闇に消えた光・1

‥‥緋翠はまだ幻を見てるような信じられない状態だった。だが、そこに立っている青年を目にし、これが本当なのだと自覚を持つと時の脳裏のうりと共に起き上がる。


緋翠が葵竜と会うのはグリームが滅ぶ直前の燈台の中以来である。

彗祥の危機を感じて助けを求める緋翠に葵竜が捜しに行くと向かったのが最後で、彼と会話を交わしたのはそれっきりだった。

その後の葵竜と彗祥に何が起きたのかは誰も知る由もなく、そこにいた全ての者が、天地が逆流する位の危機に陥るのだが、その中で葵竜と彗祥は仲間を裏切り、《スタルオ》とグリームを破壊するという事実を緋翠や光紫、碧娥も、それぞれ何らかの経緯でそれを知り‥‥、

その後に彼らは命を落とした。



そもそも右も左もない異次元の中を生身で飛び出し、この世界の何処かの一隅で気がついた彼女は、生きているのも意外だった。

そして、そこに葵竜が‥‥。辺りは音もなく静かで、冷たく、青黒い闇天に無数に光る星が空全体に、煌くように何か‥‥。

この世界自体が乱れた粒子の映像のような、異次元の場所で二人は再開した。


‥‥全てが映像のような世界で葵竜は、自分たち同様以前と変わらない姿でやや遠くに立っている。朧に光る金色の髪に、その間から見える緑色の瞳は玲瓏だが、そんな空の色と同じように表情ははっきりとせずやはり幻のようだった。

ヒョウから見れば、緋翠は大人の女性に見えたが、目の前の葵竜に比べればどこか幼く感じ、二人はどこか‥‥懐かしく見ているようだった。


するとヒョウは突然緋翠の前に立ち、前方にいる葵竜を睨んだ。


「緋翠、あいつは‥‥緋翠は知っている人だけど、俺たちには地球を侵略しにきただけの男だ。沙夜ちゃんを返してもらおう」


緋翠は、そんなヒョウを気にするように見た。確かに葵竜は、かつて自分達のいた世界を壊し、その魂を化け物に化した仄暗い者グリームをヒョウの住む星へと送り出した事に間違いは無い。

‥‥だが彼女は、彼の本心を知りたかった。

再び葵竜の方に向き直ると、昔と変わらない、優しかった彼を見るように口を開く。


「私、ずっと葵竜に聞きたい事があった‥‥本当の事」


「緋翠。俺と、彗祥は‥‥」


葵竜は冷淡な表情で声を出した。


「星の為に変わった。俺は、グリームが一撃の下で死滅する事実を知って全てが無に帰す前に彗祥と「星の中心」へと向った。

‥‥そして、今まで広大なグリームを動かしていたエネルギーを持つ《スタルオ》の力を‥‥星の呪いと同時に受け入れたのだ。

たとえ彗祥が化け物同様の血を作る者と化して、全ての者が骸となり魂がそうなろうと━━俺は火是とスタルオを撃った。滅亡したグリームごと地球ほかの星に移動する為に‥‥。

彗祥の夢の世界も、俺が全ての魂を連れてこられたのも《スタルオ》の力だ」


「どうして、私達は場所に‥‥?」


「彗祥は俺に言った。彼女は、お前達三人が生きる事を望んでいたのだ」


緋翠は硬い表情だったが、葵竜のその言葉を聞いて瞼が僅かに揺れる。


「もう一つは、お前は解っているはずだ」


それは、自分たちがその化け物グリームへと変化した者を、抹殺すべく相手となることであった。

幾万もの数の魂から生まれた仄暗い者グリームは破壊された魂のみとなって、存在している。

その、生きる事のない彼らの行き場を地球ほかの星へと移し、全てを開放する。

それが葵竜の創る世界であり━━目的であった。


この世界で緋翠と光紫と碧娥は、滅亡された魂と己が同様になるか、逆にそれを止める者となるかの選択を迫られていた。


どちらにせよ互いに命を狙い、生死隣り合わせで生きていかなければならない。

緋翠の意思は決まっていた。だが‥‥。


「だが緋翠、俺はお前を死なせたくはない。‥‥全ては俺が殺した魂と‥‥彗祥の為だ」


挿絵(近況ノートより)https://kakuyomu.jp/users/mira_3300/news/16817330658143840930


緋翠を見つめる葵竜の顔は昔のままの優しい表情だった。

静かに‥‥だが何かを鮮明に思い出すように眼を閉じた。


「彼らは行き場のない苦しみを永久に続け、それを彗祥が背負っている。俺は、その為にこの星幻の中で生きている」


過去の記憶を全て消し去った葵竜の脳裏には、グリームの人間、自分が撃った火是、そして‥‥彗祥の姿を。


緋翠は黙って葵竜の顔を見た。ヒョウも‥‥。

そして彼の言葉は、青闇の世界に響いた。


「緋翠。あの星にグリームの亡霊を解放し、全ては滅ぶ。お前はここで光紫と碧娥、彼らと新しい世界を創るのだ」


「葵竜‥‥」


「そうすればお前も、彗祥の魂も救われる」


そう言って葵竜は緋翠を見つめる。

葵竜の望みは星の再生の為の侵略。

そして自分たち三人で生きろと言うのである。


それが恋人の妹、自分の為に言った言葉。

その言葉が‥‥緋翠は、何故だか哀しかった。

それを聞いていたヒョウは、まさか緋翠は‥‥その通りにするのでは?と唖然とする。


だが、しばらくすると、緋翠の眼は変わった。


「それは出来ない。ここは、私達の星じゃないわ、葵竜!」



燃えるような緋色の眼を向ける緋翠は葵竜を止める覚悟をする。


「お前がそのつもりなら仕方がない」


それを聞いた葵竜は空を見上げると、空の流れが変わった。

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