第2章  第二章 大抵の人間は、生活はキツキツで生きている

 セイブン国・アミア————


 ここは一般人にとっては普通であり、この国では荒くれ者や変人、様々な人種が住んでいる。


 そして、ここに平凡な一軒家がある。


 バンッ!


 と、何か大きな物音がした。


 ダダダダダダッ!


 床を走る音がする。


「ちょっ! お母さん! 待ってってば!」


 少女は、家の中を走る母親を追いかける。


 そして、女は、扉を開けて、大声で叫んだ。


「こらぁあああああ! シキィイイイイイ! テメェー、まだ、金払ってないだろぉおお!」


 その叫び声を目覚まし代わりにベットで寝ていたシキが、目を擦りながら起きた。


「朝からうるせぇーよ、ババア……。人がせっかく寝ていたのによぉ……」


 シキは寝癖を抱えたまま、女の前にたどり着くと、ポケットからお金を取り出し、女の右手にそれを渡す。


「はい、これ。家賃代な。ほら、帰った、帰った」


 シキは、大きな欠伸をする。


「やっと追いついた……。お母さん、待ってって言ったでしょ」


 少女がやっと追いつく。


「なんだ、お前もいたのか」


「シキ君、おはよう」


「それなら話が早いや。お宅のババア、連れて帰ってくれない? 朝からうるせぇーんだよ」


 シキは、女の方を指さす。


「誰が……」


 女は、シキの右腕を掴む。


「ババアだぁ! このガキ! 家賃代、足りねぇーんだよ! 何カ月、貯めていると思っているんだ! 貯まってるツケも返せ!」


 女は思いっきりシキを投げ飛ばす。


「朝から何なのよ? うるさいよ、シキ」


 パジャマ姿で現れたアリスは、シキの部屋の前に現れた。


「おはよう、アリスちゃん」


「あ、おはようございます。エミリアさん」


 アリスが挨拶した少女は、エミリア・ハーネット。


 アリスやシキよりも年上であり、歳は三十代前半。


「それでどうして、エミリアさんがここに来ているんですか?」


「それがね。お母さんが、家賃の収集をしに来たからそのついで」


「あ、そうなんですか。だから、朝から騒がしいんですね」


「そうなのよ。困ってものよ。アリスちゃん、二人を止めてくれるかしら?」


 部屋の中で、一方的にやられっぱなしのシキは、朝からボコボコにされている。


 それを見て、アリスははぁ、とため息をついた。


「いいんじゃないですか? エミリアさん、お茶でもして待ってましょう」


 アリスはエミリアをお茶に誘う。


「それもそうね。それじゃあ、お母さん、私、お茶してくるから終わったら言ってね」


 エミリアはそう言った。


「あ、ちょっと、お二人さん⁉ 助けてくんないの? ねぇ! 聞いてる⁉ ああああああ‼」


 シキの叫びが一段と増した。




「銅貨が三十枚と銀貨が二十五枚」


 女はテーブルに並べたお金を袋に詰めた。


「あの……。俺に対する慰謝料とか発生しないんですかね……」


 シキは、ボコボコにされた体を擦りながら言った。


「何を言っているんだい。金を誤魔化した奴にそんな慈悲はないよ」


 女は言った。


「ルシアさん、お店の方はいいんですか?」


 アリスは女に訊いた。


 女——リシア・ハーネットはお金の入れた袋を懐に入れると、アリスの入れてくれた紅茶を飲む。


「ああ、いいんだよ。今日は休み。どっかの誰かさんのせいで……ね」


 リシアはシキの方を見る。


 歳は六十そこそこ。


 シキが住んでいる家の大家であり、このアミアで酒場を開いているオーナーでもある。


「てか、ババアが、わざわざ、朝から来なくてもよかっただろ……」


「なんか、言ったかい?」


 ギロッ、とリシアはシキを睨みつける。


「いえ、何にも……」

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