そして、頭を抱えているアリスに言った。


「お前のねーちゃん。オーガやゴブリンにでも育てられたんですか?」


 皿を持って、右手に持っていたフォークで、残りの肉を食べる。


 あああ!


 またしても、不安ばかりが募る。


「あん? 今なんて言った⁉」


 イリーナが今度は少年の方を睨みつけた。


「あれ?」


 少年はフォークを床に落とす。


 ボコボコにされた男は気を失い、イリーナは、少年の発した言葉を聞き逃さなかった。


「お前、今、なんて言った⁉」


「え?」


 少年は、獣のじみたイリーナに対して後退りをする。


「だーれが! オーガやゴブリンだぁあああああ‼」


 イリーナは、少年に向かっても殴り掛かった。


「お姉ちゃん! やめてぇえええええ!」


 アリスは、イリーナの暴走を止めに入った。




「あ、あの……。先程はすみませんでした……」


 顔が傷だらけの少年は、イリーナに対して謝った。


 イリーナは、紅茶を飲みながら一息つく。


「ふぅ……。別にいいわよ。でも、次、あんなこと言ったら分かっているわよねぇ? ただじゃ、済まさないわよ」


「は、はい!」


 少年は、イリーナに睨みつけられて、背筋が凍った。


「それで、あなたのお名前を聞いていなかったんですが、なんて言うんですか?」


 アリスが、少年に訊く。


「あ? そうだったな。まだ、名前を言っていなかったな。俺は、シキ・ラインハルト。この町に住むただの少年だよ」


 少年・シキは、そう答えた。


「私はアリス・スカーレットです」


 アリスがシキに自己紹介をする。


「シキさんは、なんであんなところに寝ていたんですか?」


「寝ていた? あなた達、どうやって知り合ったの?」


 イリーナは不思議そうな顔をして、アリスに訊く。


 そして、アリスは一部始終の出来事を話した。


「なるほどねぇ。それでこうして奢ってもらっていたと」


 イリーナはそれを聞いて納得した。


「それで、シキ君は、この後、どうするの?」


「どうもしねーよ。ただ、家に帰って寝るだけ」


 シキは、鼻をほじりながら答えた。


「アリスと同じ歳だけど、学校とか行っているの? アリスに聞いた話だと、強いらしいわね」


 イリーナは、シキに興味津々だ。


「あー、別に強いとか興味ない。俺は、ただ、この街で平和に過ごしたいだけ」


「なるほど。暇ってわけね」


「あんた、聞いてた? 俺は自由に生きたいの!」


 シキは、机を叩く。


「聞いていたわよ。どうせ、暇なんでしょ。なら、あなた、学校に通う気はない?」


「はぁ? なんで?」


 シキは嫌そうな顔をする。


「あなたみたいな強い子を探していたのよ。どうかしら、アリスを強くしてほしいの」


 イリーナは、シキに頼み込む。


「嫌だね。なんで、俺が面倒なことしないといけないんだよ。それにあんたの方が強いと俺は思うけどね」


「無理よ。私、か弱い乙女だもん」


 イリーナは笑う。


「けっ、誰がか弱い乙女だよ……」


「何か言ったかしら?」


 右手の拳が光って見える。


「いえ、何もっ!」


 シキは、背筋をただす。


「でも、お姉ちゃん。私、一人でも大丈夫だよ。学校だって、一人でも行けるし……」


「何を言っているの? まだ、未熟者のあなたが、学校で通用するとでも? このセイブン国の魔法学校はレベルが高いのよ」


「へぇ~、あの学校ねぇ~」


 シキは、何か思い出した。


「それで、なんで俺がいまさら学校へ? アリスを強くするのは分かったけど……」


「この子が落ちこぼれだからよ。魔法学園は、庶民からエリートが通う学校よ」

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