37.テスト結果

長い長いテスト期間が終わった。

最後の教科の解答用紙を提出し、都は机に突っ伏していた。


出来るだけのことはやった。

和人が作ってくれた対策ノートも何度も読み返したし、丸を付けてくれた問題も全部やった。


廃人のように突っ伏している都に、


「お疲れ様」


静香は労いの言葉を掛けた。


「よく頑張ったわね。一人で乗り切ったなんて初めてじゃない?」


「静香ちゃん・・・」


都は机に顔を付けたまま、静香に振り向いた。

確かに頑張った。一人で乗り切ったなんて初めてだ。

だが・・・。


「手ごたえが無い・・・」


今回は、分からない問題をとことん解説してくれる人もいない。

和人が張ってくれたヤマも、今回はあまり出ていなかった気がする。

いつもなら、和人が出してくれた問題と瓜二つのものが何題も出るのに。


詰まるところ、単純に都がしっかりと理解できていないから解けないだけなのだ。

改めて自分の実力の無さと、和人の偉大さを思い知った。


「・・・やっぱり、都、和人君がいないと無理・・・」


「結局、和人君の力を借りたじゃない」


「うん、そうだけど・・・」


静香はいつまでもウジウジしている都の頭をポンポン軽く叩くと、


「お疲れ様会しましょ。前のテストの時は都にケーキバイキング奢ってもらったから、今日は私が奢ってあげる」


そう言うと、にっこりと微笑んだ。


「・・・静香ちゃん・・・。今回、自信あるのね・・・?」


「ええ、まあね。お陰様で。都様様のところもあるから、お礼も兼ねてご馳走するわ」


「・・・何で?」


都は不思議そうな顔をしたが、静香は意味ありげな笑みを浮かべるだけだ。

特に追及する気にもならないところに、担任教諭も教室に入ってきたので、そのままうやむやになった。





翌週の昼休みの屋上。

左手にカレーパンを持ち、野菜ジュースを飲んでいる静香の隣で、都はオイオイ泣き崩れていた。


丸く蹲って泣いている手元には試験結果の順位表が握られていた。

静香は野菜ジュースを床に置くと、都の手から順位表を取った。


『202』


「都にしては頑張った方じゃない」


「200番以内じゃないとダメなの~!」


「だから250番くらいにしておけばよかったのに」


「わ~ん!」


都はまたオイオイ泣き出した。

無情にも『202』とは!

自分の前にいるのはたった二人!

この二人のせいで自分は200番に入れなかったのだ!


「わ~ん! もう、この二人って誰ぇ~~? できるなら買収したい~~!!」


「なにアホなこと言っているのよ・・・」


「だって~、だって~、この二人のせいで、都、勝負に負けちゃった~!」


「二人のせいじゃなくて、都のせい」


「分かってますぅ~~~」


両手で顔を覆いシクシク泣き続ける都に、静香は呆れたように見ながら、カレーパンを頬張った。

もぐもぐ食べながら、順位表を都のポケットにねじ込んだ。


「都のお願いを聞いてもらえないだけでしょ? また何か勝負すれば?」


「違う~! 負けた方が願いを聞くの! だから、都、許嫁辞めなきゃいけない~」


「へえ?」


静香はカレーパンを食べ終えると、今度は袋からクリームパンを取り出した。

野菜ジュースをぢゅ~っと吸うと、ストローをくわえたまま、


「でも仮に、和人君の願いが『許嫁を辞めたい』だとしても、和人君が4番以下だったら?」


そう言って、ベリベリっとクリームパンの封を開けた。


「え・・・?」


「和人君が4番以下の場合も、都のお願い一つ聞くんでしょ?」


「・・・」


「だったら、『却下』ってお願いしたら?」


「・・・静香ちゃん、頭良い・・・」


都は顔を上げて、パチパチと瞬きしながら親友を見た。


「都の対策ノートってかなりの力作じゃない? あれに時間を取られて自分の勉強ができていないとしたら、可能性は無くもないわよ」


都の顔に少しだけ希望の光が差した。


「確かに、そうかも・・・」


都の対策ノートは全教科作成されていた。

ノートを受け取った日の和人の顔は明らかに寝不足だった。このノートに時間を浪費して自分の勉強が疎かになっていたら・・・。


そう思った途端、今度は罪悪感に襲われ、顔が曇った。


「4番以下になったら、都のせい・・・?」


自分のせいで4番以下になった上に、罰ってどうなのだ?

これはこれで由々しき問題な気がする。

冷静になってみると、いろいろおかしい。


「ま、でも、95%の確率で4番以下は無いでしょうね。一縷の望みね。人の成績が落ちることを望むなんてどうかと思うけど。ましてや好きな人の」


「う・・・」


静香に痛いところを突かれ、返す言葉が無い。

苦み潰した顔をしたまま、購買で買ってきたパンを取り出し、やっと食べ始めた。

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