シキはすぐに視線を逸らす。


「それであんた、今度は魔法学園に通うとか、何を考えているのかい」


 リシアは、額に手を当てながら、困った表情をする。


「別にいいだろ? 暇つぶしだよ、暇つぶし」


 シキはアリスの入れてくれた紅茶を飲みながら言った。


「いいんじゃないかしら? どうせ、シキ君は家に居たって退屈だろうし、シキ君の年頃なら普通学園に通っているはずよ。お母さんもそれを許したら?」


 エミリアがシキの援護をする。


「そりゃあ、わかるけどねぇ……。エミリア、こいつだよ。こいつが普通、学園になじめると思っているのかい? それこそ癌を体内に注入するようなものだよ」


「誰が癌だよ……」


「そうだけど……」


「ちょっと、エミリアさん? そこ、納得しないでもらえる? 傷つくんだけど……」


 シキは、二人の方を見て言った。


「あ、でも、大丈夫ですよ。シキに敵う人なんていないと思うんですが、一応、私も学園に通う予定ですし……」


 アリスが言った。


「いや、あんたは一応、貴族だろ? こいつは一般人。馬鹿しかやってこなかった不届き者だよ。あんたの名に傷がついたらどうするんだい」


「それは別に……。私、気にしませんけど……」


「それに、こいつが勉強や学園のルールを守るとも思えない。下手すれば、一日中、眠っているか、ぐーたらしているよ。それでもいいのかい?」


「お母さん、いいすぎ」


 エミリアがリシアを止めようとする。


「おい、俺はそこまで信用ないのかよ……」


 シキは、リシアに刃向かう。


「あるわけないだろ! 信用してほしければ、しっかりと金払って、生活しろって、言ってるんだよ‼」


「ああん⁉ 別にいいだろ? これが俺の歩く道ってもんだ!」


「それがいかんと言っているだろうが! このはげ!」


「はげてねぇ! テメーに言われたくねぇーよ。妖怪くそババア!」


「だーれーが、妖怪だぁああ!」


「おめーの事だよ!」


 また、二人が喧嘩を始めたと思うアリスとエミリアだった。


 二人が取っ組み合いをしている中、二人は話をする。


「それで、アリスちゃんは、どうして、シキ君を選んだの?」


「そうですねぇ……。何と言いますか、ああいう性格が私にとって一番いいと思って、だって、あんなに面倒な人他にいないでしょ?」


「ああ、それは分かるわね。私もお母さんが酒場にいなかったら面倒なことがあるし……」


 二人は意気投合する。


「学園はいつから通うの?」


「明日からです」


「明日かぁ……。なんだか、急ね」


「まぁ、お姉ちゃんが色々と、手配をしてくれましたから」


「ああ、イリーナさんね。でも、彼女も大変よね。あれで、貴族の当主でしょ。若いのに気苦労が多いわね」


「はい……」


 家はめちゃくちゃになり、その後、片づけるのに苦労した。



   ×   ×   ×



 夕方、シキは不服そうに慣れない服を着ていた。


「おい……。マジで、これ着ていかないとダメ?」


 シキが着ていたのは、いつもの服ではなく、学園の制服だった。


「でも、とても似合っているわよ」


「そうかぁ? 堅苦しくて、気持ちわりぃーんだが……」


 アリスにそう言われると、シキは服やズボンを触りながら、嫌そうな顔をする。


 慣れないのも無理はない。


「私だって、学園に行くときは、制服着ているのよ。みんな同じよ」


「面倒くせぇ……。これ、お前のねぇーちゃんの嫌がらせじゃないのか?」


「さぁ? それはどうかしら?」


 アリスは、自分が作った料理をテーブルに並べる。


「ほら、料理できたから服、着替えてきたら?」


「お、おう……」


 シキは自分の部屋に戻って行った。


「ほんと、ああいうの、嫌いなのね……」


 アリスはポツリと、口にした。


 現在、アリスはシキの家に居候中である。

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