですが。対価として、このお酒で足りないかも知れませんので。この髪は、どうでしょうか」


『あら、切り立てね』

『良い髪ね』

『勿体無いわ、どうして?』

「召喚者様の対価で足りなかった場合にと、長年伸ばしておりました。昔のはコチラです」

「あの、桜木さん、切り立てって」


「連絡が有って直ぐに切りました、邪魔でも有るので」

『あらあら』

『なら、コレはアナタの対価にもするわね』

『献身的な従者で良かったわね、ふふふ』


「桜木さん」

「また伸びますし、一石二鳥、いや、三鳥なんです」


「もう一羽は」

「沖縄の神様や巫女の言い伝えで、女性の髪はお守りになる場合が有るんです。例えゲン担ぎだったとしても、それが本当に守る力になれば生き延びられますから」


《そうね、魔道具も最初はそんな事から始まったんだもの》

《願いが形を得て、能力を発揮する》

《無より有から発する方が容易、魔法の杖も魔道具だものね、ふふふ》




 そうしていつの間にか置いてあった魔石や花子の髪の毛を使い、魔法のマント、嘘が分かる魔道具に嘘を見抜け無くさせる魔道具。

 通信機に性転換の魔道具まで作って貰った。


「あのー、宇宙にも魔石が有るのではと思ってるんですけども」

「そうなんですか?」

《そうよ、とっても珍しくて貴重だけれど》

《中々降って来てはくれないし》

《取りに行ける者も限られてるから》


「おぉ、効果に違いは?」

《色、位かしらね?》

《そうね》

《貴重だけれど、好み、よ》

「でしたら、対価には」


《私達は大きなのは所有出来無いの》

《だから、一時鑑賞したり》

《端材で充分なの》

「津井儺さん」

「ですね、少しお待ち頂いても良いですか?」


《勿論よ》

《楽しみね》

《そうね、ふふふ》




 1度泉でアヴァロンへ行き、魔王城で休んでいたクーロンへ通信機を付ける事に。


「大丈夫ですか?」

『少しジンジンしますね』

「もう、バラすか、治したる」


 花子がそう言うと、クーロンの耳の傷口がすっかり治っていた。

 祥那は初めて見る魔法に、本当に異世界なのだと感動していたのだが。


「ショナ君、コレは黙っててあげてくれませんか」

「魔王、知ってるのか」


「はい、ですがもう惨敗で、蘇生に時間が掛かって」

「あの、どう言う事なんですか?」

「いや、俺も良く分かんないんすけど」


「ワシの体質、魔女狩りに有って絶滅しかけてんの。しかも、転生者と召喚者によって」

「科学の妨げになるからと、雷電も使えますよね?」


「おう。治癒魔法と雷電って、両方、科学には邪魔じゃん」

「そん、俺、マジで知らないんすけど」


「魔女狩りで調べて、相応の理由が有れば許可されるけど。津井儺さんがその能力が有るかもってなったら、不味い状況になるかもなんだわ」

「少なくとも、怠惰も憤怒も知ってる事で。確認に行きますか?」

「ショナさん、どうしますか?」


「桜木さん、それが本当なら、どうして僕にバラしちゃったんですか?」

「使えるモノは親でも使え、まして従者なんで、最悪は使って貰おうかと、この能力を」


「僕が殺すかもとか」

「貴方は良い人だから絶対に無い、そしてこの期待を裏切る人じゃ無いと信じてる」


『許可を貰えるか、知恵神と呼ばれているクエビコだ』

《うむ、一時許可するが、何か知っておるのか?》


『膜の事を話したろう、それがバレてもいずれ突き止められると思ってな。どうやら、膜故の体質なんだと、ネイハムが突き止めた』

「で、正解だから今、クエビコさんがこうやって警告してくれてるのね」

「大罪達の居る、隣の地区の者の祖先が嘗て主導し、行った虐殺行為です」

「うわー、あー、ただの魔女狩りだって、あぁ、信じてたのになぁ。国もそれ知ってるんすよね?」


『その事実だけはな、離れた地だった為に被害は無かったが。知った者は国際化の果てに怯え、隠し育て、雷電の継承は途絶え、そう膜が薄い者も生まれる事は無かったんだが』

「生まれちゃって、捨てられてネイハムが気付いて、柏木さんとガーランドさんに保護して貰ってる」


『国は知らん、国連もな』

「でも検索や申請をしたらバレるかもで、殺されなくても、何か有るかもとは言われてる」

「あの、賢人君」

「バラさないっすよ、仲間なんすもん。他の従者にも言わないっす」

「はぁ、良い方達で本当に良かった」


《なんじゃろ、魔王の印象が聞いているのと違うんじゃけど》

『凶悪で残虐で虚ろだ、とな』

「ついでに話しちゃえよ、最初から」

「俺、聞きたいっすけど」

「大事な事だと思うので、聞かせて下さい」


 そうして魔王が魔王になった話を聞き、全員が沈黙した。


「あの、大事な確認を忘れてるで。嘘かどうか」

「心配性だなって思ってたんすけど、桜木さんの立場だったら慎重になって当然っすよね。すみませんでした」


「いや、自分でも偶に心配性だなって思ってるから大丈夫。魔法が怖いなら使わないけど、ピアスどうする」

「いえ、僕も桜木さんを信じてますから、お願いします」


「あまり信じ過ぎないでくれよ、程々にだ」




 そうして其々に通信機と嘘が分かる魔道具を付け、試す事に。


「そうですねぇ」

「海老大嫌い」


「じゃあ、私ははなちゃんが大嫌いですね」

「嘘でもショックかも」


「マジで、曖昧な返事には効果が出ないんすね」

「結構、明確に分かるんですね」


「ただ、サイコパスやソシオパスに通じるかどうかも不明だし、微妙な事には使えないかもだから、過信は禁物で」

「うっす」


「桜木さんも、魔王も、復讐したいとは思わないんですか?」

「私は、私を苦しめた一族を全滅させた段階で気が済みましたね」


「羨ましい。けど、親を殺してもどうにもならなそうだから、復讐する気は無い」

「それって、逆に、意味が有ったら殺しちゃうんすよね?」


「んー、正直人間にはにバレ無い方法で殺せるから何度も考えたんだけど、今は厄災を無難に過ごすのが先決で。余裕が出来て、何処かの神様が許してくれて、ワシが不幸になったら殺す」

「それで神話に詳しいんすか?」


「詳しくさせられたっつうか、天罰とかバチの概念を教え込むのにね。んで、大きくなったら復讐を許してくれそうな神様探しに移行して、そのままズルズルとな」

「そこで何で従者なんすか?」


「恩返し。ネムちゃんや柏木さんの役に立ちたかったし、親を殺さないで済んだお礼」

「召喚者様が来ない程度の災害なら、確実に有効っすもんね」


「でも、バレそうなら使わない事も考えてた。そこまでお人好しじゃないから、自分の命を優先して、見殺しにしてたかもだよ」

「あの、最悪は僕が使えるって事にしたらどうでしょう」


「あのね、最悪は監禁軟禁で、実験体にさせられるかもなのよ?却下」

「なら、魔道具のせいとか、どうっすかね?」

「特殊な魔道具で僕が使えると装うなら、魔道具の回収だけで済むかもですし、最悪は帰還すれば大丈夫ですし」


「すまんね、綺麗な面だけを見せたかったんだけど、罪悪感が出た」

「俺はその考え良いと思いますよ」

「私も同感です、子供達には両側面を知って貰いたいと思ってますから」


「僕は、改善点が有る事にホッとしてます。完璧で完全で、僕の来た意味は何だったんだろうって不安だったんです。けど、少なくとも目の前に明確な目標が有るので、教えてくれて感謝してます」

