31.一人で勉強

和人はなるべく都の方を見ないように努力していた。

二人で仲良く勉強しているところを見るのは辛い。


自分から遠ざけておきながら、やはり都の事が好きだと自覚して、ウジウジ悩む。

それを繰り返している自分に嫌気が差す。


どんよりと曇った気持ちでカウンターに座り、極力俯いて、自分も勉強をしていた。


だが、どうしても気持ちが都と高田に行ってしまう。

チラチラと見ているうちに、あることに気が付いた。


都の席の隣に静香がいる・・・。


都と高田に気を取られ過ぎて、静香の存在に気が付いていなかった。


(二人きりじゃないんだ・・・)


そう気が付いた途端、和人にほんの少しだけ気持ちにゆとりが生まれた。

そうなると、今度はちょっとした違和感を覚えた。


(あ、れ・・・?)


和人はさりげなく三人を観察してみると、高田は静香にかかりきりだった。

ほぼマンツーマンだ。


もともと静香は都よりも勉強熱心だ。

前回のテストの直後、失敗した!と頭を抱えていた。

そんな静香を慰めるためにケーキバイキングを奢るという都に、自分も付き合わされたことは記憶に新しい。

その時に、次回はリベンジする!とケーキをやけ食いしていた静香を思い出した。


注意深く都を見ていると、顔が段々呆けてくるのが分かった。

明らかに付いていけていない顔だ・・・。


(あ、まずい・・・、あれは・・・)


和人はハラハラし始めた。

さっきまで酷い嫉妬をしていたのに、身勝手にも、今度は都を放ったらかしにしている高田にヤキモキしてきた。


(た、高田君・・・! 都ちゃん、呆けてる、呆けてる! 気付いて・・・!)


しかし、高田はガッチリと静香にホールドされている状態だ。


都は完全に呆けた顔になった。ポカンとした顔をして二人を見ている。

そして、今度はカリカリと何かを書き始めた。

都は気が削がれると落書きを始めるのが常だ。


(あああ・・・、もう完全に気が削がれちゃってる・・・)


しかし、都は何を思ったか、別の教科書を広げ出した。

そして、なんと一人で勉強を始めたのだ。


(え・・・?)


和人はそんな都の様子を、目をパチパチしながら見つめた。


(ちゃんと一人で勉強してる・・・)


その姿を見て、何故か和人の胸のざわつきが少しだけ治まった。

高田に抱いていた醜い嫉妬と、それに相反する、都を構わないことへの苛立ちも、少しずつ和らいでいった。


自分の机に視線を戻すと、改めて自分の勉強を始めた。


「すいません。これ借りたいんですけど」


一人の生徒が本を持ってきた。


「あ、ごめんなさい。一人二冊までなんです」


三冊カウンターの置いた生徒に、和人は申し訳なさそうに言う。


「あ、そうなんだ。あ、じゃあ、これ戻してきます」


生徒はその内の一冊を手に取ると、いそいそと本棚に戻っていった。


その生徒が戻る間、和人はもう一度都を見た。

都は、相変わらず、一人黙々と勉強をしている。

やっと静香に解放された高田は、都の方をチラチラ見ているようだが、都は見向きもしない。


「・・・」


「すいませんでした! じゃ、この二冊でお願いします」


戻ってきた生徒に声を掛けられ、和人は我に返った。

貸出の手続きを終えて、和人は椅子に腰を下ろすと、隣の席で同じく図書委員の生徒を見た。

彼は本が大好きで図書委員になっただけあって、見事なまでに仕事をせずに、いつも本を貪るように読んでいる。

仕事をしない事が玉に瑕だが、本好きでコミュ障のところは和人と同じで気が合うのだ。


「ねえ、佐藤君。ちょっといい?」


和人は読書中の佐藤に声を掛けた。

佐藤は読書を邪魔されることを極端に嫌うが、相手が和人だとそうでもない。

お互い数少ない友人同士。佐藤は素直に顔を上げた。


「なに? 津田君?」


「えっとね、ちょっとお願いがあるんだ・・・」

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