16.とんだ邪魔立て

翌日、都は鼻息荒く、学校に登校した。


「なんか、気合入ってるわね・・・」


静香は少し引き気味に言いながらも、都に腕を絡ませ、いつものように教室に向かった。


「静香ちゃん! 和人君、昨日早退してたのよ! 逃げられたんじゃなかったの!」


「早退?」


「うん! おじい様が入院しちゃったんだって!」


「え、大変じゃない! なに、喜んでるのよ! 都ったら!」


静香に窘められ、都は慌てて首を振った。


「違うわ! おじい様の入院を喜んでるんじゃないもん! 和人君に逃げられたわけじゃないことを喜んでるのっ!」


ジトっと目を細めて自分を見ている静香に、


「本当よ!」


都はぷくーっと頬を膨らませた。


「それに、盲腸で一週間くらいで退院できるんですって。術後の経過も順調だって、和人君のおじ様からパパに連絡があったの」


「そう、なら良かった」


そう安堵した静香に、都は顔を寄せて、声を落とした。


「でね、都、おじい様のお見舞いに行こうと思っているの」


「お見舞い?」


都はにっこりと笑って頷いた。


「そうすれば、和人君に会うのも不自然じゃないでしょう?」


「・・・和人君のおじいさんと顔なじみなの? そうじゃなかったら、行く方が不自然だと思うけど・・・」


「大丈夫! お知り合いだもん!」


怪訝そうな顔の静香に都は胸を張った。


「今日の放課後、和人君を捕まえて一緒に病院に行くわ!」


目を爛々と光らせている都を見て、静香は一瞬和人が気の毒になった。

もし、本当に和人が都を嫌って離れようとしているのであれば、この都から逃げるのはなかなか厄介だ。


「ま、そんなことないとは思うけどね・・・」


静香は小声で呟いた。


「なに?」


「ううん、何でもないわ、独り言。それより、もう鐘がなるわよ」


静香は不思議そうに見る都の腕を引っ張って、教室に入っていった





気の遠くなりそうなほど長い一日の授業を終えて、帰りのホームルームに突入した時、もう都の腰は椅子から浮かび上がっていた。

担任教諭の話が済んだら、すぐにでも教室から飛び出すつもりで、スタンバイしていた。


だが、思いもよらぬことが起きた。


担任教諭の話の後、学級委員長と副委員長が仲良く連れ立って黒板の前に立った。


「この後、今度の体育祭の準備委員を決めたいと思いまーす」


「!」


都は悲鳴を上げそうになって慌てて口を押えた。


何で今?!

何で今日?!

明日じゃダメなのか?!


半分立ち上がっている都の腕を、隣の静香がツンツンと突いて、座るように促した。

都は仕方なく椅子に座り直し、不貞腐れた顔で委員長を見つめた。


そんな都の事などお構いなしに、委員長は体育祭の準備委員について軽く説明し、クラスから候補を募った。


「と言うことで、クラスから2名候補を募りまーす。ここは是非自分が!と言う奇特な方、いませんか~? 挙手願いまーす」


委員長が教壇からクラスメイトに声を掛けるが、誰も手を挙げない。

え~、超面倒臭そう~、だとか、雑用じゃん~、怠いだけじゃん~、と言う声が飛び交う。


「自薦、他薦問いませんよ~! 誰かを推薦しちゃってもいいですよ~、ちなみに僕は山田君なんかいいんじゃないかな~、推薦しちゃおうかな~」


委員長はクラスの雰囲気が険悪にならないように場を和ませながら、話を進めていく。


「え~、嫌だ~!もう委員長ったら、いくら俺の事が好きだからって~。つーか、

マジ無理、俺、超忙しいから! それなら、俺、田中君を推薦しまーす!」


「え~~、いや~ん! 山田君のいけずぅ~~!」


クラスの中が和気あいあいとしているのはいいが、話が一向に進まない。

時間だけが過ぎていく。

都はだんだん焦れてきた。


(先に下駄箱の前で待っていようと思っていたのに! これじゃ、和人君帰っちゃう!)


もちろん都だって、そんな係員なんて御免だ。

だが、そんなことよりも今は時間が惜しかった。


「はい!」


都は手を挙げた。


「都、やります!」

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