17.すれ違い

一瞬、クラスがシーンとなった。


みんな一斉に都を見た。

静香も目を丸め、頬杖を付いて固まったまま都を見つめた。


「はい! 都、やります! その体育祭の係!」


都は手を挙げたまま立ち上がった。

勢い余って片足を椅子に掛けた。


途端にクラスがざわめき出した。


「俺やります!」

「俺も!」

「僕も!」


一斉に数名の男子が手を挙げる。


「あー、いいですね~! 皆さん積極的で! 最初からこうだともっと良かったですね~」


委員長は微笑みながら手を叩いた。


「でも、残念ながら、準備委員は2名です。男女が望ましいと思いますので、神津さんは決定でいいですね。で、もう一人ですが・・・」


挙手した男子を見渡しながら、人数を数える。


「えっと、6人ね。君達には、これから神津さんと一緒の準備委員を掛けて勝負をしてもらいます。ジャンケンがいいですか? 阿弥陀くじがいいですか? それとも、牛乳の一気飲みとか。あ、コーラの方が面白いかな? それか・・・」


「委員長、そこら辺で・・・」


副委員長の女子が、眼鏡をクイっと上げて委員長を窘めた。


「はいはい、では、簡単にジャンケンにしましょう。6人は立ってくださーい!」


こうして和気あいあいとした中、ジャンケン大会が始まった。

都はその様子を歯ぎしりし、足で床をタンタンと叩きながら見ていた。

そして、さらにそんな都の様子を静香は呆れ顔で見ていた。


ジャンケン大会が終わると、同じ準備委員を勝ち取った田中に、よろしくねと挨拶し、最低限の礼儀を済ませると、都は教室を飛び出した。





都は念のため、まず図書室に走った。

静香曰く、和人は真面目だから二日続けて当番を交代することはないのでは?とのこと。


(確かに! それは有りうる)


都もそう思い、図書室を確認することにしたのだ。

廊下から図書室を覗く。

カウンターには昨日の男子が座っていた。


「やっぱりお見舞いに行ったんだわ」


都は呟くと、くるっと向きを変えて走り出した。


都は廊下を走って見えなくなった時、和人がトイレから出てきた。

そして、いつものように図書室のカウンター席に座った。


「工藤君。昨日は急に変わってもらったんだから、ここからは僕一人で担当するよ。よかったら、今日はもう帰って」


和人は、受付業務の間にラベル貼りなどの雑務をしている隣の男子に話しかけた。


「大丈夫だよ、津田君。そんなこと気にするなよ」


「ありがとう。工藤君」


和人はにっこり笑って工藤にお礼を言うと、隅の方にある一人席の方に目を向けた。

いつも都が座る席に誰もいない。

でも、その隣の席には高田が座って一人で勉強していた。


彼もきっと都を待っているのだろう。



和人は首を振った。

さっきまで、都がここに来てしまったらどうしよう、どう対応しようと頭を悩ませていたつもりだったのに、本心では、いつものように都に来てほしいと期待している自分に気づいてしまった。


「はあ~・・・」


和人は溜息を付いた。


「津田君こそ無理しなくていいよ? おじいさんが心配だろ?」


人の良い工藤が、和人の溜息に勘違いして気を使ってくれた。

和人は慌てて首を振った。


「ううん! 違うんだ! 来週のお勧めの本のコメントに悩んでて・・・」


「分かる~、悩むよね~。僕は毎回悩むよ、上手く書けなくてさぁ」


「ははは・・・」


咄嗟に嘘を付いてしまったことに罪悪感を覚えながらも、その場を笑って誤魔化した。

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