19.暗くなった空
都が病院を出た時は、もう暗くなっていた。
和人の祖父がお喋りだったことを忘れていた。
今回の入院について、腹痛の話から始まって、救急車騒ぎで病院に運ばれ、緊急手術に至ったことを、武勇伝のように自分語りをした。
都はそれに大人しくお付き合いした。
でも、その途中に祖母が、
「もうね、私も動転しちゃってね。入院先が娘の病院じゃないし、つい和人に頼っちゃって。和人がさっさと入院手続きを済ませてくれて助かったのよ」
そう和人の話を入れてくる。
「わあ! さすが、和人君!」
和人の事を褒める祖母を見て、都も一緒に称賛する。
気が付いたら、一緒にお喋りを楽しんでいた。
病院の前で暗くなった空を見上げ、想像以上に時が過ぎていることに驚いてしまった。
(和人君、まだ図書室にいるかな・・・?)
都はポケットからスマートフォンを取り出すと、メッセージを確認してみた。
昨日、和人に送ったメッセージは未読のままだ。
今までの祖父母との楽しい時間から、途端に、和人に避けられている現実に引き戻された。
都の目に薄っすらと涙が浮かんできた。
今どこにいるのかと文字を打ってみるが、送信ボタンを押せなかった。
一文字一文字ゆっくり削除で消すと、スマホをポケットにしまった。
そして、腕で涙を拭いて、病院を後にした。
★
和人は顔を上げて外を見た。
窓の外はもうだいぶ暗くなっていた。
未練がましく、隅の一人用の席を見る。都の特等席は空いたままだ。
隣の高田は帰り支度を始めていた。
一瞬目が合ったが、高田はすぐに目を逸らし、さっさと図書室から出て行ってしまった。
和人は無言で高田を見送った。
高田はここで都を待っていたのだろう。
一緒に帰るつもりだったのだろうか?
告白すると言っていた。今日、告白するつもりだったのかもしれない。
そう思うと、今日、都が来なくて良かったと思わずにはいられない。
告白されてしまったら、都との関係は本当に終わってしまう・・・。
そう思う一方で、来てくれなかったという失望感が和人を襲った。
(何を考えてるんだ、僕は・・・)
和人は自分の額をベシベシ叩いた。
未練がましくて、ウジウジしている自分が嫌になる。
図書室を出る前に、もう一度全体を見回した。
自分が当番の時に、都のいない図書室の風景は見慣れないものだ。
でも、この風景に見慣れないといけない。
『和人君、お疲れ様! さあ、帰ろう!』
そうやって、図書室の出入口で迎えてくれる都はもういないんだ。
和人は溜息を付いて部屋の電気を消すと、図書室を後にした。
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