第8話 最終話 運命の人
「え?もしかして裕くん、私に気づいてたの? あんな遠いところにいる私に……?」
「ああ、あのときからあの赤いドレスの女性の存在がいつも俺の心の真ん中にあったんだ。初めてステージに立った時、不安で押し潰されそうだったが、一番遠くにいるその女性がなぜか目に入った。
そうしたら、心が癒されて落ち着いて歌えたことを覚えているよ。
あの人が美羽だったんだな──。あの時から俺の事を見守ってくれてたんだ」
「そんな、見守っていたなんてほどでは……。私はただあの時からきっと裕くんのファンだったのよ! だから、あれから毎週裕くんの歌を聴きたくて通ってしまった。あの頃、私のお小遣いは全部裕くんの歌を聴くために使っちゃったけどね」とエへへと肩をすくめて笑った。
美羽……裕星は思わず美羽を抱き寄せた。ギュッと抱きしめて耳元で囁いた。
「俺はずっと美羽のことを捜していた気がするよ。美羽に逢うずっとずっと前から……俺たちはきっと運命の女神にまんまと操られていたんだな――」
ハハハと笑うと、美羽の頬を両手で優しく包んでそっと口づけた。
突然のキスに美羽は驚いたが、静かに目を閉じ裕星の背中に手を回していた。そして、さっきのエピソードがどういうことなのかやっと理解した。
裕星はこの場から動くこともなく美羽をずっと永遠に抱きしめていたかったが、そっと唇を離すと、美羽を抱きしめて、サラサラの髪を優しく撫でた。
そして、ニコリとほほ笑むと
「もう一回!」といたずらな目をしてみせた。
「え?」
美羽が聞く間もなく、裕星はもう一度唇がとろけてしまうような熱いキスをした。
誰もいない二人きりの深夜の遊歩道は、水面には明るい月の光がキラキラと反射して、まるで無数の星が降リ注いで二人の影を揺らしているかのような幻想的な夜景だった。
眠らない都会の街のオレンジの明かりが夜の紫のとばりに溶け込んでグラデーションを作り、意図せず作られた芸術作品のように美しかった。
『運命のツインレイは必ず分かる』という説がある。
本物の運命なら、きっと出逢った瞬間に分かるものなのだろうか――運命が何度も2人を出逢わせてくれるからなのか。
あるいは、今まで固く閉ざした心の端っこをほんの少しだけ開いてみようと思った瞬間に、その隙間から幸せが飛び込んできてくれたのかもしれない。
思いがけず運命の人に出逢ったことで、裕星は周りの人達全てに感謝したい気持ちになったのだった。
二人にはどんな運命が待っているのだろうか。
アイドル的人気のアーティストである
しかし、誰でも試練なくして掴む幸運などないのかもしれない。
その試練を乗り越えるとき、必ず今までの何十倍もの幸せが待っているものだ。
裕星と美羽が掴んだのは最初の幸せだ。運命の女神のお節介ははそこまで。
これから訪れるであろう幸せは自分達次第でどんな形にも作られるのだから。
運命のツインレイ シリーズPart.1 『運命編』終
運命のツインレイ Part1『運命の出会い編』 星のりの @lino-hoshi
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