11.都の隣

都とイケメン男の高田翔と一緒にいるのを見たのは図書室だった。


都が図書室にいることは珍しくない。

何故なら、和人が図書委員をしているからだ。

和人が担当の日は、必ず図書室で和人の仕事が終わるのを待っていた。


勉強の嫌いな都は、待っている間に予習復習などをして時間を潰すことなどまず無い。

隅の一人用の席で、ファッション誌を見ているか、漫画を読んでいるかのどちらかだ。


だが、ある日、和人はいつものように図書室にやって来てカウンターに座ると、奥の広い席に、既に都が座っているのが見えた。

更に驚いたことに、ノートと教科書を広げている。

そして、その隣に高田翔が座っていた。


どうやら高田は都の勉強を見ているようだ。

都がノートに書き込んでいるところを、横で何やらアドバイスしている。


和人はそれを見て、胸がキュッと締め付けられる思いがした。


可愛い都が男子生徒といることはよくあることだ。

お昼休みの食堂では静香と二人でランチしているところに、必ずと言っていいほど男子が割り込み、賑やかにしているのを見かける。


下校時など、和人を待って一人でいるところに、声を掛けられていることなんてしょっちゅうだ。


和人はその度に、物陰に隠れ、都が男子を体よくあしらうまで、近寄らないようにしていた。

情けないと思いながらも、会話に割って入る勇気は出てこなかった。


たまに、気が付かずに声を掛けてしまうこともあったが、そんな時は必ずと言っていいほど、話していた男子生徒の顔は酷く歪み、不機嫌極まりないといった顔になる。


―――幼馴染ってだけで、彼女に馴れ馴れしいんだよ!身の程知らず!―――


都の手前、声には出さないが、和人にはその心の声がはっきりと聞き取れた。

それが和人には辛かった。


高校生になっても二人が許嫁同士ということは『二人の秘密』で通していたので、静香以外は誰も知らない。

学校中の誰もが、和人が都の傍にいられる特権は『幼馴染』であることと信じて疑っていないだろう。


そう、和人は自分に自信が無くて、自らそのポジションを作ったのだ。


でも、あのポジションだけは・・・。


高田が座っているあのポジション。

勉強を教えているときの都の隣。

あれだけは、自分ものだったのに・・・。


『幼馴染』以外で都の傍にいられる特権。それは『優等生』であること。

『優等生』ならば都に勉強を教えることが出来る。

その時だけは誰からも文句を言われず、都の隣にいられる気がしていた。


なのに、その特等席に別の人物が座っている・・・。

しかも、特進科の男子生徒。自分と同じ優等生。


更にそれだけじゃない。

彼は特進科クラスでも学級委員長を務めるムードメーカーだ。

顔もなかなかのハンサムで、何よりも背が高い。


そんな彼が都の隣で勉強を教えている様はとても絵になる。


(あれこそ、お似合いのカップルなんだろうな・・・)


和人は遠目で二人を見ながら、キリキリする胸を押さえた。

時折、ノートから顔を上げ、高田に話しかける都の顔が見える。

その顔は、何とも言えない可愛らしい笑顔だ。


和人は思わず目を伏せた。


和人のいるカウンターからは二人の会話は聞こえない。

でも、二人の間に流れている楽しそうな空気は和人のもとにまで届いた。


図書委員の仕事が終わって帰るときには、高田の姿はなく、都は一人漫画を読んで和人を待っていた。


帰り道、何で高田と勉強していたのか聞きたくても、自分からは怖くて聞けなかった。

だが、都から話してきた。


「そうそう、都、今日は珍しく勉強して待ってたのよ。和人君と同じクラスの人に分からないところ教えてもらったの」


都はそう言ってにっこり笑った。悪びれた様子など微塵もない。

和人はその可愛らしい笑顔を見て泣きそうになった。


『和人君が一緒じゃなきゃ、都、一生勉強なんてしないからっ!』


そんなこと言っていたけど、もうあれは昔の話なんだ。

もう、自分だけの特権じゃないんだ。


「そうなんだ。偉いね、都ちゃん」


和人は都に向かって無理やり笑顔を作った。

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