15.アイデア
身も心もズタボロになった都は、ヨロヨロしながら玄関の扉を開けて家に入った。
「都ちゃん! こんな遅くまでどこにいたの!? 何度も電話したのに!」
母親が玄関に飛んできた。
「・・・ママ・・・」
都は母親の顔を見ると、見る見る顔が歪み、涙が溢れてきた。
そして、すぐ母に抱きついた。
「・・・和人君に会えなかったの・・・。お家まで行ったのに・・・いなかったの・・・。きっと避けられちゃってる・・・。どうしよう・・・、ママ・・・」
都は泣きながらそう言うと、更にぎゅうっと母親に抱き付いた。
「え? 和人君のお家に行ったの?」
母は驚いたように聞いた。
「うん・・・」
「もう! 何で電話に出ないのよ、都ちゃん! 和人君、今日、急用で早退したのよ」
「え゛・・・?」
都は思わず顔を上げた。
「和人君のおじい様が、急遽、入院されたのよ。おばあ様が動転しちゃって、和人君を頼って呼び出したんですって。結果、盲腸だったみたい。パパから聞いたわ」
「・・・」
「津田さんも、今日急遽、会社を早退したって」
「・・・」
「だから、今日は和人君も和人君のご両親も、帰っても遅いか、お泊りよ」
都の涙は見る見る乾いていった。
それなら、メッセージの既読スルーも未読も納得できる!
多分、忙しくって見ていないだけだ! きっとそうだ!
「ママ・・・」
都は母を見上げた。
その顔はもう泣いていない。
そしてピコンっ!と何か閃いた顔付きになった。
「ママ! 都、和人君のおじい様とはお知り合いよ! 一緒に遊びに行ったこともあるの!」
「え? ええ、そうね」
「都、和人君のおじい様のお見舞いに行く!!」
都は目を輝かせて叫んだ。
母は目を丸めた。しかし、次の瞬間、母も目を輝かせた。
「そうよ! そうなさい! ポイントを稼ぐのよ、都ちゃん!」
母はぐっと拳を握った。
病人を出汁に使うなんて、なんて罰当たりな!とは思うものの、こんなにいいチャンスはない!
「ママが駅前のお花屋さんにお見舞い用のお花を手配してあげるわ。明日、学校の帰りに寄ってらっしゃい!」
「要らないわ! 都が自分で選ぶ! 都が自分で買う!!」
都の目はキラキラからギラギラに変わった。
今こそ『闘魂』鉢巻が良く似合う。
「ママ! お腹空いた! ご飯!」
都はそう叫ぶと、元気よくリビングに入っていった。
★
夕食と一緒にネガティブな思考も食べ尽くしてしまった都は、もう、頭の中は明日のお見舞い作戦でいっぱいだった。
(明日、和人君と一緒に病院まで行けるかしら?)
都は自分の部屋の机に座り、腕を組んで考えこんだ。
本当なら和人は明日も図書委員の当番だ。
でも、恐らくまた交代して、病院に行くだろう。
図書室で待っていてもきっと来ない。
いつものように昇降口で出待ちしよう!
それも、特進科クラスの下駄箱の近くで。
なんなら、和人の下駄箱の真ん前で!
もし、もう許嫁じゃないんだから一緒に帰らないと言われたら・・・。
「一緒に帰るんじゃないわ。お見舞いに行くのよ、おじい様の。たまたま一緒に」
都は気合が入り、つい声が出てしまった。
「そして、ついでに一緒にお花を選んでもらうの! おじい様の好きなお花や色を聞きながら」
都の中で、明日のビジョンが見えてきた。
頭の中で何度もシミュレーションを繰り返す。
繰り返しているうちにだんだん眠くなってきた。
都は『闘魂』鉢巻をしたまま、ベッドに入った。
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