第25話 謎の化け物と仮面男

 A班は森付近の魔獣を相手していた。

 小型犬のような姿をした魔獣が唸り声をあげて飛びかかってくる。シロウは抜き放った刀で目の前の一匹を仕留め、振り抜いた勢いのまま刀を旋回させて次々と襲いくる魔獣を薙ぎ払った。


 背後ではユリリカが二丁拳銃を連射し、ソーニャが双鋼爪を振り回して縦横無尽に動いている。彼女たちが動く気配が伝わるたびに魔獣の悲鳴が響き渡った。


「囲まれた時はどうなるかと思ったけど、この程度の魔獣ならば余裕ね」

「ユリリカ、油断しないでー」

「あんたに言われなくても分かってるわよ!」


 ユリリカとソーニャは言い合いながらも殲滅の手が緩むことはない。

 やがて魔獣が残り僅かとなった時、双円両刃が宙を舞った。戦闘領域の側面から回転しながら迫った双円両刃は魔獣を斬り裂いて持ち主の元へと戻る。


「手を貸しますわ、お姉様!」


 手元に戻った双円両刃を構えるアリシア。

 後から続くシャルンとジェシカも得物を構え、魔獣の掃討を始める。


「あんたたちも来ていたのね」

「ええ、偶然にも調査場所が同じだったみたいですわね」


 背中合わせになった姉妹は、同時に目の前の魔獣を撃ち抜き斬り払った。最後に残っていた二体の魔獣が消滅する。


 周囲に魔獣の気配がないことを確認した一同は、情報交換を行う。


「狩人が森で見たというゾンビのような存在。そして掘り返された墓ね。現地に行って調査するべきか」

「また別行動を取りましょうか、お姉様?」

「そうね。私たちA班は、このまま森に入って――」


 声を止めたユリリカは森のほうへ視線を向けた。

 シロウは森の奥から近づく歪な気配に気づいていた。肌を撫でる嫌な空気が辺りを包み込み、一同は武器を構える。


「何か来るわね……」


 ユリリカが呟いた瞬間、森から姿を見せたのは複数の人影だった。

 うめき声を漏らし、ゆらゆらと身体を揺らす人型の何かが、およそ十体。奴らは一様に肌が青ざめており、落ち窪んだ目からは生気が全く感じられなかった。


「あれが狩人の言っていた連中ね。確かにゾンビのように不気味だわ」

「どうする、ユリリカ。話の通じる者たちではなさそうだが」

「そうね……一応は言葉を投げかけてみようかしら」


 鈍い動きで這い寄ってくるゾンビのような者たちにユリリカは問いかける。


「私の言葉が分かるなら答えなさい。あなたたちは何者なの?」


 返事はなかった。その代わり一際大きなうめき声をあげたかと思えば、今までとは違う俊敏な動きで襲いかかってくる。


「やっぱりこうなるのね。迎撃するわよ!」

「了解ですわ! シャルンさんとジェシカさんも、気張っていきますわよ!」

「りょ、了解!」

「面倒ですが、仕方ないですね」


 特別クラスの全員が迎撃態勢を取る。十数人が入り乱れる集団戦が始まった。


 シロウは峰打ちで三体の相手を同時に斬り伏せる。刀の背で打つとはいえ、人体へのダメージはそれなりにある。しかし、ゾンビのような連中は苦もなく立ち上がった。まるで痛覚がないみたいだ。


「気味の悪い奴らだな。およそ人とは思えん」

「こいつら、意思がないみたいね。テリトリーに入ってきた私たちを本能のままに襲っているような感じだわ」


 話しかけても言葉を返さず、ただ暴れ回るだけの連中。

 ならば容赦はいらないかと判断したシロウは、向かい来る一体の右腕を斬り飛ばした。


「ガアァッ!」


 片腕を消失してもお構いなしに牙を剥く。確かにゾンビのような化け物だ。


「数が多いわね。それに、まだまだ増えるみたいよ」


 ユリリカの呟く通りに、化け物たちは徐々に数を増やし、こちらを取り囲んでいた。奴らの数は二十を超している。これだけの化け物が森に潜んでいるとは思わなかった。


「退却しますか?」


 シャルンが化け物をガントレットで殴り飛ばして言う。

 

「そうね。皆、一箇所に攻撃を集中させて包囲網を突破しましょう!」


 ユリリカは二丁拳銃を連射して化け物たちの一部に魔法弾を撃ち込んだ。その位置に集中攻撃を仕掛けて包囲網を崩した一同は、走って戦闘領域を離脱しようとする。


 だが、先頭を走るユリリカの足が止まった。

 シロウも足を止め、前方に立つ者を見据える。


「……」


 黒装束の長身が、こちらを向いていた。顔全体を道化者のような仮面で覆っている。黒装束に包まれた肉体は引き締まっており、かろうじて男性であることだけは分かった。


「何者だ、お前は」

「……」


 シロウが問いかけるものの、仮面の男は何も言わずに背中を向けた。そのまま森の奥に去っていく男を追うためにシロウは走り出そうとしたが、ユリリカの様子がおかしいことに気づいて足を止める。


「あの仮面、バビロン教徒のものに似ているわ」

「バビロン……悪魔を崇拝する教団か」

「ええ、降魔戦争を引き起こした連中よ」


 ユリリカは身を抱くように片腕を押さえる。彼女の身体は少しだけ震えていた。


「あの仮面の男が何であれ、今は退却しましょう」


 シャルンの冷静な声に、ユリリカは俯きながらも頷く。

 一同は走り、化け物たちを振り払うのであった。 

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