シキは、聴覚魔法を使い、全ての音を聞き分ける。


「この音は、走っている音、地下からか?」


 地下から変な音が聞こえてくる。


 本来なら地下は、下水道となっており、水の音しかしない。


 だが、そこを走る複数の音が聞こえてくるのだ。


「ここから近いマンホールは!」


 シキは、裏路地にあるマンホールへと向かい、ふたを開けると、飛び降りる。


「ったく、こんな面倒ごと、俺に押し付けるなよな」


 シキは、捨て台詞を吐くが、それでも地下水路を走り回る。




「おらぁ、テメーら! 女から目を離すなよ」


「「へい!」」


 リーダーである男がそう言うと、部下の男どもが返事をする。


 縄で縛られたアリスとイリーナは、部屋の片隅に座らされる。


「あなた達、一体、何なの⁉」


 イリーナは、男達を睨みつける。


 すると、リーダーの男が二人の方に歩み寄った。


「はははっ! お前ら、あの没落貴族のスカーレット姉妹だろ?」


「だから、何だっていうのよ」


「そうだなぁ。例えば、奴隷商会に売るのもいいよなぁ。お前ら、意外とそれなりに売れそうだし。後は、まぁ、色々とだ」


「このクズが……」


「言ってろ、言ってろ。どうせ、力のないお前らなんて、怖くもなんともない」


 男はイリーナの顎を触り、睨みつけるイリーナに対して笑う。


「さて、お前ら、準備を始めるぞ!」


 男の命令で動き出す部下たち。


 バンッ!


 と、扉が開く音がした。


「誰だ⁉」


 全員がその方を振り向く。


 扉の向こうから味方の男が部屋に放り込まれた。


 ボコボコにされた顔や引きさかられた服、無様にやられて気絶している。


「どーも、匿名希望でーす」


 部屋に入ってきた黒服の少年は言った。


「誰だ、テメー⁉」


 リーダーの男が、睨みつける。


 周りの部下たちの武器を取り、戦闘態勢に入る。


「だーかーらー、匿名希望だって言っているだろ? クズどもが!」


「誰がクズだ⁉」


「クズだろうが! じゃあ、訊くが、そこのお転婆娘どもをどうするつもりだ?」


「だーれが、お転婆じゃ!」


 イリーナが、ツッコミを入れる。


「お前、この娘たちの知り合いか? どうやって、後をつけてきたかしらねぇーが、ここで消えてもらうぜ」


 リーダーの男が言う。


「そりゃあ、こっちのセリフなんだよなぁ。店に戻ったと思えば、ああなっているし、面倒ごとには、巻き込まれるし、散々な一日なんだよ」


 男は剣を抜き、イライラ感を募らせている。


「それによぉ。こっちもストレス発散したいから、あんたら、俺のストレス発散のためのおもちゃになってくれねぇーか?」


「何を言ってやがる⁉ 死ぬのは、テメーだ! 一斉にしてかかれ‼」


「「「オオオオオオオオオオオオ‼」」」


 命令と同時に部下たちが少年に飛びかかる。


「はぁーあ、やってられねぇーな」


 深いため息をついた後、少年は、剣を構え、死なない程度に敵を倒しにかかる。

「オラオラッ! 全力で掛かってこいやぁあああああ! 全然たりねぇーぞ‼」


 少年は、ぎらついた眼で剣を振り下ろす。


「あめぇーんだよ! 俺が一人だからだって、手を抜くんじゃねぇ‼」


「グハァッ‼」


「ウエッ‼」


 倒されていく部下たち。


「オラオラ! 腕の立つ奴はいないのかぁっ!」


 少年の勢いは止まらない。


「何なんだ? あの化け物は⁉」


 リーダーの男は、驚きが隠せない。


「どうやら、あなたの誤算は、あの子の中に眠る獣を呼び出した事よ」


「黙れっ!」


 男はイリーナの頬を平手打ちする。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る