強さってのは決意で決まるんだ

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 その前兆は、朝のSHRの直後にあった。

 挨拶を終えた後、担任の先生が逆風くんを廊下に呼んだ。学年一位の結晶くんを誘っている彼だ。よくない噂が先生たちの間で広まったのかもしれない。

 廊下に消えた逆風くんは、五分後、憂鬱な面持ちで戻ってきた。自信家の彼が珍しい。槍でも降るかもしれないと、そんな暢気なことをおもって、すぐに忘れた。


 で、いつもの昼休み。

 彼は購買で人気のお好み焼きパンを私に差し出した。

「頼みがある」

「ボーカルならやらないよ」

「違う。それはいずれ俺が勝つから関係ない」

「いやいや絶対無理だから!!」

 毎日勝負しているが、負ける要素がない。もちろん日頃の勝負の甲斐あって彼もスタミナが伸びている。でも、彼が強くなればなるほど私の逃走心(いや、闘争心か)が燃えるのだ。

「話の腰を折るな」

「すみません」

「月下はあきら みちるを知ってるか?」


「えーっと」視線をそっと空席に向けた。名前と性格が印象的。「あのちょっとインドア系の子? たしか先週から休んでいるよね」

 明さんは背が低くて少し丸い女の子だ。ショートカットで前髪をおろしていて、私と一緒で化粧っけがない。少し話したけど、人見知りなのか、会話が成り立たなかった。

「そうだ。美術のとき、あいつの絵を見たことがあるが、めちゃくちゃ上手い」

インドア系の子ならありそう。田舎のお姉さんも、アニメやマンガが好きで可愛いイラストをよく描いていた。そのせいかリアルは苦手で、休みがちになっていたけど。

「だからバンドに誘った」

「はあ?」

 あいっっっっっ変わらず、こいつの思考はわかんない。

「絵が上手いから誘ったの? 楽器が得意かわからないのに?」

「タッチが繊細なんだ。それに爆発した感情を秘めている。俺のバンドに必要なのは、楽器の技術より才能の片鱗なんだ。うちの学校は、何かに特出した奴が多いから、その力を音楽に向ければすごい力を生むはずだ」

「まー私みたいなのも誘うくらいだしね。でも、どうせ断られたんでしょ?」

「流石だな。俺の性格をよくわかってるじゃないか」

「そりゃ毎日こうやって一緒にいるから。それより、明さんがどうしたの?」

「先週の月曜だったか、休み時間に誘ったんだ。

『お前みたいな根暗はベースが似合う』って。そしたらすぐに荷物をまとめて帰った。で、不登校」

「バカタレ!この!!」

 罵声とともにお好みやきパンを顔に投げつけた。

 片目が、咄嗟に目を閉じる。何が悪いのかわからない、と不思議そうな態度だ。

 私の罵声におもわず周囲のクラスメートたちの視線を集めた。なんだ、夫婦喧嘩か? そろそろ破局か? くだらない嘲笑が聞こえてきた。くっっっそどうでもいいわ。

「少しは人の気持ち考えなさい!!」

「事実を言ったまでだ」

「事実は人を傷つけるの!!」

「だが、目をそらすことはできないだろ」

「片目隠しるやつが何いうんだよ!」

 聞き耳を立てていたのか、周囲の生徒がぶふっと吹き出しているのが見えた。

 それで一瞬、冷静になる。

「で、私につぶれたお好みやきパンを買収させて何をさせる気?」

「つぶしたのはお前だろ」

「つぶさせた逆風くんが悪い。てか、みちるさんに謝ったの?」

「そのことだが、少し面倒でな……」

 逆風くんは一呼吸置いて話し出す。


「明みちるは中学から出席率が低くて、高校でようやく落ち着いたらしい。普通の学校では留年するほどだったが、うちの学校は例外で成績が優秀だったから入学を認めたんだ。日数が足りてれば国際交流グローバルコースも選べたらしい」

「あーそんなのあったっけ?」

 逆風くんはあきれ顔で、

「お前はほんと自分のことしか頭にないな。通称GBクラス。一番端の教室だろ」

「あぁ! どうりで外国人も多いのか」

 いままで長距離しか頭になかったから気にも留めなかった。

「話を戻すぞ。とにかく教師たちは明みちるを学校に呼び戻したいんだ。担任が説得しても駄目だったから、今度は俺が直接謝りに行くことになった」

「それで私に何の関係があるの?」

「ただ謝るだけならベースを断られて終わるだろ。だから月下も一緒に誘ってくれ」

 はい……?

「いやいやいやいや、私メンバーじゃないし。なるつもりないし」

「いつも長距離の相手をしてるだろ。どうせ帰ってもやることないんだから手伝え」

 なんて横暴な! だが……まぁ……真実なので仕方ない。

 目をそらすことができないとはよくいったものだ。

「お好み焼きパンで足りないなら、メロンパンも出す」

「いらんわ!!」

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