「目標って?」


「第1目標は、桜木さんが安全に暮らせる世界です」




 こうして目標を得た祥那は、先ずはクーロンを魔石取りへ向かわせ、他に作るべき魔道具が無いか相談する事に。


「ワシ、何処へでも行けるドアが欲しい、泉での移動でゲロっちゃいそうになる」

「なら引き出しタイプも良いっすよねぇ」

「ショナ君、空を飛べるのはどうでしょう?」

「やっぱり、箒ですかね?」


「ワシとしては保留にさせて欲しい。それについては空間移動があるし、ちょっと試したい事が有るから」

「じゃあ、アレっすよ、水中系、水に沈まないって重要っすよ」

「あ、魔法印はもうされました?精神に影響を及ぼすのも居ますから、ウチの悲嘆がそうなので」

「その、魔法印って」


「刺青なんすよねぇ」

「人間でも出来ますけど、エルフからの伝来技術なんで、エルフも従者に引き込みませんか?」

「良いかも知れませんね、長寿なので技術は人間より確実に上でしょうし」

「ドリアードさん、エルフの方で従者になりたがってる人なんて」

《おるぞい!山程な!》

『選抜が必要だろう、どう選ぶ』


「先ずは胸のサイズじゃろ」

「急に巫山戯るんすね」

「その、人間を嫌いじゃない方とかって居るんでしょうか」

《勿論じゃよ》

「私も意見を良いですかね?魔王が嫌いだと、大変かなと」


「じゃの、大罪もじゃね」

「後は、何っすかね?」


「お付き合いしてる方が居るのはちょっと、避けて欲しいなぁ、何かで揉めてもヤダし」

「じゃ、特に結婚を考えて無い、とかで良いんじゃ無いっすかね」




 こうして地上で相談を終え、アヴァロンへ戻ると数名が着陸地点で待っていた。

 そして花子を気に入らない者を排除し、ミーシャとサイラが選ばれる事になった。


「宜しくです、早速ですが泉で移動しますですよ」


 ミーシャも酔う体質で、何処へでも行けるドアから作られる事に。

 そして大きな石を10個だけ、連絡が有る迄に選んでいる様にとクーロンに言っていたので、そろそろだろうと思い、呼び戻す事に。


「あれ」

《相性じゃろ、一先ずは戻ると良いじゃろな》


 だがどうしても神々の掟で、魔属性をアヴァロンへは入れられない。


「浮島分けて貰えませんかね?」

「そん、桜木さん、流石にそんな」

《ふふふ、ご迷惑もお掛けした事ですし、どうぞ》


 割譲された浮島を大きくするのは花子。

 そうして中立地帯を得て、クーロンを呼び戻す事に。


『あの、ココは?』

「ショナさん、名前付けちゃった方が楽っすよ」


「護、護島で」

「厳ついなおい」

「カッコいいじゃないっすかねぇ?」


「アカン、マジで尽きたかも」

「ちょ」

「スクナ様、お願い出来ませんでしょうか」


『召喚者の為とは言え、無理は良くないよ』

「だって初めてこんなに使ったから、勘弁して」

「あ、マジでヤバいかも、点滴点滴」

「え、桜木さん」


『ただの失神だから大丈夫だけれど、何度もは良くないよ』

「あ、起きた」

「枕、くれ」


 賢人が鞄を枕にさせ、慣れた手付きで花子が自ら点滴をすると、スクナが仙薬を点滴へ入れる様にと指示を出した。


「結構な色合いっすよねぇ」

「すみません、ありがとうスクナさん」

『命、大事に』


 その言葉を聞き終えると、今度はゆっくりと花子の瞼が落ちていった。


「コレは、寝た感じっすよね」

『うん』

「あの、僕もいつかこうなるかも知れないので、他に回復方法を知りたいんですが」


『温泉だろうね、ココは魔素の循環もしてるから、地上よりも濃く出来る』

「お願いします」


 そうして温泉が出来上がったのは良かったのだが、服を着せたまま入れるか、脱がせるか。

 結局はカールラが服を脱がせ一緒に入る事に。


「後はドアの設置っすかね?」

「出来たら家の中に付けたかったんですけど」

『なら、呼べば良い、酒はまだ有るのだろう』


 そうして家の神様を呼び、大きな囲炉裏の有る質素な小屋が建った。


「流石に魔法のレベル超えてるっすよ」

「ありがとうございました」


 2人で内部を見学し、ふと温泉を見ると脱衣所や洗い場が出来上がっていた。


「無音だったっすよね」

「だったと思ったんですけどね」


 もう神様の姿は見えなくなってしまっていたので、どうしようかと相談していると、ドリアードが現れた。


《泉も設置してはどうじゃろか》


 ナイアスを紹介され、更についでにと川が出来上がる事になった。




「こ、そ、コレはどうなってんでしょうか」


 目覚めた花子は普通に驚きました。

 自分が覚えている時の浮島とは、かなり違った景色だったからです。


「まぁ、流れっすよね」

「ですね。大丈夫ですか?」


「まぁ、何とか、トイレとかって」

「無いっすね」

「ドア、魔王城に繋げちゃいましょうか」


 服を着て魔王城へ行き、今度は皆で浮島へ。

 後は何を増設するかの相談へ。


「トイレ」

「そうっすよね」

「囲炉裏での調理は流石に経験が無いんですけど、お2人は出来ますか?」


「俺も無いっす」

「ちょっと、買い出しに行きましょうか」

「ですね」


 島根に戻り酒造巡り。

 おつまみも有るべきだろうと、珍味や佃煮を買い漁り、少し移動し大分へ。


 焼酎や海産物を買い漁り、花子がポツリと呟いた。


「津井儺さん、温泉に入りましょう」

「え?」

「まぁ、冷えましたし、行ってみましょう」


 そこは乳白色の見た事も無い綺麗な温泉で、宝石の様にキラキラする温泉でした。

 花子はこう言う綺麗なモノが好きなのだと、祥那は感心しました。


「どうでしたか」

「初めて見ました、綺麗でしたね」

「アレっすね、後であの温泉に変えて入りましょうよ」


「ですね」

「魔王の持ち出し許可を、買い出しを任せて下さい」

「大丈夫なんすか?」


「回復しましたし、買い食いとかもするんで」

「あぁ」

「どうぞ、宜しくお願いします」


 祥那達が浮島の設定や温泉の事を聞いている間、花子が真っ先に買い出しに行ったのは問屋街。

 七輪や鍋を買い、ついでに便器とキッチン用の蛇口を。

 布団屋では敷布団やスベスベのお布団を3セット買い、地方に行き炭と薪を買った。


「ただいま帰りましたぞ」

「お布団とか買ってたんですよー」

「おぉ、炭もっすか」

「お願いしようと思ってたんです、ありがとうございます」


「もしキッチンが出来たら、明朝にでも調理をと思ってたんですが」

「またお呼び出しするのもアレっつうか」

《我らの方に任せて欲しいんじゃけど?》

「お願いします」


 すると突然外が騒がしくなりました、外を見ると屈強な男性達がわらわらと。

 そうして花子が買って来た物を使い、離れを作る事に。


『アレだな、渡り廊下を作るか』

『トイレはココで、キッチンは向こうで』

『おい兄ちゃん、何か要望は有るか?』


「いえ」

「ワシは2階建てが良いです、個室と、個人用のシャワールームに密閉型の石暖炉」

「滅茶苦茶言いますね」


『おうおう』

『それ位はチョロい』

『そうだそうだ、モノを請うならこうでないとな。がははははは』


「良いんすね」

「お願いします」

「やったぜ」




 何と言う事でしょう。

 母屋の雰囲気を壊す事無く、テラスから母屋へと渡り廊下が繋がり、一体感は完璧。


 そして独立した厠や個室で、プライバシーも完璧な出来栄えに。


「何か、旅館っつうか別荘地っすよね」

「ですね」

「我儘を聞いて下さってありがとうございます、どうぞ」


『酒だ!』

『つまみだ!』

『宴会だぁあああ!!!』


 そうして大盛り上がりの中、囲炉裏小屋を作ってくれた神様へ、花子が改めてお礼を言いに行き。


「何か、飲まされてるんすけど」

「嫌がってなければ良いんですけど」


 花子が心配で観察していましたが、どうやら何かを相談しているらしく、神様達がうんうんと頷いていた。


「度胸っつか、親戚のオジサン感覚なんすかね」

「良いんでしょうかね?」

《神によるが、忌み嫌われるよりは良いじゃろう》

『崇め奉られるだけでは、まぁ、つまらんな』


『だな、無駄に恐れられてもだ』

『そうなって話が出来ん方がイラつく』

『そうだな、少なくとも俺らは、希望を盛り沢山に言ってくれる方が面白い』


「津井儺さーん、我々も魔道具を作り出せるかもですー」


「何か、とんでもない情報得てるんすけど」

「どう、作り出せるんでしょう?」


 花子が言うには、魔力が循環すれば魔道具になる、と。

 試しに花子の私物で試すと、蝋燭の蝶々が発光し、動き始めた。


「作ってる時ってどんなんか聞いたら、イメージらしいので、出来るかなと」

「で、出来ちゃうんすねぇ」

「綺麗ですね」


『貢ぎ物に、最高過ぎだろ』

『蝋が光るのが特に良い』

『次の貢ぎ物が決まったな』


「あの、僕のじゃなくても良いんでしょうか」

『お前の従者、だろう』

『お前がそう認めるなら、だが』

『お前はどうなんだ?』


「苗字、津井儺にでもしておきます?」

「な」

「まぁ、確かにショナさんのモノにはなるんすよねぇ」


「戻っても記憶も戸籍もまっさらになるでしょうし、まぁ、半ば冗談ですが」

「半分なんすね」

「その、戻った場合桜木さんはどうなるんですか?」


「状況によってどうするかは考えます、厄災が終わってはい、おしまいとなるのが理想なんですが。そうならなかった時は利用させて頂きます」

「あぁ、そこまで考えてるんすね」

「その、それでは過負担なのでは?」


「身を守る為に、半ば私的利用の目論見を含んでますから」

「でも、結婚したら他の方と」


「そこは臨機応変にしますけど。あ、コレは強制でも無いですし、半分は冗談ですからね?少なくとも従者は自分の所有物だと思って頂けるなら不要な行為なんで」

「そうっすね、俺らを手足と思ってくれて良いんすよ?」

「まぁ、はい」


『なら、お前がソレを収納しとけ』

『譲渡も正式な儀式の1つだ』

『ストックを作っておけよ、不要になれば返還したら良いさ』


 そうして今度は蝋燭屋へ買い出しに行く事に。


「まいどー」

「もう、それはコッチの台詞なんですってば」


 昔馴染みの蝋燭屋へ。

 もう爆買いです。


「ふぅ」

「加減無しっすね」

「これからも宜しくお願いしますね」

「はい!」


 そうして今度は百貨店の屋上へ。


「もう、馴染みを回ってる感じっすか?」

「ワシの世界は狭いので、ご紹介出来る限界はココまでです」

「素敵な場所ですね」


「そして美味い」


 お雑煮やナポリタンを食べ、百貨店でお買い物。


「あぁ、向こうのの高級版って感じなんですね」

「直近の転生者の方が考案されました」

「何で今まで無かったんだって感じっすよね」


 そうして改めて服や靴や下着を買っている間、花子は地下で飲食品の買い出し。


「ロボット、便利ですね」

「つかショナさん、さっきの何で断っちゃったんすか?」


「へ」

「受け取り方次第ではプロポーズっすよ?」


「いや、でも」

「あ、楔の事を気にしてるんすか?なら気持ちを確認すれば良いかと」


「その、もっとちゃんとした」

「守る為にも、良いと思ったんすけどね」


 確かにと、自分の立場を使って守れる時が有るかも知れない。

 けれど、そんな風に結婚を利用したく無い気持ちも有って。


「僕の理想としては結婚を利用しないで済む世界になって欲しいんです」

「あぁ、マジで真面目で完璧主義、似てて良いと思うんすけどねぇ」


 恋もした事が無いのにと。

 ただ同性に言うのは何だか気が引けると言うか、恥ずかしいと言うか。

 コレが、プライドなんだろうか。




 そして今度はドラッグストアへ。

 シャンプーや石鹼を嗅ぎ比べる事に。


「ワシのオススメ」

「あ、匂いがイケメンっすね、何か嗅いだ事が」


「洗い心地も良い、家に置いてる」

「偶にこの匂いさせてたのって恋人さんじゃ無かったんすね」


「アレやねん、匂いの感じ方が変わるから限られるねん」

「あぁ、偶にずっと麺類なのそれなんすね」

「何か体調が?」


「女の子の日ですはい」

「んで、俺が集中してないと男の子の日だろうって誂ってくるんすよねぇ」


「日頃はコレ、気分で使い分ける」

「滅茶苦茶女の子っぽい匂いっすよね、ほら」


 赤面する祥那に、ココで賢人は花子へ気が有るなと思い、花子はノンセクとかじゃ無いんだなと思い。

 祥那は初めて香りを嗅いでドキドキしたなと思いました。

 そして2人は、生暖かく見守る事にしました。




「じゃあ、ベガスに戻りましょうか」

「あ、服、忘れてました」

「盛り沢山だったっすもんね」


「賢人君や、水着は買わせたかね」

「バッチリっすよ、桜木さんは有るんすか?」


「備品にな、一応女子なんで非常時用にと詰めといた」

「流石っす」


 そうしてベガスへ戻り、本格的な夕食へ。

 魔王は浮島でお留守番。

 ミーシャやサイラとも食事をする事に。


「ミーシャさん、菜食なのね」

「はい」

「ミーシャは脂やタンパク質の分解酵素が少ないので、お魚なら大丈夫ですよね」

「サイラさんは何でも食えるんすね」

「ネイハムさんはどっちなんでしょうかね?」


「ネムちゃんは何でも食うけど、食うの忘れる、過集中やねんなアレ」

「あぁ、お世話になっております」

「ネイハムの知り合いなら、マーリン様のお話は聞けてますか」

「それ俺も聞きたい」

「お願い出来ますか?」


 そこでマーリンの悲劇が語られる事になった。

 悲惨と言うか、悲恋と言うか。


「すみません、またしてもこの世界の暗黒面を紹介しました」

「でも温泉最高だったっすよ」

「良いお話も有りますよ、少なくとも女性同士での婚姻と生殖は叶いますから」

「ネズミのカグヤのお陰だそうです」

「良い面だけを知るより、僕には有益だと思うので大丈夫ですよ」


 そうして夜はココで眠る事に。

 部屋には祥那と魔王と賢人、浮島には女性陣。


「何か、修学旅行っぽいっすよね」

「ココもそうなんですね」

「あぁ、やはり人間らしい生活をさせるべきなんですかねぇ」


「その、拾った経緯をお聞きしても?」


「ボロボロで、すっかり痩せてて、私を見ても驚かなかったので、拾って育てました。人里から離れてたので、多分、召喚者なのかもと。ですが幼いので、そのまま届け出も無しに育ててました」

