20.挫けかけた勇気

翌日の土曜日。

静香は、朝っぱらから都に呼び出され、眠そうな顔でキャラメル風味のアイスコーヒーを飲んでいた。


都はクリームいっぱいの季節限定のコーヒーを前に、オイオイ泣いている。


「だから、ちゃんと図書室に寄れって言ったのに」


「寄ったもん! 都が見た時は居なかったんだもん~~!」


「タイミング悪っ。ホント、運が無いわね、都って」


コーヒーショップで泣き崩れている都を、静香はストローをくわえたまま呆れたように見るも、優しく頭を撫でた。


「下手な小細工しないで、また直接、和人君の家に行ってみれば?」


「・・・和人君、あれから、ずっと都のメッセージ見てくれないの・・・」


「え? そうなの?」


静香は自分のスマートフォンを取り出した。


「あー、私のも見てないわ。・・・すっかり忘れてたから、確認してなかったわ」


静香はぢゅーっとコーヒーを吸いながら、画面をスクロールしている。


「これは、私も警戒されちゃってるわね~」


「・・・どうしよう、静香ちゃん。お家に行って会ってくれると思う?」


「まあ、家まで行けば、逃げ場はないからね。会ってはくれるでしょ」


「・・・でも」


都は俯いた。

ここまで拒絶されているのに、家まで押しかけて、さらに嫌われてしまったらと思うと、一昨日ほどの勇気が出てこない。


「・・・これ以上嫌われたら、都、もう生きてれいられない・・・」


「そうねぇ、それで死なれても、周りは迷惑ねぇ」


静香は、いつの間にかスマホでネットニュースを見ている。


「なんで嫌われちゃったんだろう・・・」


「本当に、思い当たる節は無いの? 私はまったく思い当たらないけど」


呟く都に、静香は頬杖を付いてスマホを見ながら訊ねた。


「・・・我儘だから・・・?」


「今更、都が我儘だからって言われても、こっちからすれば、半分はあんたのせいだって言いたいし」


「・・・可愛くないから・・・?」


「都で可愛くなかったら、私なんて超ブサイクの部類に入るんですけど」


「・・・頭悪いから・・・?」


「・・・・・・。そんなの、特進科の人たちと比べたらみんな頭悪いじゃない?」


「今の間は何?」


「・・・ごめん、否定しきれなかったわ・・・」


「・・・」


「勉強ができないっていう意味の『頭悪い』じゃなくてね・・・」


「・・・」


「ごめん、フォローになってないわね」


「う~~・・・」


都は返す言葉もなく、唸り声を上げた。

そんな都に悪びれる様子もなく、静香は、


「とにかく、和人君とは電話もLI●Eも繋がらないなら、直接話すしかないでしょ? そして、家に行く勇気が無いなら学校で捕まえるしかない。かつ、特進科クラスまで行くこともできないなら、図書室で待ち伏せしかないでしょ? 月曜日にもう一度図書室に行ってみることね」


と、バッサリと言い切った。


「・・・月曜日、和人君、お当番じゃないの・・・」


「そ、じゃあ、火曜日? それか、下校時間に捕まえるのね」


「・・・うん」


「昨日の勢いはどうしたのよ! 理由を聞かないと奪還計画も立てられないんでしょう?」


「・・・うん」


都は俯いたまま頷いた。

静香はズズ―っとアイスコーヒーを飲み干すと、スマホをポケットにしまった。


「それに、もうすぐテストが始まるんだから、いつまでも悩んでいる暇はないわよ」

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