第24話 『B班』調査開始

 A班と別れたB班のメンバーは、さっそく町中で聞き込み調査を始めていた。


 通行人に話しかけて不死者の情報を探る。

 やはり町で噂になっているのか、不死者という言葉に反応する者も多かったが、誰も詳細は知らないようだ。


「闇雲に話しかけているだけでは埒が明かないですわね。相手を絞りませんと」

「不死者の情報を知っていそうな人……うーん、今のところ分からないなぁ」


 アリシアとジェシカは頭を悩ませる。

 その最中、通行人の男性と話していたシャルンが戻ってきた。


「手がかりになるかもしれない情報を得ました。あの男性によると、近隣に住む狩人さんが不死者らしき存在を目撃したとのことです」

「でかしましたわ、シャルンさん! その狩人さんに会いに行きましょう!」

「町に隣接する森付近に狩人さんの小屋があるそうなので、さっそく行きましょう」


 いったん町を出たB班は、狩人の小屋に向かう。

 鬱蒼と広がる大きな森の隣に小屋があり、狩人と思わしき中年男性の姿があった。丸太の上に座って弓の手入れをしている彼にアリシアが代表して話しかける。


「少しよろしいでしょうか」

「おや、こんなところに学生さんが訪れるなんて珍しいな。なにか用かい?」

「不死者について探っているのですけど、あなたが不死者を目撃したとの話を聞きましたので、お伺いいたしましたわ」

「確実に不死者かどうかは判断がつかないが、それっぽい者たちならば確かに見たよ」


 狩人が森で狩りをしている最中、ふと気配に気づいて振り向くと、青ざめた顔色の者たちがいた。呻き声を漏らしながらフラフラと近づいてくる不気味な姿は、まるでゾンビのようだったのだという。奴らは静止の声も聞かず這い寄ってきたので、狩人は慌てて逃げ出したようだ。


「ゾンビと言えば、墓の下から蘇ったアンデッドの一種ですわね」

「ひえぇ、この森にそんなのがいるの!?」


 森のほうを見て怯えるジェシカ。

 アリシアはジェシカを落ち着かせるように言う。

 

「まだゾンビと確定したわけではありませんわ。そうですわよね、狩人さん?」

「そうなんだが……実は近くの墓場で死体が掘り起こされていた事件が起きていてね。それと結びつけてゾンビではないかと思ったんだ」

「ふむふむ、なるほどですわ」


 アリシアは顎に指を添えて考える。

 森にいた顔色の悪い不気味な存在と、墓が掘り起こされていた事件。これらが繋がっているかは調べてみないと分からない。


 ひとまず狩人に礼を言ったアリシアたちが去ろうとすると、呼び止められる。


「もしかすると、キミたちはアルセイユ騎士学院の生徒たちではないかな?」

「そうですわ。この腕章をご照覧あれ!」


 アリシアは肩口の腕章を得意げに掲げてみせた。

 

「やっぱりそうか。町の噂で領主の姪さんがアルセイユ騎士学院に入学したと聞いていてね」

「ヴァレンシュタイン辺境伯の姪と言えば、ルルさんですわね」

「そうだ。ルル嬢とは面識があってね。よくエリーゼ嬢と一緒に森の湖で遊んでいて、俺とロズベルト卿は見守っていたんだ」


 狩人は辺境伯とも知り合いだったらしい。

 彼は腕を組んで昔を思い出すような遠い目をする。


「あの頃はロズベルト卿も気さくで、俺のような平民にも気兼ねなく接してくれるようなお方だった。だが、降魔戦争でエリーゼ嬢を亡くしてからは人が変わってしまった」

「ヴァレンシュタイン辺境伯はエリーゼさんを溺愛していましたものね……」


 古都で起きた大惨事は、数多くの人たちに深い傷痕を残している。実娘を悪魔に殺されたヴァレンシュタイン辺境伯にも、そして大悪魔に襲われたというユリリカにも。


「キミと、そちらのお嬢さんは……もしや三大貴族の?」

「ええ、エーデル家の次女であるアリシアですわ。こちらのお方はアイゼンベルク家のシャルンさんです」

「これは驚いたな……まさか三大貴族のご令嬢たちに出会えるなんて」


 敬礼する狩人。アリシアとシャルンは狩人の頭を上げさせ、情報提供に感謝の言葉を告げた。


 狩人の小屋を離れたB班は、森の出入り口で情報を整理する。


「リーウェン辺境区で目撃されていた不死者は、ゾンビだったのかな?」

「まだ分かりませんわね。とりあえず森の中を調査したいところですけど」

「……なにか音が聴こえませんか?」


 シャルンの言葉にアリシアとジェシカは聞き耳を立てた。


「これは、複数の銃声?」

「お姉様の二丁拳銃の発砲音ですわね。どうやらニアミスしたみたいですわ」

「銃を撃っているのならば危機的状況かもしれません。救援に駆け付けますか?」

「そうしましょうか。それではB班、行きますわよ!」


 シャルンとジェシカはリーダーに了解と言って頷いた。

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