41.覚悟
都は大きく深呼吸すると、静香に向かってくるっと背を向けた。
そして、少しだけ前屈みになり、背中に力を込めた。
パシッ! パシッ! パシッ!
アスリートを試合会場に送り出すが如く、静香がその背中と肩を叩き、気合を入れた。
「・・・これでいい?」
静香は呆れ気味に都を覗き込むと、都はシャッ!っとガッツポーズしていた。
「行ってくるわ! 静香ちゃん、また明日ね!」
「・・・大丈夫? 図書室まで付き合う?」
「ううん。大丈夫! ありがとう!」
「そう? 余計なお邪魔虫がいなきゃいいけど・・・」
静香はボソッと呟いたが、都には聞こえていないようだ。
都は元気よく手を振ると、教室から出て行った。
★
都が向かったのは、もちろん図書室。
和人に自分のテスト結果を知らせるためだ。
202番で、都の負け。
よって、和人の願いを受け入れる。
その覚悟は出来た。
問題はその後だ。
和人の許嫁の座を諦めても、この恋は諦めるつもりは無いという、断固たる決心を伝えねばならない。
小さいころから大好きなのだ。そう簡単に諦められるものではない。
もし、また勝負が必要なら受けて立つ! 何度でも!
都は図書室の前に立った。
大きく深呼吸して呼吸を整える。そして、一歩図書室に足を踏み入れた。
貸出カウンターを見ると、まだ誰もいない。
都は久しぶりにいつもの一人用の席に腰を下ろした。
しかし、今日は読む漫画も雑誌も持っていなかった。
今、和人が来たところで、すぐに外に連れ出すことはできない。
とは言え、ただでさえ気持ちが高揚し、緊張しているのに、カウンター当番が終わるまで、何もせずに座って待っているなんて、到底できない。
都は周りを見渡した。
本がびっしり詰まった棚がずらりと並んでいる。
こんなにも足しげく通っている図書室なのに、都はいつもこの席に座っているだけで、本棚の本を読んだことはあまりない。
和人や他の図書委員たちがお勧めの本などは、図書室の中央のテーブルに感想と一緒に置いてあるので、それを手に取ることはあるが、奥の本棚の森には率先して近づこうとは思わなかった。
都はふらりと立ち上がると、奥の本棚の方へ向かった。
久しぶりに棚と棚の間をゆっくり歩いてみる。
上から下まで綺麗に本が並んでいる棚に挟まれると、独特な威圧感を覚える。
本屋だって、同じくたくさんの本が並んでいるのに、それとは全く違う厳かな雰囲気。
テスト週間も明けて、本を物色している生徒が多い。
都も他の生徒に習い、慣れたふりを装って本を選び始めた。
「あ・・・」
ある棚で知っているタイトルが目に入った。
都は思わずその本を手に取った。
最近も、この主人公の言葉に励まされたばかりだ。
「映画でしか知らないし、読んでみようかな。和人君も良かったって言ってたし・・・」
都はその本を持って、自分の特等席に戻ろうとした。
その時に、チラリとカウンターの方を伺うと、和人が席に座っていた。
途端に都の鼓動が早くなった。
駆け寄りたいのをぐっと堪えて、その場に踏み止まる。
仕事の邪魔をしないように、終わりの時間に声を掛けようと思ったが、
(あ! あの子・・・!)
和人の隣に座っている生徒に気が付いた。
あの子だ!!
同級生だか後輩だか先輩だか知らないが、和人と同じ特進科コースの女子!
馴れ馴れしく和人にしがみ付いていた女!
都は目を光らせた。
食い入るように二人を見た。
二人は小声で何かを話しているようだ。
小声で話すことは別におかしくない。ここは図書室なのだから。
だが、和人は何やら作業をしているようだ。
それなのに、女子は手伝う素振りも見せず、やたらと和人に話しかけている。
それも、至近距離で。
(やっぱり近い! 絶対、変!!)
都は諦めた。
和人の仕事の終わる時間まで待つことを。
ズンズンとカウンターに進むと、バンっと乱暴に本を置いた。
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