闇に消えた光・2

星空の流れが変わる。

‥‥不気味な赤い星と共に立ち尽くす葵竜と、それに対比して彼の見上げる先、緋翠の真上には青い星が浮かび上がる。


それを仰ぐ葵竜の胸の辺りから見たこともない輝きが放ち、懐から銃を取り出すと緋翠は驚くように目を見張った。


「‥‥あれが、《スタルオ》の銃?」


そう呟いた緋翠に、双方を見比べるようにヒョウが言う。


「彼は緋翠を撃つつもりなのだろうか?‥‥それとも、その向こうにある星を撃とうとしているの?」


ヒョウが思案していると、緋翠は前方の赤い星を見据えながら彼に声をかける。


「ヒョウ、青いのがヒョウの住む星で、赤いのが私の住んでいた星。彼はグリームの魂を全て担う為に、妨害するものを排除する‥‥」


葵竜と緋翠の頭上の空にはグリームと地球がそれぞれあり、《スタルオ》おも破壊するその銃は、星一つ破滅しかねない威力である。

そんな銃弾が緋翠はもとより、地球に放たれたら‥‥。


「じゃあ、彼と化け物を地球こっちに連れてくるグリームあの星を倒さないと!」


怒るヒョウだったが、そんな彼に緋翠は苦渋の顔をする。


「だけど、グリームあの‥‥場所に、沙夜が居るかもしれないの」


それを聞いてヒョウの顔は青くなった。

彼からしてみれば双方の星が人質のようなもので、何方いずれにしても絶望しか無いのである‥‥。



その葵竜を相手に今の緋翠はまるで、かつての火是と同じ状況だった。


かつての優しかった頃と違う‥‥

そんな葵竜を今、止める事が出来れば‥‥全てが終わる。


この世界で再開し、二人の意思が違った時から。

‥‥葵竜は、そのつもりだったのかもしれない。


緋翠は最初、葵竜と再開出来た時はどこか浮き足立った部分があった。

だが、葵竜の望みを拒否した今、彼との間にあったものは無くなってしまい‥‥

そんな葵竜を前に対立するも、彼女の内心は不安定である。


葵竜の願いを‥‥そのまま叶えてやれば彼等は喜ぶの?

しかし反撃する方を選んだ今、全てに挑もうにも‥‥

の銃を持つ葵竜に、勝てる気がしない。

このまま彼に負けてしまえば、楽になるのだろうけど‥‥


色んな考えが交錯する中、緋翠は迷いを振り払うように前方に集中すると、動きを注視しながら葵竜を睨んだ。



葵竜の背後から次第に変化していく赤い光は、暗闇の世界から一変し強い光を放つ。

彼自身が背負う世界の為に‥‥

互いが願わなくとも、銃口を向ける金色の髪の青年と、決意したように緋色の眼が輝かせた。



星幻の中で音が響く。


葵竜より早く緋翠の手から大きく斜めに延びた鞭竿ウィップ・ロッドから葵竜を掠めるように緋色の一閃が走り、《スタルオ》の銃を弾いた。



その一瞬の動きで標的から逸れた弾は閃光となって異空間へと消えていく‥‥



‥‥辺りはさっきと変わらないままの静けさだ。

‥‥ヒョウは助かったのか?と思った。だが、


「緋翠、これで終わりではない」


妖しい眼をした葵竜はそう呟くと‥‥異星界の風を受けるように、ヒョウは振り返った。



「‥‥緋翠!!」



‥‥その一瞬に、何かが変わった。

異次元全てが破裂するような歪みと共に━━。

空が‥‥「星」そのものが叫び、呼吸し、全てが蠢き‥‥。

そこに描く全てが物体ではない。だがヒョウも緋翠も、無音の突風のような衝撃波を全身に感じる。


「ぐぁぁ‥あぁあ‥‥!」

「うっ‥‥ぅうぅっ‥…!」


‥‥ヒョウと緋翠はその中で一歩も動けなかった。

そこから来る何かに、精神も肉体も滅ぼされる感覚‥‥違う感情を受けるように‥‥。

それはまるで、仄暗い魂の力に支配され、闘う意思を発動せざるを得ない、化け物以上のものとなろうとする意識を━━。

緋翠はそれに必死で自分を抑えようとし、また葵竜も変動する空を仰ぎ、苦悩の表情に変わった。



その時だった。急に、その世界に何かが来た。


「‥‥あれは!?」


ヒョウはそれに気がつき、頭上から来るものを目線で追う。

その先で、果てしなく巨大な空を何かが滑空していく。

それは大きな音と共に右から左へと線を引くように、大気を炸裂しながら葵竜の真上の光に向かっていった。

━━氣の流れと紫の稲妻。ヒョウは、それが誰なのか解った。

‥‥が、そこに沙夜がいることに気がつき、思わず叫んだ。


「あぁあ‥‥止めろぉ!!」


彼は思わずその方向へ無意味だと知りつつ無我夢中に走っていったが、一瞬、空全体に幾つもの紫の筋に覆われると、瞬く間に暗い空が一気に放光した。


「うぁあぁああぁー!!」


いくら沙夜がスタルオとかでも、やられたら終わりだろ!


目も眩む光の中、その光景に発狂したように叫ぶヒョウは頭を抱えうずくまる。



フラッシュした世界は次第に消え、元の闇の世界に戻っていくと‥‥絶望的な表情で嗚咽するヒョウの後ろから、声がした。


「ヒョウ、心配するな」


「あっ‥‥」


‥‥そこに現れたのは光紫と碧娥だ。


「動きを止めただけだ。あの星グリームの沙夜に問題はない」


‥‥その言葉にヒョウは思わずへたり込んだ。

ヒョウの目の前に並んで立った二人は何事も無かったように、


「あのままでは沙夜も俺たちも化け物グリームになろうとしていた。だが‥‥」


と言うと、次にこう言った。


「スタルオとなった沙夜にはお前が持っているその欠片が必要だ」


ヒョウは思った。それと同じ意味の言葉を、以前スタルオの欠片を渡した緋翠に言われた事があると。


「ど‥‥どういう事?」


「それは‥‥」


聞き返すヒョウに光紫が説明した。


「そもそも、沙夜自体に何も力が無かったが何故彼女が、彗祥の代わりになったかというと‥‥彼女が葵竜からスタルオの石をもらったのもそうだとして、沙夜は夢を見たから。


ヒョウが初めて葵竜を見たのはバイクを運転していた時だったろう。同じ頃、沙夜は眠る彗祥の夢の魂と、自分の夢と直結リンクし、その夢が葵竜の異次元から直結したと考えられる。

‥‥そこからヒョウと、沙夜は葵竜に引き寄せられ、偶然のように彗祥の代わりとなったのだ」



そして彼は言った。彼女が仄暗い者グリームに取り込まれる前に、沙夜と《スタルオ》の力で夢の中で眠る彗祥を本当の魂にすれば‥‥全てを変える事が出来ると。


「それに、人が化け物になろうと所詮生きている奴には勝てない」


━━そう言うと光紫は眼だけで、それと対照的に碧娥は笑みをヒョウに向ける。


「行くぞ」


‥‥ヒョウはぽかんと口を開けながら何かに気がつくと、


「‥‥でも、緋翠は」


彼は、離れた距離にいる緋翠を見た‥‥。

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