1月16日

 ソファーで、眠ってしまった。


「おはようございます、桜木さん」


(おはよう)

「スープとサンドイッチは如何ですか?」


(いる、ありがとう)

「今日は晴れてますから、外で食べましょう」


(うん)


 小春日和の森でピクニックをしながら、ショナにこの世界の事を教わった。

 今居る場所は国の保養地だそうで、一部が常に春の設定だそう。


 そしてこの世界は魔法とテクノロジーがある平和な世界、それを支えているのは転生者や召喚者だと。

 タブレットの映像を見せながら、沢山話してくれた。


「桜木さんの現在の最優先事項は、良く食べて良く寝る事です」

(はい)


「それと2匹の名付けは暫くご遠慮くださいね」

(なんで?)


「魔力量が少ないので、詳しい理由はですね……」


 こっちが勉強する一方、産まれたばかりの2匹は森を爆走。

 激しくじゃれあっている。


(楽しい?)

『《うん》』


 喋った。


「え、喋りました?」

(まだ名前なくてごめんね)


『《楽しみに待ってる!》』


「…あ、コレです、主人の魔力やエネルギーをごっそり奪ってしまうので、今名付けると生死をさ迷う可能性が高い、と」


「んー…エネルギー欲しいねぇ」


『なになに、エネルギーが欲しか?良いものやろうな』


 小柄な初老が数メートル後ろから話し掛けてきた。

 ショナが身構えるが、2匹は警戒することもなく遊んでいる。

 大丈夫そうだが。


「頂いても、お返しするものが無いんですが」

『よいよい、授けるのが趣味じゃてな』


 その老人は大きな葉っぱの上に数十個の質素な小瓶を置くと、何処へともなくスキップして消えて行った。

 何だろう。


「気配が…無く…申し訳ございません」

(いやいや、スキップすら無音だし)


 竜達が瓶に近づき匂いを嗅ぐ。

 そしてそのまま持って来た。


『《コレ飲むやつ!ご主人飲め!》』


(ま?)

『《これ良いやつ!ショナ早く調べろ!》』

「無理ですよ、無毒化させる魔法はあっても、解析能力はそんなに無いんです」


『《やくたたず!》』

(ウチのものがすまん)

「いえ…増援が今日来る予定なので、場合によっては解析班に持っていきます…」


(よろしく)


 館に戻り歯磨き。

 勉強をしようとは思ったのに、眠気が酷い。






 昼食もショナが作ってくれた、起き抜けなのに腹が鳴る。

 うどん入り茶碗蒸しとおにぎり。


 こんな状態で何だが、痩せたいのよなぁ。


「味は大丈夫ですか?」

(美味しい、上手だね)


「良かった、ありがとうございます」

(食べないの?)


「先に頂いたので大丈夫です」

(おぉ)


「オヤツは何が良いですか?」

(ビターブラウニー)


「はい」


 マスク越しとは言え、良い笑顔。


 次こそはと眠気を我慢し、歯磨き。


 玄関前の本棚を漁っていると、コンコンコンと扉が鳴り、女性の声が聞こえた。


『ジュラでーす、ショナー!』

「はいはい…はい、どうぞ、もう直ぐブラウニーが焼けますよ」


『あら、どうも桜木様、ジュラです。宜しくお願い致します』


(宜しく、様は…)

『遠慮させていただきますね、さ、お茶を淹れましょう』

『《ご主人、抱っこ!ナデナデして!》』


(はいはい)






 撫でていると、毎回眠ってしまう。

 食べたかったな、焼き立てのブラウニー。


「桜木さん、起きてますか?」


(ん、あ、おはよう…)

「小瓶の解析が終わりました、直ぐにでもお飲みになって大丈夫との事です」

『万能薬、エリクサーと呼ばれる回復薬ですね』


(んー…知らない人から貰ったものは…)

「大丈夫です、あの方は恵比寿様です」


 福の神の?


 いつの間にか録画していたらしい映像の人物解析と、恵比寿様の知り合いに確認してもらい確認が取れたそうだ。

 知り合いて。


 タブレットには、神様って写るのか。


(おー)

「恵比寿様の記録があって助かりました」

『私も直接お会いしたかったです』


 玄関を出て、暗い夜の森に叫ぶ。


「恵比寿さーん!ありがとー!」


 しばらくするとガサガサっと木から手だけがヒラヒラと動き、こちらにサムズアップするとまた木に隠れて消えてしまった。


『きゃー!恵比寿様ー!』

「ジュラさん、ちょっと」


『は、あ、七つの大罪の美食様と大変仲がよろしいんだそうで、一緒に漁に出る絵本も有るんですよ!』

(おー、絵本詳しく)


【えびす様と美食家さん】


 昔、海辺でぼんやりと釣りをしていたえびす様の籠を、通りすがりの美食家が覗いた。

 そこには見た事も無い、珍しい魚達が入っていたので欲しがった。

 えびす様はアッサリあげた。


 そうすると美食家は喜んで料理し、えびす様にお返しをした。

 えびす様は大喜び。

 そのまま宴を開き、お別れした。


 今度は森で出会った。

 また珍しい果物や野菜を手に入れたえびす様と美食家が出会い、宴を開く。


 そんな実話を元にしたと言われる、食育絵本らしい。

 ピーマンやニンジン、魚を使った料理がめちゃくちゃ美味しそうに書かれているんだそうで。

 結構、読みたい。


 そして大罪。

 こちらでは悪魔や七つの大罪は普通に存在していて、今は魔王と共に和平を築く人材なんだそう。

 天使も居て、世界の平和、民の平和が乱れると手を差しのべたり、時には罰したりもするそう。


 ミラクルファンタジー、ファンタスティック。


「と言う感じです」


(超平和じゃん)

「はい、かなり」

『《ねぇ!ご主人のめ!》』


(えー)


「吹雪が来てますし、明日にしては?」

『万が一の為の解毒の魔法や、薬剤などは揃えてありますが』


(ん……明日)

『《えぇー》』

『そうですわね、万が一があっては困りますものね』

「今夜はミートソーススパゲティですよ」


 竜達がブーブー言っているが、撫で回して誤魔化し、一緒に爆睡。






 そして夕食を軽く済ませ、入浴へ。

 それからベッドで寝ることに。


 何でかどうにも疲れて眠い、うん、正常な判断は暫く無理だな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る