22.持つべきものは和人君
「静香ちゃん、都と一緒に勉強して!」
「え゛・・・」
昼休みの食堂で都に懇願され、静香はスプーンで口元まで運んだスープをダラダラとこぼした。
「ねえ、お願い! 勉強教えてとは言わないから!」
「当たり前よ!」
「ちゃんと一人で頑張るつもりなの! でも、一人だと何から手を付けていいか分からなくって・・・」
「はあ~・・・」
静香はスプーンを置くと大きく溜息を付いた。
そして和人を呪った。
都が我儘お姫様というのは百も承知しているが、この我儘の面はほとんど和人に任せっきりだった。
和人の手を離れると、こうも手に余るとは・・・。
「・・・和人君。頼むから早くこのお姫様を引き取りに、いや、迎えに来て・・・」
静香は眉間に手を当てて、小さく呟いた。
「え? 何?」
「ううん。独り言。心の声が漏れちゃっただけ・・・」
「心の声?」
「何でもないわ。はいはい、一緒にお勉強ね、分かったわ。どうせ勉強するのは同じだし、付き合うわよ・・・」
「ありがとう! 静香ちゃん! 持つべきものは友達ね!」
「そうね、持つべきものは
静香はそう言うと、もう一度小さく溜息を付いた。
★
帰りのホームルームが終わると、都は大きく深呼吸して気持ちを落ち着かせた。
「静香ちゃん! 都、昇降口で出待ちするわ! じゃあ、明日ね!」
「うん。明日ね。って、いつから一緒に勉強するの?」
「とりあえず今日は無し! 和人君と会う!」
「そ。行ってらっしゃい。ご武運を」
都は静香のエールを背に、教室を出ようとした時、
「あ、神津さん! まって!」
と、誰かから引き留められた。
振り向くと、同じ体育祭の準備委員を勝ち取った田中だった。
「今から準備委員の集まりだよね! 一緒に行こう!」
「え?」
「ああ、そうね。さっきホームルームで先生が言ってたじゃない? 準備委員は集まりがあるって。都、準備委員じゃない」
静香が手鏡を覗き、自分の前髪を直しながら言った。
「え? え? 準備委員?」
「自分で立候補しておいて何言ってんのよ」
「・・・」
目を丸めて静香を見ている都を、田中はニコニコして待っている。
「・・・そうだった・・・、そうだったわ・・・」
都はがっくり肩を落とすと、田中に向き合った。
「場所どこだっけ? 田中君・・・」
「多目的ルームだよ。一緒に行こう!」
「・・・うん」
張り切る田中の後を、都はだらしなく足を引きずりながら付いて行った。
「行ってらっしゃい、ご武運を」
その後ろ姿を静香はひらひらと手を振って見送った。
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