12.唯の幼馴染

それから何度も高田と都が図書室で一緒にいるところを見た。

都が一人用の席に座っていると、高田は必ずその隣の席に座り、勉強を始める。

時折、都に話しかけ、仲良く小声で話している様子が見える。


たまに、広い机の方で仲良く椅子を並べて一冊の本を覗いていることもあった。

都は完全に高田に気を許しているようだ。

なぜなら、都に近寄ってくる男子で、ここまで都にお近づきを許される者はほとんどいないからだ。


その光景を見る度に、和人はけじめを付けないといけないと自分に言い聞かせた。

しかし、小さいころから都の事が大好きだ。

そう簡単に気持ちを切り替えられない。

こうなることをずっと前から予測して、心の準備をしていたはずなのに・・・。


ウジウジと一人で悩み、なかなか都の傍を離れられず、ダラダラと時間だけが過ぎて行った。

そんなある日、特進科の教室で、初めて高田に声を掛けられた。


「津田君、少しだけ話したいことがあるんだけど」


和人は内心ドキリとした。

高田を見ると人好きしそうな顔で和人を見ている。


「・・・うん。何? 話って・・・」


和人はドキドキする胸を押さえて、高田を見上げた。

そんなこと聞かなくとも内容は分かる。


きっと都の事だ。


普段、何の接点の無い彼が話をしたいなんて、それ以外見当が付かない。

とうとうこの日が来てしまった。

いつか高田から話を切り出されると思っていたのだ。


和人は高田に促されるまま、事件が発覚した犯人のような気持ちで、彼の後に付いて行った。


人気のない廊下にやってくると、早速、高田が質問してきた。


「えっと、津田君って、神津さんの・・・、都ちゃんの幼馴染なんだよね?」


苗字呼びから、敢えて下の名前に変えた時点で、高田の要望は明確だ。

和人を見る高田の顔は笑っているが、目は笑っていない。


「うん・・・」


「『幼馴染』だけっていう関係?」


「・・・」


「もしかして、付き合ってる?」


「・・・」


「毎日、登下校一緒だって、都ちゃんが言っていたから」


「・・・えっと・・・」


和人は言葉に詰まってしまった。

いつまでも、返事を濁している和人に苛立ったのか、


「はっきり言えないなら、付き合っていないって解釈するよ」


高田は強い口調でそう言った。


「俺、都ちゃんが好きなんだ。たぶん、君もそうだろうけど」


「・・・!」


図星を突かれた和人は目を丸めた。

そんな和人を高田は挑むように見つめると、


「付き合っていないなら、俺が都ちゃんに告白してもいいよね? まあ、付き合っていたとしても諦めるつもりは無いけど」


そう告げた。

和人は息を呑み、高田を見た。

高田の目はしっかり和人を見下ろしている。高田の強い意思を感じ、和人は俯いた。


「・・・僕たちは、唯の幼馴染だよ・・・」


「唯の幼馴染なら、その特権を振りかざして、彼女に付きまとうのも辞めてもらいたいけど」


「・・・う、ん・・・」


和人は俯きながら頷いた。


話はそれだけと言って、去っていく高田の後ろ姿を和人はボーッと見送った。

立ち去る後ろ姿は長身でスタイルもいい。


「・・・格好良いな・・・」


和人は小さく呟いた。

そして、窓ガラスに映った自分の姿を見て、また俯いた。


その日の夜、和人は長い時間をかけて、やっと覚悟を決めたのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る