57.エピローグ

和人と都は夕暮れの中、土手の道をゆっくり歩いていた。

その手はしっかり繋がれている。


しかし、ルンルンと幸せそうな都に対し、和人は緊張し、真っ赤な顔で俯いて歩いている。


(手汗が・・・)


緊張のあまり手に汗が沸いてくるのが分かり焦る。

その焦りから、更に汗が流れる。悪循環の繰り返し。


(気持ち悪がられないかな・・・?)


不安になってチラリと都を見るが、都はまったく気にしている様子もなく、ご機嫌に歩いている。

ホッとするものの、やはり気になる。

でも、この手を放すのも惜しい。

一度放したら、また繋ぐのに勇気がいりそうだ。


「ふふ、和人君。手の汗がすごいわね」


気にしていることを、都にズバリと的中され、和人は肩がビクッと震えた。


「ご、ごめん! 気持ち悪いよね?!」


和人は咄嗟に都の手を放した。

都は驚いた顔をして、和人を見た。


「何で?」


都は首を傾げて、和人の手首と取った。


「和人君が手に汗をかくのは昔からじゃない? 変わってないわね」


そう言うと、カバンからハンカチを取り出して、和人の手を拭きだした。


(あ・・・)


和人は目の前の都を見た。

自分の手を取ってハンカチで汗を拭きとる都。

その姿が急にランドセルを背負った小学生に戻った。


『和人君の手は汗っかきね』


そう言いながら、スカートのポケットからハンカチを出して、よく和人の手を拭いてくれた。

そして、改めて手を繋いで歩き出す。

和人が恥ずかしがって手を引っ込めようとしても、しっかり握って離さない。


(君が相手だから、汗をかくんだよ・・・。他の人ならこんな事はないのに・・・)


小学生の高学年になり、極端に都の事を意識し始めた和人は、都と手を繋ぐとすぐ汗をかいてしまう。

都はそれを気にする和人の手を取り、いつも汗を拭いてくれていたのだ。


(変わらないのは君だ・・・)


目の前の都をじっと見つめた。

高校生の都は小学生の都より、ずっと背が高く、美しい。

なのに自分の手を取り、ハンカチで拭う所作は昔と変わらない。


(僕はこの子の何を疑っていたんだろう・・・?)


どうして、ここまでしてくれる人に想われていないなんて考えていたんだろう?

いくら自分の容姿に自信が無いからって、今まで、なんて情けなかったんだろう。


和人は都の顔から目が離せなくなった。


都は和人の手を拭き終わると、顔上げてにっこりと微笑んだ。

和人はその愛らしい笑顔に吸い寄せられた。


唇に柔らかいものが振れたと思った瞬間、和人は我に返った。

すぐ目の前に都の顔がある。


「!!!」


和人は慌てて後ろに飛び退いた。


「和人君・・・」


「ご、ごめん! 都ちゃん! ぼ、僕・・・っ!」


都は頬を真っ赤に染めて、瞳をキラキラさせて和人を見ている。


「和人君・・・。今、都にキ・・・」


「わーー!!」


和人は都の言葉を遮り、もう一歩後ろに下がった。


「和人君・・・」


都はジリジリと前に進む。和人はジリジリと後ずさりする。


「み、都ちゃん! は、早く帰ろう! ほら、ね?! もう遅いから!」


「和人君・・・。もう一回キスして・・・。だって、今の一瞬すぎる・・・」


「ままま、ま、また、こ、こ、今度ね!」


和人はくるっと向きを変えると、バタバタと大きな体を揺らして走り出した。


「え~! 和人君! 待って~! 今度っていつ~~?!」


夕日に染まる真っ赤な空。その空をカラスが数羽飛んでいる。

アホー、アホーと鳴きながら飛んでいる。


その空の下、逃げる和人を都は追いかけて行った。


和人が都の隣を堂々と歩けるようになるには、もう少し時間が掛かりそうだ。



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大好きな許嫁にフラれてしまいました・・・。 夢呼 @hiroko-dream2

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