50.またまたアイデア

今日も都と静香は屋上でランチをしていた。

食堂ではなく屋上でランチをする時は、誰かに聞かれたくない話がある時だ。


「静香ちゃん! 聞いて! 都、良い事思い付いちゃった!」


静香はふぅ~と溜息を付いた。

やっぱり何か企んでた・・・。


「・・・嫌な予感しかしないけど・・・」


静香はそう言うと、紙パックの野菜ジュースにストローを突き刺した。


「大体、都の良い事って、ロクなことないもの」


「ひど~い! そんな言い方~!」


「はいはい。で? 何? 良い事って?」


都は気を取り直すと、そっと静香の顔に近づいた。


「裏工作」


「は?」


「体育祭の」


「・・・」


「借り物競走の裏工作!」


「・・・」


都はにんまりと笑って静香を見た。


静香は無言でぢゅ~っと野菜ジュースを飲むと、カレーパンをモグモグ食べだした。

半分ぐらい食べて、もう一度ジュースを一口飲み、一息つくと、


「ごめん、都。何言ってるか分からない」


やっと都に返答した。


「だから、裏工作だってば! 借り物競走のお題に『好きな人』ってたくさん作るの!」


「・・・それって一番迷惑な奴じゃ・・・」


「もちろん、他の人のレースには何個も入れないわよ」


「?」


「都の走るレースにだけ、何個も仕込んでもらうの! 当たり易いように!」


都はどうだとばかりに静香を見た。


「『好きな人』を引いて、和人君と一緒に走ってもらうの! そうすれば和人君と手を繋いで走れる上に、都が和人君の『彼女』という事をみんなにアピールできるし、一石二鳥でしょ?」


静香は、はあ~~~~~と今までにないほどの大きな溜息を付くと、頭を抱えた。


「それじゃ、都と一緒に走る人たちは大迷惑じゃない。彼氏がいる人はいいけど、いない人は迷惑よ。それに、片思いの人だって、めちゃめちゃ困るでしょうよ・・・」


「どうして? 片思いの人は、ちょうど告白になっていいじゃない?」


「あのねえ。皆がみんな、都みたいに積極的な人ばかりじゃないのよ?」


「う~~ん・・・、でも、たくさんある方が当たり易いもん~」


都は唇に人差し指を当て、ちょっと考える素振りを見せた。

もちろん、静香にはそれがだということはお見通しだ。

ジトっと目を細めて都を見た。


「いい? とにかく、その案は却下よ!」


「え~~~~」


「『え~』じゃない! 自分たちの恋路に他人を巻き込まないの!」


「う~・・・」


ピシャリと静香に言われ、都は子犬のように首を竦めた。


「いい案だと思ったのに・・・」

「やっぱり、ロクな事じゃなかった・・・」


二人で同時に呟くと、ふぅ~と、これもまた同時に溜息を付いた。





静香にダメ出しを食らっても、都はどうしても「裏工作」を諦めきれなかった。


放課後に多目的ホールで入場門に飾り付けるペーパーフラワーを黙々と作成しながら、何とか打つ手はないかと考えていた。


「遅くなってごめんなさ~い!」


一人の女子が作業の輪に入ってきた。


「あ、ここ空いてる? 座っていい? 都ちゃん」


「うん。どうぞ、真理ちゃん」


真理と呼ばれた女子は、田中と都の間に、キュキュッと割り込んできた。


「え・・・」


田中は渋い顔をしたが、都と知り合いのようで、文句の言いようがない。


真理は都と同じ中学校出身だ。

偶然にも、同じ準備委員になり、久々に話が弾む。


手も口も動かしながら作業をしていると、


「都ちゃん、何の競技に出るの?」


と、真理に聞かれた。


「都、借り物競走。真理ちゃんは?」


「私は、台風の目」


「いいなあ。都もそれが良かった・・・」


「都ちゃん、借り物競走か~。私、お題係だ~。へへへ~、変なの考えちゃおうかな~~」


真理は悪戯っぽく笑った。

それを聞いて、都は作り途中の花をポロリと落とした。


「やだ~、冗談よ~。都ちゃん!」


ケラケラ笑う真理の手を、都はガシッと掴んだ。


「な、何!?」


「真理ちゃん・・・。都、折り入ってお願いがあるの・・・」


「はい?」


「ちょっと、こっちに来て、話聞いて!」


都は目の前のペーパーをガバッと鷲掴みにすると、真理の腕を取った。


「え? え? 何? 何?」


真理はポカンと作りかけの花を握ったまま、都にズルズルと部屋の隅に引きずられていった。

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