「そんなのは貴族とか、冒険者ギルドに依頼すればいいだろ? 俺よりも確実に魔法の能力とか強化してくれるんじゃないのか?」


「私達にそのようなお金があると思う?」


 イリーナが言う。


「ないな。それに俺は人を教えるような人間じゃないんでね。他をあたってくれ」


 シキは、デザートに頼んだ巨大なアイスとぶどうジュースを交互に食べたり、飲んだりする。


「そう、報酬はしっかりとお支払いしようと思ったのにねぇ。それに学園の食堂は美味しいものばかりだと聞いたことがあるわ」


 イリーナは、ニヤニヤしながら言う。


「ほー、そうかい。へぇ~」


 シキは、それを聞くとわざとらしく反応する。


「ま、学園に入るのはいいかなぁ。報酬も出るならねぇ~」


 チラッ、チラッとイリーナを見るシキ。


「あ、言っておくけど、学園の学費は別だから。自分で払ってね。そこまでは費用出さないわよ」


「はぁあああ⁉ だったら、俺、どうすればいいんだ⁉」


「知らないわよ。働いたり、貯金したお金を崩せば」


「くっ……」


 シキは舌打ちをする。


「それでどうする? やる? やらない?」


「知らねぇーよ。そんな事ならお断りだ。馬鹿やろ! 言っただろ? 俺は自由に生きたいわけ」


 シキはデザートを食べ終わると、立ち上がって、代金を置き、立ち去ろうとした。


「じゃーな。もう、会う事はないだろうけど、まぁ、頑張れよ」


「あの……」


 イリーナはシキを呼び止める。


「なんだ? 他にまだ、あるのか?」


「代金足りないわよ。店の修理費とか書いてあるし」


「げっ……」


 シキは、嫌な顔をして、渋々とお金を払い、店を後にした。


「あの子、私が見た感じ、結構やり手だと思ったんだけどね。しょうがないか」


 イリーナは、紅茶を飲み干すと、窓の外を見た。


「お姉ちゃん……」


 アリスは、そんな姉を見て、何か思った。


 この世界は、何が起こっても不思議じゃない。


 生きるか死ぬかの世界である。


「お姉ちゃん、やっぱり、あの人にお願いしに行きましょう!」


「無理よ。もう、諦めなさい」


「いやです! わたしは——‼」


「あの~、ちょっといいですかね?」


 と、二人の会話に割って入る人物がいた。


「あなた達は‼」




「あー、今日は厄日だ。早く帰って寝よ」


 シキは、大きな欠伸をしながら街を歩いていた。


「それにしても、面倒なんだよ。今更、人と関わるのなんて……」


 シキは、急に足を止める。


「あ、いけねぇ……。忘れ物した……」


 シキは振り返って、元来た道を引き返す。



 店を戻った時には、なぜか、様子が変だった。


 店のいたるところがボロボロになっている。いや、確かにさっきまで、ボロボロになっていたのは事実ではあるが、それ以上にひどい状態になっていた。


 すぐに店の中に入り、様子を確認する。


「これは……一体……」


 酷い有様だった。


 客は倒れ、従業員も気を失っている。


「おい、一体何があった⁉」


 近くにいた人間に体を揺すって話しかける。


 シキに叩き起こされた人間は、体を痛めながらもゆっくりと目を開けた。


「あ、あんたが、み、店を出た後……、女の子二人が……連れていかれた……」


 また、気を失う。


「おい! くそっ! また、厄介ごとかよ!」


 シキは、店を飛び出して、誘拐された二人の後を追った。


 店の中には、スカーレット姉妹の姿がなかったことは、二人が誘拐されたと考えた方がいい。


「全く……なんで、こんなに易々と誘拐されるんだよ!」


 シキは、街を走り回る。


 二人はそう、遠くに入っていないはずだ。


「今なら、まだ、間に合うか……」

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