13.親友に相談
覚悟を決めて都から離れたのに、もう都の事が気になって仕方がない。
(ちゃんと登校したかだけでも確認しよう)
永遠のように長く感じた一時限目が終わると、和人は真っ先に昇降口に向かった。
人気のいない昇降口だが、更に周りに用心して都のクラスの下駄箱に近寄った。
キョロキョロ周りを窺って、誰もいないことを確認すると、急いで都の下駄箱を開けた。
そこには外履きの靴が乱暴に入っていた。
「良かった・・・。ちゃんと登校してる・・・」
ホッと息を吐くと、そっと下駄箱の扉を閉めて、自分の教室に戻っていった。
★
昼休みの屋上で、静香は都からの報告を聞いて眉をひそめた。
「は? 何を言っているの? 寝ぼけているの? 都ったら」
「本当なの! 静香ちゃん! 都、人生最大のピンチなの!」
「・・・」
静香は眉をひそめたまま、紙パックの野菜ジュースをちゅぅ~と吸った。
反対の手にはカレーパンが握られている。
都は昼食に買ったパンを袋から出すこともせず、夢中で昨日の出来事を話した。
「昨日、屋上で・・・。そう! ここで! ここで言われたの! 許嫁辞めたいって!」
都の目がまた真っ赤になり、今にも涙が溢れそうになった。
それを見ても、静香はあまり動じない。
都が涙もろいのはよく知っている。
それ以前に、どうしても都の報告内容が信じられない。
「和人君が、都の許嫁を辞めたいなんてねぇ・・・。西から太陽が昇るほどあり得ないんだけど」
「都だって、信じられないし・・・、信じたくないけどそう言われたの。それに、今日、都のお家まで迎えに来てくれなかったの・・・」
「え? もしかして、今日ギリギリになっちゃったのってそれが理由? 和人君が迎えに来なかったから?」
「・・・和人君が来てくれるかもって、待っていたら遅くなっちゃったの」
「・・・」
静香は目を丸めた。
和人と都が一緒に登校するのは小学生から続く日常だ。
同じく幼馴染の静香はそれをいつも見ていたから知っている。
そして、それは二人の間で絶対に違えてはいけないルールのようなものだったはずだ。
よもや、それを破るとは・・・。
やはり和人は本気なのだろうか?
あれだけ都の事を盲目的に崇拝していた和人が?
「・・・でも、どうしても信じられないんだけど・・・。あの和人君が・・・」
静香は泣きそうな都を見ながら呟いた。
幼い時から二人を見ていた静香が抱いた疑問は、やはり・・・
「都、あなた、何をしでかしちゃったのよ・・・?」
都の両親と同じだった。
「・・・分かんない」
「はあ~・・・」
俯く都に、静香は大きな溜息を付いた。
「だからね、静香ちゃん。都を助けて! 和人君を取り戻したいの。都に協力して!」
都は顔を上げ、懇願するように静香にしがみ付いた。静香は呆れたように都を見ながらも、優しく頷いた。
「そりゃ、喜んで協力するわよ。正直言って、都みたいな我儘お姫様、和人君じゃなきゃ、手に負えないでしょ」
「ひど~い、そんな言い方!」
「協力するって言ってんのよ?」
「う・・・、ありがとう・・・」
都はランチの時に持ち運ぶ小さな可愛い手提げバッグからノートを取り出した。
そしてそれを静香に渡した。
「なに? これ」
静香は受け取り、表紙を見て沈黙した。
『和人君奪還計画』
はあ~と溜息を付きながら、とりあえず開いてみると最初のページに、
① 和人君を怒らせてしまった場合の謝罪方法
② 和人君の好みの女になるための対策方法
③ 和人君に好きな人ができた場合の略奪方法
④ 和人君が生理的に受け付けない女子だった場合の対処方法
と箇条書きで書いてある。
そしてその先のページは・・・。
「白紙だけど?」
怪訝な顔でノートペラペラめくる静香に、
「うん。静香ちゃん、一緒に考えて。都、思い浮かばないの」
都は祈るように両手を組み、縋るような目で見つめた。
静香は再びはぁ~と長い溜息を付くと、ノートを閉じて、
「私の方こそ、心底、和人君には戻ってきてもらいたいわ・・・」
そう呟いた。
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