過去と現実がリンクする未来

女ふたりを同時に妊娠させたクズだ……いまさらバカじゃねぇ?


マジで頭おかしい。嫁とか愛人じゃない。なんでここにいるの。


「なぁ優子。オレって外科医じゃん。つぶしの効く仕事だよね。

オレたちを誰もしらない田舎に逃げようぜ。やり直したいんだ」

こいつ狂ってんじゃね? 発達した日本であり得ない妄想だよ。


ボギーとベスの流れるミュージカル。そんな時代は100年昔。

そうだ……無言を貫こう。誰もいない振りしかできないじゃん。


そんな軽々しい発想がよくなかった。甘かったのかもしんない。

ガチャガチャと金属音。カギ開けようとする姿が想像できるよ。



あわてて逃げる方法を模索する……二階。バルコニーはないの。

窓から飛び降り……たぶん死なない。だけど大けが待ったなし。


ふとベッド。スマホケースに視線が移動した。はみだした名刺。

あわてて引きだす。名前が……尾田優次っ? ありえないから。


統合された病院名。本部から派遣の常務理事さん。医学博士っ?


おかしい。おかしいよ。おかしいじゃん。10年前は受験生だ。

年上なんだけど。どんな計算式でも経験年数足りてないじゃん。


だけど大事な部分……それじゃない。頼れるのも彼だけじゃん。

ふうふうと落ちつくために呼吸だよ。超速スワイプ入力だよっ!



ドキドキのコール音をあたし待つわ。いつまでも……繋がった?


「ギリギリだったよ。余裕はある……バタフライエフェクトだ。

えっと優子さんですね。尾田ですが記憶とリンクしましたか?」


ますますわけがわからないよ。あの尾田さんと同じひとだよね。


優しい声に安心できた。カギの音がする……玄関。開けられた?


ドアは……開かない。無意識だけど二重。施錠できたみたいだ。

長年の習慣だから無意識。ちゃんと施錠した事実にホッとする。



「はぁ。尾田さん……あのですね。いろいろありすぎて混乱中。

プライベートの番号? いきなり電話したみたいですみません」



真摯な謝罪しかない。尾田さんは勤務先でも……超絶偉いひと。


『とんでもない。実はですね……かなり近い場所にいるんです。

警察官筆頭にまもなく突入。騒ぎになるから覚悟してください』


電話の先……尾田さんの口元。ニヤリとした気がするんだけど。


もう何度目の天丼だろう……わけがわからないよ。声もでない。

数分も待たずに扉の外で場外乱闘。始まったみたい……なんで?


「おまえらなんだ警官か。優子はオレの女だよ。何が悪いのさ。

犯罪者扱いしてんじゃねぇよ。オレは超絶優秀な外科医だぜ?」


「とにかく落ちついてくださいよ。署までご同行お願いします」



アイツをさえぎる警察官らしい男声だった。玄関まで響いたよ。

同時に今度は遠慮がちなノック音。警察官にも説明は必要かな?


「大阪府警生活安全部所属。権藤警部補です。すこしだけ状況。

伺わせていただきたいのですが」マジメな口調だ。安全だよね。


『本物ですから大丈夫です。それに僕も同席していますからね』

繋いだままのスマホだよ。声が……なんか外とリンクしてない?


おそるおそるになる。カギを開けてからゆっくり扉押したんだ。


まだ夜明け前……頭上はLEDライト。照明の際だつ闇のなか。

星空が照らす住宅街。スロープに群がる人数にはビックリだよ。



前は目線の変わらない背丈。黒いスーツ姿の中年が警部補さん?


背後のぞき込むように現れるノッポさん。あらビックリだよね。

視線あわせたらスマホをタッチ。右手のひらをヒラヒラされる。


「本当に再会できた。あの時……だから」なによ。聴こえない。

……結論から伝えるね。誰も悪くない……あたしが倒れただけ。



目覚めると見慣れたベッド……もちろん自宅じゃないんだけど。

毎日眺める天井だよね。勤務先の入院病棟だから当然だけどさ。


もちろん徒歩圏で一番おおきな救急病院。だけど居づらいんだ。

代わるがわるに顔を見て消える同僚たち。半端ない視線の数だ。


ウワサだけど高級ホテルより高い料金? 特別個室の広いほう。

いやいやいや。あたしに払えないんだけど……腎臓か身体売る?


ここぞとばかりの全身精密検査だ。緊急入院させられたらしい。

あたしが逆の立場なら気にするよ。理解できるから納得だけど。


あんまし空部屋がない状況なんだ。しってるよ。でもひどくね?



命令みたいに指示した相手はわかる。会話の記憶がない上司だ。

医学博士常務理事はスーパーダーリン。2メートルの長身だよ。


プロスポーツの有名選手。格闘家にしか見えない超絶エリート。


天が二物を与えたよ。それどころか欠点ない天才かもしんない。

神がいるならチート能力独り占め。異世界転生するんじゃない?


勤務先一緒でも……あたしは下っ端。それだけだから安心だね。

なんもわかんない状況だけど……あたしたちは……どんな関係?


10年前は……傍ですごした同僚だった。いまでは病院の部下。

記憶が戻る前ちょこっと面談した。どこか好かれる要素あるの?



あたしバカよねおバカさん。それでも後ろ指を刺される生き方。

してこなかったんだけどね。いやクソ野郎と不倫したじゃんか。


「認めたくない自分自身。若さゆえの過ちというもの……かな」



「アッハッハ……理解できるんならいんじゃね? 僕も同じさ。

キミに胸キュンするまでこじらせ中二病だ。後悔ばかりだった」


気づかぬうちにイケメンとの正対。ノッポの王子さまは白衣姿。

「ちょっと待ってよ尾田さん。あたしたちはどんな関係なの?」


不思議な奇跡がクロスした。10年後の再会は独身……マジか。

思考回路もショート寸前。夢じゃないけど会えたから聴きたい。



「いまなら伝えられるかな……キミが好きだ。一目ぼれなんだ。

死ぬまで守ると誓えるから……粉雪の遠い約束。愛しているよ」

いつかと同じくベッドの傍。片膝つきながら厳かに宣誓された。


「……ウソ」同時。「キャーッ!」あがる嬌声だ。空耳アワー?


チラ見した外でバタバタと白衣がゆれる。同僚中心の看護師だ。

なんでこうなった? これはきっと夢だね。そんな……白昼夢。


おバカすぎて……わかんない。理解できるまでの時間が必要だ。

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『10年後お互いに独身だったら結婚しよう』「それも悪くない」忘却の彼方に封印された想い出。 神無月ナナメ@カクヨム住人(非公式) @ucchii107

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