「あー、理由は分かるんすけど」

「その、予防接種とかは?」


「させて無いんです」

「え、不味いっすよ。従者には子持ちも居るんで」

「連絡は来てますか?」


 幸いにも元気だそうで。

 ただ、予防接種をさせないワケにも行かず。


「魔王の覚悟次第やで、人を信用するか、子供が病気になったら代わってやるか」

「そう代われたら良いんですけど」

「その、ネイハムさん達に任せる事も難しいですか?」

「桜木さんを匿う位なんですし、どうなんすか?」


「寧ろ、過負担になるのではと」

「いや、大丈夫じゃろ、行くべ」


 そうしてリサとルカを北海道の病院へ連れて行く事に。


《どうも初めまして、エルフのネイハムと申します。このお爺さんより、私は年上なんですよ》

「コッチは五十六先生、どっちが良い?」


「「コッチ」」

《はい、ではご案内致しますね》

「宜しくお願い致します」


「桜木さんのメンクイって、あの先生のせいっすかね」

「否定は出来ないな」

「はぁ、にしても元気そうで良かったよハナちゃん」


「おう、良いもん食えてますんで最高ですわ」

「良かった良かった、昔はねぇ、もう細くて細くて」


「それよりよ、あの子達」

「大丈夫、普通の子として登録するよ」

「はい、宜しくお願いします」

「っす」


 それからやっと、ベッドで眠る事に。




 あっと言う間に朝になり、先ずはディナーバイキングへ。

 そうして今度はハバスへ。

 神様から良く備えろと言われ、祥那が導き出した答えは、やはり神様同士の連携だった。


「桜木さん、オススメは有りますか?」

「インカですかね、蛇が大丈夫ならですが」

「珍しい所を推すんすね」


「魔石持ってそうなので」

「そこなんすね」


 そうしてインカへ。

 半ば人間によって追い立てられたのにも関わらず、神々が歓迎してくれた事に花子は感動した。


「取り敢えず土下座させて下さい」


 神々や祥那が止めた事で何とか収まり、話は神々同士の交流へ。

 ココでも合意を受ける事が出来たので、交流場所は浮島でと言う事になった。


 そうして次はフィンランドへ。


「ココは?」

「ユグドラシルっすか?」

「トリックスターはちょっと後回しで、魔道具の神様が居られると踏んでます」

《ロウヒじゃろかね?》


「ドリアード、なんで無許可やのに」

《北欧も我の範囲じゃもん》

「結構、初動で良いキャラゲットしてるんすね」

「ですね、案内をお願い出来ますか?」


 そうして先ずはロウヒへ。

 花子がイルマリネンの事を突っ込み、賢人はもしかして思い合ってるのかも知れないと思い。

 祥那はほっておくべきか悩み、花子は会いに行くべきだと勧めた。


「良いんすかね、神様の恋路に茶々入れるなんて」

「茶々では無くて補佐や」

「兎に角、お話を聞いてみましょう」


 そうしてイルマリネンに話を聞くと、どう考えても思い合ってはいるんだなと3人は理解した。

 そしてどうしたものかと。


「あ、ちょっと行ってきます」

「桜木さん」

「あー、俺分かったかも。待ってれば大丈夫っすよ、多分」


 そうして花子が男の姿でロウヒを抱えて来た。

 そのまま目の前で口付け様とすると、イルマリネンに口を塞がれた。


『参った、僕に彼女を返しておくれ』

「どうしますかロウヒさん」

《そうね、渡してくれるかしら?》


 何でも、柏木の家の隣に住む小雪と言う幼馴染が居るそうで、その子がお姫様になりたがっていたのがヒントになったと。


「ふぅ、何とかなって良かったわ」

「ぶっ殺されるかもって考えないんすか?」


「片腕は覚悟した」

「そう治せるからって無茶はしないで下さいね?」


「おう」


 こうして神々を繋げ、成果を持って鍛冶神達の里へ。




《お、マジで宇宙のか》

《取り敢えずは磨くか》

《だな、何か欲しいモノでも考えとけ》


 そうして初めて武器を要求すると、ベリサマが案内してくれる事になった。

 倉庫ごと貰い、色々と試してみる事に。


「やっぱり銃なんすね」

「刀剣等は練習して無いので」

「アレよアレ、アクトゥリアン」

【はいはーい?】


「飛ばせない?射出」

【イメージして頂ければ可能かと】

「ショナさん、頑張って妄想して下さい」

「妄想って」


 同僚のゲームで、確かに武器を異次元から飛ばしていたのは見た事が有るけれど。


【それですね!了解でー】


 そうして亜空間から武器が射出、そうして今度は地面に刺さった刀剣達が地面に飲み込まれる様に収納された。


「おぉ、しゅごい」

「桜木さんのお陰です、ありがとうございます」

「コレ、俺らも使えたら良いんすけどねぇ」


《おーい!もう出来上がるぞー!》


 真っ青でキラキラした魔石、海と空の様なコントラストの魔石。

 様々な寒色系の魔石が揃うと、同行していたウルカグアリーが話し掛けた。

 やはり自分もお嫁様が欲しいと。


「タマノオヤさんの近くに、蛇神様が居るかと」

「じゃあ行ってみましょうか」

「うっす」


 従者用の魔道具をお願いし、島根へ。

 お互いに一目惚れだろうと分かる雰囲気だったので、暫しの逢瀬の間に金山彦神の神社へ。


「ワシ、女なので待ってます」

《じゃあカールラも待つの》


 そうして神様からヒヒイロカネを貰い受け、連携にも賛成して頂いた。


『向こうも、話がまとまったそうだ』


 クエビコ神に言われ神社へ戻ると、結納の品が並べられていた。

 そうして先ずは浮島へ。

 そのまま婚礼の儀が執り行われる事に。


「良いんでしょうかね」

「沢山の方に祝われる方が良いかと」

「そうっすね」


 チチャを飲み交わしていると、あのノームが現れた。


「変・身」

「ポーズ完璧っすね」

「お礼が遅れてすみません、コチラでどうでしょうか?」

《おう、男はエエねん、男は》


「中身が女でもエエの?」

《せやろが、ケバケバしい毒ガエルとアマガエルちゃんやったらアマガエルちゃんやろが》

「マジでガワなんすね」


 祥那は以降の召喚者にも普及させるべきで、それこそ従者にも、果ては民間にもと思ったが。


「この魔道具、普及させるデメリットって何が思い付きますか?」

「恋愛でしょうな」

「そうっすね、嫉妬心が全包囲になりそうっすね」


「あぁ、友達だって行っても嫉妬深いと信用されないとかですかね」

「でもそれって、今も既に女性同士のケンカの常套句ですけどね」

「それが男同士にもって感じっすよね」


「でも、男性同士でも、妊娠って可能なんですか?」

《長期間付けりゃな》

《そうなると、取れても問題は無いだろうが、臍や耳は危ないな》

《だな、舌用も作るか》


 そうして花子が試す事に。


「あの、もっと言うと中性体にもなれるのが欲しいんですが」

《あぁ、身を守るには確かにな》

《こう、目盛りを付けるか》

《ココをこう》


 そうて3種類の体になれる魔道具、2種類になれる魔道具が完成した。


「ふぅ、ワシは食うのに邪魔なので臍で良いです」

「元が女性なら付けないで良いっすもんね」

「男性なら舌、女性ならお臍か、好みで選ぶか、ですね」


「普及させるには解析させる必要が有るんですが」

《おうおう、イルマリネンを懐柔させた礼だ》

《俺らはどうにかしたくても出来なかったんでな》

《仲間が増えた礼だ、人間にもギリギリ作れる様にしといてある》


「ありがとうございます」




 そうして今度は省庁の隣へ。

 先ずはリズに会う事に。


「何か、普通だな」

「何だよリズちゃん、可愛いでしょうが」


 祥那は社交辞令なんだとグッと堪え、賢人はニヤニヤしていた。

 そしてリズは成程なと思った。


「で、魔道具だったか?」

「おう、君も欲しがる筈だ」


「ま!」

「マジだが、普及してもだ、未成年の使用はイカンだろうよ」


「うぐぐぐ」

「まぁまぁ、解析頼むよ」


 そうして一通りの魔道具を預け、申請する事に。


「はぁ、俺の救世主様だったか、感謝する。普通とか言ってすまんかった」

「リズちゃん、元が男の子やねん」

「そうでしたか、なら不安でしたよね」


「おう、コイツ酷い方だからマジでビビってたんだわ」

「さーせん。あ、体質知ってるから大丈夫、味方に引き込もうと思って直ぐに言ったねん」


「痛みで起きるとかマジで有り得ねぇ」

「あの、直ぐに治さなかった理由は?」


「まぁ、体験してみないとね、科学をさ」

「1年だったっけか、もう見てる方が辛かったわ」


「どうして、そこまで」

「体験しないと分からないじゃん、痛みとか不便さって。ズルっこ出来る余裕が有ったから耐えられたけど、しんどいわな」

「だから余計に、なんですね」

「その、神様を頼るとかって、出来る様になんないんすかね?」


「ワシも考えたけどさ、科学の衰退は願って無いのよ。何なら引き続き進歩して欲しい、けど、科学が追い付くまで、何年掛かるのって思うよね」

「その、神様も選り好みされる方も居ますし、願い請われるのが嬉しいみたいですし。兎に角、話を聞いてみたいと思うんですが」


「なら、オススメが有りますが」

「はい、お願いします」


「よし、リズちゃんも来い」

「え、俺も?」


 花子の意図は直ぐに分かった。

 神々がどれだけ人間の事を考えているか、自力で頑張る姿勢が大事で、それを支援する事が喜びなのだと。

 少なくともこの目の前に居る神様エンキ神は、そうなのだと。


「泣くな、ワシもフォローするでな」

「おぅ」


「あの、ご協力をお願い出来たらと思っているのですが」


 エンキ神も神々の情報交換には同意したが、浮島が狭い、と。

 そして倉庫のエリクサーをやるから、もう少し広々と出来ないものかと。


「ワシの力でも良いなら」


 寧ろココの人間が出来る事ならすべきで、ある意味でそれを助力するのも召喚者の使命であったりもすると。

 祥那は改めて花子に頼み、浮島を拡張させる事になった。




 ただ浮島を拡張させる筈が、植物が育ち、妖精が生まれた。


《命を促すのは、植物であっても同じ事ですから》

「おぉ、お花屋さんし放題やんな」

「でも桜木さん虫ダメじゃないっすか」

「そうなんですね、ふふ」


 そうして花子が休み休み浮島を拡大させる間、祥那と賢人は次の神様、トール神の元へ。

 初めてユグドラシルへ足を踏み入れると、大きな鴉のフギンとムニンに案内されながら、ヴァルハラへ向かった。


 そうしてアッサリと了承を得ると、ドリアードが鼻歌を歌い始めた。

 花子から魔素が溢れ、影響を及ぼしたのだ。


「マジっすか、誰か」

「その、こう言った事に詳しい方って」


 エイル神に事情を話すと、偶に居る体質なんだそうで。

 霧散を待てば問題無いとの事だった。


 だが暫くは立入禁止、花子は1人で過ごす事に。


【すみませんでした、前は腹痛だった筈なんですけど】

「そうなんですね、痛みが無いなら安心です」

「そうっすよ、久し振りの1人はどうっすか?」


【そら寂しいですよ、多少】

「桜木さん、嘘を言って貰っても良いっすかね?」


【ハンバーグ嫌い】


 魔道具の通信機経由でも反応した。

 コレは便利だと思ったけれど、一体、どう活用したものか。


「どうもっす、じゃあコッチは休暇にしましょうか」

「あの、刺青を入れたいんですが」

『あら、じゃあ私が手伝うわよ?』


 こうして、祥那は神域でエルフと神様に刺青を入れて貰う事に。

 まだ何処かで異世界だと実感出来て無いのか、異世界だなと思った。




 そして刺青が終った頃、花子の魔素も消え去ったと連絡が来たので戻る事に。


 どれだけ頑張ったのか、アヴァロンやユグドラシルの様に広大な浮島へと変化していた。

 そして木々には実がなり、味見していると聞き慣れぬ声が掛かった。


『ココ、誰が作ったの?』

「ワシですが、そも貴方様は」


『ロキ、結婚して』


 眉目秀麗な男神ロキが、花子の手を取り求婚をした。


「あの、厄災が終わってから考えるのでも良いでしょうか、なんせ従者なので」

『うん、待つ待つ。あ、君が召喚者?』


「そうですが」

『この子頂戴?』


「あの、僕は」

『好き?』


 黙ってしまった。

 好きとは何なのかもまだまだ分からないのに、好きかどうかなんて。



「そんな事を考える間も無くお忙しくされてるので、邪魔するならお断りしたいんですが」

『ごめーん、そうだよね、まだまだ赤ちゃんだものね。ごめんね』


 花子が何とかロキを引き剥がし、どうすべきかの相談へ。


「なんか、思ったよりチャラいっすね」

「ですが、悪い方では無いんですよね?」

「そも、ラグナロクが人間側と同じなのかを確認したいんですが」


「あ、確か……」


 ロキの立ち回りにより、ラグナロクは演舞で終ったと。


「フギンさんとムニンさんにお会いしたいんですが」

「お願い出来ますでしょうか」


《任せるですぞー》

《凄い森ですぞー》


『あ、フギンとムニンじゃーん』

「何か、伺い知れると言うか」

「お察しって感じっすけど」

「一応、確認しましょか」


 ロキへの情報共有は、少なくとも北欧では御法度。

 ロキと人間の為、利用し合わない為、互いに興味を引かせない様にと。


「その、具体的な弊害は?」

《不幸の鈴持ちなんですぞ》

《何某か不幸が訪れるんですぞ》

「え、帰れ」

「ちょっと、魔道具がぶっ壊れるのは困るんすけど」

『えー、でも神々のなら大丈夫だと思うけど』


 どう不幸が訪れるのか。

 今回は花子の魔素を引き出す結果に。


「もう嫌や、帰れ」

「おぉ、キラキラ凄いっすね魔素」

「え?」


 取り敢えずはロキを連れ、ヴァルヘイムへ。

 そうしてココで祥那には魔素が見えない事が確認され、将来的にも見える事が無いと発覚した。


『災い転じてって感じじゃない?』

『ごめんさなさいね、鎖を付けるワケにもいかなくて』

「あの魔素が見えた方が良いと思うんですけど」

「そうっすよねぇ、魔道具っすかねぇ」


『あ、ならこんなのはどう?』


 それは眼鏡。

 そしてフギンとムニンの案内で魔道具の神々に会いに行くと、そこは鍛冶神達の居る里だった。


《あぁ、繋がってるんだが》

《どうした》

《良いから言ってみろ》


 そうして魔道具で眼鏡も制作する事に。

 そこで花子の相談をしたのだが、もう体質なので遺伝子レベルで作り変えるか、死ぬ以外に方法は無いと。




【まぁ、追々、困ったら変えるつもりですが】

「あ、強制と言うか、もし困ったらなので」


【おう、どうもです。ご迷惑をお掛けしまして】

「いえ」

『もう大丈夫だろう』


 そうして眼鏡姿の祥那を、花子は拝んだ。


「桜木さん眼鏡フェチなんすよね」

「有り難いねぇ」


 流石にお世辞として片付けるワケにもいかず、眼鏡ごと顔を覆ってしまった。


「あ」

「慣れないウチは少しずつですな」

「そうっすね」


 花子は祥那からの好意を危険視した。

 独占していると嫉妬される事への警戒は勿論、もっとこの世界を良く見てから考えて欲しいから。

 自分よりも良い人間は沢山居る、だからこそ。


「そろそろ、ワシ交代しますよ」

「え」

「桜木さん」


「ご迷惑もお掛けしましたし、ほら、女なんで」

「あぁ」

「でもっすよ、他にって」


「多分、ジュラさんかと、ただ」

「結婚控えてるんすよねぇ」


「それか、華山さんですかね」

「あー、ぶっちゃけ俺は近付けたく無いんすけど」


「自分達とは合わないにしても、津井儺さんには合うかもですし」

「寧ろ元教官の方が良いと思うんすよね、似た感じだし」


「確かに、そう話してみましょう」


 そうして元教官が従者になる事に。


「こう、元教え子と組むとは感慨深いですね」

「俺は緊張するんすけど」

「宜しくお願い致します」


「はい、宜しくお願い致します」


 少し母親と似ているから落ち着くと言うか、少なくとも花子の様に心を動かされる事は無くなった。




 そうして武光が来て中つ国へ向かい、シェリーと瑞安が随行する事になった。

 だが花子の時とは違い、女性らしさが悪目立ちすると言うか。

 随分と花子は控えめに接していてくれたんだなと実感した。


 そして武光と訓練をする中で、エミールが来た。

 先ずはエイルの元へ。

 だがどうしても怯えてしまって、診察すらも受けてくれない。


「アレ、病院が怖いのかもっすね」

「あぁ、こう言う場合はどう説得すべきなんでしょうかね」

「私としましては、適任者を呼び寄せたいのですが」


 そうして教官によって花子が呼ばれると、数々の病気や怪我を羅列し始め。

 噓発見器のピアスを付けさせる事で、信頼を勝ち得た。


「マジで病気辞典かって位に病弱だったんすね」

「まぁ、病気なら治療方法は有るけど、病弱って病気は無いからね。神様にも祈りまくってたわ」

「あの、お休みの日なのにありがとうございました」


「いえいえ、つかお休みされました?水着使ってます?」


「聞いて下さいよ桜木さん、マジ真面目でココとかで武光さんと訓練ばっかなんすよ」

「はい、またこれから」

「イカンな、実にイカン。教官、隠密で市井をお勉強頂きたく」

「良いでしょう」


 合コンの約束をしていたそうで、祥那と賢人を連れて参加する事に。




《あ、賢人君も参加んですね》

「すまんね、道端で会って。奪い合いが発生する方が女子には効率的かと思って」

《確かに、しかも賢人さんは初めて会うし、私は大丈夫だよ》


「あのキツい感じの美人さんが、華山さんなんすけど、まぁ、俺は黙っておきます」


 賢人が黙る、と言った理由が分かった。

 祥那としては一般的で平均的な、前の世界に良く居る感じなのだが。


 ココでは微妙に浮いていると言うか、悪目立ちと言うか。


「あの、ちょっと僕には無理かもですね」

「桜木さんを見習って欲しいんすけど、何か目の敵っつうか、張り合うっつか。本人は違うって言うんすけど、一々柔らかい小さな棘が有るんすよね。正論だけど、何かって感じで」


