05 線香花火
夜ご飯の後、くつろいでいると外からパチパチと何かが爆ぜるような音が聞こえてきた。
夕方に顔をあわせた子供達の楽しそうな声もする。
「あら、お隣、花火かな」
言いながら新奈が窓を少し開ける。
「あ、やっぱり」
新奈が笑ったのでアウリオンも外を覗いてみる。
大人達に見守られながら、子供達が細い棒を持っていて、棒の先では色とりどりの火花が輝いている。
「三兄妹ちゃん、上がコウタくんとソウタくん。双子なのよ。妹ちゃんがナミちゃん。かわいいよねー」
へぇ、と相槌をうちながら、新奈がとても慕われていたのを思い出す。
「あ、にいなおねーちゃーん」
妹のナミがこちらを見て手を振ったのをきっかけに、コウタとソウタも嬉しそうに手を振る。
「おねーちゃんたちもおいでよー」
ぴょんぴょんと跳ねながら子供達が口々に新奈を呼んでいる。
いや、達ということはアウリオンも数に入っているのだろう。
新奈を見た。
新奈もアウリオンをみて、にっこりと笑った。
「しばらくいるんだし、おじさんとおばさんに挨拶しておいたらいいと思うよ」
そうだな、とうなずいて、二人は外へと出た。
じゃれつく子供達に囲まれて、彼らの親と顔をあわせる。
「えぇと、はじめまして」
「わたしの親戚のリオンくんです。しばらくうちにいることになったんですけど、この辺は初めてなので、よろしくお願いします」
アウリオンと新奈が頭を下げると、子供達の両親はにこにこと笑って「こちらこそ」と返してくれた。
「なー、にいちゃん、なんでなまえきいたとき、あう、っていったの?」
覚えてた。
アウリオンの笑顔がひきつる。
「いや、えっと、名前を聞かれると思わなかったからちょっと、キョドった」
新奈に事前に言われていた言い訳を口にする。
もしも聞かれたら、なんて言われて、そんなこと言わないだろうと思っていたが、さすが慕われるだけあって新奈は子供達のことをよく見ている。
「そっかー。にいちゃん、コミュショーだな」
コミュショーがなにか判らないが、なんとなくちょっと馬鹿にされたのはわかった。
「こら、そんなことをいうもんじゃない」
すかさずお父さんが叱っている。やはりあまりいい意味ではないようだ。
コミュショーの意味は後で新奈に聞くとして、まずはこの花火とやらを一緒にやることになった。
子供達が持つ花火にろうそくから火を移すのは大人達の役目のようだ。
「振り回しちゃだめよ」
お母さんが優しく諭しながら手渡している。
赤、ピンク、緑、黄色……。様々な輝きにアウリオンは見とれていた。
これが、この国の家族の娯楽の一つなんだなとほほえましい気持ちになった。
十分ほどもすると、花火はほぼなくなっていた。
「さいごはやっぱ、せんこうはなびだ」
コウタだったか、ソウタだったか、男の子の一人が言う。
これは、子供達が自分で火をつけるようだ。
今までと違って、火花はさほど広がらない。
細いこよりのような紙の先に火が付くと、じりじりっといいながら小さなオレンジの球になる。そこから星の形のような火花が音を立てて散り、しばらくすると細い線に変わる。
今までより、静かな花火だ。
ナミが持っていた花火の玉がぽとりと地面に落ちてしまった。
「あぁっ、しっぱーい」
ナミが残念そうに、それでも楽しそうに笑う。
「おねえちゃんたちもやろうよ」
「だれがさいごまでたまをおとさないか、きょうそうだー」
男の子に花火を渡されて、アウリオンもろうそくのそばにしゃがむ。
火をつけて、そっと二歩、離れる。
ちりちりと小気味よい音を立てて、火花が爆ぜる。
だがちょっと体勢をを変えようと動いた時に、玉が落ちてしまった。
「あー」
「リオンにいちゃん、まけー」
あははと笑い声があがって、アウリオンもつられて笑った。
「あ、リオン、笑った」
新奈が、嬉しそうに言う。
「声あげて笑うの、……久しぶりに聞いた」
本当は、初めてだ。みんなの手前、久しぶりだと言ったのだろう。
「うん、久しぶりに、楽しい」
アウリオンが本音を漏らすと、大人達は顔を見合わせて少し気の毒そうな顔でアウリオンを見た。
「リオンくん、よかったらまた、子供達と遊んでやって」
穏やかな顔で、父親が言う。
彼がどうしてそういったのか、今はあまり深く考えないことにした。
「はい」
アウリオンがうなずくと、一番喜んだのは子供達だった。
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