動き出した主人公

大まかな流れを見つけ出した俺は、優衣の横で一気に書き上げる。


頭の中で、主人公達が動き始めた。


仕事モードに、変わった。


私は、主人公が話してくる台詞を泣きながら入力する。


「配役は、決まってるんだよね?」


優衣は、隣でパソコンを見つめながらそう話だした。


「しん、この台詞を彼等に言わすなんて凄いよ」


優衣が、隣で泣いている。


私は、気にせずに前半部分を書き上げた。


「しんの凄いところは、集中力だね」


「確かに、そうかも知れないな」


隣で、誰かが話してようと私の頭には主人公の会話しか入ってこないのだ。


私を仕事モードから、プライベートモードに優衣は、また戻してきた。


「後、二週間だけど。もう、僕の相手をしてよ」


「そうだね」


優衣の相手をしてると、主人公が駒を進めていくのを私は知ってる。


「もう、ドーナツとココアはやめて、お酒飲もう」


「いいよ、かまわない」


俺は、優衣の手についているドーナツの砂糖をわざと舐める。


「変態」


「どういたしまして」


優衣は、ドーナツの残りをキッチンにさげにいく。


「あまっ」


残されたココアの甘さに、驚きながら俺は、パソコンを閉まった。


キッチンで、カチャカチャと何かをしてる優衣を、見ないようにしながらボイスレコーダーを手に取った。


私は、主人公達の台詞を頭で反芻しながら、吹き込んでいく。


優依が、お酒とおつまみのセットを持ってきたので、私はボイスレコーダーを止めた。


「誰がどの役かは、決まってるんでしょ?しん」


「うん。吉宮凛さん、鴨池はやてさん、南沢雄大さん、早川実さんの四人の役は、決定してる。」


「そうなんだね。しんは、これから売れっ子になるんだからね。僕が、ちゃんとそうしてあげるからね。」


「別に、売れたいわけじゃないよ。俺は、好きなものを書きたいだけだよ。」


「しんの書きたいものと、時代がマッチしてるのかもね」


優衣は、笑いながらウィスキーの水割りを作ってくれる。


「俺は、また3Pを見せられるのか…。」


「映画の依頼ってそれだったの?」


「ああ、R18指定にするから。濃いのを書いて欲しいんだってさ」


俺は、テーブルの下の紙を見せる。


「断れば?」


優衣は、感情で生きているから無茶苦茶だった。


「優衣が、これだけで食べていけるようになってと言ったんだろ?」


「嫌だ。見に行かないで」


「でも、あの日優衣に見せられたものしかないから…。資料としては、少ない気がするんだよ」


「どこに行くの?」


「あー。撮影現場にいってくれないかって話。そこから、掴んで欲しいみたいで」


俺は、渡された資料を見せる。


「これ、女の人じゃんか」


「そうそう、女性ありの3Pと男同士の3Pと両方撮影があるから見て欲しいって話だったかな」


「ふざけないでよ」


「ふざけてないけど?」


「誰にでも、そうなるんでしょ?どうせ」


「ならないよ。俺は、優衣以外は素材だと思ってるよ」


「嘘つき」


こうなると優衣は、落ち着くまでとことん俺に怒りをぶつける。


「愛してるのは、優衣だけだって言ったくせに!!!そんなの見て、そうならない筈がないよね」


ここで、余計な口を挟んだり言い訳じみた言葉を発すると、いつも別れると言われてしまうのだ。


静観するのが、正しい事を知っていた。


「こんなの行かないでよ。行ったら、僕を捨てるんでしょ?」


優衣は、俺の手を自分の頬に当てる。


スリスリとしてくる。


俺は、優衣を引き寄せて抱き締めた。


「今までの人と一緒にするなよ。嫌なら、やめる」


俺は、優衣のネクタイをスルスルとほどいた。


こうなった優衣を俺は、抱かない。


変わりに、優しく肩に噛みつく。


「しんっっ」


「嬉しいの?」


「今日は、なしって意味だよね」


「うん、そうだよ」


「わかってる。僕が、悪いよね」


「明日の朝にしようか」


「うん」


女性を抱いて、例え避妊をしなくても、俺は妊娠などさせれないんだよ。


わかってるだろ?    優衣

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