Day 3 謎

 念には念を押すトキワをユーイェンは暇そうに眺めるだけで、口出しはしない。

 最後に血のついたハーフグローブも残り火の中に投げたトキワは新しいものを手にはめた。地下に潜る場所を見つけて進む。ユーイェンが一歩でも後をついてくるようなら撃ち殺す考えでいた。

 彼女の動きに合わせてストロベリーブロンドがはためく。


「また、おにーさんが困った時に会いましょ」


 まったねー、と歌うようにすりぬけた声をトキワは聞かなかったことにした。付きまとわれる前に息の根を止めようと思っていたが、諦めたならちょうどいい。

 崩壊した瓦礫ののぼりとくだりを繰り返し、ぽかりと大口をあけた場所に行き着いた。地下の部分は崩壊を免れたようだ。

 神経を周りにくばり、女が着いてきていないことの確認も怠らない。強化人種コレクトと見たが、優れた身体能力は持ち合わせていないようだ。超能力の部類であれば、外見で判断するのは難しい。

 何処かで水滴が落ちている。そう判断できるぐらいに音は明確だった。地下に水が溜まるのでなく、空気が流れている証拠だ。行けるところまで行こうと決めたトキワは歩を進める。

 当然のように足音はひとつだ。

 落ちた天井の隙間から月明かりが射し込む。暗闇に慣れた目にはまぶしく見えた。

 視界の外に気配を感じたトキワは体を返して壁に隠れる。瓦礫を進行方向へ蹴り、レーザーで融かされるのを眺めた。

 確実な察知と狂いのない的中、人間離れした正確さは暗闇に置かれた生身では不可能だ。使役人形アンドロイドであればすぐに戦闘に入る。遠隔操作のものであったとしても、呼吸二つを見送っても動きはなかった――旧戦闘兵器の感知機能だろう。小型の重火器しか持ち合わせていないトキワはすぐに諦めた。奥に目的のものがあるとは限らないし、旧戦闘兵器を破壊することで、天井が崩れる可能性もある。謎を追い、命を落とす愚行を犯す必要もあるまい。踵を返し、一本手前の通路を進む。

 漏れ出た油に火花が飛んだのか、小さな炎が灯火のようにゆらめいていた。影をも赤々と映し、誘っているようだ。

 爛々と面白がっていた紅い瞳は足元にくすぶるものよりも赤みと艶を帯びていた。

 脳裏から消えない紅い記憶を蹴散らすように小型の合成獣キメラを撃ち殺す。これで五体目だったか。


「無駄なもん造りすぎだろ」


 蝙蝠と二十日鼠、爬虫類の何かを混ぜたような死骸に吐き捨てた脳裏にはまだ獰猛な女が嗤っていた。

 トキワは駆け引きが得意ではない。面倒な女が再び現れないことを願うばかりだ。深く考える前に疲れてどうでもよくなるといった方が正しいのだが、考えることをやめ、前を見据えた。

 まだ深い闇は続いている。早く済ませようと足を速めた。



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