52.大詰め

体育祭もあと数日に迫ってきた。


生徒たちの頑張りもあって、準備は滞りなく進んでいる。

都の裏工作以外は・・・。


ここ最近、真理と二人でずっと、あーでもないこーでもないと頭を悩ませていた。

真理の計らいで、借り物競走のお題に『好きな人』を入れるという関門は無事に通過した。

ただし、やはり入れたとしても1レースに付き一つ。

しかも、お題はレースごとにセットされる上に、その中身も同じものが被らないようにチェックするという。

これでは、都のレースのお題を『好きな人』だらけにすることは難しい。

都が確実に『好きな人』を引くには想像以上にハードルが高いことが分かった。


「やっぱり、都ちゃんが走るレースの『好きな人』に印を付けるしかないんじゃない?」


真理は溜息つくように言った。


「都ちゃんが何番目に走るかは分かるわけだから、そのお題セットに細工するしかないわよ」


「どんなふうに?」


「端っこの方に蛍光灯ペンで色を塗るとか、折り方を変えるとか・・・」


「それなら一目で分かるわね」


「ただし、先に誰かに取られたら終わりだけどね。都ちゃんって足早いっけ?」


「めっちゃ普通」


「・・・」


都と真理はお互いの顔を見合わせ、長い溜息を付いた。





結局のところ、100%完璧な裏工作など思い浮かばないところに持ってきて、和人は相変わらず、つれない態度を崩さない。

一緒の登下校中に手を繋いでくれることもなければ、甘い言葉を掛けてくれることもない。


いつも優しいけれど、それでは『許嫁』の時と何ら変わらない。

返って都の闘争心が高まるだけだ。


(絶対に、『借り物競走手繋ぎ大作戦』は成功させてやるんだから!)


そんな風に息巻いているうちに、いつの間にか体育祭は明日だ。


いつものように田中と準備作業に向かう。

入場門や紅白の応援看板などの大物が体育館に一時的に置かれ、今日はみんなで校庭に設置作業だ。

ここまで来ると大詰めだ。今までの苦労が形となり、嫌でも気分は高揚してくる。


「今日、とうとう設置ね!」


都はご機嫌に田中に話しかけた。


「そうだね。それにしても、今年の美術部の看板はすごい気合入ってるよなぁ。去年よりずっとカッコいいと思うよ」


「うん! 都もそう思う! 早くみんなに見てもらいたいわよね!」


そんな話をしながら、都はメールを確認しようとバックの中のスマートフォンを探した。


「え? あ! うそ! もしかして携帯、教室に忘れちゃった?!」


都は顔を突っ込むようにカバンを覗き込んだ。

隅々まで見たが、やはり携帯は無い。


「ごめん、田中君。先に行ってて」


都はくるっと向きを変えると、急いで教室に向かって走って行った。

しかし、途中で、


「都!」


前から静香が歩いてきた。

手には都のスマートフォンを持って、こちらに向かって振っている。


「静香ちゃ~ん!」


「もう。机の上に置きっぱなしだったわよ」


「良かった~! ありがと~~!!」


都は静香に抱き付くと、スマートフォンを受け取った。


「じゃあ、また明日ね! 静香ちゃん!」


そう言って静香に手を振り、すぐに体育館に向かった。

メールをチェックしながら歩いていると、また声を掛けられた。


「都ちゃん」


「え?」


都は顔を上げて、キョロキョロと声の主を探した。


「あ、高田君」


そこには何時に無く真剣な面持ちの高田が立っていた。

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