51.裏工作

「う~~ん・・・、都ちゃん。それはちょっと難しいんじゃないの?」


真理と都は、多目的ルームの隅っこで向かい合って花を作りながら、小声で話し合っていた。


「やっぱり、無理・・・?」


都は縋るような顔をして首を傾げた。


「確かに、借り物競走の『好きな人』っていうお題は、見せ場の一つと思うわよ? でも、1レース6人で走るのところに、4つも5つも『好きな人』を入れるわけにはいかないでしょう?」


「そう?」


「せめて1つよ。それで『やだ~! ババ引いちゃった~! どうしよ~!』って盛り上がるのが借り物競走って奴なのよ」


「皆がみんな、ババだったらもっと盛り上がるんじゃない?」


「そうなったら、もはや借り物競走じゃないでしょ」


「そっかぁ・・・、ダメかぁ・・・」


都はシュンと肩を落とした。


「都ちゃん、そんなに『好きな人』を引きたいんだ?」


「・・・うん」


残念そうに俯いて、作った花をイジイジと弄んでいる都に反して、真理は生き生きとした顔をして、都の顔を覗き込んだ。


「ねえ! ちょっと、ちょっと、都ちゃん! 誰? 誰? その『好きな人』!!」


「え? 和人君だけど」


「えっ! マジで? やっぱり唯の幼馴染じゃなかったのね?!」


真理は大好物な恋バナに興奮して、せっかく作った花を握りつぶした。


「アヤシイとは思っていたのよね! でも、都ちゃんも津田君も唯の幼馴染の一点張りだったからさ~!」


「・・・うん」


「その割には、都ちゃん、津田君を付け回し過ぎだったものね!」


「う・・・」


興奮が冷めない真理は、ズリズリっと座りながら都ににじり寄った。

顔を近づけると、


「ねえ! もしかして、これを機に告白するの? 『もう唯の幼馴染じゃ、嫌っ!』みたいに?」


鼻息荒く、都に聞いてくる。

都は、真理の気迫に圧され、一瞬たじろいだが、すぐに笑顔になった。


「ふふ。実は都、もう『彼女』なの!」


「ええ!? うそ!?」


あまりの驚きに、真理は声を上げた。

都は慌てて、口元に人差し指を置き、シーっと制した。

真理もハッとして、急いで両手で口を塞いで周りを見た。


周りは二人を不思議そうに見ている。

真理は、コホンと軽く咳払いすると、また都の顔に近づき、


「じゃあ、何で『好きな人』のくじが必要なの?」


と小声で尋ねた。

すると、都は、また子犬のようにシュンと項垂れた。


「だって・・・、和人君、つれなくて・・・」


「なんと・・・」


真理は目を丸めた。


都は学年の内3本の指に入るほどの可愛さだ。

その都にこんな態度を取らせるとは、なんて和人は罪作りな男なのだ。

真理は都の健気さに同情してしまった。


「都ちゃん! 私、協力する!」


真理は、既に握りつぶしている花をさらにギュッと掴み、ガッツポーズをした。


「本当? 真理ちゃん・・・?」


「うん! でも、都ちゃんの案は無理があるわ。もうちょっと考えよう!」


「ありがとう! 真理ちゃん!」


満面の笑みを浮かべ、都はガッツポーズした真理の手を両手で握りしめた。





真理の協力の確約を取り付け、都は俄然やる気が出てきた。

今となっては準備委員様様だ!


ルンルンとスキップしながら、和人の待つ図書室へ向かう。


昨日と同じように、誰もいない図書室で和人は一人、貸出カウンターで勉強しながら都を待っていた。


「和人君っ! お待たせーっ!!」


昨日以上にハイテンションで図書室に入ってきた都に、和人は驚いて椅子からボヨンっと飛び上がった。


「お、お疲れ様、都ちゃん・・・。びっくりした・・・」


目を丸めている和人の傍に、都はタタタっと駆け寄った。


「さあ、帰ろう! 和人君!」


「う、うん・・・?」


あまりにもご機嫌な都に、和人は思わず首を傾げた。


「ご機嫌だね? 都ちゃん。何か良いことあったの?」


「うん! 準備委員って意外と楽しいわ! 真理ちゃんも一緒なの。和人君も知っているでしょ? 真理ちゃん」


「え? えっと・・・、中井さんだっけ?」


「そうそう! それとね、明日は紅白の応援看板作成のお手伝いなの」


「土曜日なのに?」


和人は驚いたように聞いた。

紅白の応援看板は美術部が主体で作成するものだ。

美術部にとっては大きな発表の場も兼ねているので、かなり気合の入った作品が作られる。

それの手伝いを準備委員もするとは知らなかった。


「うん。時間も無いし、今、美術部員って少ないんですって。だから準備委員もお手伝いするの」


「ふーん、本当に思っていた以上に大変そうだね、準備委員って」


「ふふ、でも、真理ちゃんもいるから楽しいわ」


—――いや、正確には、真理いるからのだ。


「都、体育祭、やる気出てきたわ!」


都が楽しそうに笑うので、和人も自然と頬が緩む。


「そう? 良かった。都ちゃん、最初は乗り気じゃなさそうだったから」


よもや自分がターゲットになっていることなど知る由もない和人は、安心したように都を見た。そして、急いで帰り支度を終えると、


「じゃあ、帰ろう、都ちゃん」


そう言って、まだ緊張する都の隣に勇気を出して並んで歩き出した。

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