 何処か批判的で、時にはキツい物言いで。

 本人は確かに誤解され易いと言っているが、そもそも意味が違うと言うか。

 当人が使うべき言葉と、他者が使っても良い言葉の区別が曖昧なのだなと思った。


 そして華山は花子が気遣う祥那へと、接近する事にした。

 あの花子が連れて来たのだから、自分も話してだと、そういった気の使い方をする子だった。


《お酒飲めないんですか?》

「ザルでは無いですね」


《私もなんですよー》

「そうなんですね」


 こうして会話が途切れ途切れに。

 前にも良く有った事で、祥那は今までなら気にしなかったが。


 花子なら、途切れる事は無かったなと、そう花子を見てしまった。

 それに華山は気付かぬまま、奥手そうな青年に話し掛ける。


《あの、ご趣味ってなんですか?》

「今は、神話や神様について調べる事ですね」


《あー、桜木さんもそうなんですよね、オタクっぽく無いから他の事を言った方が良いですよ》

「そうですか」


《お洋服もお洒落なんですし》

「コレは賢人君に選んで貰ったので」


《そうなんですね、もし興味が無いなら私に選ばせてくれませんか?自信有るんですけど、どうですか今日みたいな私の服装って》

「お似合いかと」


《若いんですし、女の子って特に、地味なのは老けて見えると思いませんか?》


 誰にどうと言ったワケでは無いし、実際にはそう思ってもいないのかも知れないけれど。

 花子以外は本当にカラフルで、聞く人間が聞けば花子への嫌味だと思うだろうに。


 だとしても、花子は紺色のゆったりしたセーターにパンツスタイル、でも背中が空いてて控えめだけど可愛らしい格好をしてる方で。


「桜木さんの格好でも、充分可愛いと思いますけど」

《あー、シンプルなのがお好きなんですね》


 スカートの裾を永遠に気にされたり、ブラの紐が見えるよりは遥かにマシだなと思ったけれど、言わなかった。

 言って話を繋げられる事が嫌だった。


 そしてこう黙っていても、無意識な誰かへの当て擦りや批判。

 前なら気付かなかったけれど、コレって異常なんだなと祥那は思った。


 そして、同僚に連れて行って貰ったお店に居るみたいだと、楽しく無かった思い出を思い浮かべていると、賢人からの手助けが。

 連れションがこんなに救いに思えるとは。


「助かりました」

「席替えさせるんで、どんまいっす」




 そうして今度は花子の幼馴染、小雪の隣へ。

 更にその隣には賢人、目の前には華山香、花子は1番遠くで楽しそうに過ごしている。


《ハ、花子の幼馴染なんだけど、何か聞いてたりしてる?》

「お姫様の話は、少し」


《あー、そこかぁー、まぁ良いや。それで靴屋さんなのよ私》

「もしかして、ガラスの靴ですか?」


《そうそれ!やっぱり単純かなぁ》

《えー、もしかしてまだそう思ってるんですか?》


《え、ダメ?》

《あ、いえ、可愛いらしな思いますけど》

「そうっすよ、夢は自由だし。可愛いっすよね、お姫様とか、憧れるのも分かりますよ」


《ですよね、お姫様可愛いですよね》


《お姫様を目指してるって言うか、王子様が来てくれるお姫様みたいな女の子、だったんだけどねぇ、靴屋さんになっちゃった》

「靴屋のお姫様って可愛いと思うんすけどね?」

「はい、素敵だと思いますよ」


 非常にやり辛い。

 本人に悪気が無さそうだし、雰囲気を壊すワケにもいかないし。


「んで、お姫様にも色々と居ると思うんすけど」

《花子もそう言ってたんだけど、やっぱり白馬の王子様がワンセットなのよねー》

《なら乗馬に通ったら直ぐですよねー、ふふ》


《あ、うん、もうとっくに通ってるけど。華山さんからしたら私ってそんなに努力して無さそうに見える?》

《いえ、そんなつもりは》

「芦毛ってレアなんすよねぇ、真っ黒はダメなんすか?」


《真っ黒も、最近は格好良いなって思うのよねぇ、って言うかお馬さんの艶々感って良いよねぇ》

《あ、賢馬ハンスって知ってます?答えが分からないのに周りの空気を読んで答える馬が居て》

「そうなると、小雪さんは男らしい人が良い感じっすか?」


《うん!》

《夢占いでも馬って男らしさの象徴なんですよね》


《へー》


 時として話題に乗り遅れたり、ズレたり。

 自分も気を付けないと。


《あ、の、乗馬って》

《障害物、趣味程度だけだから王子様が来ないのかな?それとも他に原因が有りそう?》


《いえ、別にそういうワケで言ったんじゃ》

《本当に?初対面だからこそ分かる事も有るだろうし、ハッキリ言ってくれて大丈夫だよ?マジで真剣に王子様を探してるし》


《いえ、素敵ですよね、馬に乗れるって》

《大した事無いよ、香さんの趣味は?》


《お料理です、ハンバーグとか、あ、この前は茶碗蒸しも作りましたよ》

《へー、凄いねー》


《小雪さんは?》

《和洋折衷は一通り制覇したよ、花子と。それとケーキとかお菓子作りも、美味しいんだよ花子のお菓子も料理も、和食なんかもう計量無し》

「アレ計量無しなんすね、マジで美味いんすよ、何かお母ちゃんの味がするんすよ」

「食べてみたいんですけど、タイミングが無いですよね」


《じゃあ、今度私が》

《じゃあショナ君の知らなそうな料理対決ね、メジャーな料理って誰でも出来るし》


《それって私への嫌味ですよね》

《へ?どれの事?》


《メジャーな料理って誰でも出来るって》

《一般論じゃない?》

「そうっすよ、好みで分かれる対決より逆に公平で良いと思うんすけどね。料理自体を評価するなら」


《別に、私は自慢出来るって言いたいワケじゃ》

《そうなんだ、私も》


 自分の攻撃性には鈍感で、けど他人からの攻撃は過敏に受け取る。

 もし平坦な世界で生きていたら、僕もこうなってたのかも知れない。


《あの、私何か》

《私、ちょっとお手洗いに行って来るね》

「うっす」


《なんか、怖い人ですね》

「そうっすかね、俺らはハッキリ言ってくれる良い人に思えますけど。折角だし、少し席替えしますか」

「はい」




 そうしてやっと花子の近くへ。


「クッソ可愛いでしょ、河川敷で拾って来たんだよ」

『眼鏡掛けて?それとも裸眼で?』

「眼鏡は付けてませんでしたけど」


「可愛いからワシが無理矢理付けさせた」

『マジで眼鏡フェチじゃんか!凄いなぁ、俺はそんな好みとか無いからなぁ』


「なんと服は賢人や、アイツのセンスが怖い」

『あ、合コンデビューおめでとう、乾杯!』

「あ、どうも」


『大丈夫だって、俺ら異性愛者だから取って食わないって』

「分からんぞ、背中にチャックが有って中には美少女が」


『あー、コレは間違い無く可愛いわ』

「それは訂正しろよ、どっちでも間違い無く可愛い」

「あの」


『あぁ、真っ赤じゃん自分、ピュアっピュアで可愛いねぇ』

「お、自称異性愛者の仮面が」

「え」


『冗談冗談、怖く無い、怖く無いよ』

「加減してくれよマジで。コッチ来るかい、保護してやろうか」


『もうこうなったら席順とかどうでも良いから大丈夫、移動してええんやで』

「ありがとうございます」

「勉強ばっかだったみたいで、河川敷で黄昏れてたからナンパしたんよな」


『あれ?さっきはダンボールに入ってたって』

「ダンボールに入って黄昏れてた、勉強道具を抱えて」

「僕、そんな設定なんですか?」


「お金持ちの箱入り息子とかにしとく?」

『あー、慣れてからの方が良いよそれ。マジで血眼になって来られたら引くでしょ君』

「あぁ、まぁ、多分」


「それか、実は王子様になる呪いを掛けられたお姫様で、最近成人したから結婚相手を探しに諸国漫遊を」

『それ!途中アレじゃん、何だっけ、映画の』


「月の王子様ニューヨークへ行く」

『それ!良く覚えてんなぁ』


「ママンが大好きやねん」

『ママンて!まだそんな呼び方してんの?』

「あの、お知り合いなんですか?」


『実は生き別れの』

「初対面だわ、似て無さ過ぎるべや」


『生き別れの姉の、子』

「他人が聞いたらうっかり信じそうだなおい」

「ふふふ」


「ほら可愛いでしょ、寝顔が特に最高」

『おまっ、寝顔を見る仲かよー』


「河川敷で勉強道具を抱いてダンボールの上で寝てた」

『酷くなってるぅ!不満ならしっかり言うんだよ?俺は王子様だって言っても良いんだかんね?』

「いえ、猫扱いで良いですよ、ふふ」


「寧ろ犬やろ、完璧に訓練された、シェパード」

『ドーベルちゃうんかい』


「ドーベルには色気が有るやろ」

『はー、このオバちゃんどこまでも変態だねぇ、怖いねぇ』

「いえ、凄く楽しいです、ふふふ」




 そうして楽しくしていた場に、華山が花子の隣に座った。


《楽しそうに何を話してたんですか?》

『君が凄く美人さんだねーって、ねー』

「可愛いワンピースですねーってー」

「はい」


《そうなんですね!ありがとうございます、五里山さんはこう言うのが好みなんですか?》

『うん、もう俺ブリブリの甘々が好き、女の子らしくて可愛いねぇ』

「だね、魅力全開ですな」


《でもショナさんは桜木さんみたいに大人しいのが良いって言ってたんですよね》

『ババァは胸がデカいから地味で丁度良いんだよな』

「ファンタスティックが詰まってますからな」


《え、そんな話してるって、もしかして桜木さんの好みなんですか?五里山さん》

「大きいしデカいからマジ無理」

『食い気味で即答ぅー』


《なのに、もうそう言う事を言っちゃう仲なんですね、ガッカリ》

『俺のサイズと教え合いっこしただけなのにねぇ、酷い言い方だねぇ』

「良いんです、私がそう見られてるばっかりに、うぅ」


《そん、そんなつもりじゃ無いんですよ、冗談なのに》

『実はそんな仲なんだ、前世で』


《あー、そう言うの信じちゃう方だから、桜木さんとも話が合うんですね》

『え、君、マジでこの子嫌いなん?』


《え、いえ、別にどうとも思って無いですけど》

『大丈夫大丈夫、飲み席だし言っちゃえって』

「つか、どうとも思って無いって言い方も酷く無いっすかね?」


《そうは思って》

『俺らは味方だから大丈夫、職場が一緒なら言うべき事も有るんだしさ、ね?』

「おう、ばっちこい」


《寧ろ心配してるんですけど、陰でコネ入社だとか、能力が有るけど、差が激しいとかって言われてるので。フォロー出来たらなと、思ってますけど》

『マジかー、クソだなー。偉いねぇ、フォローしようと思ってんのぉ』


 華山の言葉に嘘は無かった。

 けれど、本人に嘘の自覚が無ければこの魔道具が効かないのだと改めて体感した。

 そしてコレが花子の作戦だったのなら、凄いなと。


「でもなぁ、コネじゃないし、能力は才能の部分が有るしなぁ」

「小さいのはどうにも出来無いっすもんねぇ」

《でも、牛乳を飲むとか》

『やってないのぉ?』


「下痢するからヨーグルトで、お陰でプレーンの飲むヨーグルト嫌いだわ」


《それこそ、運動とか》

『それもしてないのか君はぁ』

「俺と同じ身長なら俺より早いっすよ、跳躍も多分」

「胸が邪魔で飛べないんだわ、嘘だけど」


《別に、私が言ってるワケじゃなくて》

『うんうん、そうだねぇ、君は悪く無いねぇ』


 茶化されて馬鹿にされてる、魔道具を使わなくたってこの位の嘘は見抜ける。

 なのに。


《そうなんです、そう言うの良くないって言ってるんですけどね》

『うんうん、良い子だね、そろそろお会計にするかもだから準備した方が良いかもね』


《あ、はい》


『大変だねぇ、花子は』

「そんなお兄ちゃんみたいな体で言うか」


『だって、アレがウチに居たらマジで無理だもの、良くやってるねぇ』

「まぁ、自分らに合わないだけで、誰かには合う筈だろうと」


『無い無い、変わらないと無いでしょうアレは。さっきのもう、怒られるか注意されるってなったら、目をカッぴらいてもうさ、俺怖かったもん、マジで』

「あー、初対面の人でも分かる感じなんすね」

《ハナ、私も無理》


『無理な人ー』


 まだ大丈夫そうな人は華山と。

 他は五里山や花子と飲む事になった。




《はぁ、結構コレって悲惨な合コンの方だから、忘れてね?》

「それは、すまんかった。初対面になら手加減すると思って誘ったんだけど」

『まぁ、親しくなったり慣れが出るとあんな感じになるのも居るけど、アレはねぇわ』

「さーせん、俺らのがマジでご迷惑を」


『まぁ、でもアレには合ったみたいだし、良いんじゃねぇの』


 優しくて大人しそうな女性と、少し神経質そうな控えめな男性。

 自分にはさっぱりだけれど、中には庇護欲をそそるから可愛らしく見えるんだとか。


《でもそれって、まぁ、良いか》

『そうそう、つかカラオケ来たんだし誰か歌おうよぉ』

「賢人君」

「うっす」


 2人は向こうにも有った曲を歌い、五里山は6人で歌う歌を1人で歌い切り拍手をされ、小雪は花子の流れを読んで転生者や召喚者がコピーした曲を歌った。


『はい、じゃあ次は君ねぇ』

「え」

「カラオケも初めてだもんねぇ、様子見しようねぇ」

