第25話 生命石の噂
ルイの言葉でケンシロウもカエデも振り向いた。そこにあったのは事切れた〝
気づかれたとわかってもユウが手を止める様子はない。背中の森の中をまさぐる様子を見て何かに気づいたルイが慌てて叫ぶ。
「待て! それはとっちゃだめだ!」
あまりの剣幕に驚いたユウが
その光景にユウは
ルイはカエデを引きはがすとゆっくりとユウに近寄る。
「大人しくそれを地面に置け」
いつにもなく怒りをあらわにしたルイにユウは怯えた顔でかぶりを振った。
「い、嫌だ……」
「置け!」
「嫌です!」
凄むルイを涙目で睨みつけるユウ。カエデもケンシロウも何もわからずただ二人を見つめていた。
「見ただろ! お前が
「バケモノが消えて私の願いも叶うなら、何も問題じゃないじゃないですか!」
「やっぱ、それがお前の目的だな」
虚をつかれ、ユウは閉口した。
「嘘をつき騙してまでこの世界にいたかったのは、
カエデもケンシロウも聞きたいことはたくさんあっただろう。それでも口を挟まなかった。挟むことができなかったのだ。それほどまでにユウとルイの勢いは激しかった。
図星を指されたユウの目の色が変わった。
「そうよ!
涙を堪えながら言いきったユウの呼吸だけが虚しく響く。人間世界で有名なその噂は妖怪世界ではあまり浸透してないようで、カエデとケンシロウは揃って顔を見合わせる。ルイが言葉に迷っていると、横からヤコが口を挟んだ。
「死にたいのか、人間」
一瞬固まったユウは顔をしかめた。
「死ぬ……?」
「
「か、構わない! 私は死んでも構わない! だから私は――」
突然乾いた音が響いた。何が起きたのかわからない様子のユウはじわじわと頬に痛みが走るのを感じる。赤くなった頬をさすり今にも泣きそうなユウに、そんな状態にさせた張本人であるルイが激昂した。
「死んでも構わないとか言ってんじゃねぇ!」
普段から温厚で滅多に怒らないルイが怒鳴っているところなど誰も見たことなく、空気が一気に静まり返る。
「自分の命も大切にできねぇやつが、誰かに生きてほしいなんて思うんじゃねぇ! 人の命を踏み台にして生き返らせてもらったところでそいつは絶対喜ばねぇ! 命はたった一つしかないんだぞ! それすらも大事にできねぇやつは大っ嫌いだ!」
そこまで言いきったところでルイははっとした。目の前には呆然とこちらを見つめるユウの姿。ルイは慌てて目を逸らし自分の気持ちを落ち着かせると、震えているユウを優しく抱きしめた。
「ヒトってのは簡単に死んじまうんだ。死にたくなくても、死のうと思わなくても。お前が死んじまったら悲しむヤツ、人間世界にたくさんいるだろ?」
耳元で小さく囁いたその言葉がユウの胸を打つ。瞳を潤ませルイにしがみついて嗚咽を漏らしていたが、やがて大声をあげて泣き出した。まるで子どものようなそれは我慢していた全てを吐き出すかのように。
ルイは彼女が泣き止むまでずっと離さなかった。彼女の苦しみを理解しているから。
わずか十四でこの世界にやってきた女の子、水無月優雨。優等生で自分の我が儘を無理に突き通すような子ではない。そんな彼女がたった一人の命を取り戻すためにこの世界に乗り込んできたのは、相応の覚悟があった。
平凡で、退屈な日常を変える覚悟が――
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