30.勉強会

都が高田からの申し出に顔を曇らせたのには訳がある。


静香と同じく、静かに黙々と勉強したいという気持ちもあった。

そして何よりも、その姿を和人に見てもらうという打算的な考えがあったのだ。


そして、もう一つ・・・。


(高田君の説明ってちょっと難しくて・・・)


高田は優秀なだけあって説明も高度。

都の頭のレベルに合わせて、とことんかみ砕いて説明してくれる和人とは違う。

以前、高田の説明を理解するのに苦心したことを思い出した。


都が高田に勉強を見てもらったのは一度切り。宿題をしていた時だけだ。


さっさと終わらせて、クラスメイトから借りた漫画を読もうと思っていたのだが、あにはからんや、難しくて分からない。

和人に聞こうにもまだ来ていない。


頭を掻きむしって唸っているところに、高田が声を掛けてきたのだ。

不審そうに高田を見上げるも、


「津田君とよく一緒にいるよね。俺、津田君と同じクラスなんだ」


その高田の一言に、都の警戒心はあっけなく散った。

しかも、クラス委員長とな?!


『あらあら、まあまあ、これはこれは社長委員長さん、いつも主人が・・・』


例の女房面スイッチが入り、慌てて愛想を良くした。

しかも、高田は苦心している自分を憐れんでくれたようだ。どこが分からないの?と聞いてきた。

その流れで、都は高田に質問したが、すぐに後悔した。


(説明が高度過ぎて分からない・・・)


一生懸命、何度も聞いて、何とか理解に至ったのだ。

今思うと、よく高田も匙を投げなかったものだ・・・。


それ以来、高田は図書室で会うとよく声を掛けてくる。

大した話はあまりしないが、なにせ彼は和人のクラスメイトだ。

高田の話から和人のクラスの様子が伺える。

たまに彼の口から和人の話題が上がると、自然と笑みが浮かぶ。


自分では叶わなかった和人と同じクラス・・・。

和人はクラスでどう過ごしているのか?

高田の話から和人のクラスの情景を垣間見ることができて、それが都には新鮮だった。


都は静香と高田を交互に見た。

静香は真剣に高田に質問をしている。それに高田は丁寧に答えている。


(ま、いいか、別に。静香ちゃんが満足ならそれで)


都も最初のうちは頑張って食らい付いていたが、すぐに付いていけなくなった。

静香は順調に高田の説明を飲み込んでいるようだ。

普段、多大な迷惑をかけている静香に、これ以上迷惑をかけるわけにはいかない。


都は二人の邪魔をしないように、ひっそりと一人離脱した。

別の科目の教科書とノートを広げて、隣でカリカリと勉強を始めた。





和人が図書室に入ってきたのは、高田が都たちの机に着いた後だった。


カウンターに座り前と見ると、都の姿が目に入った。机には教科書とノートが広げられている。

そして、その前には高田の姿・・・。


「・・・!」


和人はその光景に息を呑んだ。


高田の説明を、シャープペンを握りしめ、フンフンとばかりに頷きながら聞いている都がいた。


(・・・ああ、やっぱり、あそこはもう僕の居場所じゃないんだな・・・)


和人は俯いて、膝の上でキュッと拳を握った。

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