「桜木さん完全に喋り方移っちゃってんの」

《まぁ、初めてならちょっとは甘やかしても良いけどぉ》


 席を移り、クエビコやドリアードを使って非公式に転生者や召喚者がコピーした曲も調べる事に。


「結構、有るんですね」

「はー、無益だけど有益だわ、覚えとこ」


「上手でしたね、凄く」

「ココもいじれるし、余裕っすよ」


「だけなんですかね?」

「まぁ、練習はしたよね」


「僕、一緒に行っても聞く側で、そう練習とかした事無くて」


「君、歌いたく無いんだろ」


「はい、まぁ」

「誤解を恐れず抜け出すか、歌うかだぞぉ」


「酔ったって事に、して貰えませんかね?」

「仕方無い。五里山くーん、この子にゲロさせてくるー」


『おーぅ!』


 そうして2人で店を抜け出し、賢人へ連絡。

 花子は残る事に。


 きっと五里山とは何も無いんだろうけど、もう1人、優しそうなイケメンが。


「あの」

「大丈夫、フォローは適当にしとくから」

「心配なんすよねー、イケメンさん居たから」


「あぁ、ちょっと濃いから無理だわ」

「そうなんすね、濃いのは苦手、と」


「但し、タレ目には弱い」

「あれ、あれ?」


「じゃ!」


「あれ、タレ目だったっすよね」


「はい、多分」


 そうしてユグドラシルに戻ると、エミールは武光によって部屋で寝かされた後で。

 自分達は浮島へ戻る事になった。




「桜木を復帰させますが、異存は?」

「いえ、宜しくお願いします」

「で、俺は?」


「そこで相談なんですが、年上か家庭を持つ人間の方が良さそうだと、私は考えていまして」

「あぁ、加治田さんっすかね?」


「はい」

「リズさんのお父さんなんすよ」

「でも、万が一」


「ですよね、なら土屋君が候補なんですが」

「従者オタクのオッサンなんすけど、良いっすか?」

「真面目でらっしゃるなら、はい」


 そうして朝会にエミールも同行する事に。

 まだ目が完治はしていないので、どうしようかと話していると、白蛇がウルカグアリーの嫁の返礼品を使えば、可能かも知れないと。

 そうして貝から真珠を取り出し、蓋を閉じてまた開けると、真珠が。


「コレ凄いっすね、無限なのかも」

「桜木さん、きっと大喜びでしょうね」

「婚約指輪に最適でしょうね」


「いや、そう言うつもりじゃ」

「そうでしたか、では参りましょうか」

「うっす」


 そうして再び花子に会うと、真っ先にエミールが喜んだ。

 花子もニコニコと答え、仲睦まじくも見える。


「あぁ、もうメロメロじゃないっすか、取られちゃいますよ?」


「僕は、別に」

「残らないにしてもっすよ、好意って嬉しく無いっすか?」


「でも、残らないからこそ、邪魔は出来無いですよ」

「まぁ、後は桜木さん次第っすけどね」


 そうして花子はエミールの世話をし、祥那は今日の会議の内容を柏木から聞き、賢人とリズは花子と祥那の相談をする事に。


「アレ、どうだ」

「合コンイベント、微妙だったっすね」


「イベントて、まぁ、初めてなら仕方無いだろう」

「って言うか桜木さんっすよ、どうして言わないんすかね、振り向かせちゃえば良いのに」


「俺もココは好きだが、向こうに未練が有る奴を縛っても、意味が無い処か後悔させない様にしなきゃならんだろう」

「あぁ、でも好きなら」


「なら余計にだろ、アレもアレで自信は無い方なんだぞ」

「ファンタスティックおっぱいでもっすか」


「デカいなおい」

「何かプロテクター使って抑えてるらしいっすよ、邪魔だからって」


「マジかよ、見る目が変わるわ」

「リズさん、安牌に逃げたらそこで試合終了っすよ」


「せんわ、アレは妹みたいなもんだし」

「傍から見たら、お姉ちゃんなんすけどねぇ、結構幼いっすよね」


「お前、お前はダメだ」

「俺も遠慮しますよ、同僚は無理っす」


「平凡で平和な奴っぽいから、応援してやりたいんだけどな」

「まぁ、ゴリ押しを後で知ったらキレられそうなんで、俺もそう応援は出来無いんすけどねぇ」


 そうしてどうしようも無いまま、交代の時間に。

 打ち合わせには土屋翔太、欧州からブリジットとフィラストが派遣される事になった。


『土屋翔太です、宜しくお願い致します』


 祥那は少し名前が似ている事と、従者オタクだと言う事で親近感が湧いたのだが、賢人と花子に慣れたせいなのか少し無愛想に感じてしまった。


「土屋さん、緊張してる?」

『はい、まぁ、憧れでしたので』

「そう固くならないで下さい、宜しくお願いしますね」


 違和感は直ぐに分かった。

 自身がそう見ているからか、土屋が花子に気が有るからこそ緊張し、自分には少し無愛想なのだと。


 そしてそれを花子は気付いているのかいないのか、とても親しそうと言うか、仲が良さそうに見えた。

 何なら魔王とも、エミールとも。


《嫉妬じゃろかねぇ》

「誂うなら今度にして下さい、訓練中なので」


《休憩中じゃろ》

「で、用件は」


《ルーマニアからの謁見要請じゃ、神々か精霊経由でハナの事がバレたのやも知れん》

「そ、言わないでくれと」


《我じゃないもん、それに似た性質の全く違う精霊の支配下じゃから、我らの意識を閉ざす以外に術は無いんじゃもん》

「その弊害を、どうして」


《いずれは相対する必要は会ったじゃろう》


 そうして武光やエミールも連れ、ルーマニアへ。




『案内を努めさせて頂きます、宜しくお願い致しますね』

「おぉ、イケメンさんですな、宜しくお願い致します」


 土屋と祥那がムッとしながらも思わず顔を見合せてしまい、お互いに意識している事を確認し合ってしまった。


 そうして国家元首からココで保護している性質持ちについて、召喚者と花子だけに説明がなされた。


「それで、僕らに」

「世界の神々が繋がれば、いずれバレる事になったでしょうし。ソチラには同種が居るかと」


『ハナさんが、ですか?』

「本当か、ハナ」


「全く同じでは無いと、思いたいんですけど、まぁ。はい」

「すみません、事情が事情なので黙っていましたが。今の所は人間の被害は無いので」

「今は、だろう」

『タケミツさん』


「ご尤もで、警戒なされるんで有れば同行は」

「いや、そもそも辞めるべきだろう。相手を操作する可能性が有る、もしかすれば既に」

『何を証拠に』


「全く同じの方がまだ良かったんだがな。エミール、お前が惚れたのは本当に操作されて無い心だと、どうして言える。滲み出していたなら」

「それは無いです、万人に好かれてるワケでは」


「そこもだ、コントロールが可能なら選んで誘導するのも可能だろう」

『自分に無いから怯えて排除だなんて、それじゃ前の世界の最低な人間と同じじゃないですか!』


「あの、懸念はご尤もなので、平和になったら」

『平和になったらって、今まで平和だったからハナさんが生まれたかもなのに、それを恐れて排除したら、また前と同じじゃないですか』

「元首、どう言うつもりで勝手に桜木さんの性質をカミングアウトしたんですか」

「保護の為、果てはココに干渉して頂かない為の人質」


『保護なのに人質って』

「現にココですら言い争いに発展しています、果てはこの不安な情勢で我々と我々が保護する者の性質が知れ渡れば、槍玉に上がるかも知れない。再び滅ぼされる事に怯えているんです」

「流石にそこまでは思ってはいないが」


「ですが恐怖や混沌は人を歪めます、そして嫉妬や疑念は争いを生み、果ては正義だと信じ、虐殺へ至る事も」

『でも僕らは』

「寧ろ見て来たので、否定が出来無い」

「そして俺らも、虐殺者になり得る」

「信じてますので、人質になります。中々観光出来無い国ですし、神様も」


「その、神様に会わせて下さい。それからどうすべきか考えます」

『はい、ショナさんの意見に賛成です』


「まぁ、見極めは大切だしな、分かった」


 そうして何とか花子を連れ出し、いびつに歪んだ森へと入った。




 花子の性質はココの者と確かに少し違っていた。

 ココの者は殆どが性欲を掻き立てたり情欲を引き出すだけ、片や花子は気分次第でいかようにも変化する。


 そして魔力が溢れた時、魔法を使う時に特に溢れ出すだけ。

 滲み出る事も無く、急激に作用するモノでも無かった。


『タケミツさん』

「いや、穿った見方をして悪かった、すまん」

「でも、守る為なので仕方無いかと」

「いえ、コレは僕や桜木さん、果ては従者への信用問題です。僕は」


「いえ、武光さんも生まれたばかりの赤子なので、警戒しても仕方無いんです。そうすべきだと、本能が訴えてるのかもなので、厄災が何なのか未確定な以上は正解なんです」

「それでも、浮島も魔道具も」


「傍から見たら誘導や先導です」

「それは僕が願った事で」


「願わせたと思おうと思えば思えます、ワシを信じて下さるのは嬉しいんですが。滅ぼされかけた事実も認めるべきで。ましていかようにもなるって事は、怒りや嫉妬も掻き立てる事が可能とも言える。凶器ですよ、自分がこんな凶器だと知れて良かったです」


 そうして花子はどうしてもココを離れたく無いと、無理にでも動かす事は出来ても、それを望んではいない。

 だが、このままでは。


「ネイハムさんを呼んで来てみましょう、新たな視点が有るかもなので」




 きっとこの事が別れ目だったのだろう。

 ネイハムは少し怒りや苛立ちを見せたかと思うと、直ぐにルーマニア行きを受け入れた。


 そしてネイハムを見ると花子はポロポロと泣き出した、そうして3人は立ち去るフリをし、本音を聞く事に。


 自分がこんな化け物だと思わなかった、周りが冗談でも化け物だと言っていたのは本当だった。

 苦しい、辛い、もう死にたい。

 愛されたかった、何なら本当に能力を使って、そうすれば良かったと。


《他にはもう無いですか?》

「津井儺さんを良いなと思ってたけど、遠慮してた、1発ヤっておけば良かった」


《随分と月経を止めてるんですから、直ぐに妊娠は無理でしょう》

「終わって直ぐに排卵促せば出来るんじゃないの、しないけど」


《まだ怖いですか、結婚や家庭が》

「でも、津井儺さんなら穏やかで、良いかもなって思えたんだけどね。もう死にたい、どうでも良い」


《振り向かせなかった理由は、自信が無かったからですかね》

「それもだけど、万が一にも向こうで覚えてたら辛いでしょ。世界を救ってくれたのに、辛い思いをさせるのは良く無い」


《万が一にも無いかと》

「億が一には有るかも知れない。ワシもそうだったんだから、何が起こるか分からないでしょ。ネイハムが直接観測出来無いんだから、猫は箱で生きてるの」


《キレるなら向こうのシュレーディンガーへどうぞ》

「変な問題作りやがって」


《地球も、君の言う世界も、君と言う難問を残したワケですが》

「改造か、遺伝子を変えたワシはワシなんだろうか。ワシだと言い張る別人なのでは」


《後はもう、周りがどう思うか、ですね》

「それで愛されて、モテモテになっても全く喜べる自信が無い。アイデンティティだとまでは思って無かった筈なんだけど、否定された状況を肯定されるみたいで、悲しい」


《少なくとも私は君だと思って変わり無く接しますが、態度を変えて欲しいですか?》

「あぁ、もうな、誰でも良いから愛して欲しかった」


《愛してますよ》

「家族じゃないやつ」


《愛してます》

「希少種だからでしょ。召喚者に話でも聞いてこいよ歴史オタク、従者オタクも居るぞ、土屋さんと気が合うんじゃないの」


《蛙化現象ですかね》

「毒蛙だしな。マトモなのと幸せになってくれよ、こんな化け物じゃなくて、普通のと幸せになって欲しい」


《目を離しても大丈夫そうですか》


「おう、死なないから行ってこい」


 祥那が少し迷うと、エミールが待機する、とハンドサインを送った。

 そうして武光と祥那が待合室へ戻る事に。




《直ぐに戻ります、理由は後でご説明します、付いて来て下さい》


 隠匿のマントを付けている者は互いに認識出来るが。

 万が一にもネイハムにバレてしまったのかと2人は思った、が、廊下で震えるエミールを見て何かが有ったのだと悟った。


「あの」

《どれだけ傷付いているかを、確認して欲しいだけですよ。多分、洗面所に居る筈です》


 魔法を使い、ドアの無い洗面所へ向かうと。

 掌を刺しては治し、刺しては治し、刺しては治し。


 少し眉をひそめては無心で無表情に治す、ただただ無言で繰り返される自傷行為を、エミールも見てしまったのだろう。


「確認、しました」

「すまない、エミールも解除してくれ」

『止めたらバレると思って、あの』


「止めては、いない」

『どうして止めないんですか』

《先ずは、害って何だと思いますか、武光さん》


「悪い事、悪だと思うが」

《普通なら自傷行為は傷が残り、悪ですけど、残らないんですよ。バレ無い、暴かなければ自傷行為をしていないと言う言葉は、嘘にはならない。まして過食嘔吐でも無ければ喫煙でも無い、まぁ、していたとしても治しますから害では無い。悪では無いんですよ》


