タイトル

優衣は、私を見つめている。


「ねえー。もう、タイトルとイメージは掴んでるんでしょ?」


「ああ」


「話してよ」


私は、優衣にドーナツを渡された。


甘いものが、苦手な私なのに…


優衣に飼い慣らされてしまっている。


甘々のココアとドーナツで、私を老けさす作戦のようだ。


「さすがに、何故こんな」


「糖分がいるでしょ?」


「そう言われても…。」


「しんを誰にも、取られたくない」


可愛い彼氏に、こう言われて唇をプニプニとさわられたら、私は嫌だとは言えない。


「わかったよ。マッシュルーム君」


「なによ、それ」


優衣は、マッシュルームのようなヘアスタイルをしていた。


それが、不思議な程にすごく似合っている。


目の形が、綺麗だからだと思う。


「今回の作品のテーマとタイトルを言おうか」


私は、優衣の肩を引き寄せた。


「うん、話して。待ってた」


「今回のテーマは、やっぱりいつもながら子供が欲しい事に重きを置くつもりだよ」


「それは、しんの経験上だよね」


「うん。やっぱり、私としてはそうしたいんだ。絶対妊娠するというゴールがない話しだからこそ、私のリアルを混ぜ込める。」


「しんのリアルは、好きだよ。僕は、好き」


優衣は、交際してから僕と言ってくるようになった。


これは、仕事モードからプライベートモードになりましたよの合図だった。


「じゃあ、俺も。もうやめるかな」


私も、俺に変換。


プライベートモードに、移行することにした。


「それで、タイトルは?」


「蛹は、蝶の夢を見るだよ」


「どういう意味?」


「男の私=蛾、女の人=蝶と言う目線で、作品を作っていきたいんだ。だから、憧れって話だ。」


「女の子になりたいって事?」


優衣は、チョコレートのドーナツを噛り出す


「女の子になりたいわけじゃない。愛する人の子供が欲しいって話だよ」


「あー。僕がしんに思ってる感情だね」


切なげに、目を伏せた。


「そうだよ。優衣が、俺に思ってる感情だよ」


パクりと、優衣の手の中のチョコレートドーナツを食べた。


優衣は、わざとらしく指まで入れてきた。


優衣は、俺に離婚理由を聞いてきた。


子供が授かれなかった話をしたら、僕が産んであげたかったと話した。


「しんは、そのテーマを一生書くつもり?」


「一生書きたいよ。例え、子供を授かれたとしても…。あの日々は、とんでもなく辛くて悲しい日々だったから…。」


「でも、人間なんて忘れちゃう生き物だよ」


「そうなりたくなかったから、沢山小説をノートに書いた。あの時の悔しさや悲しさや痛みを、忘れたくなかった。」


「同じ人は、いる。しんと同じ気持ちの人は…。少なくとも、僕は同じだよ」


カスタードクリームのドーナツを割りながら優衣は、話す。


「優衣、俺は、このテーマを書き続けたい。」


優衣は、俺の口の中に甘い甘いカスタードクリームのドーナツを入れてきた。


「しんさんの書くお話は、綺麗なハッピーエンドには導いてくれません。私は、それが好きです。吉宮凛」


「ハハハ、それを読まないでよ」


前回のドラマを小説にされた時の帯を吉宮凛君、鴨池はやて君、南沢雄大君が書いてくれてるのを優依が読み上げる。


「これって、帯にはいるやつ?」


「ああ、そうだよ」


「しんさんのお話には、必ず悲恋が入っていて、そこにリアルが宿っていて好きです。鴨池はやて」


「優依、読まなくてもいいよ。恥ずかしいから」


「嫌だ。しんさんの作るお話のハッピーエンドは、現実の自分達に似ている。だから、こそ共感を得られる。演じる側としては、より丁寧に演じきりたいと思う。南沢雄大」


「嬉しいよね。三人共、俺の作品を褒めてくれてる。のは、帯だけかな?」


優衣は、首を横にふった。


「しんの作品は、違うよ。しんが、泣きながら書いてる。それは、演じる人にも読者にもきちんと伝わってる。僕には、わかる。しんは、子供を授かっていても…。きっと、同じように作品を作る。泣きながら、自分の心を削って書く。その物語は、魂に伝わる」


「優衣、大袈裟だよ」


俺は、そう言って笑った。

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