第27話 嫌われ者の咆哮
(なんでこんなことに!? ちょっと驚かせようと、肩をぶつけただけなのに……!!)
(馬鹿馬鹿馬鹿! あの大馬鹿!! こんな大事にしろなんて私は言ってない!!)
──【同調圧力】で生み出されたパスを通して、聞くに絶えない思念が流れてくる。
「……ふぅ」
実行犯以外の関係者の炙り出すために、蘭丸君の取り巻きたちにアビリティを使ってみたけれど。お陰で色々と理解できた。実に下らないことだった。
霧香さんが階段から転落してしまったのは、蘭丸君の取り巻きである女子の思い付きが原因のようだ。嫌がらせとして仲間の男子にお願いし、された方がよく考えずに実行した。
その結果がアレだ。想定以上の力が加わってしまったのか、それとも想定よりも霧香さんが貧弱だったのか。もしくは体勢が悪かったのかもしれない。ともかく、霧香さんはバランスを崩してしまった。
彼らからすれば、ここまでの大事になるなんて思っていなかったのだろう。ほんの少し、私たちを驚かせられれば満足だったのかもしれない。
「──実に不愉快ね。腸が煮えくり返りそうよ」
階段で故意に他人とぶつかる危険性など、初等部一年でも分かるだろうに。ましてや登っている相手に対し、降りている側がやるなど言語道断。
子供のやんちゃと片付けるには度を超えている。もはや遠慮など不要。私の中の大人としての意識だとか、子供らしからぬ力の有無だとか、そんなものは関係ない。
「久遠! だから大人しくしていろと、何度言ったら……!!」
「……」
無言で階段を上り始めた私に対し、蘭丸君が制止の言葉を投げ掛けてくる。
先程から一貫して私の身体を案じてくれている辺り、やはり彼は善良だ。嫌悪している相手を本気で心配するなど、そうそうできることではない。
それでも私は無視をする。善意の制止を振り切って、実行犯の男子のもとに進んでいく。
「ヒッ……な、なんです──」
「黙れ」
「──ガッ……!?」
──そして男子が何か言うよりも早く、胸ぐらを掴んで宙ずりにし、そのまま壁へと叩きつけた。
「っ、きゃ──」
「騒ぐな。そして動くな」
「「「っ……!?」」」
更に追加で周囲を威圧。私の凶行に驚き悲鳴をあげようとした蘭丸君の取り巻きたちを、ひと睨みで黙らせる。
地獄のような半年間で培われた威圧感。流石にお兄様みたいに、意思だけで物理的な影響を与えるほどではないが……。それでもただの子供の動きを封じるには十分すぎる。
私の敵は発案者と実行犯の二人だけで、他の子たちは巻き添えではあるが……。下手に騒がれて有耶無耶にされては堪らないので、ここは我慢してもらおう。
代わりと言ってはなんだが、短慮の結末というものを学習させてあげるから。──是非ともその身に刻んでくれ。
「さて。自分がなんでこうなっているか分かるわよね?」
「っ、あ、ぎぃっ……!?」
「よくも霧香さんを殺そうとしてくれたな。この屑が」
ミシミシと男子の身体から音が鳴る。もがき苦しみながら私の手をどかそうと足掻くが、それすら叶わない。ただ無様に足をばたつかせるだけ。
抵抗は無駄。それぐらい腕力に差がある。私がその気になれば、このままコイツの身体を押し潰すことだってできるのだから。
「危険だから階段でふざけるな。幼児でも理解している常識よ。それを破ってまであの子に手を出したのだから、覚悟はできているでしょうね? ……そこでホッと胸を撫で下ろしているお前もよ」
「っ……!?」
振り向き様に空いた片手で指を指す。指された女子、嫌がらせを計画した女子が驚愕の表情を浮かべているが、それに構わず睨みつける。
「なん、で、私まで……?」
「バレてないとでも思ってた? 私、結構目敏いの。だからしっかり見てたわよ。さっきコレに、こっそり話しかけてたわね?」
「そ、それは別の話を……!」
「そう。あくまでシラを切るのね」
心を読んだのは私だけ。証拠はないと言われればその通り。男子の方が彼女を巻き込んで自白するかもしれないが、現段階では言い掛かりと言い張られてしまえばどうしようもない。
「……で、それが何か?」
「え……」
「証拠の有無なんて関係ないのよ。私が確信しているから。だから潰す。徹底的に潰す。お前たちはなんとしてでも叩き潰す」
「そんな……!? そんなの理不尽すぎます……!!」
「理不尽、ね」
まるで冤罪被害者のような言い草だ。実際に冤罪ならばまだ同情できるが、元凶の癖してここまで開き直れるとは恐れ入った。
「……不愉快極まりないけれど、まあ構わないわ。敢えてこの場で冤罪云々を語るのならば、コレと事前に話してしまった己を恨みなさいな。私はもうやると決めているから」
「そんなの酷いです! 私は何もやってません!!」
「酷い? あら知らなかったの? 私、性格が悪いことで有名なのよ」
「ヒッ……!?」
なお続く無罪の主張。それがあまりに聞くに絶えないものだったため、殺気を浴びせかけることで黙らせる。
「何度も言うけど、私は確信しているの。許されるなんて夢は見ないことね。逃がすわけもないじゃない。──お前たちは私の敵だ」
睨む。殺気を込めて。憎悪を込めて。身勝手な理由で霧香さんに手を出したこの愚か者たちを、私の敵を睨みつける。
──そして宣言する。この二人だけではない。この場にいる全員の耳に刻みつけるように叫ぶ。
気圧された様子で固まっている蘭丸君も。怯えた目で私を見つめてくる、他の蘭丸君の取り巻きたちも。
驚いた様子でこちらを見上げる、私の可愛い仲間たちも。
事態を眺める野次馬たちも。騒ぎを聞きつけ駆け付けてきた教師たちも。
全員聴け。聴いて理解しろ。私は本気で怒っている。私の怒りは、決して生易しいものじゃない。
「お前たちは私の逆鱗に触れた。それどころか殴りつけた」
私に直接手を出すのなら、まだ見逃すことも考えた。見逃さないにしても、ほどほどに済ませることもあっただろう。
だが霧香さんに、私に仕える子たちに手を出したのなら話は別だ。それは私の中の禁忌だ。
主としての道義もある。だがなにより、個人的な感情から許せない。許すことなどできやしない。
立場上、渋々やっていたのだとしても。霧香さんを始めとして、取り巻きの皆は私を主として持ち上げてくれた。私の我儘を聞いてくれていた。
マトモになった今だからこそ分かる。彼女たちが、どれだけ私の中で大きな存在であったか。どれだけかけがえのない者たちであったことか。
「霧香さんは、私の大切な友達の一人よ。友達を殺されかけて容赦するほど、私は狂っていないのよ……!!」
──だからこそ覚悟しろ。この愚行に対する落とし前、お前たちの人生全てを掛けて償わせてやる……!!
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