「だが」

《止める為に監禁し、四六時中監視するか拘束でもすれば満足ですかね》


「いや、他にストレスの発散方法を」

《アレ以外には真面目で品行方正、純潔も結婚まで取っておくんだと。子供の頃のキスの思い出位しか無い潔癖な子に、何をストレス発散にしろと?》


「こう、仲間と」

《同種が身近に居ない絶滅危惧種のストレスが君に分かるんですか、しかも同じ種族から害悪だと追い立てられた知能の有る種族。それとも、苦しみを理解した上で問い詰めたんですか》


「こう追い詰めるつもりは」

《つもりが》

「つもりが無くても、結果はコレです。僕は桜木さんが平和に住める世界をと。そして性質を知っていたからこそ、そう言わなかっただけなんです。僕にもつもりは有りました、幸せになって貰うつもりだったんです」


『もう、きっと僕がどんなに好きだって言っても、性質のせいだって。もう誰も受け入れ無いかも知れないんですよね』

「だから、それは誤解で」

《最初の印象って大事なんですよ、インパクトって言葉をご存知無いんですかね》

「先生、仮に僕が残っても」


《もう、受け入れるかどうか。お互いに好き合ってらっしゃったのに、残念です》

「だが、さっきは」


《あぁ、先程のも聞いてたなら分かるかと。もう、諦めてしまったんですよ、回復には数年掛かるかも知れませんけど、君には関係無い事ですよね》

「なら、そう回復するなら」


《時間を置く方が悪化する場合も有るんですよ、傍に居ればプレッシャーになる場合も有る。教師を目指してらっしゃるなら、向き合い方について勉強してらっしゃるかと思ったんですが、知りませんでしたか。知らないって最高の免罪符ですよね。もうそろそろ良いですかね、止めに行きたいので》


 止める為と言われた以上、ネイハムを止める事は出来なかった。

 迂闊だった、平和で幸せな世界だから、武光がココまで警戒心を抱くとは思わなかった。


 迂闊だった、花子が自身をどう捉えているかを考え無かった。




 花子にはもうどうする事も出来無いまま、ドリアードに繋ぎを任せ、ルーマニアを離れる事に。


「すまなかった」

「僕らに謝っても、もう前の桜木さんは戻らないんですよね」

『僕、やっぱり』


『あの、何が有ったか俺らは聞けないんでしょうか』


 何をどう説明すれば良いのか。

 寧ろ、武光が考えて何かしてくれと。


 コレは、憎しみなんだろうか。


「向こうで調べる事が有ってな、俺らの希望で残って貰ったんだ」

「はい」

『それって、何時までなんですか』


「少し難しい問題で、交渉事も加わってるんで、目途は不明だ」

『分かりました』


 土屋の動向を見ると、直ぐに花子へ連絡しているのだろうと分かった。

 でも、分かったからと言って、何が。


「すまんが、気持ちを切り替えて欲しい」

『お腹の子があんな思いをしても、お嫁さんがそんな思いをしても、そうなれるんですね。どうしたらそうなれるんですか?人を殴るみたいに傷付けて、殺したも同然で良く平気ですね?どうしたらそうなれるんですか?』


 口論をもう止める気にもなれない。

 祥那自身も、武光がそう思っているのかと思える程に冷酷な言葉に思えた。

 例え世界が滅ぶとしても。


 寧ろ、滅ぶなら一緒に居たい。


 なのに、守れなかった。

 やっと好きを理解出来たのに、好きな人が出来たのに。

 もう。


「すまなかった」

『傷付けた側って、謝るしか出来ないんですよね。代わってあげる事も。傷付けられた事から立ち直る事も、そう頑張るのも、傷を治すのも、それをするのって全部、被害者なんですよね』


「確かに代わってやれないが、俺達は」

『僕達?少し違うからって排除したのに、仲間のフリですか?次は僕を白人だ、未成年だって排除するかも知れませんよね?そんなが無くても、しちゃうんですよね、タケミツさん』


「俺はただ」

『何処の誰かも知らないなら警戒するのも分かります。けど浮島も何も、全てハナさんとショナさんがしてくれたか、僕らは訓練だけに集中出来るんですよ?なのに』


「祥那君、本当に」

「桜木さんを誤解させる様な動きを僕がしたのかも知れませんね、すみませんでした。エミール君、桜木さんが今ココに居たら、きっと、さっさと訓練でもしろって言うと思うので、僕と訓練しませんか」


『はい』


 武光の言う事は正論だったけれど。

 あの時、好きだと言っていれば。

 あの時に操られたとしても好きだと言えていれば。


 でも、好きに気付いたのはその後。

 ルーマニアに残ると言われた時、本当に会えなくなるのかも知れないと思った時。

 ならそこで言えたら。


『集中した方が良いよー?』

「ロキ神」


『サクラちゃんは?』

「桜木さんは、ルーマニアです」


『なんで?』

「武光さんに性質の事を疑われて、留まる事を選んだんです」


『性質なんて、究極は誰でも持ってるのになぁ』


 水の様に誰にでも馴染む性質、土の様に何でも受け止める性質。

 空気の様に柔らかい性質、そうして花子の様に真っ暗闇の中の灯台の様な性質。


「そん」

『君は木っぽいとか言われない?少し無機質だけど情は有るし。エミール君なら水や氷、解けたり固まったりして対応の差が激しいとか。おタケちゃんは…竹、柔軟性も有るけど攻撃性も有る。無個性なんて存在しないよ、ただ灯台は別、目立つ為のモノだから特定のモノには目立つし、引き付ける。誘蛾灯みたいにね』


「僕も、あの時にそう反論してたら」

『どんな暴言も、最初から言わせない様にすれば良いと思わない?吐いた唾は吞めぬ、だっけ?唾液だったモノは口から出た瞬間に唾に変わる、だから最初から出させない、例え殴ってでもね』

《ケンカ慣れしとらんのじゃろうし、流石に無理じゃろ》


「あの、桜木さんは」

《今は平穏そうじゃよ、睡眠時間を合わせる為にもと眠っておるでな》

『ねぇ、俺にも教えてよ』


《まぁ、色々有ったんじゃよ》

『ならもう、君のモノじゃないよね?』


「あの」

『召し上げって知ってる?神様が人間を傍に置けるの、了承を得られたらだけど。俺マジで考えてるんだ』

《どうじゃろうなぁ、他の召喚者が気に入っておるし、それは残ると言っておるでな》


『説得するから大丈夫。ねぇ、今何処なの?』


《ショナ坊、どうするんじゃ》


「僕は」


 残らないならもう、最初からそう決めていたんだから、下手に庇わず打ち明けていれば。

 だけれど、そもそも、どうして残らないと思ったんだろうか。


『何で残らないの?』


「きっと、帰っても良いと言われた事で、思考停止してたんだと思います。ギリギリまで悩めば良いと、本当は向こう以上に出来る事が有るのに、残る事になったら、桜木さんを」

《ほれほれ泣くでないよ。しょうがない、説明してやるか》


 そうしてドリアードからロキへ。

 花子の性質と、何が起きたのかが伝わる事になった。


『そうだね、諦めるか選ぶかしないとだし、それでも君達に未来はそう無いものね。死ぬか変わるかハーレムか、そうするしかあの子と一緒に居られないんだもの』


 だから考える事を放棄したのかも知れない。

 でも、無意識だった、無自覚に回避していた。


《じゃが、まだじゃ、召喚者ならばと思ったんじゃがな》

『それでもダメだったらサクラちゃんが余計に悲しむよ、だから俺に任せて、大丈夫。悩んだり傷付けたりは絶対にしない、俺の愛しい娘に誓って一生大事にするから、心配しないで』


