14.逃げられた?

その日の放課後。

今日は木曜日で、図書委員の和人がカウンター当番の日だ。

都は和人を捕まえに、図書室に急いだ。


スマホでメッセージは何度も送っているが、既読スルーか未読だ。

もちろん、和人が今までにこんな暴挙に出たことは一度も無い。

昨日の今日でそれなりの覚悟はしていたが、実際に無視されると相当辛い。

都は凹みまくり、静香に泣きついていたが、次第に悲壮感から焦燥感へ変わっていった。


(とにかく、ちゃんと振られた理由を聞かないと!)


電話が繋がらないとなると、直接本人に聞くしかない。

都は図書室に駆け込むと、カウンターに真っ直ぐ走り寄った。


「あれ? 和人君は?」


息を切らしてカウンターを乗り越えんばかりに身を乗り出している都に、座っている図書委員はのけ反って目をパチパチさせた。


「ねえ! 和人君は?」


答えない図書委員に、都は再び食らい付いた。


「・・・えっと、津田君は、今日用事があるからって僕が交代したんだけど・・・」


「!!」


都は目を丸めた。


(まさか、逃げられた!?)


愕然としたまま、都はそこに棒立ちになった。

そこに、背後から声を掛けられた。


「あ、都ちゃん。今日は早いね」


振り向くと高田の姿があった。


「高田君・・・」


都はボーッと高田を見た。


「今日も一人用の席に座る?」


高田はまるで自分と待ち合わせしているような口調で都に話しかけてくる。

でも、都はボーッと高田を見たままだ。


「どうしたの? 都ちゃん?」


高田は不思議そうに都を見た。


「・・・都、もう帰る。バイバイ・・・」


え?っと驚いて言葉に詰まっている高田に背を向けると、都はズルズルとだらしなく足を引きずりながら図書室から出て行った。





「・・・静香ちゃん・・・。和人君に逃げられちゃった・・・」


帰り道、都は静香に電話をしながらトボトボと歩いた。


「やっぱり? 和人君、私のLI●Eも見てくれないわ」


電話越しからは静香の声だけではなく、バリバリと煎餅をかみ砕く咀嚼音も聞こえる。


「・・・どうしよう? 静香ちゃん・・・」


「そうねぇ」


電話先で静香は煎餅を食べながら、自分の部屋のベッドに寝っ転がった。


「とにかく、今日は担当変わったって、毎回変われるわけじゃないでしょ? 明日も行ってみれば?」


「・・・そうね・・・」


「それか、特進科クラスに乗り込んで行けば? 絶対居るじゃない?」


「それは・・・」


特進科コースは校舎の棟が違うのだ。

普通科コースの人間が入るのはなかなか勇気がいる。

そんなことに比較的無頓着な都ですら、若干の抵抗がある。


「あとは、このまま和人君のお宅に直行したら?」


「! そうか! そうね!」


「きっともう帰っているんじゃない?」


「うん! 都、これから行ってみる!」


「はい、行ってらっしゃい」


都は電話を切ると、和人の家に向かって走り出した。


和人の家に着いてみると、家には電気が付いていなかった。

誰も帰っていない証拠だ。


「おば様、今日夜勤なのね・・・」


和人の母は看護婦だ。

父親も都の父親の仕事が終わるまで帰って来られない。


そして肝心な和人も家にはいない。


念のため、呼び鈴を鳴らすが、当然返事はない。


「・・・どうしよう・・・。本当に会ってももらえないなんて・・・」


きっと和人は都が来ることも見越して、家に帰ってこないのだ。


そう察した都は絶望に打ちひしがれた。

そのままその場に蹲り、膝を抱えた。

絶望感に苛まれても、その場から動けなかった。


もしかしたら、もうすぐ帰ってくるかも・・・。

そうしたら会えるかも・・・。


ほんのコメ粒ほどの期待を込めて、都は門の前に座り込んで和人の帰りを待っていた。

通りを歩く人に奇異な目で見られるが、当の本人は膝に顔を埋めているので気が付かない。

もし、気が付いていれば、恥ずかしくてさっさと帰っていただろう。


そうすれば少しは心の傷も浅かったかもしれない。


都はかなり長い間、和人の家の前で待っていた。

しかし、和人は帰って来なかった。

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