23.憎き準備委員
今回の準備委員の集まりは顔合わせ程度の意味合いだった。
体育祭の準備はテスト明けから始めるので、軽い説明はあったものの、重要な話は特になかった。
こんなことで集まるよっ!と思っているのは都だけではなさそうだ。
大半は不満そうな顔をしている。
ただでさえ、雑用係などに押し付けられて不服なのに、体育祭の間近にならなければ、テンションも上がらず、やる気など起きるわけがない。
ブー垂れた面々が並ぶ中、輪をかけて酷い顔をしているのが都だ。
和人を捕まえるチャンスを奪われて、歯ぎしりしていた。
(月曜日は、和人君、塾で早く帰る日なのにぃ!)
一番後ろの席で、幽霊のように両手を前に垂らし、担当教諭を呪っていた。
しかし、相手はお手本のような体育教諭。ノリもよく、おしゃべりも上手。
都のしょぼい呪いなどまったく届かない。いつの間にか、不貞腐れていた生徒たちも笑い顔になっていく。
最後まで、不貞腐れていたのは都だけだった。
(こんなはずじゃなかったのに・・・)
本来なら、準備委員なんて誰がやりたいものか。
金曜日に和人に会いたかったから、しょうがなくなっただけなのに・・・。
それなのに、あの日、会えなかったのだ。
その上、今日も邪魔するなんて。
憎き『準備委員』!
都は自分の浅はかさを棚に上げ、目に見えないシステムを恨んだ。
★
やっと解放された時にはもう遅い。
とうに和人は帰っているはずだ。
都はガックリと肩を落とした。
「途中まで一緒に帰ろう!」
そう言う田中の後を、無気力に付いて行った。
ご機嫌な田中のおしゃべりに、適当に相槌を打って対応していると、調子に乗ってきた田中が、
「ねえ、そこのスタ●に寄らない? 季節限定のやつ、美味しそうだよ?」
とニコニコと笑顔でコーヒーショップを指差した。
都はぼーっとコーヒーショップの可愛らしく彩られた看板を見た。
「・・・都、それ、もう飲んだからいらない・・・」
「え・・・、あ、そうか。じゃあさ」
「ねえ、田中君って、ちゃんと勉強してる?」
都は田中の言葉を遮って尋ねた。
「え?」
「もうすぐテストでしょう?」
「あ、ああ、そうだね、テスト」
「そう、テスト・・・。テストなのよ・・・」
都は看板を見たまま呟いた。
「都、勉強しないと・・・」
「あ! じゃあさ、神津さん、俺と一緒に勉強しない?」
田中はグッドアイデアとばかりに都に提案した。
だが、都の耳にはさっぱり届いていないようだ。
相変わらず、看板を見たまま溜息を付いた。
「都、もう帰って勉強するわ・・・。何をどうすればいいか分からないけど・・・」
「え? だからさ、一緒に・・・」
「田中君も勉強頑張ってね。じゃあね、バイバイ」
都は唖然とする田中を置いて、肩を落としたまま、家に向かって歩き出した。
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