 今までに諦めた事が無かった。

 努力すれば何とかなったし、努力も苦では無かった。


 けれど、初めて努力しても報われないかも知れない事に、腰が引けたのかも知れない。

 挫折を味わいたく無いから逃げたのかも知れない。


 こんなにも自分の事が分からなくなるからこそ、恋を避けていたのかも知れない。




 悩んでも腹は減る。

 まして体を容易く治せる花子にとっては当たり前。


《流石に吐くのは許しませんよ、勿体無いですし》

「せんよ、農家さんが悲しむ。それを守ってる神様も、怒る」


《食べさせてあげましょうか、昔みたいに》

「可哀想な子にしてやれ、ワシは可哀想じゃない、もっと」


《それは他の方に任せてるので大丈夫ですよ》

「何で感情転移させようとするの」


《やっぱり、愛してるからでしょうかね?》

「医者の風下にすら置けないな」


《昔は大好きだと、散々言ってくれたのは嘘だったんでしょうかね》

「本当に滲み出て無いんだろうか」


《悪魔の証明ですか》

「偉い人が鴉が白いと言うたら白なの」


《じゃあ五十六先生にも来て貰って証明しましょうか》

「五十六ちゃんも古馴染みだし、もう妹だか姪っ子で良いじゃん」


《どうしたらこの呪いが解けるんでしょうね》

「小雪ちゃんじゃないけど、やっぱり王子様かね」


《私では何故ダメなんでしょう》

「突然現れた王子様だから良いんだろうね、同情や何かの影響が無いって分かる人。成程な」


《同情してる様に見えますか?》

「影響は受けてるだろうし、ネムちゃんは意外と情が有るもの」


《最初は興味でしたけど》

『失礼します、何か足りないモノは有りますか?』

「静寂、このエルフさんをお引取りして下さい、1人で食べたいので」


『はい』

《分かりました、また後で来ますよ》

「おう」


 そう不幸でも無かった。

 柏木もガーランドも、五十六もネイハムも居たし、院長の窪川も可愛がってくれた。

 勿論看護師達も、そうやってそれなりに可愛がられて、少し病弱だけれど普通に幸せだと思っていた。


 けれども引っ越して隣の家の小雪や家族を見て、少し違和感を覚えた。

 ガーランドや柏木と似ている部分が無い。


 そしてその事を訊ねると、血は繋がっていないと知った。

 でも柏木もガーランドも血は繋がってはいないが家族で、花子も家族なのだと、それで納得した。


 だが好きな人が出来た時、の事を知らない人は無理だと言われ。

 尤もだと思い、柏木に聞いた。


 実は病弱だから捨てられたのだと知り、驚いた。

 たったそんな事でと。


 だが更に月日が経つと、魔力容量が徐々に拡大を始め、大食いを揶揄される事も増えた。

 妬みや僻みかと思っていたが、本気を出せばかなりの量が食べられる事が分かり、外ではそう食べない様にした。

 捨て子は珍しいし、大食いも珍しい、悪目立ちしたく無かった。


 それでも体も容量も成長を続け、遂には女性らしい女性になった。

 欲しくも無いのに、使い道も無いのに。


 憎らしい。

 どんなに辛い失恋をしても良く食べられるし、良く寝れる。


 憎らしい。

 どんなに無茶をしても、筋肉痛も怪我も直ぐに治るから、もう誰にも心配もされない。


 憎らしい。

 繊細では無さそうだと、健康そうだ、元気そうだ。

 どんなに悩んでも表には出ない、伝わらない。


 自分が凄く憎らしい。


 元気で良いよな、と、些細な軽口をまた言われた日。

 台所の刺身包丁で掌を貫いた。


 ホッとした。

 自分は普通で、普通に痛い。

 大丈夫だ、自分は普通なんだと。


 それでも次に思った事は怒られる、柏木に心配され。

 ガーランドも、五十六も窪川もネイハムも悲しむ。


 急いで包丁を抜き、傷口を良く洗ってから今度は祈った。


 治れ、治らないと悲しませる、怒らせる。


 そうして夕飯も食べないままに寝て起きると、傷はすっかり治っていた。

 痕すらも無い。

 夢かと思い台所に行くと、痕跡は何も無し。

 出しっぱなしだったけれどどうしたのかと、柏木が聞くだけ。


 花子は答えた、深く切ってしまって怖くて寝たのに、傷痕も何も無い。


 そこで初めて自分が特殊な性質なのだと知った。

 果ては絶滅危惧種で、希少種で、仲間は居ないと。


 怖くなった、何も罪を犯していない同種が魔女狩りで絶滅。

 それから暫くは生まれなかったのに、自分が生まれた。


 しかも守る為に、本来の家族からも引き離したのだと。

 実験台や晒し者にならなくて良かったなと思っているが、実の親はどう思っているのか。


 片方は浮気、片方は依存。

 姉は酒浸りで、兄は横柄で。


 遠目から見ただけだけれど、あの血が自分に入っているのかとゾッとした。

 そして柏木に血を入れ替えてくれと、あの遺伝子を取り除きたいと願った。


 けれども柏木もネイハムも、自分達のせいであの家族は壊れたのかも知れないから、悪いのは自分達だと言った。


 そうなのかも知れないし、そうじゃ無いのかも知れない。

 コレは大人になってから自分で判断する。

 そう決めて内調の様な能力を得られる従者の道を選んだ、そして勉強に没頭し、学校へ行きそれなりの成績を収めた。

 コネと思われず、悪目立ちもしない成績を維持し、遂に親元へ話を聞きに行く事にした。


 赤の他人、探偵のフリをして。


 不倫は生まれる前からだった、鎹にする為に作られただけの子だった。

 そんな親を見て育った姉は愛情に飢え、兄は元から人の情や機微の分からない人間だった。


 そうして本来の家族へ見切りを付け、本当に従者として生きる事にした。

 サポートするには何が必要か、どうしたら親しみを持って貰えるか。


 省庁に入ってからは、誰からも親しまれる様にと振る舞った。

 機微の分からない人間にもそれなりに接し、無難で普通に過ごしていた時、本当に召喚者が来た。


 体調的に常に万全な花子かジュラ、それと賢人。

 その賢人の助言によって、結婚前のジュラでは無く、花子が選ばれる事になった。


 そうして祥那と出会い、初めて生きる意味は、生まれた意味はコレなのかも知れないと思った。


 優しくて真面目で、向こうの人間は酷いのが多いと聞いていたのに。

 守りたいと初めて思った。

 自分の命に代えても、無事に元の世界へ戻す。


 そう思っていたのに、実は自分が害悪かも知れないと。

 でも溢れ出す時だけ。

 それさえ気を付ければ、この可愛い召喚者と居られると思っていた。


 なのに、確かに、滲み出していない証明を出来無い。

 ただ神がそう言ってるだけ。

 そして神には魔道具が効かない。


 中には本当に悪神と呼ばれる者の存在だって居るかも知れない、なら、自分が身を引けば良いだけ。

 同種の居る地を守る為。

 召喚者と国を守る為には、コレが1番。




 怪物を倒しても、賢人が死んでも。

 すっかり拗れて元に戻らない所へ、旧米国からの要請が有った。

 またしても新たな召喚者が来た、と。


『ショナさん、コレって本当に凄い事が起こるんじゃ』

「そう警戒しつつ、見聞を広めましょう。取り敢えずは、武光さんも一緒に挨拶に行きますから、我慢して下さいね」


『はい』


 そうして病院前で合流し、病室へ。

 面会を終えると、土屋が口を開いた。


『あの、ちょっと良いですか。今ココで言う事では無いと思うんですが。俺、桜木さんと交代しようかと』


「有り難い申し出ですが、あの子に任せているので、君が行ってもお邪魔になるだけかと」

『休職してでも辞めても行きたいんですが、どう手続きをすべきでしょうか』


「ぅうん、ちょっと向こうで話しましょうかね」


『タケミツさん、影響を疑ってるからって、まだ何も知らない人に勝手にアレコレ言わないで下さいね。どれだけの能力なのか、どんな思想なのか分からないので』

「あぁ、分かっている」


『言うが無かったとしても絶対ですよ、もし言ったら』

「分かってる、すまない」


 祥那はもう、一切諌める事をしなかった。

 花子のストレス発散と同じ様に、コレを止める弊害の方が大きいと判断したから。

 そして自分の代わりに言ってくれているんだと思えばこそ、溜飲も下げられたから。




《ハナ、君を追い掛けて従者が来るみたいだから、辻褄合わせをしよう》

「クッソ怠い。元首、勝手にそっちで何とかしてよ」

「コレばっかりはどうにも、吸血鬼の被害に合わせない条約を結んだんだ。すまんね、頼むよ」


「まーたそうやってお爺ちゃんぶってさ、逃げ回ろうかなぁ」

「はいはい、今度は何が欲しいんだい」


「竜の涙、何味か気になる」

「またそう絶妙に無茶を言って」


「おうおう、大事な人質様やぞ。大丈夫じゃろ、凶暴じゃ無いんだべ」

「眠ってるからね、涙を上げられないんだよ」


「触るのも無理か」

「起きられたら困るからね」


「じゃあ、アイス、ココのお醤油アイスとか取り寄せて」

「それなら良いけど、味見させてくれるんだろうね」


「そらね、お醤油のは皆で食うから」


 花子は国家元首のブラドについては許していた。

 あの後に謝罪をし、守る為に仕方無いとは言え、卑怯な手を使ったと謝った。

 その守る中に自分も入っているんだと、彼なりに悩んだ結果だったと理解したからだ。


 不審がったのは武光で、それが原因なのだからブラドは悪くない。

 と言うか国連に所属して無い国家元首って大変だな、と。


 こうして1日1回、無茶な事と叶えられそうな事を言いに、気晴らしにちょっかいを出しに来ていた。


《それで、辻褄合わせなんですが》

「えー」


《無事に追い返す為ですよ》

「あぁ、はい」


 ネイハムとの距離はそのまま。

 そして思い人に少し似ている人には、大いにちょっかいを出していた。


『あの』

「うん、眼鏡が似合う」


 このまま、処女のままに、不幸にも厄災で死んでやろうか。

 武光への捨て身の八つ当たり、最後の仕返し、花子が立ち直った方向はそれだった。

 例え記憶に無くとも、悲報で傷付け。


 そして悲報で大して傷付か無かったら、あのエミールなら責めてくれる筈。

 そして例え悲報を知らないで帰還しても、自分はもう死んでいるのだから、もうどうでも良い。


 好きな人と一緒になれないなら、思い出をしゃぶり尽くして、記憶が薄れる前に死んでやる。


 そう思ったら視界が晴れた気がしたし、涙も止まった。

 ネイハムは死のうとしてる事に気付いているのかも知れないけれど、どうせ同情だし。

 もう、どうでも良い、好きにすれば良い。


《それも、自傷行為の扱いにしましょうか》

「嫌なのか、ワシのハグ」

『いえ、僕は嬉しいですが』


《ハナ》

「怒られたので離します、そして去ります、お邪魔しました」

『いえ、またどうぞ』


《ハナ》

「その似合わない名前嫌い、クソ親のセンスは何処までもクソやんな」


《なら、どう呼べば良いんですか》

「鬼の醜草」


《紫苑、良い名前ですね》

「それかうるみじゅんか、糞かゲロか」


《魔道具の事ですか》

「性質は性別程度じゃ変わらないんだろ、どれだけ変えれば良いのかなって」


《どうにかして、私や柏木さんの遺伝子でも入れましょうか》


「それ、凄く良いかも」

《特例で出来る様にココで法整備もしてるんです、ですから従者を追い返して下さい》


「なんだ嘘か」

《本当ですよ、君の様に変えたがっている者も多いので。なのでそれを悟られても困りますので、手伝いますから、無難にお願いします》


「分かった。愛してるかも知れない」

《叶えられた後を、期待してますよ》


「期待は薄めでお願いします、家族だし」

《はいはい》


 恋が叶わず共、この穢れた血を抜き出せる。

 吉報のお陰か、久し振りに薄っすらと食事の味がした。




 休暇で行くならばと、エミールや祥那からの助言も有り、土屋はルーマニアへ入国し、花子と会う事が出来た。

 ずっと好きだった花子。

 年の差や遠慮から決して自分から接触する事は無かったけれど、召喚者が来た事で決心が付いた。


 明日死ぬかも知れない、そう思い告白しようとした時に、花子がルーマニアへ居留する事に。

 召喚者同士で揉めたらしいが、詳細は知る事が出来無いまま。


 連絡は偶に取れるが業務連絡のみで、無駄に月日が経ち、賢人も亡くなり。

 もう、時間が無いかも知れないと。


『好きです』

「お、え?お久しぶりとかの前に?え?」


『明日死ぬかも知れないと思うと、どうしても伝えたくて。付き合うとかは無理だと思うので、それを言う為だけに来ました』

「そん、ワシ何かしましたっけ?」


『なにも、ただただ俺が惹かれただけです』

「なん、何に?」


『笑って無い時の顔を見た時、どれだけ配慮してくれてるんだろうかと。そう気になり出して、ずっと見ていたら、好きになっていました』


「あの、こう、真面目な告白は初めてで、ちょっと」

『年の差が有るし、俺は従者オタクだと揶揄される様な人間で、だから気持ちを隠して。それで良いんだと思って過ごしていて、タイミングを見て打ち明け様と思った時に、こう、離れてしまったので。辞める気でいました』


「そんな、そこまで?」

『結果として召喚者様にご助力頂いて、辞めずに来れました』


「あぁ、お元気でらっしゃいますか」

『いえ、武光様は単独で。エミール様と祥那様にご助力頂けました、様子を見て来て欲しいと。それと、新たに召喚者様が来ました』


「それで死を覚悟したのね」

『はい、厄災の規模はかなりだと思います』


「うん、国家元首にもお会いして貰おう」


 そうしてネイハムや国家元首へ、新たに召喚者が来た事が告げられた。

 そして土屋には賢人が生きている事が、伝わった。


『それは』

「隠密行動の為、内緒やで」


『それなら、はい』

「信じてくれるのね」


『桜木さんと召喚者様の間に、何が有ったかは聞けませんか』

「おう、大した事無いし、それとココに居るのは別問題だから」


『あの、可能性が有るかは。聞きたいです』

「マジで?0なら聞かなかった方が良くない?」


『マイナスじゃ無ければ、前と同じ気持ちに収めるだけなので』

「じゃあマイナスなら?」


『直ぐに立ち去り職も辞めます』

「じゃあ0で、周りを良く見ればワシより良い人が必ず居る筈だから大丈夫。貴方は真面目で良い人だから、他に目を向ける事を諦めないで欲しい。つかもっと早く言ってくれたらワンチャン有ったのに」


『男はどうしても早死だし、置いていく事を考えたら、どうしても遠慮が出てしまって』


「クッソ優しいのな。でも良い思い出だけなら残されても幸せだと思うから、年の差を気にせず頑張って欲しい。それにほら、相手が意外と病弱で女の方が先に行くかもだし。つかそんなんで耐えられるか?ワシなら死んでも長生きして欲しいぞ、もし生きてたらと思ってて欲しい方なんだけど」


『やっぱり』

「ワシ実は不妊なの。お元気で、どうか貴方に似た優しい子が生まれますように、お祈り申し上げます」


 深く頭を下げた花子に、土屋は去るしか無かった。




『お元気でした』

『そうですか、良かった』


 少なくとも、そう見せられる状態では有ったのだと。

 ロキ神に返答する事を躊躇ったので、ドリアードからの情報も無いままで。

 ちゃんとした情報を得られたのは久し振りだった。


 そして土屋は、また改めて告白する事にした。

 厄災が終わったらもう1度、振り向かせる為にも、もう1度頑張ろうと決意していた。

 祥那と同じ様に努力する事で願いを叶えた人間で、子供が出来無くとも一緒に居たいと思っていたが、頑なだとも知っていたので、その場では間を置いたに過ぎなかった。




 そうして第2地球が現れた日。

 花子の目の前に黒い仔山羊が現れた、何かを話しているのだが、聞いた事の無い言語。


 翻訳機に反応は無し。

 似た言語を耳を頼りに探したが、文字にしても理解は出来無いまま。


「うん、コレ、幻聴と幻覚かも知れんな」


 そうしてネイハムに相談し、精神鑑定を受ける事に。

 だが幻聴が命令してくるでも、幻聴が襲って来るでも無い。


《本当に存在すると仮定すると、あの地球の使者かも知れませんよ》

「若しくはワシがストレスでヤバいか」


《あの星と戦争になったとしても我々に出来る事は限られるでしょうし、言語の解析をしてみましょう》


 そうして言語の確認の為、花子が聞き取った発音を録音する事に。

 そうして一通り復唱を終えると、指差しで物の呼称を言わせる事に。




 そうしていると、賢人から使節団が来たとの知らせが入った。

 それは花子達の居るルーマニアと、日本、欧州にのみ。


 言語の壁が有るらしく、どうすべきか相談していると、ネイハムから似た言語を見付けたので使ってみてはくれないかと。

 通信機経由で賢人が復唱していた言葉から見付けたらしく、メールが届いた。


『コレ、先ずは賢人さんですよね』

「はい」


 既に解析済みだとは思わず、使節団員は動揺した。

 それをマサコが見抜いたが、尻尾を掴むまではと武光に言われていたので、暫く見守る事にした。


 そうして英語にも反応を示す事に気付き、情報共有へ。

 自分が来る前に何か有ったらしいけれど、教えて貰え無いままに厄災かも知れない地球が来てしまった。


『あの』

「何かを要求されるまで堪えて下さい、僕らの事も出来るだけ伏せて。ですが怪しまれたら」


『ダミーの書類を出す、ですね』

「はい」

『手伝えなくてすみません』


『良いんですよ、任せて下さい』

『はい』

「では、解散で」


『あの、武光さん。本当に何が有ったのかは』

「正直、プライバシーの問題なんだ。しかも俺が悪い」


『あ、そうなんですね』

「すまん、アイツらに厄災が何か分かるまではと口止めされていたんだ」


『そうなんですね。でもきっと』

「いや、誤解だとか分かり合うとかの次元じゃ無いんだ、すまない」


『いえ』


 もう、触れるのは止めておこうとマサコは思った。




 そうして5日が経ち、花子が召喚者のフリをして第2地球へ行く事になった。

 使節団から女性の召喚者をと要求され、カールラと共に向かう事に。


 予測されているのは懐柔、または人質、若しくは人身御供。

 花子は別にどれでも良かった、死ねるので最高のシチュエーションが来たとしか思わなかった。


「処女で良かったわ、少しは価値が有るべや」

《行きて帰って来たらお願いします》


「遺伝子が変えられたら、じゃあね」


 魔道具も完全装備で良いとの事なので、そのまま使節団の使う転移で移動する事に。

 長時間の移動になるので、楕円形のガラスの様な魔法に包まれ、眠りに付いた。




 目覚めるとベッドの上だった。

 服も魔道具もそのまま、だが侍女に内部を移動する時は刺激させない為にも隠れない部分の魔道具は全て外して欲しいとされた。


 腐っても友好を結ぼうとしてくる相手に対して、マトモな対応をするなら外すべき。


 仕方無く先ずは着替え、外部から見えそうなのは外した。

 そして付け替えた。


 舌には嘘発見器の魔道具を。

 性別を変えられる魔道具と通信機はそのままに、最低限の装備で移動する事になった。




 ネイハムや祥那達は、花子から語られる歴史からして女系、特に女性がハーレムを形成している世界だと言う事にゾッとした。

 もしかしたら、最初から花子が狙いだったのかも知れない、と。


「ネイハムさん」

《こう、裏をかかれるとは思いませんでした》

『あの、仔山羊さんは?』


《ハナと一緒に行くと、ハナから》

『もしかして、この事を知ってて黙ってたとかは?』

「そんな、どうして」


《武光君への復讐と八つ当たりに、死に場所に選んだのかも知れません》

「でも、それって憶測では」


《はい、ですが何十年一緒に居ると思ってるんですか?》

『じゃあ、何か有ったら』


《何か有れば、です》


「宇宙に浮島を、中間地点にします」

【しょうがないですねぇ、今回だけですよ】

『宜しくお願いします』


 それでもまだ、クーロンの速度でも1日は掛かる。

 

