45.「許嫁」改め「彼女」
「ねえ、和人君。都が彼女ってことは、また明日から一緒に学校行ってくれる?」
帰り道、都はルンルンとご機嫌に歩きながら、花のような笑顔を和人に向けた。
和人はその笑顔があまりにも眩しくて、思わず目を逸らした。
「うん・・・。また、明日から迎えに行くよ」
「良かった! 都、待ってるわね!」
都はにっこり微笑んだ。
だが、和人は笑顔をまともに見ることが出来ない。
屋上での告白の緊張も解けていないところに持ってきて、都の破壊的に可愛らしい笑顔を受け止めるには、心臓が二つは必要だ。
和人は一つしかない心臓を破裂しないようにギュッと手で押さえた。
「ふふふ~」
そんなことはお構いなしに、都は笑顔の爆弾を降らせてくる。
さっきから、何度も、和人君、和人君と言いながら、顔を覗き込んではにっこりと微笑む。
都の笑顔が可愛いのは昔から知っている。だが・・・。
(ここまで可愛かったっけ・・・?)
クラクラと眩暈を起こしそうなほどの可愛さに、心臓の早打ちが止まらない。
これでは、この大事な一つの心臓が家まで持たないかもしれない。
はあ~と溜息を付いた時、都は何かを思い出したように、また和人の顔を覗き込んだ。
「ねえ、和人君。なんで、あの時・・・、最初に許嫁辞めたいって言った時、彼女になってほしいって言ってくれなかったの?」
「・・・っ!」
和人はグッと言葉を詰まらせた。
聞かれると思っていた質問だ。
「えっと、あの時は・・・」
「やっぱり、都、あの時は本当に振られていたのね?」
言葉に詰まる和人を見て、都は拗ねたように口を尖らせた。
その表情に、和人の心臓はまた飛び跳ねる。
「ち、違うよ! 振ったっていう訳じゃないよ。その・・・」
あの時は本当に離れようと思っていた。都のためにも。
勝手に高田との関係を疑って、お似合いだなんて思って諦めて・・・。
それなのに、醜く嫉妬して・・・。
「その?」
「ごめん・・・、自分に自信が無かっただけなんだ・・・。でも・・・」
「でも?」
「でも、やっぱり、都ちゃんが誰かの恋人になるのはどうしても嫌で・・・」
「!!」
「男らしく無かったよね・・・。ごめんね・・・。って、都ちゃん??」
都は顔の前で両手を組み、瞳をキラキラ輝かせながら、和人の顔を見つめていた。
「・・・和人君・・・。もう一回言って・・・。今のセリフ・・・」
「え・・・?」
「『都が誰かの恋人になるのが嫌だ』って・・・」
都はうっとりと和人を見ている。
和人はボンっと頭が噴火するほど赤くなった。
「えっ、えっと・・・」
「ああ! 和人君、ちょっと待って! 録音しなきゃ!」
狼狽える和人を余所に、都はカバンを漁りだした。
「都ちゃん! そんなことより、早く帰ろう! ほら、いつもより遅くなってるし!!」
和人は都から逃げるようにスタスタ歩き出した。
大柄な彼は、いつも歩く速度はゆっくりだ。
同一人物とは思えないほどの速さでスタスタ歩いて行く。
「え? ちょっと待って、和人君!」
都は取り出したスマートフォンを片手に振り向くと、既に和人はかなり先へ行っている。
「え~~! 待って、和人君~! もう一回言って、さっきの~」
「ごめん! 無理! いくら都ちゃんのお願いでも!」
「あー、待って~。もう一回~~!」
沈む夕日に向かって、ほぼ小走りで逃げていく和人を、都はスマートフォン片手に追いかけて行った。
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