【コレ以上は無理ですよ、どんなにゴネても】

『僕、様子を見に』

「警戒心を煽るのは得策じゃ無いので、最悪が無い様に祈りましょう」


 祥那は願う事はしても、そう祈る事は無かった。

 けれども今回だけは、花子が無事に帰って来る様にとひたすら祈った。




 花子は転生者の鈴木に会い、事態は急転した。

 花嫁衣装に自分で刺繍をする文化は他の地方にも有る、しかも刺繍を勧められた。

 最悪はマジで自分が娶られるかも知れないと、花子は少し焦った。

 処女で死んでやる、その願いが達成出来無いのは困るし、だけど鈴木を守らないといけないし。


「スーちゃん、ワシを守ってくれんかね」

「うん、私を縛って寝ようと思うんだけれど」


「それ、寝れる?」

「多分、寝付きが異常に良いんだ、この体」


 もしかしたら魔素の枯渇に合わせているのかも知れないし、意図的に操作を。

 もし操作したのならかなりの科学技術か、エルヒムは相当な神か。


 若しくは両方か。


 遺伝子治療の分野にも手を出すべきだったと、後悔しながらも花子は鈴木に抱き締められながら、眠った。




 一方の祥那達には公式の、使節団からの連絡は一切無し。

 奉持なのは知っているのだが、確実に通い婚の儀礼が行われている事に全員が苛立っていた。


『ハナさんには、外交問題を無視して刺し殺して欲しいとんですけど』

「一応公務員ですし、他の方法で」

《日頃の自傷行為が役立つ時が来たかも知れませんし、そこで自決するかも知れません》


『どうにか説得出来ませんか?』

《ずっとしてきましたが、私ではダメなんですよ》


 ココでも祥那は迷っていた。

 ハーレムを受け入れる事も、狗神を憑ける事にも躊躇っていた。


 もう、自分を好きでは無いかも知れない、もう諦めて興味を失っているかも知れない。

 同情と思われるかも、性質の影響が切れて無いんだろうと言われたら、それを証明する手段を人間側では準備が出来ていない。


 こんなに早く事態が動くと思っていなかった、武光との訓練等無意味に等しいかった、あんな事をしてる暇があるなら。


『ショナさん、要らないなら僕に下さい』

《残る事に納得頂けるのは、確かにエミール君の方でしょうね》


『ハーレムを受け入れます、僕はまだ未成年ですし、その間にお互いに気が変わるかもなので』




 とうとう、全員が恐れていた事態が起きた。

 全く振り向かない花子に、強硬手段が取られそうになった。


 だが自決はせず、ギリギリ自分で治せる範囲の傷を腿に付ける事で事態を収めた。

 転生者が居る以上、どうしても自分勝手な事は出来なかった。


「ぅう、もう、しないでね」

「襲われたら何度でもするでよ」


 そして自刃の情報は伏せられ、公式からは婚姻の儀礼をするとだけ伝えられた。

 そこへ召喚者達を改めて招待する、と。


《完全に挑発行為ですね》

「でも、助けに行かないワケには」

『僕もう、今から向かいます』


「待って下さい。残る覚悟が有るなら、余計に行くべきじゃ無いです。行くなら、僕です」

《死ねば帰還が叶いませんが》


「帰還より桜木さんなので」


「待ってくれ、少し話を聞いて欲しい」

「本題からどうぞ」


「神々から能力を授かった、もう少しだけ待って欲しい、出来たら儀礼の時間のギリギリ手前まで」

「人身御供にする気ですか、転生者の方も」


「だからだ、俺らが来ないとなれば警備が緩くなるかも知れん」

『そう言って悪役を買って出て、見殺しにする気なんじゃ無いですか』


「そう思われても仕方無」

「どんな能力なんですか、見せて下さいよ」


「いや、コレは1回きりだと。第2地球へ直ぐに行ける」


『良い言い訳ですよね、ショナさんにお願いする方が』

「頼む、信じて欲しい。俺の命を掛けても良い」


「そうやって魔女狩りの方々も言ったのかも知れませんよね、世界の為だから殺すんだって」


 だが、もしコレが本当なら、確実に花子の救出の確率は上がる。

 安全が確保し易くなる。


 ただもし嘘なら、厄災が終わった段階で武光が帰還を選べば、罰も何もお咎め無し。

 残された者だけが苦悩し、最悪は、また負の歴史が闇に消える。


《武光君、君が選択を誤れば後代にまで影響するんですよ、分かっていますか。果ては召喚者は悪人、当人達だけの弾圧や排除では済まないんですよ》

「分かっている、今既に居る召喚者の血族、双子達が絶滅危惧種になる」


《はい》

「そうさせる気は無い、疎まれる事が無い選択だと信じて欲しい」


『でも、嘘を見抜けなくする、若しくはコントロール出来る魔法を得ていたなら、そんな言葉って無意味ですよね。アナタは居なくなるんですし』

「大勢を救い、被害を最小限に抑えるなら桜木さんと鈴木さんを見殺しにすれば簡単ですよね。そしてこの地球の大勢が救えた事に感謝すれば、疎まれる事は無い。僕らがそう仕向けなければ」


「ショナ君」

「この力が有って、奥さんと子供が殺されるとなったら、当然力を振るいますよね。殺されたら復讐しないんですか?その程度の愛情なんですか?」


「だとしても」

「では、どの神様からどんな力を、どんな風に手に入れたんですか?」


「インドの」


 宇宙さえ作れる神。

 確認するしか無いが、神がこの地球を救う為だと嘘を言えば花子は助からない。

 そも確かめる事は時に不敬にも繋がる。


 なら。


「神様を信じていますが、ミスの殆どはヒューマンエラーですし、僕も願い請います。エミール君は地上で待機を、地上が攻撃され無いとも限らないので。お願いします」


『分かりました』

「俺はマサコと待機する、もし」

「絶対に得ますので、では」




 結婚式に興味は無かったけれど、好きな相手としたかった。

 って言うか、コレマジで誓わないと死ぬのかしら、この人達。


『誓う、と』


「ワシ、他に好きな人が居るんじゃけど。って言っても日本語通じないんだよね、君ら」

《良いんですか?この子が死んでも》


「生き返らせるから大丈夫、信じてスーちゃん」


 鈴木が頷くのを見届けると、先ずは胸に手を当てた。

 願えば魔道具を人間でも作り出せる。

 なら、もし祥那が助けに来てくれたら、この剣が世界を救う。

 命をもってして、この剣が世界を救う物になる。


《それは》

「桜花、格好良いでしょう」


 先ずは鈴木を抱えていた巫女を切り付け、鈴木を抱えて砂漠地帯へ。

 そうして男性体へと変身し、鈴木を抱え直すと地球が見える方向を目指した。


 飛ぶ魔法を、飛べる魔道具を持っていたら。

 でもきっと届かない、自分の魔力が持たない。


 ならひたすら逃げるだけ、助けが来るのを待つだけ。


 でも、助けに来てくれ無かったら。

 自分と鈴木が見殺しにされるなら。


 なら鈴木を殺して自分も死のう、きっとココでは蹂躙されるだけ。

 あぁ、脳を破壊するべきだな、向こうの世界にそんな話が有るって聞いたもの。




「桜木さん!」


 夢か幻覚か、クーロンに乗った祥那が来た。


「先ずはスーちゃんを」


 鈴木を竜の背に乗せた瞬間、地震が起こった。

 そうして轟音が迫り、辺りを良く見ると肌色の津波が猛スピードで四方から迫って来ていた。


「兎に角クーロンに」

「少し離れましょう、盾の射出をお願いします」


 花子の目論見は当たった。

 目的は花子、最初から花子だった。


「桜木さん!」

「エリクサー撒いてみて下さい」


 エリクサーへも肌色の触手が伸びた。

 こう手助けしろとは。


「コレは」


「エルヒムだか仔山羊か」

「あっ」


 そして花子はさっきまで居なかった筈の竜種の背に着地した。

 このまま分散し、エリクサーを撒きながら上昇する事に。


「すみませんが宜しくお願い致します」

『おう、任せるが良い』


 だが花子が離れ過ぎれば竜種や祥那達へ手が伸びる、そして近付き過ぎれば捕まりそうになる。


「囮をしますが、お願い出来ますか」

『あぁ、乙女の願いに俺は弱いんだ』


「ありがとうございます。鈴木さんの救出、ありがとうございました。囮を引き受けますので、皆さんは引き上げて下さい。どうかご武運を」


 そうして花子は通信機を投げた。

 そして性別変える魔道具も、嘘を見抜く魔道具も。

 魔石が使われた魔道具へ肌色の触手が引き寄せられ、飲み込むと波打ち巨大化していった。


『その靴も、そうだろう』

「あぁ、ですね」


 先ずは右足から、続いて左足の靴を投げた。


『あら、凄く素敵な剣ね』


「あの、どちら様で」

『アマルティア、手伝ってくれてありがとう。おかげで方舟が飛び立てそうなのだけれど』


「桜花ですか」

『そう、それかアナタ』


 この会話は竜種には聞こえていないのか、無反応。

 そしてコレは多分、本当の事。


「その方舟には」

『アナタ達や地球へ害を及ぼす者は乗って無いわ』


「そうですか」


 だとしても、桜花は渡せない。

 コレで厄災が終わるかどうか、公式な判断がついていないから。


「桜木さん!通信機は」


 油断したからか、竜が尻尾を触手に掴まれ、花子は竜の背から落ちた筈なのに。

 腕を祥那に掴まれていた。


「離してくれないと腕を切り落としますよ」

「なら一緒に落ちます」


「却下、コレは桜花です、世界を救う剣なので、お願いします」


 そうして花子は自分の腕を切りながら、見た事の有る場面だなと思った。

 昔、転生者様の出した本に同じ様な場面が有って、凄く愛を感じて、羨ましかった。






 祥那は人の左腕と刀剣を抱えて戻って来た。

 腕の持ち主は花子。

 その刀剣を作り出したのも花子。


 幾ばくかの竜種の犠牲を出しながらも、召喚者と転生者は生き延びた。


 そして移民も。


 飛び立とうとした宇宙船はマサコやエミール、本当に駆け付けた武光によって撃破されたが。

 中身を知ってマサコは嘔吐した。


「生命反応は無かった」


 そして1つだけ無事に回収された宇宙船と、後から浮島に着陸した黒い仔山羊の中に、文化や種、アマルティアが匿っていた移民達が乗っていた。


 それから帰還までにと其々がデブリ回収へ。

 マサコも武光も、エミールも祥那も、たった1人の未帰還者を探しながら、宇宙に広がったゴミを回収した。




 そして花子が見付からないまま、デブリ回収の終わりを告げられ。

 武光とマサコが無色国家の企みを暴こうとする間、祥那はホムンクルスの研究所へと辿り着いた。


「ショナさん、マジっすか」

「魔王、失敗したら殺しますので、良いですか」

「はい、どちらにせよです。是非、宜しくお願い致します」


 もう既に桜花で悲嘆を殺しているので、桜花の能力は確実だった。


 そして魔王は2人と1匹に分離し、名付ける事で魔王と言う存在は失われた。

 そうして次は花子のホムンクルスへ、桜木花子と名付ける事に。


 息はしているが目覚め無い。

 パーツが足りないと思った祥那は、同じ位置で桜花を使い腕を切り取り、本物の花子の腕を付けて貰った。


 それでも花子は目覚めなかった。




 そうして無色国家の企みが暴かれると同時に、神々の同盟が結ばれると。

 先ずはマサコが消え、次に武光が。


『僕は残りますし、ショナさん、僕に譲ってくれて大丈夫ですよ』

「僕も残りますから、学生時代を是非謳歌して下さい」


 目覚めぬ花子の世話を穏やかに出来る筈も無く。

 公務に次ぐ公務で、花子に会えぬ日も有った。


 改善点が多過ぎて、時間が足りない。

 まだ、まだ桜木さんの幸せになれる世界には足りない。

 だからきっと目覚めないんだ。




 ネイハムは忙しく働く祥那に代わり、目覚めぬ花子の世話をした。

 寝る時間になれば泉へ入れ、起きる時間には病院へと戻し、仕事の合間に話し掛ける。


《今日は双子達の入学式ですよ、もう中学生なんです。でも君は年を取りませんね、泉の力でしょうかね。もう起きて良いんですよ、誰も怒ってませんし、私もエミール君も祥那君も君を愛してるんですから、大丈夫。戻って来て大丈夫ですよ、前にも話しましたが、ルーマニアも……》




 毎日毎日、エミールか祥那かネイハムが愛していると告げても、ルーマニアが諸外国と国交を復活させ、花子と同じ性質持ちが世間に受け入れられても。


「今日は僕の誕生日祝なんですよ、一緒にお祝いしましょうね、もう10年……」




 誰がどんなに愛してると言っても、目覚めず、老いもせず。


『ほら、ハナさんと僕の子供ですよ。家族ですよハナさん……』


 そうしてエミールやネイハムすらも亡くなった頃、今度はロキの手元へ。


『召し上げたら目覚めるかもって待ってたんだけど、魂が無いんだね。そっか、大変だったね、良い子良い子、じゃあね。本当にさようならだ』




 花子は何処に居たのか。

 それは異世界、真っ白なフィンランドの基地の中。


 そこでマティアスと呼ばれる看護師長と出会い、帰還の方法を探る中、子を成し、ひっそりと慎ましく暮らしました。

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